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「いいかい? みんな聞いてほしい!」
 紅坂 栄斗(こうさか・えいと)は先ほどまで耶古がいた広場で大声を上げ、民衆の注目を引こうとしていた。
 しかし、奇異の目で栄斗を見るだけで誰も立ち止まろうとはしない。
 各々自分の店に戻ったり、世間話に花を咲かせたりしている。
「早く逃げないと! ここはもうすぐ戦場になるんだ! 危険なんだよ!」
 栄斗は一人ひとりを説得しようとする。
 いくら街宣しても耳を傾けるものがいないなら面と向かって話そう。
 そういう心づもりだったのだが、
「おいおい、どこで争いが起こってるんだ?」
「そうよ、せっかくの祭に水を差してもらいたくないわよ!」
 心ない言葉が飛ぶ。
 だが栄斗はくじけなかった。
 皆を説得しようと声を張り続ける。
 すると、大きな爆発音が聞こえた。
 ガーゴイルに対してロケットランチャーを発射したようだ。
 途端にざわめきが漣のように広がる。
「皆さんのことは私がお守りします。村の出口へ行きましょう」
 ルーシャ・エルヴァンフェルト(るーしゃ・えるう゛ぁんふぇると)が栄斗の背後から進み出た。
 そのしなやかな物腰の中に見える真剣さににわかに栄斗の言葉に真実味が出たようだ。
 ひとり、またひとりと広場を後にし始める。
 しかしまだ動きは鈍い。
(本当は使いたくなかったけど、しかたないや)
 つい先ほど朱鷺から聞かされたこと―――奇跡のタネを口にした。
「……だから、早く逃げるんだ!」
 そして、民衆は動き出した。
 我先に村を後にしようとする。
「そこです!」
 村人のしんがりで、殺気を感じたルーシャは間者を手打ちにした。
「あっ」
 すると、さすがに大所帯だけあり誰かに押し倒されたのか幼子が転んでしまった。
「いたいよぅ」
 膝小僧は擦りむけ血が滲んでいたが、助けにこようとする者はいなかった。
「大丈夫かの」
 ただ、ユーラ・ツェイス(ゆーら・つぇいす)を除いて。
 ユーラは子どもの元に駆け寄ると、すかさず回復魔法をかけた。
 傷口はみるみる塞がり、血の汚れを布で拭き取れば傷があったことが嘘のように綺麗に修復されていた。
「痛いか?」
「ううん、大丈夫だよ」
「そうか。それはよかったのう。どうだ、走れそうか?」
「うん!」
「よし、なら早く逃げるのじゃ。今度は転ばんように気をつけてな」
「ありがとうお姉ちゃん!」
「て、照れるのじゃ」
 そして、凡そ全員が外へ避難した。
 残るは悪の退治だけだ。