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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

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リアクション

 第4章 筋肉×筋肉×筋肉
 
 
 ――シャンバラのとある場所にある、標高云千メートルの緑濃い山。
 そのパラミタの大自然の中を、己の肉体のみを使って歩く男達がいた。その誰もが、筋骨隆々な屈強な肉体を有している。――いや、約1名は見掛け倒しだが。
「むきプリも修行が好きそうだしな! 1度は来てみたかったんだぜ!」
 人の手の殆ど入っていない、道無き道を進んだ先。ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は行き止まりに当たって立ち止まった。秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)ムッキー・プリンプト(以下むきプリ君)も足を止める。彼等の前に聳えるのは、地面から直角90度な岩の壁。急勾配とは、お世辞にも言えない角度である。
「ロッククライミングをするとは聞いていたが……まさか、ここまでとは!」
 崖を見上げ、むきプリ君は驚愕の声を上げた。天辺は、かろうじて目視が出来る程度に、遠い。そこで全身にエネルギーを漲らせ、闘神が笑った。
「どうでぃ! 登りがいのありそうな崖だと思わねえかぃ!?」
「そ、そうだな……」
 秘湯があるという山、そこで筋肉を鍛えないかと誘われてプロテイン持参でここまで来たが、予想以上の断崖絶壁にむきプリ君はびびっていた。崖を登るのも乳酸が溜まるのも望むところだが、足を踏み外したら落ちてトマトになってしまう。
「よし! 修行すっかな! むきプリも少しは強くならねぇとな」
 ラルクは意気揚々と笑顔でそう言い、早速崖を登っていく。闘神も早速、崖の突起に手を掛けた。むきプリ君は崖と2人を見上げていたが――そのぽかんとした顔はやがて、自信に満ちたものにころっと変わる。
「ふははは! この俺に不可能は無い!!」
 故に落ちるわけがない、と基本ナルシストな彼は崖に飛びつき、笑いながら物凄い勢いで登っていく。
(まさかムッキーと一緒に修行とは……とりあえず集中でぃ!)
 闘神もまた、気合いを入れて上を目指す。むきプリ君の情けない悲鳴がこだましたのは、それからしばらく後のことだった。

「ぬおおおおおおおお!」
 幾度かのトマト危機の後。更に上に続くのは流れの速い川だった。下方に押し戻そうとする流れにがむしゃらに逆らい、むきプリ君はしゃにむに腕を動かし泳いでいた。
「ムッキー平気か? 辛かったら言いねぇ?」
「う、うむ……」
 先行していたのは最初だけで、むきプリ君は常にしんがりであった。。今、こうして川を昇れるのも少なからず闘神のおかげということもあり、彼に素直に頷く。
「うおお、これが秘湯というやつか!!!」
 やがて目的地に辿り着き、岩場と木々に囲まれた温泉を見つけると、むきプリ君は子供のように目を輝かせた。しかし、つい先程まで水と格闘していて体は存外さっぱりしている。濡れた服を脱ぎ捨ててTバック姿になると、同じく褌1枚になった2人とまずは基本的な筋トレをする。その表情は何だ、イキイキとしていた。
「おぅ! ムッキー楽しそうだな!」
「はっはっはっ! 当然だ! 筋トレは俺の本分、俺の友だからな!」
 愛と勇気だけが友達、みたいなものだろうか。
「筋トレなら誰にも負けん!!」
 むきプリ君はすっかり調子に乗り、次から次へとメニューをこなしていく。どうやら、彼の普段の鍛え方を披露しているらしい。結果。
「……ぅおぅ……」
 調子に乗り過ぎてへろへろになった。大の字に寝転がって自前の液体プロテイン(種もみ入)をがぶ飲みする。瞬く間に復活した。
「これから飯を捕りにいくぜ!」
 直後に復活して3人でテントを設置し、山に生息する野生動物を狩りに出発する。むき3メートル程の熊にむきプリ君が食われかけたところを闘神が梟雄剣ヴァルザドーンで斬り伏せてそれを担いで戻り、ラルクが豪快にナイフで捌く。薪を集めて焚き火を作って串に刺した肉が焼けると、そう時間も掛からず熊1匹分をたいらげた。
「って事で、温泉だ!」
 火を消して勢い良く立ち上がると、ラルクは褌を取り払って全裸になった。
「流石に返り血とか汗とかで色々と匂うだろ? 後で洗濯すっから全部脱いでくれ。どうせここまで来る奴なんていねぇしな」
「む。それもそうか。じゃあ……」
 むきプリ君も特に躊躇うことなく、むきプリ君はTバックを脱ぎ捨てた。褌を脱いだ闘神と横並びで温泉へ向かう。気のせいか、闘神の目がむきプリ君の下半身に来ているような……。極力見ないようにしている、というのは気配で分かるのだが。
「!!!!」
 足を速め、先頭を切る。先程よりも少し、内股になっているかもしれない。

「はぁー! きっもちいいな! やっぱシメはこの温泉だよなー」
 熱い湯に身を委ね、ラルクは心底幸せそうに息を吐いた。
「ここの温泉は特上だからな。とろけるぜ?」
「おぉお……! これが温泉、秘湯というものか!!」
 何気に温泉初体験なむきプリ君も、湯気の立つ天然の風呂に思い切り浸かる。
「正に、極楽だ!」
「ムッキー、今日の修行はどうだったぃ?」
「そうだな、いつもはひとりでトレーニングしてるが、こうして共に体を鍛えるというのもいいものだな! ああして肉を食うというのも新鮮だった!」
 闘神に聞かれ、むきプリ君は上機嫌で話し出す。それは徐々に、普段の筋トレでどんなことをしているのかという話に発展していく。
「なんでそれで強くなんねえんだろうなあ……」
 嬉々とする彼の話にラルクが首を傾げる中、闘神が1人湯から立ち上がる。
「ん? 上がるのか?」
「風呂は好きだがラルクほどは長湯しないんでぃ! 先に戻ってるぜぃ!」
 闘神がのしのしと去っていき、温泉には一時、静寂が流れた。改めて、2人は自然の湯をしみじみと堪能する。
「あ、そうだ。ホレグスリ持ってたら一個貰ってもいいか? 他の用途で使えねぇか医学的に研究してぇんだ」
「ああ、構わないぞ。荷物の中に入っているから後で渡そう」
 例の如くホレグスリは持ってきているらしい。山の中でどう使うのか、非常に疑問だ。リラックスした様子でむきプリ君が答えると、そこでふと、ラルクの表情が真面目なものに変化する。
「……闘神の事、真剣に考えてくれてありがとうな。あいつもノンケに恋をしたって言うリスクは知ってるから、お前が考えた答えなら納得すると思うぜ」
「む? ……うむ……」
 一瞬驚きを見せ、それから、むきプリ君は腕を組んで難しい顔をした。

 ――夜も更けて。
(……って、寝るのは我とムッキーでしかも裸だと!?)
(裸で寝る……、だと……!?)
 テントの中で、むきプリ君と闘神は外との境界ぎりぎりの場所に寝転がっていた。未だ2人は素っ裸で、何故素っ裸なのかといえば、洗濯物が乾いていないからである。服もパンツも褌も今、ラルクが洗って干したばかりだ。寝番をする、と、ラルクは朝までテントに入る気がないようだった。“流石に2人とも疲れてるだろうしな”と言っていたが――
「これでお互いの距離が縮まるといいんだがなー……」
 外でそんな事を呟きながら夜空を見上げ、ラルクはそして、焚き火の薪集めを再開する。しかしその彼の思いを知ってか知らずか、テント内では妙に不自然な沈黙が流れていた。まるで、旅館で入浴を終えて戻ってきたら2組の布団がぴったり隣り合っていて、それをずるずると離した時のような――そんな沈黙。
 いや、それそのものか。
 なるべく遠くに、と離れた闘神は2人で寝る、というだけで興奮し、股間を大きくしてしまっている。
「ムッキー、これ以上は近づくなよ? その……襲っちまいそうでこえーからよ」
「ああ……」
 むきプリ君としても、襲われちまいそうで怖いので近付けと言われても近づけない。というか、尻を向けているとどうにも落ち着かない。
 ――むきプリ君は1度寝返りを打って、闘神の背中を視界に映した。
 しばらく続いた無言の後、闘神は静かに口を開く。
「ムッキー今日はありがとうな。今日は1日一緒で楽しかったぜ」
「…………」
 どう答えたらいいのか分からず、むきプリ君は戸惑いのままに黙ったまま、闘神の背中を見詰めた。感情の気配くらいは伝わったかもしれない。結果として彼は狸寝入りを続けるような格好になり、それはやがて、本当の眠りになった。
「……愛してるぜ。ムッキーいい夢を見てくれよ」
 寝息を聞きながら闘神は呟く。我は寝れるか分からないけどな、と思いながら。