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ジャウ家の秘宝

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ジャウ家の秘宝

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第5章 襲い襲われ

 ジャウ家の庭園には、途切れることなく秘宝を求める人物が訪れ、そして脱落していく。

「いいのか?」
「ああ、遠慮なしでやってくれ。これも、秘宝を見つけるため…… 兄弟の和解の為だ」
 目を瞑る瑞江 響(みずえ・ひびき)を前に、アイザック・スコット(あいざっく・すこっと)は唇を舐める。
 響の首筋にアイザックの歯が埋まる。
 吸精幻夜。
 響はその状態に陥ることで、秘宝に絡む人物の不信状態を克服しようと考えたのだ。
 虚ろな瞳で植物の間を進む響。
 しゅるり。
「ん……」
 そんな響に、蔓が伸びる。
 腕に、足に絡みつく。
 しかし響の反応は鈍い。
 気が付けば、彼の足元は蔦で絡め取られていた。
 両手にも蔓が伸び、手を上げた状態で固定される。
「や、あ…… アイザック、たすけ、て……」
 緩慢な動作で恋人に助けを求めるが、その様子がおかしいことに気付く。
「アイザック……?」
 アイザックは、興奮作用のある花粉に支配されていた。
 いや、支配されていなくても……
 目の前で拘束されている愛しい相手に、ゆっくりと手を伸ばす。
「あいざっ……、なに、を……」
「響……」
 貪るように、体中に口付ける。
「あ、ふぁ……や、め」
「もっと、力抜けよ」
「んんっ……」
 そのまま恋人同士の営みが始まる。
 彼らにとって、2度目の営みが。

「……」
「……悪かった! ほんとにすまなかった! なあ響、許してくれ!」
 全てが終わり、正気に戻ったアイザックがまずやったことは、日本式謝罪……土下座だった。
 ぽかぽかと自分を殴り続ける響に無抵抗のまま、ひたすら謝り続ける。
「響!」
「……」
「あまりにも、響が魅力的で、つい……」
「……ったくもう、仕方ないな……」
「響、それじゃあ!」
「今回だけだからな」
 響の言葉に飛び上がって喜ぶアイザック。
 ったくしょーがないなぁとその様子を見て僅かに微笑む響。
 浮かれたアイザックはつい本音を漏らす。
「……けど響が普段からヤらせてくれたらこんな欲求不満が爆発する事にはならなかったんだけど……ぐはあっ」
 アイザックに響の鉄拳がめり込んだ。

   ◇ ◇ ◇

「あ、ぐっ……」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は、左胸を押えて蹲っていた。
 手の下には、契約の印。
 ひゅうひゅうと荒い息が口から洩れる。
「エルデネストと……離れすぎたか……っ」
 同行していたウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)とはぐれ、体力も尽きてしまったグラキエス。
 間が悪い事に、その時、彼の体に刻まれた契約の印が疼き始めたのだ。
「このままでは……っ。エルデネストを……」
 体を引きずるように植物の陰に隠れると、自分を鎮めてくれる存在を【召喚】しようとする。
 その時だった。
「あ、ああっ」
 蔓が、伸びてきた。
 グラキエスに、絡む。
「ぅあ……や、やめっ」
 蔦は、身動きの取れないグラキエスを、蹂躙していく。
「あ……っ」
 彼が最後に呼んだ名前は、誰だったのか――

「ん?」
「どうしました、先生」
「いや、何でもないのだよ」
 グラキエスの声が聞こえた気がして、ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)は顔を上げる。
 今は授業中。
 ベルテハイトの話を聞いていたムシミスが、彼の視線を追って庭の方を見る。
「庭園が、どうかしましたか?」
「ああ。あそこには今、私の大切な弟がいるのだよ……」
 うっとりと、ベルテハイトは大切な存在、グラキエスの話をはじめる。
 ムシミスはそれを黙って聞いている。

「エンドロア……エンドロアっ!」
 繁茂する植物の中を、ウルディカは走っていた。
 時折絡みつく蔦は、乱暴に切り裂く。
(見失うとは、不覚……!)
 猛烈に湧き上がる嫌な予感を押えつつ、グラキエスの姿を探す。
 そして。
「エンドロアっ!」
 大木にもたれかかるようにして倒れている、グラキエスの姿を発見する。
 目を閉じたまま、動かない。
 衣服は酷く破れ、体中に蔦の跡が刻まれ、時折蔦が余韻を楽しむかのように彼の体を撫でる。
「う……」
 その動きに僅かに反応を示すグラキエス。
 その光景に、ウルディカは自分でも分からない衝動を感じる。
「エンドロア、大丈夫か」
「あ…… ウルディカ。エルデネストを……呼ばなくては。このままでは……彼に、鎮めてっ……」
「いいんだ」
「え……」
 グラキエスの伸ばした手に、ウルディカの指が絡む。
「俺が、鎮める」
「あ、ぁ……!」
 二人の体が、重なる。
「はっ……エンドロア……っ」
「ぅあ……ああっ」
(これは……この魔力は……)
 行為に溺れながら、グラキエスは感じていた。
 ウルディカの体から感じる魔力。
 それが、エルデネストと同じ系統のものであることを。

   ◇ ◇ ◇

「ちょ……やぁああ!」
 鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)にも、蔦の魔の手は伸びていた。
 体の自由を奪う蔦。
 思考の自由を奪う花粉。
 そのどちらにも侵され、偲の意識は途絶えがちになっていく。
(こ、これもみんな、裕輝さんのせい……)
 薄れていく意識の中、思い返すのは憎らしいほどからりとした、笑顔。

「庭を散策して秘宝を探すで!」
「はい?」
 瀬山 裕輝(せやま・ひろき)の提案に、偲の反応は冷たかった。
「二人以上必要っちゅーんや。俺かて嫌やけどしゃーないやろ」
「嫌なら止めればいいじゃないですか」
「だってここホモくさいやろ」
 さらりとこのシナリオで言ってはならない言葉を口にする裕輝。
「男と女ならまーギリギリセーフかなっちゅー所で、行くで!」
 偲の意見も聞かず出発する。
 偲の方も、いざとなったら裕輝を止めるのは自分しかいないだろうと覚悟を決めて追いかけた。
 そして。

「あぅうう……」
 お約束の様に優輝とはぐれ、蔦の餌食になってしまった。
「おーい、どこ迷子んなっとんやー」
 そこに更にお約束のごとく、裕輝がやって来る。
 あられもない恰好のまま、裕輝と対面する偲。
「あ……」
「おぉ……」
 偲の姿に、暫し絶句。
 そして次に裕輝の口から出た言葉は。
「……引くわぁ〜」
「はあ?」
「ちょお何やっとんの自分。どこのエロゲプレイ? 真昼間から恥ずかしい声出しとんやないで……ぐほっ」
 どすん。
 偲の右ストレートが、裕輝の鳩尾にヒットした。
「……好きでやってる訳じゃありません」
 いつの間にか、偲の頭にかかっていた花粉のもやは消えていた。
 エロの最大の敵、それは冷め。
 裕輝にどん引きされ、すっかり冷めた偲には花粉も蔦も効果がない。
 ただ静かに鳩尾を殴り続けていた。
「おふ……ちょ、し、死ぬ……三途の川見え……っ」