リアクション
「この光景……どこかで見た覚えがあるわ」
と、千年王とティフォンが並ぶ姿を見て、グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)がつぶやく。
そしてグラルダは、自分の記憶の中を探り始めた。
「あっ」
するとグラルダは、記憶の中にあった1枚の絵に思い当たる。それは彼女が幼い頃に読んだ1冊の絵本の挿絵だった。
物語じみた英雄譚が添えられた絵本は自由な創作に溢れ、史実を捻じ曲げて描かれた物語に歴史的価値はない。
昔から知識を得ることに異常な執着を持っているグラルダにとって、その絵本は興味のない本ですぐに忘れてしまうようなもののはずである。
だが彼女は、なぜかその絵本のことを覚えていた。
そして、思い出した絵はその物語のラストを飾る絵だった。
「……死んだ部下を引き連れてカナンの大地に立つ千年王は微笑み、一緒に戦った金眼の竜人に別れを告げる」
グラルダは、ぽつりとそうつぶやくと口元に笑みを浮かべた。
「如何なる仮説も優れた考察も、真実の前には糞と同じか……まあ、物語に憧れる人間が居たって良いわよね」
「……」
と、意思の読み取れない虚ろな双眸で、シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)がそんなグラルダを見やる。
(この幼き主は、どうも当初の目的を忘れているようだ。即ち“WFの真意を探る”という事を)
シィシャは心の中でそんな事を思う。
「……しかし、名を捨て、ただ“魔女であるという資格”のみで私が生き永らえているのは。私の空蝉となった、小さく、脆く、哀れな“小娘(グラルダ)”に使われる為――」「んっ、シィシャ? なにか言った?」
「……いいえ」
シィシャはそういうと視線をグラルダから千年王たちへと移した。