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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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「う、うーん……」
 むくり、アルが起き上がる。自分がどうしてこうなったのかを思い返して、直前にかけられた葵の言葉が浮かんできた。

「ボクと一緒だと、アルにまで怪我させちゃうからね」

「ハッ!? 葵さん!?」
 身を起こし、そして見えた光景にアルは表情を無くす。目の前には大きな穴があり、その中で三つの人影がホコリを被っていた。
「葵さーーーん!!」
 その中の一つへ駆け寄り、アルが必死に呼び掛ける。息はあったが、意識は戻ってきそうになかった。
「葵さん……私が弱いばっかりに、こんなことに……」
「…………」
「あっ! と、豊美さん!」
 ポロポロと涙をこぼすアルが、何とか立ち上がった豊美ちゃんに呼び掛けるも、豊美ちゃんは振り返らず歩き出す。
「豊美さん……」
 背中しか見えなかったが、アルには豊美ちゃんが泣いているように見えた。二人を守りきれなかったことに悲しんでいるみたいだと。
「……泣いてちゃダメなのです」
 涙を拭い、アルが葵と恵をこの場から助けるべく立ち上がる。

「あれだけの攻撃を受けて、立ち上がったことは誉めて差し上げますわ。言葉通り、今度はわたくしの全力でお相手いたしますわ」
「…………」
 ナコトが言い、詠唱を始める。対して豊美ちゃんは言葉を発することなく、『ヒノ』を構える。表情は虚ろで、とても対抗できるようには見えなかった。
(無意識ですの? だとしてもわたくしは、手加減いたしませんわよ)
 詠唱を終えたナコトが両手を突き出し、魔力の奔流を放つ。数秒後には跡形もなくなるだろう、その予想はしかし、裏切られた。
「…………」
 ナコトが奔流を放つのに合わせて、豊美ちゃんも奔流を放つ。表情は相変わらず虚ろだったが、放たれた奔流は全力のナコトに決して劣らない。それどころか時間が経つにつれ、少しずつ強さを増していく。
(嘘!? このわたくしが圧されるなんて……どこにこれだけの力が――!?)
 焦りを感じたナコトは、次に見た光景に驚きの表情を隠せなかった。豊美ちゃんが一歩、また一歩と近付いてくるのだ。虚ろだった表情が近付くにつれ、ナコトは身体の奥から冷えるような感覚が強くなっていくのを無視できなくなる。
(怖れている!? このわたくしが!? そんなはずが、そんなはずがありませんわっ!)
 ナコトがさらに魔力を込める、しかし豊美ちゃんの歩みは止まらない。
(こっ、来ないでください! 嫌、やめて、来ないでーーー!!)
 ついに力尽きたナコトがカタカタ、と身を震わせる。
「顔をあげなさい」
 声に抗えず、ナコトが顔をあげ、豊美ちゃんの顔を見る。虚ろだった表情に、笑顔のようなものが見えたような気がした。

「お仕置きです」

 直後、豊美ちゃんがナコトの頬を平手打ちする。ゆっくりとした動作のはずだったが、ナコトの身体は大きく吹き飛び、何度も地面に叩き付けられる。

「……ふぅ。私もやっぱり、まだまだですねー。あそこで許すのが魔法少女だと思うんです」
 大きく息をついた、豊美ちゃんが膝をつく。
「はー……流石に疲れましたー。ちょっとだけ、休ませてくださいー……」
 言い終えた豊美ちゃんがどさ、と倒れ込む――。

 アルコリアが無数の矢を放ち、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)を追い詰めんとする。カレンとジュレールも歴戦の手練れ、簡単に葬られはしないが反撃も出来ない。ましてやこの状況で姫子の元には到底辿り着けない。自分たちがここを引けば、他の多くの仲間が葬られてしまうだろうと予測できたからである。
(アルコリア、奴が本気である以上、中途半端に戦って勝てるとは思わん。我が力を使い果たしてでも奴を退け、カレンを姫子の元へ向かわせねばな)
 カレンならば姫子を何とかしてくれるだろう、その信頼を胸に、ジュレールはカレンに呼び掛ける。
「カレン、まずは我が奴の気を引き付ける、その間にお前はなるべく大火力の魔法を溜めろ」
「無茶だよジュレ、相手が相手だよ、一人じゃとても――」
「無理だ、とでも言うのか? 我を甘く見るな、足止めくらいは出来る。その代わり、奴を一撃で葬れるのを頼むぞ」
 カレンの返答を待たず、ジュレールが前に出る。動力をフル稼動させたジュレールの機動は、一時的にせよアルコリアのそれと匹敵していた。
「姫子に味方するとあれば、姫子同様に討たせてもらう!」
 後先考えない全力の攻撃は、流石のアルコリアも軽口を叩く余裕を失わせる。そして後方では、タイムリミットまでの数分間、カレンが最大出力の魔法を放つべくチャージを行う。
「そろそろ限界でしょう、お休みなさい」
 ガスが抜けるように、急激に動きを鈍らせたジュレールへ、絶対零度の冷気を放たんとするアルコリアは、ジュレールの表情に絶望の色が些かもないのを見る。
「行け、カレン!」
「いっけーーー!!」
 飛んだジュレールのいた場所を、魔力の奔流が飛び荒ぶ。それはアルコリアの放った魔法とぶつかり合い、一進一退となる。
(やはり足りぬか、ならば……!)
 再びジュレールが武器を構え、残る動力の全てを魔力に変え、放つ。途中で一本に重なった奔流はアルコリアを圧倒すると、遥か彼方まで吹き飛ばした。
「……ジュレ!」
 息をつく間もなく、カレンがジュレールへ駆け寄る。限界以上に力を使い果たしたジュレールから、返事はない。ジュレールの力添えがなければ負けていたかもしれないとはいえ、こんな結果はカレンは望んでいなかった。
「姫子……!」
 やりきれない思いは、こんな事件を生み出した張本人である姫子に向く。今の自分ならきっと、豊美ちゃんの静止があっても姫子が折れない限り、討ち滅ぼしてしまうだろう、そう思いながらカレンは姫子の元へ向かう――。