|
|
リアクション
『天命に終焉を告げたのは』
「よぉ、姫星……姫子って奴のところに行くんだろ? ああ、何があったかなんて言わなくていい。
そんな真剣な顔してるんだ、言わなくても大体分かるさ」
姫子によって地上に送られ、呆然としていた次百 姫星(つぐもも・きらら)は、鬼道 真姫(きどう・まき)の声に意識を取り戻す。彼女だけではない、バシリス・ガノレーダ(ばしりす・がのれーだ)と呪われた共同墓場の 死者を統べる墓守姫(のろわれたきょうどうぼちの・ししゃをすべるはかもりひめ)の姿もあった。
「バシリスも協力するヨ♪ たまには真面目に頑張るネ!」
「ミス次百は最終決戦に備えておきなさい。そこに至る道は、私達が絶対に作り出すわ!」
「みんな……うん、ありがとう!
私、絶対姫子さんに言いたかったこと、伝えてくる!」
涙を拭って、姫星が力強く頷く。
「よし、一世一代の大喧嘩と行こうじゃないのさ!」
――そして、メイシュロット+中枢。パートナーの命懸けの働きの末、姫星はかつて仕えた者と相対していた。
「姫子様、まずはこのような無礼をどうかお許しください」
「構わぬ。……何故、我の元に姿を見せた?」
姫子の問いに、姫星が答える。
「私は、頭がよくありません。ですから姫子様のお話の真相も、姫子様がどれほど考えられているかも、ちゃんと理解してないと思うんです。
だから、考えるよりもまず行動することにしました。姫子様を止めるために。姫子様が立てた筋書きを、ぶち壊すために。全てに決着が付いたら、きっと言いたかったことは勝手に湧いてくるでしょうから」
「……そう。お前のそういうところ、嫌いじゃないわ。惜しいわね、ここでお前を失うのは」
呟いて、姫子が立ち上がる。両手首に付けられた腕輪が妖しく光ると、膨大な魔力が溢れる。
「姫子様、あなたから頂いた魔法少女認定とその名を持って、今、決着を付けます!
天命に終焉を、未来に祝福を、百魔姫将キララ☆キメラ!
姫子様……いえ、姫子さん! 私はあなたを絶対に止めてみせます!私が勝ったら、従ってもらいますよ!」
「加減はしないわ、かかってきなさい!」
飛び込んだ姫星の、振るった槍が姫子を襲う。しかしどれほどの猛攻も、姫子には届かない。
「押してダメなら……さらに押すまで、です!」
炎を撒いて一旦距離を取った姫星が、自らの頭を龍の鱗のごとく硬質化させ、爆発的な加速で姫子に突進する。
「全身全霊全力全開! 私の全てをこの技に……轟け! プリンセッセスタークラッシュ!!」
炎を纏って突貫する姫星、対して姫子は両手を開く。そして両者がぶつかり合い、結果は姫子の両手が、姫星の頭をがっしりと掴んでいた。
「うむむーっ!!」
どれほどもがいても、姫子の手はまるで接着されているように離れない。喋ろうにも口を塞がれていて話せない。
「お前は我の下にいた時、我から力を授かっていた。しかし今では供給を絶たれ、ただの人に過ぎぬ。
そのような身分で我に楯突くなど、無礼極まりない。……お仕置きだ」
「姫子さん――」
姫子が、姫星の頬を平手打ちする。ゆったりとした動作にも関わらず姫星の身体はまるで破裂したように飛び、近くの建物に突っ込んで大きな穴を開ける。
(……豊美の気配も小さくなった。我を倒す魔法少女は、もう現れぬな――)
息をつき、腰を下ろそうとした姫子は視界の端に、瓦礫と化した建物から姫星が起き上がるのを見る。
「今の一撃を、耐えた……? お前は我からの力の供給を絶たれた、故に普通の力しか持たぬ……それなのに、どうしてそこまで戦える!?」
表情に驚きの色を浮かべる姫子を見て、身なりはボロボロの姫星が、しかし満面の笑みで答える。
「知りませんでしたか? 魔法少女は、想いを力に変えることが出来るんですよ!!」
言って、姫星が再び頭を硬質化させ、爆発的な加速で突進する。
「押してダメならさらに押します!
それでもダメなら何度でも押します!!」
姫星の頭と、かざした姫子の手が触れ合う。
「こ、このようなことが――あああああぁぁぁぁぁ!!」
姫星と共に吹き飛ばされた姫子が、姫星に乗りかかられる形で地面に倒れている。
「……驚いたな。このような結果になるとは、まったく予想外だった。
我を滅ぼすのは豊美か、さもなくばアルコリアだと思っていたのだが」
その二人は、壮絶な戦いの果てに力潰えた。そして、『魔法少女でない者に認められた魔法少女』がトドメを刺すという展開に、姫子はおかしくなる。
「あはははは……! 最期に愉快な物を見させてもらった。
さあ、お前の勝ちだ、好きにするがいい」
フッ、と力を抜き、姫子が目を閉じ、姫星に身を委ねる。姫星の口がゆっくりと開かれ、そして――。
「馬鹿ぁ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿、姫子さんの馬鹿ぁ!」
浴びせられる罵倒に姫子が目を開くと、目に涙を溜めた姫星の顔があった。
「私言いましたよね、誰かを哀しませるようなら怒りますって!
悪になった姫子さんを豊美ちゃんが倒したら皆が幸せになれる? 冗談じゃありません! 私は、私はそんな結末、哀しいです!!
私はそんなトゥルーエンドより、皆で明日を迎えられるハッピーエンドが欲しいんです! 姫子さんがそこに居なかったら意味ないんです!」
うわあぁん、と姫子の胸で泣きじゃくる姫星を見、彼女がああまで強かったのは『皆で明日を迎えるハッピーエンド』を望んでいたからかと思い知る。
「……馬鹿なのはお前の方だろう。我は絶対の悪、そのような存在を望むなど――」
「姫子さんはいい人です。悪の部分から誕生したとしても、姫子さんは姫子さんです。
だから……姫子さんが居なくなる未来なんて選ばないでください」
そう姫星に言われ、姫子は二の句が継げなくなる。そして、近付く複数の気配にそちらへ視線を向けると、豊美ちゃんに肩を貸す樹、讃良ちゃんを連れたジーナ、衛の姿があった。
「取り込み中の所失礼した、ま、彼女たち抜きに話を進めるのもどうかと思ったのでな」
樹が言う、これでこの場に、豊美ちゃん、讃良ちゃん、姫子が出揃う形になる。
「……人であれば陰と陽、正と邪、相反するモノが存在し混在する方が自然と思われます。
それは魔法少女であっても変わりません。魔法少女だって悲しんだりしても良いと思いやがりますです」
ジーナが進み出、差し出した掌に桃饅頭を載せて微笑む。
「同じものを食べて、一緒に家族になりやがるのです。同じものを食べて、姉妹になりやがるのです。
同じ存在から分かれて生まれたのであれば、一緒になる事も可能でありますよね?」
饅頭を持たされた姫子の顔に、明らかな戸惑いの色が浮かぶ。
「もぐもぐ……お、これなかなかいけるな。まあなんだ、ひめにょん。オレもジナも結構悩んでンのよ。
オレは男だったのを『女の姿の魔鎧』にさせられたし、ジナは……ま、オレの逆と考えて良いぜ。
それでもどっこい生きているんだ、そんな魔法少女がいてもいんじゃね?」
「あーーー! ワタシの桃饅頭、勝手に取りましたね! それに勝手にワタシのことしゃべるんじゃありません、バカマモ!!」
後ろからジーナの蹴りが飛ぶ。
「いて、いてて! ほれ、さららん、おめーも言いたいことあったらひめにょんにいっとけ!」
衛に言われて、讃良ちゃんが頷き、姫星に身を起こされた姫子の顔をじっと見る。
「ひめこさま、わたしといっしょになってください」
「お前と? ……馬鹿を言え、お前と我とでは違い過ぎる」
視線を逸らした姫子の耳に、讃良ちゃんの言葉が届く。
「いっしょですよ。わたしも、ひめこさまも」
「…………」
姫子が、手に持った饅頭を見つめる。しばらく見つめていたそれを、おもむろに口に頬張る。
「……美味しいな」
「おいしいです」
二人が共に、同じ物を食べ、同じように笑う――。