|
|
リアクション
(あーあ、喧嘩ってのは楽しくやるもんだろうが。姫子って奴も途中までは面白かったのに……なんだこの有様は?
笑えないな、噺のネタにもならない。……仕方ない、物語のハッピーエンドに一役買ってやろうじゃないか。
おおっと、勘違いするなよ? 私は楽しく喧嘩できなくなるのが嫌だから協力するだけだからな?
結末にふさわしく舞ってやるよ! 今回だけ特別だ!)
きっとこの先ではお決まりの、勧善懲悪三文芝居が行われているのだろう……そう思っていた若松 未散(わかまつ・みちる)は辺りに漂う血生臭さに表情を歪める。姫子を倒さんと向かった他の魔法少女は圧倒的な力を持つ契約者に打ち倒され、そして自分の前には明確な殺意を滾らせた竜造の姿があった。
「テメェも魔法少女って名乗るつもりか? ……いや、テメェは違うな。俺と似た臭いがしやがる。暴れようぜぇ、ここなら誰の目も気にしなくて済むぞ?」
「……。
もし私におまえのような部分があったとしたって、それを誰かに指摘されたり、強要されたりするのは胸糞悪いんだよ!」
竜造の振るった大剣をかわし、未散が魔法少女な名乗りをあげる。
「悪い奴らは通りすがりの武闘派魔法少女におまかせ!
マジカルコンジュラー☆みちる! 天鈿女命の如き私の舞をその目に焼付けるといい!」
竜造の、見かけによらない素早い連撃の合間を縫い、苦無に変化させた【布都御魂】を急所へ滑らせる。だがその一撃は竜造の強引に振るった大剣に防がれ、空いた懐に蹴りを叩き込まれる。近接だけではこちらが不利と見抜き、距離を開けた未散が【雪月花】に仕込まれていた銃で応戦する。その間に『天岩戸』の能力で出現させた岩戸を竜造に向けて投擲、銃撃で気を散らせた所に念力で爆破させる。
(ちょっと、本気でやらないとこっちがやられそうかな……。サトミ、みくるをお願いっ)
「悪い奴らはキュートなにゃんこにおまかせ!
魔法少女☆マジカルみくるん! みくるのにゃんにゃんダンスでメロメロにしてあげるね♪」
「悪い奴らはダークな魔銃士におまかせ!
魔砲少女☆サトミ! さあ、地獄の業火に焼かれて無様に踊ってみせてよ」
魔法少女な名乗りをあげたまではよかったが、徹雄の非情に徹した、アユナの凶を発した戦いぶりに若松 みくる(わかまつ・みくる)と会津 サトミ(あいづ・さとみ)は防戦一方に追い込まれる。
「僕らの前に立ちふさがるのがどういう意味なのか、思い知らせてあげる……!」
「そっちこそ、私の前に出たことをあの世で悔いるの!」
サトミとアユナの戦闘は、力量もヤンデレぶりも拮抗していた。だがみくるの方が徹雄に押され気味であり、サポートに回らなければいけない分が徐々に利いてくる。
「うー、まだまだ! みくるだって魔法少女だもんっ!」
そう言いはするが、既に精神は限界、立っているのがやっとの状況。援護に向かおうとしたサトミも、アユナの執拗な攻めに張り付けられる。
「どこを見ているの……? ねえ、私だけを見て?」
(うわー、僕、ヤンデレを甘く見てたかも。マズイって、このままじゃみくるが――)
視線の先で、徹雄がみくるに必殺の一撃を繰り出すのが見える。思わず目を逸らしたサトミが次に見たのは惨劇ではなく、獲物を見失い戸惑う徹雄の姿だった。
「大丈夫ですか?」
「にゅー……ありがとう、おねぇちゃん」
間一髪、みくるを救い出したフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が、安全な場所までみくるを連れていこうとする。その後を追おうとした徹雄は、飛び荒ぶ光の閃刃に背中を裂かれる。
「フレイの所へは行かせねぇぞ。それに、アレを放置しておくわけにもいかないんでな」
ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が息をつき、状況を確認する。フレンディスが無事にみくるを撤退させたようで、犬耳と尻尾(本人は狼だと思っている)をパタパタさせながら戻ってきた。
「アリッサちゃんの遊び場に勝手に入った罰なんだからねっ!
悪い子はぎゃふんって言わせちゃう! 鎧型アイドル・マジカルアーマーアリッサちゃん!
バトルモードでおねーさま達と出撃しちゃうんだもん!」
そして、アリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)が意気揚々と魔法少女な名乗りをあげて、ベルクに後ろからどつかれる。
「おいこらそこの無機物クソガキ。何で俺らがお前の魔法少女だかなんだかよく分からん茶番に付き合わなきゃいけねぇんだっつの」
「いったあーーーい!! なにすんのよもー! うわーんおねーさまー、いじめられたー」
あからさまな演技でフレンディスにすりよるアリッサに、どうせならこの地に廃棄してやろうかと思いかけたベルクは、フレンディスのすまなそうな表情に思いとどまる。
(フレイの頼みだからなぁ……それに、アレの放置はちとマズいしな。はぁ、やれやれ、仕方ねぇ……」
状況が状況だからな、とベルクは気を切り替える。アリッサのことは気に入らないが、ここで何かあればフレイが悲しむだろうし、死にそうになったら守ってやることにする。
「あれ? そういえばレティシアさんは?」
「向こうでガチバトルやってるぞ。まあ、迂闊に加勢してもこっちが巻き添えくらいそうだし、好きにやらせとくのがいいんじゃないのか?」
ベルクが言い、視線を前方に向ける。先程打ち倒したはずの徹雄が、起き上がり再び剣を構えていた。
「……こっちも、本気でやらないといけなそうだからな」
「まさか、このような場所で会うとはな。白津竜造……お前は何のためにここにいる?」
「あぁん? テメェに話す必要ねぇだろが。俺は気分わりぃんだ、テメェのパートナーに獲物を殺り損ねさせられたからな」
思わぬ場所で『殺り合う仲』に会ったレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)の問いかけに、竜造は不機嫌を隠さず答える。未散を後一撃で殺れる所まで追い詰めたのを、フレンディスに邪魔されたのだった。
「つれないな……。まあ、我もここまで来て雑談に興じるつもりはない」
言って、レティシアが大剣を構える。奇しくも竜造の用いているのと同じ型。
「この地には強者が集っている。まずはお前と、戦いを楽しむとしよう」
「ケッ、下らねぇ……と言いてぇが、魔法少女もいつの間にかどっかいっちまいやがった。だがな、俺の戦いは終わらねぇ。あいつを殺るかもしれねぇ奴を全員消すまではな!」
高速で踏み込んだ竜造の、斬撃をレティシアが真正面から受け止める。一撃の威力はレティシアに分があったが、竜造の息もつかせぬ連撃に防戦一方になる。
「あぁ、これだよ。このヒリヒリするような感覚……たまらんな」
「黙れよ!!」
竜造とレティシア、二人の大剣が交錯する――。