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今年もアツい夏の予感

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今年もアツい夏の予感
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リアクション

 一方……。
「恐がらなくていいんだ。俺がついているから一緒に入ろう」
 言っちゃ悪いが、周囲から浮きそうないい年したあごひげのおっさんが、小柄で細身の少女を抱きかかえプールに入ろうとしていました。決して怪しい男ではありません。吸血鬼のダン・ブラックモア(だん・ぶらっくもあ)。難病を患い身体が極めて弱い少女アメリ・ジェンキンス(あめり・じぇんきんす)のパートナーだったのです。
 掃除の時には羽織っていたパーカーを脱ぎ去り水着一丁のダンは、ゆったり労わるように、メアリの様子を見ながら声をかけます。
「水は冷たくないか……? 足から浸かれば大丈夫だ……」
「……ちょっとやめてよ」
 ダンに抱きかかえられながらも、アメリは不愉快げに言います。
「恥ずかしいじゃない。みんな見てるわ……」
「恥ずかしがることはない、アメリは身体が弱いんだから補助がつくのは当たり前のことだ」
「そうじゃなくて……」
 当然のごとく言うダンに、アメリは語調を強めます。
「どうしてわかってくれないのよ」
「……い、いや、何を怒っているんだ、アメリ。俺何か悪いことをしたか……?」
 風貌に似合わずダンは動揺しまくります。
 そんな二人の声を聞きつけてやってきたのは、イルミンスール魔法学校白雪 椿(しらゆき・つばき)です。プールに入っているのにパーカー着たままです。二人が入水で苦戦しているのを見て、手を差し伸べます。
「あの……、私でよろしければお手伝いしましょうか……?」
「結構! 二人の問題だ、関わらないでいただこう」
 睨みつけながら椿に向き直るダン。そんな彼を手で押しのけるようにしてアメリはニッコリと微笑みます。
「ごめんなさい、この人口が悪くて。せっかくだから、床に足が着くまで手を貸していただけないかしら……」
「なにっ……?」
 アメリの態度に、ダンはガーン! とショックを受けた表情になります。
「よろしいですよ、そっと入ってもらいますね」
 椿はすぐさまアメリの身体が弱いことを見て取って、優しく手を取ります。
「……結構冷たいわね」
「すぐに慣れますよ」
 二人は、手を取りながらゆっくりと水に入ります。
「椿も練習するか? 手を持ってやるぞ! ……って、何をやってるんだ?」
 椿を見つけてやってきたのは、パートナーのネオスフィア・ガーネット(ねおすふぃあ・がーねっと)です。彼は無遠慮にジロジロとアメリを見て、聞きます。
「誰だ?」
「……貴様に名乗る名などない!」
 割って入るダン。
「アメリ・ジェンキンスと申します。よろしくね」
「……なにっ?」
 ダンはまたまたショックを受けます。
「アメリ……か、いい名前だ。ちょうどよかった、うちにもネコがいる。一緒に遊んでいくといい」
 そんなネオスフィアの台詞を聞き捨てならないとばかりにやってきたのは、同じく椿のパートナーで獣人の八雲 虎臣(やくも・とらおみ)です。
「ネコとは誰のことですか? 虎は猫科です、ネコそのものではありません。呼び方に気をつけていただきましょう、吸血鬼」
「もしかして、私のことですか……?」
 返事を待たずして聞き返してきたのは虎臣に泳ぎを教えてもらっていた白雪 牡丹(しらゆき・ぼたん)です。八雲に手を取ってもらいながら泳ぎの練習をしていた牡丹は、アメリと目が合うとちょっと恥ずかしがりながらも微笑み返します。
「楽しそうな家族なのね?」
 アメリの言葉にネオスフィアは小さく笑みを浮かべて。
「まあ、飽きないことは確かだ。……例えば彼、どうしてプールの中でパーカー着てると思う?」
 椿を指差すネオスフィアにアメリは小さく首を傾げてから無邪気に答えます。
「流行のファッションなのかしら?」
「……実は俺もよくわからない」
「え……? でもパーカー脱いじゃダメってガーネットさんの言いつけですし」
 きょとんと言い返す椿にネオスフィアは、がっくりします。
「そ、そうだったな……」
「まあ、なんだ……羨ましいなら交替しようかと思っていましたが、そんな必要ないようですね、ネオス殿。……では私はもう一泳ぎしてきますので……」
「すみません。交代して下さい」
「椿殿の護衛、しっかり頼みますよ」
「……」
 牡丹と一緒に行ってしまった八雲を見つめながら、ネオスフィアは呆気に取られたようにその場に立ち尽くします。
「では、私たちも、ちょっと水浴びを楽しみましょうか……」
 椿はアメリを大切に労わりながら、一緒に水と戯れ始めました。
「……」
「……」
 取り残された感のダンとネオスフィアは、なんとなく顔を見合わせます。双方とも吸血鬼で保護者。何か共感が芽生えたのかもしれません……。
「ばか……そんなことを恥ずかしがっていたんじゃなかったのに……」
 ダンにちらりと視線を送りながら呟いたアメリの一言が印象的でありました。




「お掃除大変でしたわね、美緒さん」
 美緒を誘って一緒にプールに入っていたのは冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)でした。胸の重量感が出るデザインのホルターネックのビキニを身に着けた小夜子は、レオタードっぽい水着の美緒を見て意外そうな表情をします。
「まさか、あなたの新調水着がそれとは思っても見ませんでした」
「ビキニはたくさん持ってますから。今年一番ですし、ちょっとイメージを変えてみようかな、と思ったのですけど。変でしたか?」
「いいえ、とっても似合ってますわ。むしろビキニよりも悪い虫を引き寄せやすいかもしれませんわね」
「脅かさないで下さい」
 美緒は笑いながら、水浴びを始めます。
「そういえば、美緒さんって……泳げなかったんでしたわね」
 聞く小夜子に、恥ずかしそうに美緒は答えます。
「今年こそは……、と毎年思うんですけど。どうしてなのでしょうか……」
「重力のせいさ……」
 不意に、背後から声が聞こえました。
 振り返った二人の視線の先にいたのは、あの波羅蜜多実業高等学校でも有名なピンクモヒカンゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)です。おっぱいをこよなく愛しおっぱいに生涯を捧げるナイスガイ。しかし、今日の彼は一味違います。
 おっぱいを重力という地獄の攻撃から開放する為、プール掃除をがんばってこなしてきたのです。あれだけ水着姿の女の子たちがいたにもかかわらず、彼は掃除の間は決して女の子達のおっぱいを触りに行こうとはしませんでした。おっぱい聖地『プール』をキレイにして、ひたすらプールでのおっぱい癒しを目指し超真面目にカッコよく紳士的に掃除をこなしてきたのです。それが証拠に、彼の目はいつものギラギラしたモヒカン野獣ではなく、少女マンガに登場する男のようにキラキラ光っています。
「そう……、その重くて大きいアトミックおっぱいが邪魔して泳げないだけだ。今楽にしてやるぜ……」
 言葉が終わるより先に、ゲブーのおっぱいゴッドハンドが美緒の豊胸を鷲づかみにします。
「……あっ!?」
 びっくりして声を上げる美緒。
「よく頑張ってきたな! 今日は楽になってくれ!」
 ゲブーは苦労を慈しむような顔で胸を慰め始めます。
「……や、やめてくださいませ、お願いです……あんっ」
 ゲブーは涙目になりかけの美緒の言葉を無視して、指圧を始めます。
 彼曰く、おっぱいを支える筋肉のツボを(《武医同術》の身体知識)をほぐしてあげるのだ、と。通常はモミモミ(触診)でシコリ! だが今回は重力からの開放だけで満足!
「そうツボが」
 ブスリ! と小夜子の両親指がゲブーのこめかみに突き刺さります。
「あら……、これはツボではなくて秘孔でしたっけ。……すでに死んでいる感じの」
「はぁぁぁぁ……!」
 ゲブーは身を震わせながら硬直します。手はまだ美緒の胸を揉み続けたままでしたが。
「……へぶしっ!」
 ゲブーの顔が上下に歪み、崩れるように破裂します。モヒカンの最期はあっけないものでした。
「……大丈夫でした、美緒さん? 気分が悪くなったのでしたら、医務室まで付き合いますわよ」
「……いいえ、ありがとうございます。私、平気ですわ。この時間を無駄にしたくありませんから」
 美緒は笑い返してきますが、幾分ショックを受けている模様……。
「……」
 小夜子は手で水鉄砲を作って、美緒にピュッとかけます。
「わっ!?」
 美緒は、正面からかぶって目をぱちくりさせていましたが、すぐに水をかけ返してきます。小夜子は、また美緒に水をかけます。かけ返して来る美緒。
 わあわあ……きゃあきゃあ……!
 二人は、程なく歓声を上げながら全力で水のかけ合いっこを始めました。
 歳に似合わないかもしれないですけど、こういうのも女の子らしくて、たまにはいいんじゃないでしょうか……?
 楽しそうな美緒の顔を見ながら、小夜子はそんなことを思ったのでした。