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大嵐を起こすために顔を洗う妖怪猫又

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大嵐を起こすために顔を洗う妖怪猫又

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第11章 猫だらけ

 裕香が“マタタビ酒なら任せてください”と言い張ったのだが、何度目の正直になるかわからないが任せることにした。
 彼女の無自覚な料理ベタを、こんこんと説くのは面倒だったため、妖怪の口に合うか不明だが任せてしまった…。
「(蛍光色の飲料水のピンクバーションみたいな感じがするな…)」
 赤い蛍光塗料を流し込んだような液体の入った瓶を、不気味な液体を見るかのように、眉間にキュッと皺を寄せた。
「(猫飼ってる誰かがが“うちの仔、ピンクとか赤系の色がなぜか好きなんだよね”とか言ってた気がするし、そもそも猫って青と緑でしか色識別できないらしいし…。パラミタの猫又はどうか知らないけどさ。まぁ…匂いは普通だから、大丈夫かな…)」
 猫又が顔を洗う回数がさらに減り、風速が弱くなった隙に、風翔は買出しに出かけていた。
 とりあえずデザートを作ろうと、同じマタタビ科のキウイフルーツを、果物ナイフでスライスする。
 グラニュー糖をヨーグルトに入れて、甘い感じに仕上げる。
「まぁ、後1品あればいいか」
 キウイをミキサーにかけて市販のバニラアイスと混ぜ、冷凍庫の中に入れた。
「猫又が来たな…」
 出せる分だけ卓袱台に並べる。
「これ、何にゃ?」
「またたび酒ですよ」
「そんな色のまたたび酒、見たことないにゃ…」
 猫又の言葉にやっぱり…と風翔は心の中で呟く。
「(色は認識出来るのか……)」
「健康にもよいんですよ」
「んー…。遠慮したいにゃ」
「そ、そんなぁ…」
 さすがに怪しいピンク色の飲み物は飲みたくないらしく、あっさり拒否されてしまった。
「キウイヨーグルトなら食べられるだろ?」
「うん…甘いにゃーっ。にゃー1人じゃ食べ切れそうににゃいにゃ。みかげにゃん、一緒に食べるにゃ」
 あまあますぎるのは、大変だったらしい…。
「食べるにゃー。…あまーーーにゃっ」
「私もいただいてみましょう。…あまーいですねっ」
 そんなに甘いのだろうかと思い、御影とサクラコはスプーンですくい味見してみる。 
「そこの2人は猫の獣人か…」
「ちょうどいい気がするけど…?」
「ん…獣人じゃないのか?」
「私の耳と尾は、本物じゃないのよ。って…猫又さんと話をしにきたんだったわ。ねぇ、その着物って長屋の人にもらったの?」
 呉服屋で着物を売っているし、もしかして誰かがくれたものなのかとサンドラが聞く。
「ううん、にゃーのだにゃ。人間に化けた時のイメージにゃ」
「ぇっ、イメージで好みの服装が出来るの!?」
「うん、だいだいにゃ」
「へぇー…便利そうね」
「サンドラさん、化けた時に服を着てなきゃ…きゃーですよっ!きゃぁああー!!」
 酒瓶の酒を手酌して飲みながら、サクラコがテンションを上げて言う。
「どこかで誰が見ているか分からないし、いろいろ危ないわね。そういえば、サクラコさんと猫又さんって、三毛猫なのね?」
「私は獣人ですけどねー。あれ…何か忘れているような?」
「サクラコにゃん、どこかに行く予定だったかにゃ?」
「偶然、葦原に遊びに来ただけですよー。その辺、ふらふらしてみようかなーっと。で、えぇーっと…んー…。忘れたままでいいです、あははっ」
 お酒で上機嫌になってきたサクラコは、司の存在をすっかり忘れ去っている。



 記憶の奥底にしまわれた司は…。
「どしゃぶりじゃなくなってきたな」
 茶屋の窓から猫又の機嫌が直って天気がよくならないか見ている。
「ふぅー…、あれからかなり時間が経っているんだが…。サクラコのやつ、何も報告してこないな」
 ホウレンソウのホどころか、自分が葦原にいることすら、パートナーに忘れられてしまった。
 サクラコは司を放置して女子会を楽しんでいる。
「団子、まだあるぞ」
 食べるように氷藍が猫又に勧める。
「もらうにゃ」
「俺と一緒に、長屋の外の世界に行ってみないかにゃ?」
「よく迷子になるからいやにゃ…」
「迷子のにゃんにゃんになっちゃうのかにゃ!?」
「知らないところは、あまり好きじゃないのにゃ」
「しかしあの様子は和むよねぇ、うんうん。どっちも男の子だったら私もウハウハなんだけど…あれ、丁君どしたの?」
 2人の会話聞きながら、両方とも男の子だったら…と妄想する。
「…玉藻、お前がなにをいっているのかはよく分からんが、良からぬ妄想はするな」
 丁は猫又の後ろ姿の絵を描きながら、けしからん発言をした玉藻を注意する。
「妄想するのは自由じゃないか、ね?」
「ならば声に出すな。猫又は多感な存在だ…これ以上気を悪くすると手が付けられん」
「脳内劇場ってこと?そのほうがある意味、怖いこともあるのよ」
「面倒事を増やすな、頭の中だけにしておけ」
「ぅー…。そんな1人芝居つまらないわ。ちゃんと会話したいし…」
「危ないことなら、声のボリュームを下げるにゃ」
「わ…分かったわよっ」
 玉藻は氷藍に注意されてしまう。
「でさ、外にはもっと美味しいものもあるにゃ」
「みかげにゃんと砂袋も一緒なら考えるにゃ」
「砂袋…?不遇さんのことかにゃ。必要ならいつでも、ご主人に呼び出してもらえるにゃ」
「不遇って名前なのかにゃ?」
 危険なフラグしか立たなさそうなネーミングだな…と、氷藍が首を傾げる。
「んっと…もうそれでいいみたいにゃ。不遇さんは、殴ってもいい人なんだにゃ」
「旅先で常に、バイオレンスなことがおこりそうなんだけど。気のせいかにゃ?」
「多少は仕方ないのにゃ。不遇さんは玩具と思ってくれていいにゃ」
「猫ズでぶらり旅もよさそうだにゃ、猫又ちゃん」
「ふむぅ…氷藍もああ言ってるし、お外へお散歩に連れて行くのも良いんじゃないかな?誰か他にお散歩に付き添ってくれそうな子はいないかな?特に良い男とか良い男とか良い男とか…」
 パートナーの誘いの言葉に、ちゃっかり願望を押し付ける。
「みゅー……」
「おじちゃんでよければ!」
 彼女たちの話を聞いていた一が、スッと挙手をする。
「暴走はいけいないのっ」
「いたたっ、すみません…ほんとごめんなさい」
「(ここはもう居酒屋か?)キウイフルーツとバニラアイスをミックスした、アイスも食べてみてくれ」
「にゃん。ちべたいにゃー。にゃぅにゃぅ…」
「猫又さん、アイス美味しい?」
「美味しいにゃ」
 そろそろ満足してきたかサンドラが聞く。
「嵐をとめるか、次のお供え物で決めるにゃ」
「(…少しは、気分が晴れていればいいけど)」
 ベアトリーチェとコレットが作るお供え物でラスト。
 生物メニューが多いということで最後になった。



「猫又ちゃん、まだかなー…」
 ベアトリーチェのところに戻っても、猫又がやってくる気配はなかった。
 だが、最後にここへ来ることを練の連絡で知り、美羽は大人しく待機している。
「コレットさん、急いでマグロのフルコースを用意しましょう。私がマグロを解体しますから、コレットさんはお寿司を握ってください」
「うん、マグロ祭りね」
 切り分けられた切り身をつまみ、コレットは手早く握り寿司を作る。
「こっちのは刺身のままです。大皿に盛り付けくださいね」
「分かった!」
 借りた大皿に見栄えよく盛り付ける。
「私がテールの煮込みと胃袋の塩辛を作りますから、兜焼きとカマの塩焼き、唐揚げをお願いします!」
「―…兜焼きとカマの塩焼き、唐揚げね!」
「2人とも…、板前さんみたいだな」
 壁に寄りかかり休んでいた一輝が台所を覗く。
 大きな声で役割分担をしている感じが、活気のよい寿司屋のようだ。
「猫又ちゃんに嵐をとめてもらわないと、野外宴会は出来ませんからね。先に食べてもらう分を並べておきましょう」
 料理を小皿に盛り付けてコレットと一緒に、卓袱台へ並べる。
「味見してみて」
 へそを曲げている猫又のために、コレットは座敷わらしに味見役を頼む。
「―…うん。…ぅーん」
「こっちのは?」
「これならわらしがもらったご馳走より、美味しいかも」
「よかった」
「あ…!待ってたよ、猫又ちゃん。こっちに用意してくれてるよ」
 玄関で待機していた美羽が案内する。
「いっぱいあるにゃー!」
「どんどん食べてね」
「いただくにゃっ!あむあむうまぃうまーぃにゃ」
 あぶりトロやねぎとろ巻き、マグロの寿司をもぐもぐ食べる。
「もっとこった料理的なものも食べたいにゃ」
「お待ちどうさま」
「煮付けだにゃ。はぐはぐ…」
「どう?満足出来たかな」
 北都は少女の隣に座り、気分が晴れたか聞く。
「んー…。皆の料理、とっても美味しかったにゃ」
「じゃあ嵐は…」
「とめてあげるにゃ」
 猫又が顔を洗うのをやめると、空の分厚い雨雲たちが消えていく。
「ありがとうにゃ、満足したにゃ」
「うん、よかった」
「グチがあるなら俺が聞いてやるよ」
 酒を持ってきた昶は、料理つまみにきいてやるよ、と猫又に言う。
「うん、ちょこっとだけあるにゃ…」
「それじゃあ、場所をお社の近くへ移しましょう」
「お料理を運ばなきゃね」
「俺は先にいって、シートでも敷いておくか」
 一輝は畳の上から立ち上がり、ブルーシートを敷きに行く。