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大嵐を起こすために顔を洗う妖怪猫又

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第2章 長屋のお天気は台風並み!? Story2

 一輝が買出しに行った数分後、白雪 椿(しらゆき・つばき)白雪 牡丹(しらゆき・ぼたん)が戸をノックする。
「こんにちは。猫又さんに食べてもらうお料理を作りに来ました」
「今、開けるね」
「ありがとうございます。コレットさんも何か作りに来たんですか?」
「そうよ。一輝に買出しに行ってもらっているの」
「僕たちも何を作るか考えなくては…」
「猫又さん、ふわふわでしょうか…?もふもふでしょうか…?」
 作るものを決めないと買出しにもいけず、考え込んでいる椿の傍ら、牡丹は猫又の毛に触れた時の感じを想像してみる。
「ふふ、どちらでも、きっと可愛らしい猫さんなのでしょうね…。…頭なでなでしてみたいですね」
「きっと耳はふかふかで、肉球はぷにぷになんでしょうね。私たちが作った料理を、美味しく食べてもらえたら嬉しいです…」
「猫又さん…猫さん、でしたら…やっぱりお魚でしょうか?」
 椿はメモ用紙を千切り、完成イメージを描いてみる。
「小さな女の子ですし…、デザートも必要ですよ」
 どんなものを作ろうか椿と牡丹が考えている頃…。
 買出しに行った者たちの体力は、徐々に大嵐に奪われている。
「や、やっと…米問屋に着いたぞ。それと…そこにあるやつをくれ」
 透玻は材料を入れた袋をしっかりと抱え、もち米とうるち米を指差す。
「どっちが持つんだい?」
「私の方へください」
 店主に代金を渡した璃央が受け取る。
「必要なものは全て揃いましたね、透玻様」
「さっさと戻ろう」
「えぇ…風が強くなってきましたからね」
「かつおぶしはダメらしいが…お菓子は食べれるのだろうか?」
「ダメというか…、それだけもらっても満足しないほど怒っている、ということですね」
「ふむ…。座敷わらしとの扱いの差を考えると…。料理を作ってもらえず、それだけ渡されて怒ったのだろうな」
 いくら好物といっても、美味しい料理のほうがいいのだろう。
 怒って当たり前だな、とため息をついた。
「…なっ、私の傘が!」
 人々が集まる家に戻る寸前、傘は突風に耐え切れず、親骨がバッキリと折れてしまった。
「あぁっ、私の傘も折れてしまいました!うーん、猫又の力をなめていましたね…」
「ええい、この根性なしめっ」
 役に立たなくなった傘を、透玻は地面に叩きつけた。
「…ビニールに包んでタオル持ってきましたから、後で拭きましょう」
 璃央は投げ捨てられた傘を拾い、民家の戸を開ける。
「透玻様、どうぞ。荷物は渡しに渡してくださいね」
 玄関に置いておいたビニールを掴み、タオルを璃央に渡す。
「買ったものをその辺に置くと、床が濡れてしまいますね…。ビニールの上にでも置いておきましょうか。透玻様、片側を持ってください」
 自分の分のタオルと取った璃央は、パートナーと一緒にビニールについた雨水を切る。
「ここへ置かせてもらいますね」
 木造の廊下の上へ、購入した材料を並べる。
 一輝の方も雑貨屋で買い物を済ませ、米を買おうと必死に走っている。
「風も凄いけど、雷もヤバイな。さっきも近くに落ちたみたいだし。―…うわっ、長屋の入口辺りに落ちた!?」
 稲妻が光ったかと思うと轟音が轟いた。
 お供え物を満足にもらえない少女の怒りなのだろうか。
 風速が強まっていくだけじゃなく、落雷の回数もどんどん増えているようだ。
 一刻も早くコレットが待つ民家へ戻ろうと、壊れた傘を杖代わりに進む。
 家の中へ戻ると全身ずぶ濡れの状態で、玄関の上へ倒れた。
「―…はぁっ、コレット…買ってきたぞ」
「おかえり、一輝の犠牲は無駄にしないからね!」
 力尽きた彼にそう言い、購入してもらった材料を抱えて台所へ走る。
「コレットさん、お米もらってもいい?」
「あ、そうだったわね。何合いる?」
「3号あれば十分だね」
「いち、にい…さんカップ分っと。はいっ」
 米袋をハサミで開け、笊に入れて渡す。
「ありがとう♪…先生襲いなー…。大丈夫かな?」
 その西園寺は……。
「うわぁあああっ、メモ用紙が飛ばされちゃったよーっ」
 肉屋の店から出た瞬間、手にしている紙を突風に飛ばされてしまった。
「ササミと卵は買ったから…。えーっと、後は…。にぼしと紅花油だったかな…。それ以外、買うものはなかったはず!とりあえず、次はー…お魚屋さんかな」
 ぶつぶつと言いながら必要な材料を思い出し、傘で雨風を防ぎながら進む。
「うーん…、刺身とかは頼まれてないよね。おじいさん、にぼしちょうだい。2割値引きで売ってくれたら、お店の宣伝広告してあげるよ!」
「わしも生活かかってるからのぅ…。ぅぅ…持病の足ピリピリ病が…っ」
「(足ピリピリ病!?そんな病気聞いたことないよっ)」
「2割り増しで買ってくれると、ありがたいんじゃが…」
「(しかも、値切るどころか割り増しされようとしてる!?)じゃ、じゃあ…。1.5割値引き…。にぼしを買っていかないと、パートナーがにぼしの成分不足で…うぅっ」
 嘘か本当か不明の老人の涙に負けるものかと、西園寺も対抗して値切ろうと交渉しようとする。
「おぉおお…わしの足が……」
「どうしてもにぼしがほしいっていう、雷が直撃しやすいパートナーが…っ。大嵐の中…買い物に行ったら、きっと落雷で…っ。せめて1割…、ううん1.322割引きでたくさん買っていかないと満足しないのっ」
「ぉお…仕方ないのぅ。特別に、値引きしてやろう」
「―…ありがとう、おじいさん!」
 値切り交渉を成功させた西園寺は、代金を店主に渡した。
「他に必要なものは、油だけだね。(広告宣伝だけじゃ、厳しいみたいだし。次はどうやって値切ろうかな…)」
 安く手に入れるはずが割り増しされそうになったし、今度も手強いのだろうか。
 値切る方法を考えながら雑貨屋に入る。
「この紅花油、3割引きで売ってくれたら…お店の広告宣伝するよ!」
「ちょーっと無理だねぇ」
「んー…じゃあ、2.5…2.2割引きで!…うぅー、1.5割引でどう!?」
「まぁ、それくらいならねぇ。この悪天候の中、お使いにきたんだし」
「わぁーい、ありがとう!」
「魚屋でも値引きしたのかい?」
「えっ!?う、うん…」
 買い物袋の中を見られ、他の店でも値切ったのかと聞かれた西園寺は、小さな声音で言う。
「あのじーさんは値切ろうとすると逆に、割り増しされることもあるからねねぇ。まぁ…じーさんに限ったことじゃないけど、値切る方法をちゃーんと考えないと、失敗してしまうから気をつけたほうがいいべさぁー」
「そ…そうなんだ」
 油を受け取った西園寺は“交渉って難しいものなんだ…”と思いながら、弥十郎が待つ民家へ戻った。
「材料、買ってきたよ!」
「釜戸が足りないから、別の民家へ移動しよう」
 弥十郎は笊の上にビニールを被せ、向かいの民家に駆け込んだ。



「料理は決まりましたけど…。この嵐の中、買出しに行かなきゃいけないんですよね」
「でも、材料を買わないと作れませんし…」
 雨に濡れるだけならまだいいが、雷が鳴っている外へ出るのは恐ろしい…。
 どうやって材料を買いに行こうか、椿と牡丹が悩む。
「猫さんの機嫌を直すために行きましょう、牡丹」
 椿は傘を開き、パートナーと共に魚屋へ駆け込む。
「いろいろ作るとなると時間がかかりますから…、切り身を買いましょうか。おじいさん、マグロと鯛…かつおぶしと煮干しをください」
「お使いかのぅ?」
「い、いえ。猫さんに料理を作ってあげるんです」
 誰かに頼まれて買出しに来たのかと思われた椿は、ふるふるとかぶりを振る。
 代金を渡して魚をもらうと、牡丹と肉屋へ向かう。
「か…傘が壊れてしまいそうですよ、椿」
「うーん…猫さんが怒って風速を上げているのでは…。早く機嫌を直してもらうために急ぎましょう」
「魚だけでは物足りないということですか、椿」
「えぇ、猫さんはお肉も食べますから。ここの猫さんもきっと食べると思いますよ。えーっと…、ササミとベーコンを買いましょう。牡丹、ちょっと傘を持っててください」
「荷物も渡しが預かっておきますね」
「ありがとうございます。それと…かしわも買っておきましょうか」
 椿はポーチの中にしまった財布を取り出し、店主にお金を渡す。
「重たくないですか…?」
「大丈夫ですよ、牡丹」
「お魚は私が持ちますよ」
「では、お願いしますね」
 彼女に預けた傘だけ受け取り、八百屋へ向かう。
「やっぱり…デザートも用意してあげたいですからね…。椿、苺を買いましょう」
「苺だけでいいんですね?」
「はい。苺を食べてる猫さん…とっても可愛らしいんでしょうね」
「ふふ、そうですね。そのためにも、残りの食材を集めましょう」
 ほわほわと想像する牡丹に微笑みかけ、会計を済ませると雑貨屋へ行く。
 黒ゴマや豆乳ホイップ、猫用アイスやまたたびを購入し、民家に戻る。
「うーん、台所は使用中みたいですね…」
「オラのうちに来るといいべさ」
「あ…ありがとうございます。では、お借りします…っ」
 住人たちが集まっている家の台所はすでに使用中だったため、椿と牡丹は別の民家で借りることにした。



 五月葉 終夏(さつきば・おりが)が民家の戸をノックすると住人は戸を開け、彼女たちを家の中へ入れる。
「相当怒っているみたいだね、猫又さん。傘が壊れちゃいそうだよ」
「美味しいもん用意しないと、嵐を止めてくれそうにないんだべ」
「ほったらかしにされちゃうと自分が忘れられてるって思えちゃって寂しいわよね…。ねぇ終夏。アタシあの猫又ちゃんが少し可哀想になってきたわ」
 お供え物をもらえない怒りもあるが、人々に存在を忘れられるのも辛いんじゃ…と、アニューラス・シンフォニア(あにゅーらす・しんふぉにあ)が言う。
「誰も話しかけてくれない、ひとりぼっちっていうことだからね…。お供えと言うと……何を作ったらいいかな?」
「カツオブシは嫌みたいだけど…でも、やっぱり魚が良いと思うのよね。終夏が外でご飯を作るって言ったでしょう?魚って焼くとすっごく良い匂いがするもの」
「ん…?猫又さんはカツオブシが嫌いなのかな?」
 アニューラスの言葉に終夏は首を傾げ、住人に顔を向ける。
「いや…、猫又の大好物なんだけどなぁ。それだけじゃ、満足しないみたいなんだ」
「嫌いじゃないみたいだよ、アニューラス」
「ぇ、そういうことなの?…まぁ、大好物だからといって、そのままもらっても嬉しくないほど怒ってるのよね…」
「猫又さんにとっての美味しいものって何が良いか分からないから、私が一番美味しいと思うものを備えてみようかなと思うんだけど、どうかなアニューラス?」
「どんな料理を考えたの?」
「私はね、やっぱり皆で一緒に食べる作りたてのご飯が、一番美味しいかなぁと思うんだ」
「なんだかシンプルね。まぁいいんじゃない?おこげってご馳走っぽいし」
「一番美味しいところは、猫又さんにあげよう」
「じゃあ、私は魚でも買ってこようかしら。米は他の人が買ってきたみたいだから、少しもらったらどう?」
「そうだね、分けてもらおうかな」
 終夏は米をもらおうとコレットの傍へ寄る。
「コレットさん。そのお米、余ってたら少し分けてほしいんだけど」
「いいよ、どれくらい必要なの?」
「4合くらいあれば足りるかな。これ、お米の代金ね」
「うん。笊に入れてあげるね」
 受け取ったお金を財布に入れたコレットは、軽量カップで計り米を分けてやる。
「ありがとう!」
「私はこれから買い物しに行かなきゃね。―…はぁ、すぶ濡れ決定だわ」
 焼き魚用の魚を購入しようと、アニューラスは嵐の中、吹き飛ばされないように気をつけながら進む。