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大嵐を起こすために顔を洗う妖怪猫又

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大嵐を起こすために顔を洗う妖怪猫又

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第6章 大雨・落雷・突風…ときどき…ヒトが玩具にされるでしょう? Story2

「ごはーんごはーん…」
 酔っ払っている猫又は不可視化を解除し、ご飯の匂いがした場所をふらふらと探し歩く。
「猫又ちゃん、見つけたわっ」
 子守歌で眠らせようとバーストダッシュでスピードを加速させ、走りながら歌う。
「(…リボンのお姉ちゃんが、にゃーに何が言いながら追いかけてくる)」
 暴風や雷の音の影響で、美羽の歌声が歌に聞こえず、にゃーはお話を聞く気分じゃないにゃい!と言い、彼女から離れる。
 説得するために追いかけているのだと思い、妖怪の少女は猫の姿に戻り、不可視化して逃げてしまった。
「見えなくなっちゃった!?…すごくお腹減ってるみたいだし、いったん民家に戻ってみよう…」
 ベアトリーチェがいるところへ来ているかもしれない思い、美羽は民家の中の様子を見に行く。
 猫又はご飯の匂いをたどりながら、民家の中に入ると…。
 オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)が玄関のところで待ち構えている。
「戸が勝手に開きましたね。ということは猫さん、そこにいるのですか?」
「お前もにゃーを捕まえようとしているのかにゃ?」
「いえいえ違います。嵐をとめてほしいのですよ」
「―…とめてほしければ、にゃーが満足するお供え物をよこすにゃーっ」
「困りましたね…。カモン御影ちゃーん♪」
 ”目には目を、猫には猫をなのでーす♪”と、猫又を説得してもらおうと茶の間にいる夕夜 御影(ゆうや・みかげ)を呼ぶ。
「御影ちゃん、どうぞやっちゃって下さいなのですよ!」
「ご主人に言われて来たけどにゃ…猫又ちゃん、あんたは間違ってないにゃ!」
「にゃ……?」
「ご飯は猫にとって死活問題!よってにゃーもここに美味しい猫缶を用意してくれるまで猫又ちゃんの味方になるにゃ!!さぁどんとこーい!」
 猫又を説得してもらうはずが、獣人であるパートナーが猫スタイルになり、美味しいお供え物をよこすにゃーっ!と要求を始めてしまった。
「…あれ?御影ちゃん。何故、猫又さんの隣りでご飯の請求を…」
「ご飯を食べないと倒れてしまうにゃ。猫又ちゃんのために、料理をどどーんと用意しないと、この嵐はとまらないのにゃ」
「ね、猫又さんを仲間にしに来たのは確かなのですが、猫又さんの味方になりに来た訳ではなかったですが…」
「お供え物をよこさないで、嵐だけとめろというのは間違っているにゃっ!」
「えっと、えっと…じゃあ、不遇さんを呼べばいいですか?」
 イライラをぶつけるものでもあれば、少しは怒りも静まるだろう…と思い、不束 奏戯(ふつつか・かなぎ)を召喚することにした。
「え、遊んでくれるのかにゃ?わーい♪遊んでー♪遊んでー♪えっとねー。じゃあまず、ご主人は不遇さんを呼んで不遇さんを猫又ちゃんにプレゼントするにゃ」
「ぽこぽこ叩く玩具なのかにゃ?」
 人の名前のようにも思えるが、新しい玩具なのだろうか…。
 それが出てくるのを、御影と一緒に待つ。
「じゃ、じゃあしょうかーん☆…痛いのです〜!!!」
 召喚する度に痛みを伴い、オルフェリアは全力で畳の上に転がる。
「…って不遇さん?どうしてそんな悲しそうな顔を…?」
 痛みがだんだんなくなっていき、膝を抱えてどんよりしている奏戯の傍に寄る。
「泣いてるですか?どこか痛いですか!?不遇さん、不遇さーーん!!」
「いつもいつも思うんだオルフェちゃん…。俺様さ、可愛い彼女の為にいつも身奇麗にしてとか思ってお風呂入ったり掃除したりしてるんだけどさ。何もデート前に呼び出さなくても良いんじゃないかなぁオルフェちゃん!ねぇオルフェちゃん!聞いてる?話し聞いてるオルフェちゃーーーん!!!」
「え?何を言ってるのですか?不遇さんは、不遇さんなのですよ〜♪」
 呼び出されたくない時に召喚され、ぎゃぁぎゃぁと抗議する彼に対して、オルフェリアは彼を自由に呼んでも問題ない人だと思っている。
「えっと、猫又さーん!さっき御影ちゃんが言っていたのです!不遇さんはなんかしらないけれど、殴ってもいい人なんだそうです!だから、はい、プレゼントなのでーす♪」
 玩具を与えれば機嫌がよくなるだろうか、と戯の背を押す。
「っていうか、ああ、もう不遇さんで名前は定着なんだ…。もうね、いいんだけどさ。名前で呼ばれないとかさ…ねぇ?」
「え、だって、知り合いのおねーちゃんが“あれはリア充っていう世界の敵だから殴られても大丈夫”って言ってたにゃ♪だから、猫又ちゃんに気が済むまで殴って貰えばいいにゃ♪」
「あれ、ちょっと待って毛玉ちゃん!!」
「ふたりでパンチしていいの?」
「なんで俺様、勝手にサンドバックとしてプレゼントされそうになってんの?おかしいよね?」
「…あれ?オルフェは今なにかとてつもない間違いをしてしまった様な気がするのですが…。気のせいでしょうか?
「え、普通?いや、でも…いえすいませんごめんなさい」
 当然のように言い、獲物を狙うような視線を御影に向けられた不束は諦めて畳の上にへたれこんだ。
「だから、猫又ちゃんに気が済むまで殴って貰えばいいにゃ♪せーの!」
「イたたたッ。パンチが予想以上に重いんだけどっ。顔はやめて、顔はっ」
「ボディーなら遠慮しなくていいにゃ?」
 姿を見せた猫又がにんまりと笑顔を浮かべる。
「ぇ……」
「不遇さん、不満があるなら顔を狙うにゃ」
「…ない、…よ。うん…もぅ、すきにして」
「にゃーにゃー、ぱんちぱーんち」
「げふっ、ぶべっ。…外見と中身が違いすぎるよ…。ライチだよ…」
 可愛らしい見た目とは異なり、じわじわと獲物を弄ぶ猫的な残酷さを見せつけられる。
「声だけじゃなくって、姿も可愛いのです♪」
 オルフェリアは猫又の猫耳少女の姿に、めろめろになる。
「茶色髪をしたショートの女の子♪おめめも茶色なのですね、朱色の振袖を着た猫さんなのです♪」
「爪をとぎとぎして遊ぶにゃ、猫又ちゃん」
「にゃーんっ」
 妖怪の少女は小さな仔猫の姿になり、奏戯に飛びかかる。
「ぎゃぁあああっ!!!?」
 生贄にされた彼は2匹の猫に爪とぎされ、あちこち縦じまの赤い筋がついてしまう。
「ちびっこ猫さん、三毛猫さんなのですね♪まんまるおめめの猫さんと、見つめあいたいのです♪」
 仔猫の声音で鳴きながら夢中で遊ぶ彼女を、じっくりと眺める。



「いやぁ、何かずっと雨で困ってるって聞いたけど。天候相手じゃ、何とかしろと言われてもなぁ」
 猫又の怒りを静めてほしいという依頼で来たのだが、なかなかよい手段が思いつかない。
 今回はのんびりしているか…と、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は民家の戸をノックし、中へ入った。
「って、何だ?……猫?」
 玄関のところへ走ってきた2匹の猫を見下ろす。
 周りを確認するが人気はない。
 遮蔽物多し、状況確認完了……。
「(良し、今が好機!愛で尽くす!)」
 普段は誰も見せたことないが、唯斗は超猫好きなのだ。
「(ようやく巡って来たチャンス逃がすか!)ほぅら!おいで!」
 ウェルカム状態で両手を広げ、猫たちを呼ぶ。
「ははは!可愛い奴め!可愛い奴め!」
 猫たちは何かくれるのかと、彼にすり寄る。
「もふもふもふもふ!!ほらほら、ここか?ここだな?」
 彼は猫たちを抱きしめ、肉球をぷにぷにと押す。
「よしよしくすぐってやろう!うりうりうりうり!ああもう可愛いなぁ!」
 にゃーにゃーと可愛く鳴く猫まみれの幸福を味わい、ここは天国なのか?と思うほどの気分だ。
「思わず抱き締めて転げ回ってしまうわ!はっ…猫の気配!……来っ!!」
「みかげにゃん、あいつは遊んでいいのかにゃ?」
 砂袋で遊んだ猫又たちは、美味しそうな匂いをたどり、別の民家へ突撃してきた。
「うーん…、おいでって言っているし、いいんじゃないかにゃー?」
 シュバッ。
 2匹で唯斗に飛びかかり、べしべしとねこぱんちする。
「いいぞ、好きなだけ叩け!いてて、噛み付いたなコイツー、はははっ」
 殴られてもかみかみされても怒らず、何をされてもそれが全て至福の時間なのだ。
「いたずらっこだな、腹をなでなでしちゃうぞ」
「きゃー、いやにゃっ」
「お腹、触っちゃいけないにゃっ」
 唯斗の手からの逃れた2匹は、人のような姿になる。
「アレー?ナンデ女ノ子ニナッテルンデスカー?」
 獣人の娘っ子と猫又の少女が、ただの猫じゃない…と分かり、目をテンにする。
「えっつぃいっ」
 べしっ。
「女の子のお腹を触ろうとするとは、何事にゃ!?」
 ばちんっ。
 唯斗は両側の頬にビンタをくらってしまう。
「猫ッテ、女ノ子ニ変身スル生キ物ナンデショーカー?」
「にゃうにゃう」
「―…猫?」
 彼女たちが立ち去ると、ちびっこいトラ猫が鳴きながら民家に入ってきた。
「ね、…猫」
「にゃーんにゃぁーん」
「猫ーーーーっ。そうだ…、さっきのは幻だったんだ。そうに違いない…っ。猫は…猫は……ふわふわでもふもふ、ぷにぷになんだーーーーっ!!」
 あれは幻だったんだ…。
 そう思い、ぎゅっと抱きしめる。