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めざめた!

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めざめた!

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めざめた!

 
 
 むくり。
「ふぁーあ、今何時?」
 志方 綾乃(しかた・あやの)が、ベッドの中で眠い目をこすった。
「まあいいや。またお休みなさい……」
 
 
ツァンダでのめざめ

 
 
「んっ……」
 ふいにまどろみから覚めかけて、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はぼんやりと目を開きかけた。
 見慣れた寝室の天井が暗闇の中に見える。
 まだ夜だ。
「すーすー」
 微かな寝息に横をむくと、奥さんの御神楽環菜がしっかりと御神楽陽太の腕にしがみついて寝息をたてている。
 無意識に引っぱられて、それで目覚めたのだろうか。
 思わずだきしめ返しそうになって、起こしてはいけないと自重する。
 今はまだ、このままでいていい時間だと認識すると、御神楽陽太は静かに再び目を閉じ、微かな寝息を子守歌にまどろみの中へと戻っていった。
 
    ★    ★    ★
 
「このアイコン、何かな?」
 パッド型の情報端末と化しているクラン・デヴァイス(くらん・でう゛ぁいす)の画面を見て、空京のカフェテラスでお茶をしていたアリス・クリムローゼ(ありす・くりむろーぜ)は小首をかしげた。
『なんだなんだ? 変なとこ触らないでくれよな』
「無理、もう触っちゃったよ」
 あっけらかんと、アリス・クリムローゼがクラン・デヴァイスに言う。
『まったく。いったいこのファイルはなんなんだ。いつの間にこんな物が……。げげっ、これパンドラの箱じゃねえか!』
「それって、魔法がらみの、人の深層心理の端っこを表面化させるウイルスだっけ?」
 なんとなく聞いたことあるかもと、アリス・クリムローゼが遠くを見つめて言った。
 たしか、極簡単な魔法術式で人の脳にのみ働きかけるマイクロウェーブを発して、人の脳の端っこのどうでもいい部分を活性化させるはた迷惑なウイルスだったはず。起動後は自己を消去するので、痕跡が残らないのが特徴だ。活性化される場所は一定できないので、ほとんどは一過性のものだが、いったい何が起こるかは予測できない。秘めたスキルが目覚める場合もあれば、秘めた性格が表面化することも、秘めた趣向が表面化することもある。
「低レベルの魔法プログラムだから、最近はウイルスチェッカーからも無視されてるウイルスなのに、なんであなたの中にあったのよ。大丈夫?」
『俺はな、多分。なんたって、規格外だし。だいたい、触ったのはお前だろうが。ウイルスが拡散しちまったぞ』
「どうして拡散するのよ」
『いや、なんとなくネットワーク接続に目覚めちまって、そこの喫茶店のWi−Fiに……』
 よけいなことをしてくれたものである。これも、ウイルスの影響だろうか。
「ちょっと危険だよ」
 危機感に目覚めたアリス・クリムローゼがすっくと立ちあがった。
「これは、パトロールに行かないと」
『よし、行こうぜ』
 ネット接続したままのクラン・デヴァイスをかかえて、アリス・クリムローゼが街を歩き始めた。
 
    ★    ★    ★
 
「なんだ、変なファイルが……。消えた?」
 機動城塞オリュンポス・パレスのコントロールルームで、ネットゲームで遊んでいたドクター・ハデス(どくたー・はです)が、一瞬変なファイルを見つけて首をかしげた。
「ハデスさん、コーヒーが入ったよ……。わあ、凄い、レベル99のキャラ持っているんだ! 尊敬しちゃうよ!」
 コーヒーを持ってきたメイドの下川 忍(しもかわ・しのぶ)が、ゲームの画面をのぞき込んでキラキラと目を輝かせた。
「尊敬! じぃ〜ん。いい言葉だ」
 突然褒められて、ドクター・ハデスは感激したようである。
「このキャラは、このサーバーでも最強の正義の味方でな……。正義の味方……。うおおおおお! 俺は今まで何をやっていたんだ!!」
 突然頭をかかえて、ドクター・ハデスが叫んだ。
「どうしたんだもん、ハデスさん!」
 あわてて、下川忍が駆け寄る。
「俺は、いったい……。魔王クロノスだと……、馬鹿らしい。俺は、正義の科学者、高天原御雷だ!」
 下川忍に助け起こされたドクター・ハデスが、顔を被った右手をゆっくりと下げていきながら言った。
「ついに、目覚めたんだね。ボクたちは、それを待っていたんだよ。実は、ボクは秘密結社オリュンポスに潜入していた魔法少女だったんだよ!」
 そう言うと、下川忍が魔法少女コスチュームメイドCの姿に変わった。
「魔法少女メイディング☆しのぶ! 御主人様を守るためただいま参上!」
「そうだったのか、ありがとう下川忍!」
 正義に目覚めたドクター・ハデスが、下川忍の手を握りしめて力強く言った。その言葉に、下川忍の中で、熱き友情が目覚める。
「ここに、ボクが調べたオリュンポスの裏帳簿があるんだよ。これさえ公表できれば……」
「なんと、そんな物が!」
 下川忍の差し出すお小遣い帳をドクター・ハデスが受け取ったとき、要塞内に警報が鳴り響いた。
「しまった。もう感づかれたか。ここは、仲間に頼るべきか。よし、脱出するぞ、正義にむかって!」
「うん!」
 下川忍の手を引くと、ドクター・ハデスは走りだした。