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CANDY☆TR@P

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リアクション


第六章


「この席、空いているわよね?」
 どこかの令嬢を思わせる白いワンピースのお下げ髪。
「合席よろしいかしら?」
 聡に合席を求めてきたのは茅野 茉莉(ちの・まつり)だが、『天学の魔女』とまで言われている彼女のそんな姿は誰も想像できなかった。
「いや、そこは先約があるんだ」
「あら、もしかして女性かしら?」
「男だけど」
「ならいいじゃない。華があったほうがいいでしょ?」
 強引に席へと着席。
「重要な用件なんだけどな……」
 女性相手に強く出られないことを尻目に、茉莉はそのまま居座る。
「あなた、良く見るとかっこいいわね」
「そ、そうか?」
「ええ。好みのタイプだわ」
 ふふふっ、と零す表情にどぎまぎする聡。茉莉は頬杖をつきつつ誘う。
「あたしと一緒に出かけない?」
「だから、それは、ちょっと……」
 色々な要因があって無理だ、と言うことができない。なぜか空気に呑まれてしまう。
「残念ね。でも、一つだけ教えて」
 身を乗り出して、聡の耳にそっと囁く。
「あたしのこと、どう思ってる?」
 直接的な質問に、聡は動揺。音を立てて立ち上がる。
「可愛いわね。それがいいのだけれど」
 茉莉もまた立ち上がり、そっと聡と腕を絡ませ、
「それじゃ、デートと行きましょう」
 連行される。
「いやっ、あのっ、まっ――」
 振り払うかどうか、一瞬だけ迷ったその時、
「とうとう手を出したな」
 シャッターの音と共に新聞部部長笹塚が現れた。
「あーやっちまったな」
「あ、やっちまったみたいだな」
 桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)は同時に呟いた。
「今まで良く耐えたと思うが、詰めが甘いな」
「結構美人が多かったからな。でも、一度でも手を出しちゃ意味がねぇぜ。どうする煉?」
「仕方ない、強行突入だ」
「おっしゃ!」
 レストランに入店。現場まで駆けつける。、
「仕掛けが上手くいったところで悪いが、風紀委員の参上だ」
「風紀委員か。非番だというのに、まったく……君たちはこうも俺の計画を邪魔するのだな」
「風紀を正すのが俺たちの使命だ。それを乱そうとするあんたが悪い」
「これは異なことを言う。俺は会長の写真を撮っただけだ。ただ、それが女性と腕を組んでいただけ」
「俺たちを甘く見るな。この場自体があんたの手によって仕組まれたものだと証言も得ている」
 錬はレストラン全体を見渡す。そこにいる客、店員、すべてがエキストラ。
「……ルシアか」
「それだけじゃない。他にも色々協力してくれた奴らがいるんだぜ」
 情報収集、確認作業、その他諸々。数多くの人が動いた。
「そのせいで、通信が阻害されていたわけだ」
 納得顔の笹塚。
「だが、お前たちと同じように俺にも使命がある。ここで捕まるわけにはいかない」
 入り口は煉によって塞がれているが、出口は別の場所にある。そこに視線を送ると、
「逃がさないよ!」
 出口側には女装した榊 朝斗(さかき・あさと)が陣取っていた。
 エヴァがテレパシーで他の風紀委員に伝えていたのだ。
「おとなしくお縄にかかるんだね」
 構えを取る朝斗、もとい杯安里。
「何であんな格好してんだ?」
 エヴァの単純な疑問に同調するアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)は、
「朝斗……いえ、安里。女装するのに躊躇いがあったのでは?」
 馴染んでしまっている朝斗に質問する。
「ネコ耳メイドじゃないから問題ない」
「……感覚が少しずれてしまったようですね」
「風紀委員が自ら風紀を乱すことにならなきゃいいけどな」
 今後に不安を感じるも、今はそれどころではない。
「出入り口が防がれたか……」
「もう逃げ場はないぜ?」
「二度とこんな事態を招かないよう、少し懲らしめてあげるよ」
 にじり寄る錬と朝斗。
「生憎、逃げることと『生き残る』ことは俺の得意分野だ。すんなり捕まるはずがないだろ」
 言葉と共に反転、従業員用通路へと踵を返す。
 現れた場所。そこから逃亡を図る笹塚。
「甘いです」
 しかし、それはアイビスの【行動予測】で読まれていた。【ベルフラマント】で気配を消し、【含み針】を飛ばす。
「うくっ……」
 毒にやられ、行動を阻害された笹塚。
「もう観念しな」
「これは流石に分が悪いだろ?」
「罪を重ねることは止した方がいいよ」
「おとなしくしてください」
 四人に包囲され、拘束される。
「くっ、俺としたことが……」
 それでも逃げようと手を伸ばす。と、その手を握る者が現れた。
「久しぶりだな、笹塚」
「『炎帝』!?」
 風紀委員長、ルージュ・ベルモントの登場である。
「ルル、着たのか」
「ルージュさん、久しぶりだね」
「おまえらが休みに動いているというのに、俺が来ないわけにはいかないだろ」
 挨拶を交わす面々。
「途中からで悪いが、この件は俺が預かる。いいか?」
「そりゃ、姉御はあたしたちの長だし」
「異論はないです」
 頷き合う風紀委員勢。
 ルージュは笹塚に向かって話し始める。
「すべての事情は聞いた。そして笹塚、おまえの、いや、おまえたちの真意とやらもだ」
「…………」
「出てきていいぞ」
 ルージュが後ろに声を掛けると、
「リオ?」
 事の成り行きを見ていた聡が声を出す。現れたのは天御柱学院生徒会庶務の十七夜 リオ(かなき・りお)だった。
「リオがどうかしたのか?」
「今回の首謀者だ」
 事実を告げるルージュ。
「あまり驚かないな」
「まあ、な」
 途中に注意喚起されたことで、聡には考える時間があった。その時から考えていた構図。
「俺は試されたって訳だ。その元凶がリオだった」
「そういうこと」
 肩を竦めるリオ。
「あれだけ啖呵を切ったんだから、これ位で揺らいでもらっちゃ困るしね。それに、色々大変な時期だし、こういう息抜きがあってもいいんじゃない?」
「そのために俺は使われたってことか」
 悪ふざけが過ぎるとは思うものの、それ以上に気にかかる事象がある。
「それで、ルージュは風紀委員長として収めに来たのか?」
「いや、今の俺はどちらかといえば首謀者側だ」
『なんだって!?』
 風紀委員全員が驚く
「おいおい、委員長がそんなことでいいのかよ? 一歩間違えれば、俺が辞任に追いやられるんだぜ? 計画を潰してもおかしくないだろ」
「初めはそのつもりだったさ。しかし、俺は彼女の副目的に同意した」
「副目的?」
「笹塚も知っているんだろ?」
「……情報戦を想定してのテスト」
 渋々話し出す笹塚。
「流出厳禁の依頼で口を滑らすものがいないか見極めるためだ」
「それと、仮に情報を手に入れられたとして、自分自身の考えを持ち、行動が起こせない人に任務を任せてもいいのか」
 僕はそれが気になってね、と後を繋ぐリオ。
 イコンを扱う天御柱学院。その戦闘力はすさまじく、一歩間違えれば死者を生んでしまう可能性がある。穏便に済ませられるならばそれに越したことはない。
 そのために重要なのは、最初の情報戦。
 そこで先手を取ることが出来れば、任務もスムーズに行くことだろう。
「そういうことか」
 ただのおふざけ企画かと思ったが、実はそうではない。
 聡は感心した。仲間の命を失う危険を減らすための企画、そう考えれば自分にされた試練など可愛いもの。失うのは役職だけで、命を落とすことはないのだから。
「ちなみに、この件には蒼空学園校長も一枚噛んでいる」
「涼司が?」
「ああ。この真意に気付くほど勘が鋭いのか、ただの好奇心かわからんがな。後で文句の一つでも言ってやれ」
「涼司……覚えてろよ。何か仕返しをしてやるぜ」
 苦虫を噛み潰した顔をする聡。
「なあ、ルル」
「何だ、煉?」
「いくら真意がそうだとしても、この二人を無罪って訳にはいかないだろ」
「確かに。選挙で聡に投票した人たちは納得しないよね」
「陥れるようなことをしたんだ、それなりの罰は必要じゃねぇか?」
「学院の体制を揺るがそうとしたんですからね」
 集った風紀委員から声が上がる。
「そうだな。このまま一件落着というわけにもいかないのが俺の役職の辛いところだ」
 このテストは一度きりでなければ効果がない。お咎めなしで終わってしまえば、またもや同じことが起こる可能性がある。
 再発防止と、風紀委員長としての粛清。そのためにも、リオと笹塚には罰を与えなければ。
「先ずはおまえだ、笹塚」
 ルージュは笹塚の頭を掴むと、
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!」
 【消えない炎】で髪を焼く。
「姉御の炎最高だぜ!」
 それを見たエヴァは歓声を上げ、もう一つ歓声が上がる。
「炎帝様! 俺をもっと燃やしてくれええぇぇぇぇ!」
 燃やされている笹塚のものだった。
「これって、むしろご褒美だろ?」
「見た目がえぐいからよしってことにしようか……なんで喜んでるかはよく分からないけど」
 囁き合う錬と朝斗。ひょっとすると、笹塚はルージュのことが……
「でも、リオにこれはちょっと……」
 女の命である髪を燃やされる、そのことを危惧するアイビス。
 ルージュはプスプスと焦げた笹塚を放り、
「そしてリオ、お前は――」