天御柱学院へ

蒼空学園

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イルミンスール魔法学校へ

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第二章


 レストラン店内。
 埋まっている席は半数ほど。
 辺りを見回すと、どれも談笑を繰り広げ、和気藹々とした空気……に見える。
 一番奥の角の四人席。顔を寄せ合い、何やらヒソヒソと話している四人組。
 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)はエキストラとしてユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)と共にこの企画に参加していた。
「思ったのですが、親密そうに話している男女の役っていうのも不自然でございますね。何か目的があるのでございましょうか?」
「確か、同じ日・同じ場所で、どなただったか忘れましたがナンパするとかされるとか……そういう役の募集もありましたわね」
「そうなんですか? 男子の方では、かわいい女の子と仲良くなれるチャンスっていう募集ならありましたけれど。確か、今日此処で」
「何やら裏のありそうな話ではあるな。依頼人や対象など、何か覚えていないであろうか?」
「覚えていませんわよ。サッと斜め読みしただけですから。内容にも自信はないですわ」
「記憶している限りでは、男子の方に回ってた依頼は天学の新聞部……だったと思いますよ」
「女子で回っていた情報は蒼空学園の校長からだったと思うのでございます」
「ふむ……ならば無関係であろうな。対象については何か覚えていないであろうか?」
「すいません、そこまでしっかりと見ていないのでございます。ただ、天御柱学院の生徒会長さんが交代されるとか何とか……」
「そういえば、そんな噂もありましたわね。誰かは存じ上げませんけれど。近遠ちゃんは何か知らないかしら?」
「残念ながら、そういうのには興味がなくて全然知らないんですよ。イルミンスールの生徒会さえ良く知りませんから」
「それもどうかと思うのだよ? まぁ、他校の事情に疎い分に関しては仕方が無いとは思うのではあるが」
「でも不思議ですね。生徒会のことは学校内でやるもので、レストランでやることでもないでしょうに」
「そういうものなのでございますか? よく分からないのでございます」
「校風とか文化もありますわ。一概に不思議なことでもないのかもしれませんわよ?」
「そう言われれば、その通りですけれど……なるほど、そうかもしれませんね」
「どうやら考え過ぎだった様なのだよ。折角の料理を食すなら、もっと華やかな話題の方が良いであろうな」
「アルティアも別の話題の方が良いと思うのでございます」
「あたしも賛成ですわ」
「それもそうですね」
 そして出てきた話題はレストランのメニューの話。
「これって、地球の食べ物ですわね」
「『そうめん』です。夏の風物詩でもありますよ」
「こちらの青い飲み物は何でございましょう?」
「『ソーダ』ですね。これも夏に合う飲み物です」
「我らは先程から『そう』ばかり言っておるな」
「そうですか?」
「また言ったのだよ」
「本当でございますね」
 笑い合う面々。
「それでは、店員を呼びますわね」
 チャイムを鳴らし、店員を呼ぶユーリカ。ひょんな事から注文が決まった。

――――

 メニュー表を開き、思案する聡。
「やはり、役者は舞台に立たないと面白くない」
 その姿を別室モニターから見ている笹塚は口元だけで笑った。
「フライング気味の仕掛けも、前座としていい余興となった。さあ、これからが本番だ」
 笹塚の隣に座る瀬乃 和深(せの・かずみ)は手に持った携帯端末を見つめた。
 写し出されているメールは、『作戦開始』と端的な文章。送信相手はセドナ・アウレーリエ(せどな・あうれーりえ)瀬乃 月琥(せの・つきこ)の二人。
「和深と言ったか。計画への参加、感謝する」
「セドナが『我がどれほど魅力的か教えてやる』って勝手に参加したんだ。まあ、俺も暇だし、楽しませてもらうぜ」
 詳しいやり取りを見たわけではないが、笹塚にはセドナがどうしてそんなことを言い出したのか何となく理解できた。
「それは、単に意地を張っているのでは……」
「ん?」
「いや、今は追及すべきではないな」
 ここでそんな話をしても本来の目的から逸れてしまう。和深が気付かないのであればそっとしておくべきだと判断し、モニターへと向き直る。
「お、返信が来たぜ」
 和深は端末を操作して本文を見ると、『ナンパされても嫉妬するなよ?』と妙に自信満々な内容が書かれていた。
「息巻いているセドナがどうなるか、見ものだぜ」
 ワクワクを隠せない和深の台詞と同時、モニター内で聡へと近づくセドナ。
 机に取り付けた集音器が会話を拾った。
(夏は暑いわね)
「ぶはっ、セドナが、セドナがいつもの口調と違うぜ!」
 思わず噴出してしまう和深。画面を指差し、大口を開けて笑ってしまう。
 そんな状況など知らず、セドナは羽織っていた上着を脱ぎ、腰に手を当てて身をくねらせる。
(…………?)
 狐につままれた表情の聡。
 セドナ自身はセクシーなポーズを取ろうとしているのだろうが、知識・経験・体系、どの視点から見てもちぐはぐとしか感じ得ない。
 最初は気になった聡だが、変な奴だと認識して直に視線を手元へ戻す。
(くっ、次の手段なのだ)
 腰つきを強調したウォーキング。
 聡は一瞥するものの、
(すいません、お冷ください)
 近くの店員に声を掛ける。明らかに避けられていた。
「見た目子供だからな! やっぱりこうなったぜ!」
 膝を叩き、和深は大爆笑しながら笑い転げる。
 セドナは顔を赤くして一度バックヤードに引っ込むと、
(何故なのだ!?)
 けんもほろろな対応をされ、がっくりとうな垂れるセドナ。
(まあまあ、元気を出してよ)
 今までの行動を見守っていた月琥が肩に手を置いて慰める。強引に連れてこられたので、月琥のやる気はあまりない。
(せや、幼児体系も需要はあるんやで)
 しかし、瀬山 裕輝(せやま・ひろき)の言葉で空気が変わった。
(……幼児体系?)
(大人には大人の、お子様にはお子様の良さがある。どっちが好きかなんて人それぞれや。全然落ち込むことあらへん)
 腕組みして頷き、更に弁をふるう。
(自分の背丈に合わせるのが成功への近道や。背伸びしても違和感しかあらへん。あんたらは迷子の振りした方が成功するんとちゃうか?)
 皮肉に笑い、挑発めいた提案を投げて頭を撫でる。
(それが嫌やっちゅうなら、おままごとでもええんとちゃうか?)
「まずいっ!」
 和深は思わず叫んでいた。
 モニターには月琥の背中しか映っていないが、それでもどんな表情をしているかわかってしまう。
「このままだと……」
(私は子供じゃないわ!)
 裕輝の手を振り払い宣言。
(子供じゃないってところを見せてあげるわ! さあ、何でも言ってみなさいよ!)
(月琥!?)
「やっぱりだ……」
 月琥の琴線に触れてしまっていた。
 その言葉を待っていたとほくそ笑む裕輝。まさに外道の所業。
(どうせ色仕掛けをするなら、行き着くところまでいけばええんや)
「おいおい、これはまずい展開だぜ!? 月琥、頭を冷やすんだ!」
 連絡用マイクから月琥を止めようとする和深だが、当の月琥はそれを完全に無視。
(わかったわ。やってやろうじゃない)
 暴走状態に陥った月琥は聡の横まで歩き、服の裾に手を掛けめくり上げ――
(月琥! ストップ!)
(うっ!?)
 セドナに当身を食らい気絶した。
(今日のところはこのぐらいで勘弁してやる)
 聡に捨て台詞を吐いて指差し、月琥を担いで撤収。
 何とか一線を守ることは出来たが、
(今日の西地区は、なんかおかしいような……気のせいか?)
 聡の脳裏に不信感を募らせる結果となった。