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第3章 お色気 VS 臭気

「んっ、陽子ちゃんてば、こんなにぬるぬるしちゃって……」
「は、はうっ、違うんです、これは水溶き片栗粉……」
 物陰で絡み合う緋柱 透乃(ひばしら・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)
 陽子は透乃から伸びるうねうねと動く葉によって拘束されている。
 そして、透乃の手に握られているのは、にんじん。
 武器ですよ、勿論。

 透乃はにんじんと合体していた。
 レースクイーンさながらの過激な衣装を身に纏い、にんじんを手にウイルスをバッタバッタとなぎ倒す。
 紫のチャイナ服を身にまとった陽子は、麻婆茄子。
 水溶き片栗粉のぬるぬるで敵をかく乱し、茄子で殴り倒していた。
 しかし、透乃にとってウイルスとの戦いはほんの前哨戦。
 お楽しみの本番は、これからだった。

「あうっ」
 透乃の葉が、陽子を縛り上げる。
 体中を這う。
「ん……うっ」
 腕を組み、形だけの抵抗を見せる陽子。
 ぬるり。
 陽子の全身を包んでいるぬるぬるが、陽子の腕の間に葉を通すのを容易にさせる。
 ぬるり、ずるりと腕の間を、陽子の葉は通り抜けていく。

 さてその頃。
「ふふ…… プログラムに協力しているんですもん。お礼に、ちょっとくらい楽しませてもらってもいいわよね」
「や、やぁっ……」
 こちらもまた、うねりうねりと触手のようにパスタをくねらせながら女性を襲おうとする芽美の姿があった。
 ナポリタンの赤いケチャップがかかったパスタで、胸と腰を僅かに覆った姿の芽美。
 鞭のようにパスタをしならせウイルスを攻撃。
 時にはトマト爆弾での攻撃を折り曲げつつ、ウイルスを圧倒した。
 そして、芽美のお楽しみもまたこれからだった。
「バターだったかしら? それともマーガリン? どっちでもいいけど、一緒に楽しまない?」
「ま、マーガレットですよ……」
 芽美が目をつけたのはドクター・JAMの助手マーガレット。
 サポートとしてこちらの世界に来ていた彼女を、隙を見て物陰に連れ込んだのだ。
「ま、待て!」
「何よ、邪魔する気?」
 声をかけたのは霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)
 白道着に昆布の帯の彼は、ふろふき大根と合体していた。
「これを!」
 ぬるぬるり!
「きゃっ」
 泰宏が投げた液体が、マーガレットにかかる。
 ぬるぬるだった。
 彼もまた陽子と同じく、昆布成分のためにぬるぬる能力の使い手となっていた。
 泰宏は芽美の姿を見て、思わず彼女の手助けをしてしまったのだ。
「あら、気が利くじゃない」
 芽美のパスタの触手が、ぬめぬめと光るマーガレットの体に伸びていく……
 大変なピンチ!
 主に世界観の!

 その時。
 あるものが、彼らに襲い掛かった。
 ぶふぁあ〜ん……!
「え?」
「こ、これはて……」
「な、何っ」
「「「く、くさぁあああああああっ!!!」」」


 トトリ・ザトーグヴァ・ナイフィード(ととりざとーぐう゛ぁ・ないふぃーど)は、膨らんでいた。
 トトリは、ある缶詰と合体していたのだ。
「ほーらほら、食べ物は大切にねぇ。でも戦いは非情だよぉ〜」
 トトリは、敵であるウイルスを挑発する。
 そして、自らの近くにおびき寄せる。
 もっと近く、もっと近くに。
 頃合いを見て、缶詰に缶切りを入れた。
 ぶっしゅー!!
 爆発が、起こった。
 内部からの気体で膨らんだ缶詰が、開けた衝撃で爆発したのだ。
 その勢いでふっとぶウイルス。
 しかしその缶詰の真の恐ろしさはこれからだった。
「キ?」
「クゥッキイイイイイー!!」
 生き残ったウイルスたちが、ばたばたと倒れていった。
 ウイルスを倒したのは、臭気。
 缶詰から流れ出る臭さによって、彼らは倒された。
 そう、トトリが合体した缶詰は、あの世界一臭い食べ物と言われるシュールストレミングだったのだ!
「ああ、食べ物が勿体ない……」
 飛び散った缶詰を見て、悲しそうに呟くトトリだった。
「ぐっ!」
 パートナーのテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)が上機嫌で、飛び散ったシュールストレミングを集めている。
 これらは、後でテラーとトトリが美味しく頂きました。
 ちなみにテラーは茶色の物体に、両手が骨の形をした白い物体で包まれた格好。
 マンガ肉らしい。
「全く……食べ物は大切にしなければいけませんわ。良いですか、海の上では食材は大切なのですわよ!」
 聞こえてきたのはバーソロミュー・ロバーツ(ばーそろみゅー・ろばーつ)の声。
 しかし、声はすれど姿が見えない。
 キョロキョロと見まわすウイルスたち。
 もごり。
 その前に、突如として地面が割れ、一頭のアザラシが這い出てきた。
「キキ?」
 ぶにょり。
 その、アザラシの腹から手が!
「ピギーッ!?」
 右手、左手、そして頭……
 アザラシの腹から這い出てきたのは、バーソロミューだった。
「ふふふ……さあ、私の内臓をお食べなさい!」
 そう、バーソロミューが合体したのは、キビヤックだった。
 海鳥をアザラシの腹に詰め、放置して発酵させ内臓をすする脅威の食べ物!
 その姿のインパクトもさることながら、醸し出す臭気もかなりのもの。
 度肝を抜かれたウイルスたちが、バタバタと倒れていく。
「ぐるるぅっ!」
 バーソロミューを応援するかのように手を振り回すテラー。
「やるねぇ〜」
 トトリも感心したようにバーソロミューを見る。
「こ、これくらい当然ですわ」
 照れたようにぷいとそっぽを向く。
「それより……そちらのエイはどうなっているのです?」
「ガ?」
「んん?」
「あぁもうっ、なんだってあたいも巻き込まれなきゃいけないんだい?」
 バーソロミュー、テラー、トトリの視線を受け、ぶあんと両手を上げたのはグラナダ・デル・コンキスタ(ぐらなだ・でるこんきすた)
 そう、グラナダが合体したのは、ホンオフェ!
 エイを発酵させて作る、これまた凄まじい臭さの発酵食品。
「くそっ、こうなったら乗りかかった船だ! いっくぞぉおおお!」
 半分やけくそで、ウイルスに向かって特攻していくグラナダ。
「キー!」
「キキキーッ!」
 逃げ惑うウイルスたち。
「にーがーすーかあっ!」
 ウイルスに体当たりするグラナダ。
「ウ、キーッ!!」
 その臭気に涙を流して倒れるウイルス。
 更に、アンモニアのせいでくっついた所がだんだん爛れてきている。
 グラナダは次々とウイルスに致命傷を与えていく。

「ふむ、おぬし等なかなか気合が入っているじゃないか」
「ぐ?」
 そんなテラー達に近づいた人物がいた。
 臭気にも怯まず歩を進めてくるその人物は、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)
 その姿は魚らしい。
「ク、キーッ!」
 甚五郎の姿を見て、襲い掛かってくるウイルスたち。
 しかし。
「第938プロテクトフィールドッ!!」
 甚五郎が身構えるとともに、彼の周囲にバリヤらしき結界が現れる。
「キキーッ!?」
 弾き飛ばされるウイルスたち。
 更に甚五郎はスライサーを取り出し、自らの身を削り始めた。
「粉末攻撃!」
「プ、プププギーッ!」
 削られたものが当たったウイルスは悶え、倒れていく。
「お主ら、気合が足りないなぁ、気合がっ!」
「ぐる?」
「君は……?」
「甚五郎。合体食材は、クサヤ!」
「おぉ!」
 出会ってはいけない者たちが出会ってしまった。
 蒼空学園の学食は一体どこに行こうとしているのだろう。
 醸されている面々は、黙って頷き合うと共同戦線を張る様に、互いに背中を預け合ってウイルスに立ち向かう。

「せ、精神論はいいから、鼻栓を……」
 その隣で息も絶え絶えに悶絶しているのは、オリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)
 彼の出で立ちは、じゃがいも。
 ただし、毒化して真っ青になったもの。
 毒攻撃でウイルスを倒すつもりだったが……
「お主も、気合が足りん!」
「う、うるさい……」
 甚五郎について来たのが間違いだった。
 彼をはじめ、周囲の合体した食べ物の匂いに当てられ大変なことになっていた。


 その脅威の戦いの余波は、透乃たちの所にも及んでいた。
「んむむ……っ」
「な、なんです、コレは……」
 いざお楽しみの直前だった透乃と陽子は悶絶する。
「んんんんん……っ」
「ぐふっ……」
 マーガレットを毒牙にかけんとしていた芽美と、それを見ていた泰宏も倒れ伏す。
 助かった筈のマーガレット自身も、臭気にやられて倒れてしまったのだが。

 
 ※飛び散った発酵食品の数々は後でテラーとトトリが美味しくいただきました。