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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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第6章 2時間目・質問タイム

「えー…質問や疑問などがあれば答えるけど、何かある?」
「―…はいっ」
 美羽はガタンッと席を立ち上がり片手を上げる。
「じゃー…美羽」
「どうすればスペルブックの効果を、もっと大きくできる?」
「実戦で使い慣れることだな。どんな時でも苛立ったり、怒ったりしにくくすることも大切だよ」
「経験を積んで術と感情を、上手くコントロール出来るようにするのね」
 まだ4回目の授業だし、何事も近道はないということなのだろう。
「感情の乱れは、魔性に侵入される隙を与えることにもあるからね。スペルブックを使うなら特に、その辺を気をつけなきゃいけないよ」
「そうですよぉ。祓うための強い力があるのは、スペルブックに記される章なのですからぁ〜」
「強い慾の感情を持つ者が、狙われることもあるかな。だから基礎も大事なんだよ」
「例えば、窃盗とか繰り返す方とかに、侵入してきたりしますぅ〜」
「まぁ、憑依以外の手段で操ろうとする者もいるから。本使いだけで行動しないようにね」
「だからこそ、皆と協力することが大事なのね。効果を強くするためには…、経験だけじゃなくって、感情のコントロールも必要…っと」
 どんなに大きな力を手に入れても精神を乱したり、憑かれてしまっては意味がない。
 ラスコットとエリザベートに教えてもらったことを、ノートにシャーペンで書く。
「クマラ、おやつ食べないのか?」
「授業に集中したいから、今は我慢っ」
 ふるふるとかぶりを振り、お菓子のことを考えないようにして耐えている。
 お腹いっぱい食べて眠ったり、聞き逃したりするのは嫌なのだ。
「ね…ねぇ、エース。魔性を溶かすってことは、威力が低くて相手に抵抗されたら…。“ゾンビみたいに半分避けた状態 でも祓うことは不成功、むしろ気持ち悪さ倍増”みたいな感じになるの?オイラそんなの怖いなぁ。だって化け物だし…」
 相手がドロドロになったら、見るだけでも怖い!とクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が涙目になる。
「不可視の相手ならスペルブック使いには、見えないんじゃないか?アイデア術の効果で俺たちでも、見える状況もあるかもしれないけど」
「ぇっ、そんな術あるの?」
「さぁ、俺たちが見てないだけかもしれないし」
「うう…防ぐには中途半端に失敗しないようにしないと駄目にゃん!」
「ていうか恐怖心も効力に影響するだろ」
「はぅあっ、そうだった!」
「者や物に憑いている状態なら、中にいる状態の相手を直視することはないんじゃ?」
「そ、それなら安心だにゃん!…あぅー、絶対見ないってことはないかも…」
 溶けた状態が見える状況になるか、確率は低いかもしれないが、ドロドロ系を見る可能性はゼロじゃない…。
「そろそろ悪魔と交渉して仲間にするワザが出てくる頃ね……!」
 真宵も真面目にノートをとっているが、もわもわと想像しながら呟いている。
「本の授業は祓う力を学ぶ時間なのですよ」
「いいじゃないの、想像するだけならタダなんだし。倒した敵が立ち上がって、仲間にしてほしそうに、こっちを見ている…とか……」
「使い魔を従える魔道具がありますよ?」
「幻獣の主のスキルを習得したり、クラスチェンジする必要があるから大変なのよ」
「真宵の願いが叶うか分かりませんが、邪念をイロイロと捨てる必要がありそうな気がするのですよ。テスタメントの菓子パンをとることもありますし…」
 パートナーの目に邪気はないか、テスタメントが…じーっと見る。
「わ…わたしくにそんなものは…っ」
「宝石の力を扱えているのですから、そこまで酷いものはないと思いますけど。今日も真面目に聞いているようですし。(ラクガキは…見なかったことにしましょう)」
 まじめにノートを取っているように思えたが、端っこに可愛い悪魔とトークしている真宵の姿が描いてある。
 隣のページに書いてあることも、ふれないでおく。
「―……はっ!覗かないでっ」
 ノートには生徒の質問や、それに答えた先生たちの言葉を、きれいにまとめてある。
 テスタメントに覗かれた真宵は下敷きで、書き込んだページを隠す。
「わたくしのノートを見るよりも、先生たちに何か質問したらどう?」
「そうでした…!」
「どうしました、テスタメントさん」
 大きな声を上げる彼女の方にエリザベートが顔を向ける。
「ハイリヒ・バイベルだけパワーアップがありませんでしたよ、どういうことですか!」
「多分バイベル使ってる人が揃って未熟だからね」
 机をバンバン叩いて言うテスタメントに真宵が言う。
「いえいえ。授業に協力してくれた魔性が、今回のものを用意するだけでイロイロあったみたいです」
「つまり、大人の事情ということ?」
「今のところは、この章のみということですか…」
「強化された章はなかったけど、悔悟の章があるヨ」
 新しく手に入れた章のページを開き、ディンスは隣にいるテスタメントに見せる。
「この章は、スキルの習得が不要みたいだネ」
「ふむふむ…。どのような効力があるか、楽しみですね!」
「わたしくも何か聞いておこうかしら…。はいはーい」
「何ですかぁ、真宵さん」
「先生の年齢を是非」
「私のですぅ〜?」
 どっちの年を聞いているのか分からず、自分の年のことなのだろうかと思い、エリザベートは首を傾げる。
「校長の年を知りたいんだ?」
 聞いても教えてくれなかったり、3回目と今回の授業では…エリザベートの年を知りたいのか?と思われているようだ。
「違うわ、ラスコット先生の方」
 校長の方じゃないわ!と真宵はかぶりを振る。
 兎に角聞いておかないといけない気分らしい。
「ぅーん…なんで知りたいんだ?」
「そ、それは……」
「相手の年齢や趣味や年収を執拗に聞くのは、レンアイザタやゴウコンっぽくて恥ずかしいです止めてください」
 ただ知りたいだけ?とラスコットはそう考えるだろうが、他の生徒に勘違いされてしまうと思ったテスタメントは、真宵の口を手で塞ぐ。
「これは逆に考えるべきかも知れないわね。本当はショタっ子で、あの姿は実は幻影とか」
 真宵はパートナーの手を軽く叩いて退ける。
「いえ、それはないかと。未成年の喫煙は禁止です」
「相手の秘密を探ったり交渉したりするのも祓魔術の極意なのよ!きっとたぶんおそらくもしかしたら隠し単位があるかも知れないわ」
「それが極意になるかどうかとかはともかく…。ノートにあのようなことを書いていると、興味があると思われても仕方ないですよ」
 真宵のノートを見た時、授業について書き込んでいたあったのだが…。
 隣のページを見ると、ラスコット先生への質疑応答研究ノートになりかけている。
 しかも先生っぽいラクガキまで描いてあった。
 ふれるのはやめておこう…と思ったが、真宵の質問に突っ込みを入れたテスタメントは、それにも小さな声で突っ込みを入れる。
「(ぅう…今回も聞けなかったわ…)
 今日も教えてもらえず真宵は、ぐにゃりと机の上にへばる。
「あっ、えっと…。前回私は壁の様な形で『哀切の章』を展開しましたが、そのようにアイディア術以外で単独でも、工夫次第で形を変えたり相乗効果を狙ったり、できますか?」
 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は片手を上げ、小さな声音で質問する。
「嵐や波の形状以外でも可能だけど。今の哀切の章では、祓う以外の目的には使えないよ」
「効果を持続すると、それだけ精神力の消耗も激しくなりますぅ〜」
「や…やっぱり、まだ難しいんですね」
 ホームセンターで精神力が尽きてしまったことを考えると、維持させるためにはもっと実戦経験を積まないといけないようだ。
「エメリヤンも聞きたいことがあったら、今のうちに先生に聞いておいたほうがいいわよ」
「―…ぐぅ、…ぐぅーー……」
 隣にいるエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)に視線を移すと、顔を俯かせて眠っている。
 ほっといたらそのうち、額を机にぶつけてしまいそうだ。
「また居眠りなんかして…っ」
「(イッ…たいっ)」
 小突かれた拍子に、机に倒れて顔面をつぶつける。
「そこ、静かにしなさいっ」
 エリザベートがエメリヤンの頭部にチョークを投げる。
「(イタタッ!寝ているだけだったら、チョークなんて飛ばされなかったのに…)」
「居眠りしていた罰じゃないの?」
 怒られなくっても授業中に眠るのはよくない。
 小突かなければエメリヤンは叱られなかっただろう。
 彼が顔を机にぶつけて、その物音で校長に怒られることもなかった。
 だが結和は彼の居眠りを許さず、当然の罰よ…と黒板の方へ視線を戻す。
「(むぐ…結和が学ぶことだし、今度は聞こうと思ったけど…やっぱ勉強嫌いだなぁ)」
「ちゃんと聞いていないと小突くわよ」
「(ぅう……。なんで僕には、こんなに手荒なのかなぁ)」
 まだ痛む顔をさすりながら、心の中でぶつぶつと文句を言う。
「俺も質問していいか?」
「はぁ〜い、何ですかぁ〜?」
「前回は下級の魔性だったが今はまだそれほど関係ねぇと思うが中級、上級の魔性になってくるとやる事や対応方法が違ってきたりしちまうのか?」
「中級からは魔法の抵抗力が高かったりするので〜。それ超えるくらいに、哀切の章の力をもっと引き出せるように、使い慣れてくださいねぇ。それと自己回復力が早いですからぁ、悔悟の章で体力の回復を行えないようにするんですぅ〜」
「そんなものがあるのか」
「ラルク、これだ」
 そっと席へ移動し、ダリルが悔悟の章をラルクに見せる。
「これも授業中に説明してくれるのか?」
「たぶんな。…俺も質問しておくか。俺たちの誰かを、使い魔使いや宝石使いにシフトさせた方が良いのか?」
「今のところ、使い魔を扱う人が少ないな。まぁ、自分に合ったものがいいと思うよ。あまり変更すると、魔道具を使い慣れるのが遅くなるからね」
「それが一番の問題だな…」
「確かに、ころころ変えすぎるのもよくないわね。誰がどれがいいかっていうのは、ルカたち自身が決めなきゃいけないし。アイデア術で使った魔道具を持っていないと、いざっていう時に使えないのよね…」
 せっかく成功した術が使えないのは困し、実力差が開きすぎるのも困る…とルカルカは、ぐにゃりと机の上に倒れる。



「先生、質問がありマス!」
 ディンス・マーケット(でぃんす・まーけっと)は片手を上げ、大きな声で言う。
「先生たちが実戦に参加していたなら、どんな行動をとりまシタ?それぞれの、魔道具ごとに聞きたいデス」
「皆さんで考えて、行動してもらいたいので〜。今後のことも考えると、あまり具体的なことは言えませんがぁ〜…。2人行動のケースだけ言いますねぇ〜。お店の人をグレムリンから守りながら全員、外へ逃がした後に〜。生物に憑いたグレムリンから先に、祓いますねぇ〜。ホーリーソウルで治療したら〜、機械に憑いた者を祓いますぅ〜。使う魔道具は、私がスペルブックで…、ラスコット先生がペンダントを使うとかぁ〜。ケースバイケースで変更しますねぇ…。どっちも使い慣れていますから、どちらでもいいんですぅ〜。今はスペルブックの授業なんで、本のことは実技を通して覚えてください〜」
「(ホントに、簡単なことしか教えてくれないネ…)」
「ディンス…、本について学ぶ時間ですから。他の時間の授業に触れるようなことは、ほとんど伏せらてしまいますよ」
 隣で座っているトゥーラ・イチバ(とぅーら・いちば)が、彼女の肩をシャーペンでつっつき小声で言う。
「う、うん。そうだネ」
 本以外の魔道具をどう使うか…、と具体的に教えてもらえなかったのは、そのためだったらしい。
「わざわざ時間別に説明してくれるのは、いろいろ知識を詰め込もうとして、ごちゃごちゃにならないようにってことなんでしょう…。ディンスだって、覚えきれていないことがたくさんありますよね?」
「んー…確かに、そうかもネ…」
 さすがにまた知識不足で、他の者を巻き込んで失敗…なんてことは出来ないから、覚えられる範囲で少しずつ学んでいくしかないのだ。
「(あれ?グラルダさん…そんなに怖い顔をして…。何かあったのカナ)」
 他の生徒はどんなふうに学んでいるのだろうと気になり、何気なく隣に座っているグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)に視線を向ける。
 彼女は2時間目の授業開始から、いつになく険しい表情を浮かべている。
 実戦に参加せず、教室内で実技を行っていたディンスたちは知らないが、前回の実戦から戻ってから、ずっとこんな調子だ。
 ノートを見ると簡単にしか、メモを取っていない。
「(なんか元気ないようにも見えるし…。ひょっとして、気分でも悪いのかナ?)」
「ディンス、今は話しかけないほうがいいですよ」
「ぇ…?」
「独りで考えたいことでもあるんでしょう…」
「うーん、分かったヨ」
 気になりつつもトゥーラに止められ、声をかけるのをやめる。



「(ん〜…前回の実戦での手応えは今一だったわ)」
 月夜はホームセンターで行った実戦を思い出しつつ、どこがいけなかったのか、ノートに書いてみる。
 結果的に祓えても、あれは失敗。
 自分たちが怪我をして対処が遅れると、被害が拡大することにも繋がる。
「今まで撮った映像があるんだが、これを見て何か駄目な所があるか?」
 刀真は編集した映像データを、エリザベートに渡した。
「ちょーっと長いので…、早まわしで見ますねぇ〜」
 校長は受け取ったデータをミニパソで確認する。
「ぅうーん、いろいろあるんですけどぉ〜。特に気になったところだけ言いますぅ〜。1回目の授業の実技で、裁きの章を使ってもらってから哀切の章を使ってもらったんですけどぉ。これは祓う術の力を、通りやすくするためなんですぅ〜…。あのー…2回目と3回目の授業では、どうしてほとんど同時に使っているんですかぁ〜?これじゃ、祓うのに時間がかかりますぅ〜!」
 効力のことを考えると、月夜と玉藻がやったように、仲良く一緒に…というのはいけないらしく、映像を見せた刀真が教壇の傍で叱られる。
「刀真、大丈夫…?」
 打ちのめされるほどではないが、幼い校長の注意を聞いてきた刀真は、どんよりと沈んでいる。
「ぁ…あぁ、なんとかな…」
「前回の実戦から学んだことと言えば“裁きの章”から“哀切の章”への連携が上手くいかず、月夜の術の威力が十分ではなかったことだな」
 パートナーが言われていた様子を見ていた玉藻は、それが上手く祓えなかった理由だったのか…というふうに言う。
「このタイミングなどを授業で学べば、次はもう少し上手く立ち回れるだろう…何だ月夜?そんな嬉しそうな顔で見るな。別にやる気になったわけではなくて、気づいたことを言っただけだ」
「ありがとう、玉ちゃん。にゃ〜っ」
 玉藻も一生懸命に考えてくれているのだとわかり、月夜は彼女にムギュッと抱きつく。
「だから、抱き付くな、甘えるな…仕方が無いな」
 やれやれ…とため息をつきつつ、頭を撫でてやる。
「(へぇー、玉藻もちゃんと考えてくれるようになったんだな)」
「なっ何だ刀真?頭を撫でるな」
 口調は怒っているが、撫でられた嬉しさと照れているのを隠している。
「刀真!玉ちゃんだけズルイ!私も撫でて」
「…いや月夜、ズルイって怒るな」
 私だけ撫でてくれないの!?と頬を膨らませる彼女の頭も撫でる。
「あまり騒ぐなよ大きな声で騒ぐとさ…」
 ビスッ!!とチョークが彼の額にヒットする。
「…こうなるんだ」
 どうして俺だけ…と言いたかったが、文句を言ったらもう1本飛んでくるだろう。
「ただの雑談になってしまったから話を戻すか…。我が“裁きの章”で相手の魔法防御力を落とし、その後に月夜が“哀切の章”で決める…この手順は間違っていないと思う。あとは息を上手く合わせられるか?だな、これは実践練習をするしかない」
「玉藻、他の人と組むことも考えないとな。サポートしてもらいっぱなしになるとさ…」
「それか…うーむ」
「(そこ、考えるところか!?)」
 机に肘をついで考え込む玉藻の姿に、誰かと組んでも大丈夫だろうか…と不安になってしまう。



「もう、質問とかはないかな?じゃあ、いろいろと…説明していくね」
「グレムリンのような、下級の魔性以外にもいるんですけどぉ〜…。主に、闇黒属性の者がいますが〜。腐敗毒の攻撃をしてくてくる者もいますぅ〜。闇黒・腐の属性と思うと、分かりやすいと思いますぅ〜」
 脚立の上にのぼったエリザベートは、説明しながら黒板に書く。
「呪いをかけてくる者は、闇黒・氷…闇黒・火などだったりしますぅ〜」
「これらの者は、皆のスペルブックに記されている章で、祓ったりすることが可能だね」
「だからこそ体力を低下させて、説得するための状況をつくるのですぅ!!人に嫌がらせして楽しむ困った子もいますからねぇ〜…。元気すぎるうちは、お話すら聞いてくれません〜。知恵者は、本使いから狙ってくることもありますからぁ。くれぐれも、単独行動はしないでくださいねぇ〜」
「はい♪サポート側が困っちゃいますからね」
 こくこくと頷きながら、明日香は熱心に話しを聞いている。
「腐敗毒で心を腐らせて、人格を変えちゃう怖い毒もあるんですぅ〜…。呪いにかかると、魔道具も使えない状況になることもありますぅ。治療してもらえば、元通りに戻りますけどねぇ〜」
「もし、オイラが腐ったら…」
「その言い方だと、身体的なほうの意味でしか聞こえないな。人格が変ったクマラか…。うーん、全世界のお菓子は自分の物…とか言いそうだな」
「酷いよ、そんないやしくない…はずにゃん」
 からかうように言うエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の言葉に、クマラが怒ってみせるが、だんだんと自信なさそうに言葉を小さくする。