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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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第11章 4時間目・自習

「スオウさんは自主練習するんですか?」
 誰かを探しているように、教室内を見回すレイカの姿を見つける。
「いえ、このまま帰るのももったいないですから。どこかに話相手になってくれそうな人がいないか、探していたんですけど…」
「前回の実戦では、ありがとうございました…。スオウさんにご一緒いただけて、とても頼もしかったです」
 ほわりと微笑み、ぺこりと一礼してお礼を言う。
「そ、そんな…っ。お礼を言うのは私のほうですよ…椿ちゃん。私一人の力では助けることはできませんでしたから…」
「またご一緒出来るといいですね」
「はい、その時は…お願いしますね。そういえば…、先生方が強化合宿の計画をしているんでしたよね?」
「えぇ、そうみたいです」
 どこへ行くのだろうか…と首を傾げて考える。
「ただの遊びではないでしょうから…。また実戦を行うのかもしれませんね」
「これからもっと、戦いが厳しくなってくるでしょうし…。…涼介さんたちは自主練習をしているみたいですね」
 どんな練習をしているのだろうと気になり、涼介とミリィのところへ行ってみる。
「―…ミリィさん、アークソウルの使い方を練習しているんですか?」
「え?はい、お父様に教えてもらいながら学んでいるところですわ」
「レイカさんが行使した守りの力も、身につけてもらいたいが。一度に、いろいろ覚えさせるのは大変だからな。まずは、不可視の魔性や霊を探知するところから初めてもらっている」
 ミリィの方に視線を戻すと、彼女は校長が放った者を相手に、練習している、
 悪さをしなくなった者たちを置いていってくれたため無害だ。
「使い始めた頃は、かなり近くにいる者しかわからないようだから。歩きながら探してごらん、ミリィ」
「…宝石が光ましたわ」
 テーブルの下や椅子の後ろ側を調べてみると、ペンダントの中の宝石が淡く光輝いた。
「ミリィの近くにいるということだな。今度は私たちに使ってごらん」
「光の反応が消えてしまいましたわ…」
「地球人は探知しないから反応しないんだ。で…、私たち地球人以外に魔性などが憑いていたら反応がない」
「憑かれた相手を探し当てるには、そのほうが便利かもしれませんわ」
 大勢の中から見つけなければいけない場合でも、反応のない者を発見すればよいのだ。
「探している時も、精神力を消費するから気をつけるんだ」
「分かりましたわ、お父様」
「猛毒や石化の抵抗力を得ることが出来るが。腐敗毒に対してあるとは言っていなかったから。今のところこの宝石に、そこまでの能力はないのだろうな」
「そういう力を持つ者に、接近してはいけない…ということです?」
「私たちの役割は、他の者のサポートをすることだ。なるべくかからないようにする必要があるから、必要以上の接近はあまり好ましくはないな。治療を行う者が倒れるわけにはいかない」
「なるほど…勉強になります」
 涼介の言葉に頷きながら覚える。
「向こうは何か、話し合っているみたいですね…」
 レイカがローズの方を見ると、学人の希望で前回の実戦についての反省や行動を思い出しながら、ノートに書いている。
「パートナーと2人で治療を行っている人もいたし。1人でやるのが厳しかったら、それもありかも…」
「僕は前回、ロゼに助けてもらいっぱなしだったね。エアロソウルで回復してもらいながらでも、章の効力を長く維持するのは難しいよ」
 助力してもらいつつ術を行使しても、精神力の消耗が激しいのだ。
「私がホーリーソウルも使ったら、そういうサポートはきついね。強化した方には、多少回復力はあるけど。自己回復に使ったほうがよさそうだよ」
「ハイリヒトゥームフォルトが使えなくなるのも、やっぱり問題かな…」
「成功させたメンバーで固定だからね。現場で術を教えるのは、時間的にも厳しいし。ころころ人を変えると術の効力が、あがりにくそうだよ」
「それとメンバー内で扱う魔道具を変えるのはいいけど、効力に該当しないものは不発からだからね。そこは、事前に相談しないといけないね。僕は、アークソウルのほうがいい?」
「うん、そのほうがいいかも。私はホーリーソウルについて、理解を深めたいけど。実戦の時は、エアロソウルも持って行こうかな」
 癒しの宝石の訓練をしつつ、5人で完成させた術を使うために、他の宝石も持ってきたほうがよいかと考える。
「九条、アニスに宝石のこと教えてくれないか?」
「いいよ。何の宝石を持っているのかな?」
「強化したホーリーソウルと、アークソウルだよ」
 ペンダントに入れている宝石をアニスがローズに見せる。
「どっちも祈りの詠唱が必要なんだけど。白いのは癒しの気をペンダントから放出させて、治療したい対処に送り込む操作をするんだよ」
「操作…?」
「簡単に言えばイメージだね。そこまでは自然に身につくもので、難しい治療は使い慣れないと時間がかかったりとかするね。強化したほうなら、呪いを解除したり精神力を少し回復することも可能かな。アークソウルは、探知から覚えたほうがいいよ。精神力の消耗のことを考えると、使い始めたばかりなら、それくらいからスタートしたほうがいいね」
「アニス、理解出来たか?」
「んー?なんとなく!」
「和輝。一応…私がノートに書いておいた」
 うっかり忘れることもあるだろうと思い、リオンが和輝に言う。
「そうか、ありがとうリオン」
「他に聞きたいことはある?」
「いや、とりあえずそれくらいでいい。ありがとう、九条」
 ローズに礼を言い、和輝はアニスたちを連れて、自習の訓練に付き合ってくれそうな相手を探す。



 それぞれ雑談や自主練を行っている中、グラルダは独りきりでずっと顔を顰めている。
 他者の助けも力も不要、寧ろ邪魔だと思っていた。
 アタシが“強く”なる手段は、自分との戦いに打ち勝つこと。
 それを信じ、どこか間違っている…などと疑ったことなんてない。
 だが、現実はそう甘くない。
 彼女は、現実という世界を、その目で見てしまった。
 一人の限界と協力することの可能性。
 “私は…。本当は、心のどこかで理解していた…。
 他人の力に縋ることが、私を脆くする?
 ―…違う。”
 自分の脆さが他人によって、さらけ出されることが恐怖だった。
「そっか…そういうことか」
 小さな声音でそう言うと…。
 ふっ、と肩の力が抜けた。
 現実を直視して気付いてしまったのだから、もう偽ることは出来ない。
 弱さを隠す仮面などいらない。
 そんなもの、私にはもう不要だ。
「アタシは、一人じゃないんだ」
 いつの間にか眉間の皺が消え、グラルダは椅子から立ち上がると、変化のきっかけをくれた明日香を探す。
「…明日香」
 教室から出た明日香を呼び止める。
「何ですか?」
「この前は、ありがと」
 その言葉をまだ表情に表しづらいが、拙い謝辞を伝える。
「危ない時は、お互いに助け合うものですからね」
 にこっと微笑みかけると明日香は訓練場へ向かう。



「うーん、あまり魔性に痛いことはしたくないな」
 実技でのことを思い出しながら、酸の雨の術を行使しても、意識は穏やかに還せるような方法はないものかと考えてみる。
「何をそんなに悩んでいるの?」
「あ、グラルダさん。ナーシングや清浄化とか…、組み合わせられないかなって考えてるんだ」
「魔道具に、通常の術を…?」
「できればね」
「そういうことが可能なら、授業で教えてくれるんじゃないの?今まで可能だなんて聞いたことないから、おそらく無理ね。扱い方次第よ」
「扱い方次第…か。溶けるってことは、それなりに痛いはずだよな…」
 やはり無痛は厳しいのだろうか、と再び悩んでしまう。
「自然回復していくみたいだから。弱らせたままってことは、ほぼないと思うわ。…溶かすことイコール、激痛につながるわけとは限らない。それでも裁きの章で魔法防御を下げるなら、多少の痛みはあるんじゃないかしら?」
「多少か…」
 魔道具は通常の魔法と違い、上手くコントロール出来れば、そういうことも可能なのだろう。
「塩キャンディー食べる?夏は塩分も適度にとらないといけないよ。糖分と両方補給できる、すぐれものにゃん!」
 本を見ながらむしゃむしゃお菓子を食べているクマラが、グラルダに飴を差し出す。
「一つだけもらうわ」
「はいっ」
「こういうのも、悪くないわね」
「クマラ。食べてばかりだとグレムリンにそれ、全部あげるぞ」
「い、いやにゃん!オイラのだもんっ」
 食べるより先に学べ。
 じゃないと俺が回収する、という本気の目にクマラは背に菓子袋を隠した。



「(術の効力の持続は難しい…と言われましたが、いろいろ試してみましょう)」
 結和は哀切の章を唱え、まずは通常の手法である光の波を出現させる。
 優しい光で、暗闇を、よくないものを照らす。
 そっと明るいところへ導くよう、言葉を紡ぐ。
 “まずは壁のイメージ…。”
 球体の壁の中に自分が入るようにイメージしてみる。
「(―…3人スペースだと、もって40秒未満というところですね。私1人だと、1分未満…くらいでしょうか)」
 術を解除し、聖霊の力とSPリチャージで回復する。
「次は、盾のイメージを…」
 壁よりは消耗が少ないだろうか、と考える。
 光の盾に触れてみるが、通り抜けてしまった。
「―…これは部分的に守るものとして、作り出すものですねー」
 どれだけ持続出来るか試してみる。
「ふぅ…、1分ちょっとですか。…エメリヤン、こっちに来て」
 他の手段も試そうとパートナーを呼んだ。
「(私や特定の人を包む…、全身鎧のような感じはどうでしょう…)」
 全身を光で包み込んでみるが…。
「ぅ…、これは壁よりも厳しいわね」
 結和は小さく呻き、ぺたりと床に手をついた。
 それぞれのサイズに合わせた形状も維持しようとすると、数秒も効力を保てない。
「(もう、無茶するからだよ。少し休んで)」
「離して、エメリヤン。現場でなんて試せないから、学べるうちにやりたいのよ」
 椅子に座らせようと、自分の腕を掴むエメリヤンの手を払い除ける。
「(ま、まだやるの?)」
「当たり前よ」
 魔性を説得するために、効果を緩めて対象を囲む檻ようなイメージをし、術を円柱型に変化させる。
「―……っ!」
 聖霊の力やSPリチャージで回復しながら、なんとか練習を続けられていたが、それでも間に合わず床に倒れてしまう。
「1分…。今の私では、これが精一杯みたいですねー…」
 悔しげに言い、椅子を支えに立ち上がる。
 それを見ていたエメリヤンは、自分も何か出来ないか試す。
「(教室内に、校長が放しておいた魔性がいるんだったね…)」
 超感覚で感じ取ろうとするが、何も感じられない。
「訓練するなら付き合うゾ。ホラ、お前の傍の…、テーブルのとこダ」
 奈落の鉄鎖で縛ろうとしてみたが、何も手ごたえがない。
 エクソシストの技を使わず魔性を祓えないか、やってみるが利いている様子はない。
「あ?つかまってねーシ。なんだヨ、全然きかねーナ」
 他のスキルも魔性の身体を通り抜けている。
 それもそのはず、通常のスキルは通用しないのだから相手は無傷だ。
「無理よ、魔道具じゃなきゃ」
「(結和は優しいから、戦ってもどうせ、相手を傷つけたことで、結和の方が傷つくんだから…)」
「自分が傷つくことを恐れていたら、何も護れないの…」
「(僕じゃ…護れないのかな、ここじゃ)」
「…あのね、エメリヤンが私を護りたいと思ってくれてるように、私もあなたを護りたいのよ?」
 姉として、一人の人として、彼を護りたいのだと告げる。
 もしもエメリヤンが傷つき最悪の場合、失ってしまったとしたら、何の力もない無力な自分を責めるだろう。
 あの時、力があったらと思っても、悔しくて悲しくてどんなに泣き喚いて暴れても、失ったら二度と戻ってこない。
 自分の身に何かあったら、その思いを彼にもさせたくない。
 そのためにも護る力がほしい…。