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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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第12章 4時間目・自習

「相手が小さい生き物でも、弱いわけじゃないんだよな。いや、油断したわけじゃないけど…」
 前回の実技勉強は危な気だった…と天城 一輝(あまぎ・いっき)は反省点をメモ帳に書く。
「まさか小さなリスに取り憑いた魔性の攻撃が、あれ程の威力を持つとは思わなかった。ただのリスと侮っていたらヤバかったな……」
「練習に付き合ってくれそうな人…、どこかにいないかしら」
 コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は教室内を歩きながら、組んでくれそうな相手を探し歩く。
「あ、あの。私と組みませんか?」
「えぇ、お願いするわ」
「俺たちも参加させてもらえるかな」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)に続き、クリストファーたちも参加する。
「えぇと…前回の実践では哀切の章をメインで使ってみましたが、今回は自習にて裁きの章と…新しく入手致しました。この悔悟の章も扱えるようになってみたいと思います故。マスター、一生懸命頑張りますので今回も宜しくお願い致します」
「まー、フレイもやる気になってるし。俺もせっかくだから強化したホーリーソウルの力も試してみるとすっかな。この三種の宝石を上手く組み合わせて扱えるようになりゃ、いくらでも応用が利くようになるだろうし」
 癒しの宝石を使うのは相変わらずガラではない、と思いながらもベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は、知識欲とフレイのサポート役として協力する。
「新しい章って、スキルの習得は必要なの?」
「いえ…、悔悟の章はスペルブックさえ扱えれば、使えますよ」
「私も使えるのね」
 このスペルブックに記されている、哀切の章以外にもあるのと知ったコレットは、ノートにメモする。
「アニスとリオンも参加させてくれないか」
「うん、一緒にやろう」
「魔道具の練習ですかぁ?実は〜、もう一台…小型削岩機に憑いた者がいるんですぅ〜。それと呪いを使う者も、その辺にいますからぁ〜♪」
 校長がこんなこともあろうかと、準備してくれたようだ。
「では、頑張ってください〜♪」
 桃の冷たいスープを飲みながら練習の様子を見守る。
「(全く、知識を得るためとはいえ、随分と私も変わったものだ)」
 可愛い弟子のアニスのためでもあったが、他者と関わることに抵抗がなくなってきた。
「アニス、魔性の探知を頼む」
「わ、分かった…」
 リオンの後ろに隠れながら一生懸命、魔性を探している。
「気を落ち着かせろ、アニス。恐れていては、効力に影響が出てしまうぞ」
「…分かってる」
「俺は訓練の様子でも見ているか…」
「え、やだ。和輝も一緒にいてくれなきゃいやだよ」
 行かないで!と彼の服にしがみついた。
「困ったな…。呪いにでもかかったら、アニスが泣き出しそうだ…」
「俺のクローリスなら、かかりにくくすることができるけど」
「それじゃ、リオン。クリストファーの補助も頼む」
「む…、分かった」
 もう一体の魔性に襲われないように、裁きの章でガードする。
「退けよ、風穴空けてーだけなんだヨ!」
「ふざけるな、遊びで空けてよいわけがない。通さぬぞ。(使い魔の召喚は、まだかかりそうか。…む?和輝はどこにいった…?)」
 アニスの傍にいたはずの和輝の姿が見当たらない。
「おい、リオン」
「和輝か?どこにいる…」
「ここだ…、足元だ」
「なっ!?」
 足元を見ると和輝はいつの間にか、スズメにされている。
「わ、和輝…」
「(あぁ…、アニスが泣いてしまうかもしれない…)」
「可愛いっ」
「そういう場合じゃないぞ、アニス。それは呪いなのだからな」
 のん気に撫で撫でしている弟子をリオンが注意する。
「早く解除しなれば、会話が不能になりますよぉ〜。解除すれば、戻りますけどねぇ〜」
 美味しそうにスープを飲みながらエリザベートが言う。
「むー…。和輝…後で治してあげるから、アニスの肩に乗っててね」
「あれが呪いなのか…」
 かかったら場合によっては、いろいろ大事なものを失ってしまいそうな気がする。
 コレットの前で変身させられたら嫌だな…と一輝が思っていると…。
「そこの地球人。さえずってみなヨ」
「は?うわっ!?」
 呪いのビームをくらい、一瞬でスズメの姿にされてしまった。
「いやーーー、一輝が変身させられたわ!!」
「マ、マスター。この近くに魔性がいるんですかっ」
「宝石に反応があるな…。服や装備ごと消えたようになって、変身させられるのか。最悪だ…。フレイ、俺から離れるなよ」
「は…はい、マスター」
「犠牲者が2人も出てしまったか…」
 焦る気を抑えながらリオンが、クリストファーの方を見とようやく召喚を終えたようだ。
「君の香りで、呪いにかかりにくくしてほしいんだ」
「えー。どーしよーかなー」
「どうしても君の助けが必要なんだ、頼むよ」
「し、しかたないわねっ」
 クローリスは虚空に小さなつぼみを出現させ、パチンッと指を鳴らした。
 つぼみが弾け、ピンクと白の小さな粉粒のようなものが徐々に、室内に広がっていく。
「そんな香り、まかないでヨ!」
 しかし呪いを使う魔性にとっては、邪魔なものでしかなく、不機嫌そうに喚く。
「ふぅーん。そんなのうちの勝手だし」
 花の使い魔はツンとした態度を取る。
「ぶ、ぶぶぶぶち抜くゥウウ」
「なぜ貴様が怒るっ?」
 リオンはアニスの手を掴み、ベルクたちのほうへ走る。
「わぁあ、怖いよリオン!」
「クローリスさん、香りで皆の気を落ち着かせて」
「わかったのらぁー」
 クリスティーに召喚された使い魔は、可愛らしいダンスを踊り、香りをまく。
「気分は落ち着いたか、アニス」
「うん…。なんだかいい香りがするね?」
「使い魔の香りだそうだ」
「そうなんだ…。あ……。ぁの、…アニスも不可視の魔性を探すね…」
 コレットと目が合ったアニスは、リオンの後ろに隠れて小さな声で言う。
「頑張ってね」
「宝石が光った…。リオン、一列目の席のところに行ってみて」
「うむ」
「たぶん、ここにいると思う」
「ほう…。アニスが見つけたぞ」
「そこね!」
 コレットが哀切の章を唱え、光の波を放つ。
「当てられないヨ!」
 魔性は隠れていた場所から逃げ出し、ケラケラ笑う。
「丸見えだ。いけ、フレイ」
「はい…、マスター」
 ベルクの視線の先に合わせ、悔悟の章を唱える。
 灰色の重力場が魔性を捕らえ落下させる。
「ずいぶんとちびっこくなったな」
「き、貴様。見えるのかァアア」
「いたずらした罰です」
 反省する様子を見せない相手に、フレンディスは哀切の章の力で仕置きをする。
「うぎゅー、降参…」
「後、一体ですね、マスター」
「あれの相手をすんのか…」
「あの、マスター。スズメにされた方の治療をお願いします」
「分かった」
「にあってんだから、そのままでいればぁあァア?」
「これより先は通せません」
 ドリルを激しく回転させ迫る魔性に、赤紫色の雨を放つ。
 相手は舌打ちをし、かわした。
 フレンディスが時間稼ぎをしてくれている間に、ベルクが一輝の治療を行う。
 彼の身体から鳥形の獣の影が抜け出し、変身の呪いが解除された一輝は元の姿に戻った。
「すまない…」
「相手の位置がわかんなきゃ、かわしようがないからな。気にするな」
「マスター、魔性が接近してきますっ」
「フレイ、結構消耗しているだろ?回復してやる」
「あ、ありがとうございます」
 風の魔力を宿した宝石の効力で、精神力を回復してもらう。
「暑そうだなぁァア?風通しよくしてやるゥウ」
 ターゲットを変更した魔性は、コレットの祓魔の光を避けながら、壁際に追い詰める。
「いや、こっちに来ないで!」
「…ちっ。大人しくチュンチュンさえずってりゃいいのにィイ」
 一輝がバーストダッシュで敵とコレットの間に割って入る。
 両手で構えた龍鱗の盾でドリルを防ぐ。
「私に背を向けたな」
 2人に注意が向いている隙を狙ったリオンが赤紫色の雨を降らせる。
 避ける間もなく浴びせられた魔性がゴトンと床に落ち、自己回復する前に祓ってしまおうとコレットは哀切の章を唱えた。
「お、器から出てきたみたいだな」
「悪いこともうしない?」
「ぅ、うン」
 力なく言うと魔性は教室から去った。
「アニス、和輝の治療をしてやらねばな」
「…はぅわ、そうだった。今、元の姿に戻してあげるからね」
 肩に乗せた和輝をテーブルの上に乗せると…。
 “チュン”と鳴いた。
 どうやら会話不能な状態になってしまったらしい。
「(なんとも哀れな…)」
「待っててね。ちゃーんと、治してあげるよ」
「撫でてないで、早く治療してやれ。(治す気は…あるはずだが)」
 まさか“飼う”なんて言い出さないだろうかと不安になる。
「わ…分かってるよ」
 ペンダントに入れた宝石に祈りを込め、アニスは呪いを解除する。
「わっ、なんか影みたいなのが出てきたよ!」
「蝕んでいた呪いが抜け出たのだろう」
「やっと元に戻れたか。…ありがとう、アニス」
「にひひっ」
「(はー…。学び舎で呪いにかかった第一号が、和輝だとはな…)」
 訓練を兼ねた実技とはいえ、実戦では戦闘を行う前に、召喚は先に行ってもらったほうがよいか…と考える。



「ほう、魔道具の連携か…。魔性祓いは哀切の章で行うのじゃな」
 もう少し学んでいこうとアルマンデルは実技を観察する。
「レイナもちゃんと見ていたかの?」
「ぇー…何をですか?」
 フンッと不機嫌そうな態度で言う。
「また現れたのか…」
「悪いですか…?今まで大人しくしてやっていたんですから。感謝されても……、文句言われる筋合いはありません」
「ならばこの時間が終わるまで、レイナの心を開放してやってくれないかの?」
「―…断ったら、…どうします?フッ…、フフフ…。……どうにもできませんよね…?この…、古本が…。古本の分際で……、この私に…偉そうに発言するな」
 レイナ本人と思えない低い声音で言い、今すぐ処分してやろうかという態度で睨みつける。
「頼む…。レイナは真面目に学びたがっているのじゃ」
「この娘が扱えると……、本気で思っているのですか…?学んでも不発ですよ…。―…私を生み出すような、こんな汚らわしい者には不向きです……」
「おぬし、まさか…。また聞かせているのではないな?」
 前の授業のようにわざと話しているのか、とアルマンデルが言う。
「えぇ…、そうですけど……。それがなにか…?」
 それが真実なのだから仕方ないという態度で言い放つ。
「未練を残さないように…、これを刻んでやりましょう…」
 カッターを手にし、レイナのノートに突き立てようとする。
「や、やめるのじゃ!」
 一生懸命に学んでいる彼女のノートを台無しにされるものかと、アルマンデルがその上に覆いかぶさる。
「退かないと…刺しますよ…?」
「これを傷つけてはならぬ」
「…そう……ですか。…じゃあ、…さっさと死ね」
 ガスッ。
 ぱらりとアルマンデルの紙が数本、テーブルの上に落ちた。
「―……?」
「気が変りました…」
 何も書かれていない部分に刺したカッターを抜く。
「…じっくり、…じっくりと追い詰めて……、精神を切り刻んでから…、焼却してさしあげましょう……。そうすれば…自分が表だと、偉そうにしている者も破壊しやすくなりそうですし……フフフッ」
 カッターの刃をアルマンデルの頬に当てながら、下卑た笑いを漏らした。
「私の邪魔をした罰として…、本日の授業が終わるまで…。このままでいてあげますね……?フフッ…」
 機嫌を損ねた裏の者は自習時間中、内側で泣き喚くレイナに返してやらなかった。