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第一幕:夜の見回り 〜久瀬 稲荷の受難〜

「今日は忙しいなか集まってくれてありがとうございます」
 宿直室。集まった面々に視線を巡らしてから久瀬が礼を述べた。
 その隣、満面の笑みを浮かべるルーノの姿がある。
「巡回ルートについてですが……」
 久瀬が巡回の進行について説明している間、ルーノは落ち着きなく色々な仕草を見せた。すぐにでも校内を見て回りたいのだろう。チラチラと出入り口に視線を送っている。
「――というわけで私と一緒に……」
 続く言葉はルーノの声にかき消された。
「よし! いくぞ野郎ども!! 私につづけ〜っ!」
 言うや否や、宿直室から飛び出していくルーノ。
そのあとに続いて部屋を出ていく面々。
 呆然と様子を眺めていた久瀬に声をかける者がいた。
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の二人だ。どちらも露出面積の高い、夏の海にいる方が自然な恰好である。
「幽霊なんていやしないわよ。あたしとセレアナが正体突き止めてあげるから安心しなさい」
「別の意味で安心できなさそうですが……校内を荒らさないよう気をつけてくださいよ。弁償するの私なんですからね」
 彼女のいつもと変わらぬ調子に久瀬はため息を吐く。
 久瀬の不安をぬぐうようにセレアナが落ち着いた様子で言った。
「私がついてるから大丈夫よ。二つ名で呼ばれないように見張っているわ」
 セレンフィリティの二つ名。いい加減で大雑把な彼女の気質とそこから生じた被害からついた呼び名、壊し屋セレンのことだ。
「ルーノクンが暴走しないようにお願いしますね」
「もうしてる気がするけど善処するわ」



「見回りに行く前に夜食を作っておきますか」
「それなら私に手伝わせてくださいませ」
 台所に向かう久瀬に声をかけたのはクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)だ。彼女の背後、サイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)が皆にお茶を振舞っている。
「ではサンドイッチをお願いしますね。私はスープを作りますから」
「わかりました。これを作り終えたら巡回なのでしょうか?」
「……ええ、そうなりますね」
「私もご一緒してよろしいでしょうか。その勇気の出るおまじないとして夜の学校を一周したいのですけれど、一人では怖いのです」
「私としては願ったりですが、サイアスクンと行くという案もあるのでは?」
「サイアスには内緒で頑張りたいの。いつも頼ってばかりだから」
「私の責任重大ですね。サイアスクンに怒られるのも恐いですし、他の方々にも協力してもらいましょうか」
 久瀬は一通り用意を終えると皆に巡回について来るようお願いした。
「俺が警護としてついて行こう。皆もそれでよいだろう?」
 最初に同行の意を表したのは龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)だ。
 身体つきから女性であることはわかるが、その立ち振る舞いや言動はどこか男らしさを感じさせる。近くには彼女のパートナーらしき人物が数名いた。
 龍滅鬼とは対照的に、一見すると男なのだが後ろ姿がやけに女性的な者や仮面で素顔を隠している者たちだ。前者は陳宮 公台(ちんきゅう・こうだい)、後者はアドハム・バスィーム(あどはむ・ばすぃーむ)だ。そして陳宮の頭の上に鎮座する喋るハムスター、キャロ・スウェット(きゃろ・すうぇっと)の姿がある。
「廉殿が行くと言うならばついて行きましょう」
「ソウデスネ。フフ……ナニガオコルカタノシミデス」
「ボクも行くのー」
 三者三様の姿だが答えは一つであった。
 彼らに続いて高崎 朋美(たかさき・ともみ)高崎 トメ(たかさき・とめ)が賛同した。
「ボクたちもついて行くよ」
「あんたらだけじゃ心配やからなあ」
 かんらかんらと笑いながら言うトメの隣、朋美は周囲を見回して続けた。
「クウたちの姿が見えないけど……何か嫌な予感がしますね」
「その予感は外れて欲しいなあ」
 久瀬は言うと支度を整える。
「サイアスクンはついてこないのかい?」
 出かけようとするがその場を離れないサイアスに久瀬が声をかけた。
「私は夜食の準備をして待っているよ」
「そうですか。では後を頼みます」
「ああ、無理はしないようにな」
 彼に見送られながら久瀬たちは宿直室を後にした。