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リアクション
第7章
「ところで、何でずっとひっついてるんだ――ライカ?」
と、ブレイズは呟く。見ると、確かに魔鎧を解除した後もライカ・フィーニスはブレイズに抱きついたままだった。
「うん、なんか誰かに抱きつきたくって」
すると、ダイエット移動術パーティを引率していた鳴神 裁――正確には、裁に憑依している奈落人、物部 九十九がやってきて抗議した。
「あー! 何抱きついてるのさ!! ボクだってブレイズのお腹が気持ちよさそうだって思ってたんだからっ!!」
ライカの反対側からブレイズに抱きつく九十九。
「うーん、おでぶなブレイズもこれはこれでかわいいなー♪」
そのふにふに具合を堪能する九十九。
「お、なんじゃブレイズ。モテモテじゃのう」
カメリアはその状態を見てからかうように笑った。
「モテモテ……なのか、これは?」
どちらかというと、着ぐるみショーのぬいぐるみに近い気もするが、とブレイズは呟いた。
「ホレいいか!! がんばってる奴にはああいうご褒美があるんや!! せやからお前もがんばれ!!」
瀬山 裕輝はパートナーの扶桑の木付近の橋の精 一条をたきつける。しかし、具体的に何をどうがんばったらいいか分からない一条だ。
「よ、ようし!! それならもっと激しく運動を頑張るぜ!! まずは痩せないとな!!」
「よう言った!! そんならオレも協力したるでえええぇぇえ!!」
唐突にデブった一条を持ち上げた裕輝。確かに元々重いほうではない一条だが、ヨーグルトと春の嵐の影響で太った今の体重を持ち上げるのは容易ではない。
「いっけえええぇぇぇ!!!」
しかしながらさすがのコントラクターである。裕輝は一条の体重もものともせずに放り投た。
「どおりゃあああぁぁぁ!?」
これがいったいダイエットにどのような効果があるのか、と一条が気付いたのは後のことである。
「――危ねぇ!!」
突然飛んできた一条から、九十九とライカを庇うように前に出たブレイズ。
「ぐおおおぉぉぉっ!?」
「ブレイズっ!?」
「ブレイズさん、大丈夫っ!?」
互いにデブったもの同士である一条とブレイズは衝突の衝撃を互いの身体に吸収し、柔軟な肉体はそれぞれその威力を正反対に弾き飛ばした。
つまり、一条とブレイズは反発し合うように逆方向に勢いよく吹っ飛んでしまったのだ。
「うわあああぁぁぁっ!?」
こうして、一条は星になった。
「うおおおぉぉぉっ!!」
事のついでに、ブレイズも星になった。
☆
一方、カメリアと普段行動を共にしている狐の獣人 カガミはというと。
「うーん、これからどうしたもんでしょうか……。あ、なんとかフトリさんと連絡が取れそうですね」
太りながら途方に暮れていたが、何とか重い身体を動かしていた。
「カガミ!! 大丈夫デブか!?」
カメリアがダイエット移動術のメンバーに持っていかれたため、フトリは独自に事態を何とかしようと動いていた。
「ええまぁ……しかし、具体的には大したお手伝いはできそうにありませんね……」
実のところ決め手は何もない。せいぜい、対処方法としてヨーグルトに含まれている菌の作用を軽減できないかと、在庫のヨーグルトを何とか応用できないかと思っていたところだ。
まずは先駆けてカガミ合流したところなのだが、よく考えてみたらカガミ自身もヨーグルトの影響を受けて満足には動けない、というのが現状だった。
「……カガミさん、あの、大丈夫?」
そんなカガミの移動を補助しているのが、ミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)である。
「ええ、なんとか。すみませんねミシェルさん、せっかくのお休みを……」
「う、ううんっ!! ボクもカガミさんたちと遊びたかったし!!」
そもそも、カガミがカメリアたちと別行動をしていたのは、ミシェルとそのパートナーの矢野 佑一(やの・ゆういち)と共にツァンダの街で遊ぶためだったのだ。
「いやぁ、それにしてもフトリさんのヨーグルト、ミシェルさんが食べる前で良かったですね、佑一さん」
「そうだねぇ……困ったことになってしまうところでしたよ……あ、でも子供がころころしてるのって、可愛いかもしれませんよね。
ほら、カガミさんちのお子さんみたいに」
佑一は、何人か連れてきたカガミの子供の面倒を見ている。
何しろ、ころころと太ってしまったにもかかわらず面白がって動きたがるものだから、なかなか大変なのだ。
「もう、ボクそんなに子供じゃないよぅ、佑一さん」
むくれるミシェル。確かに大人な外見ではないミシェルだが、さすがに2〜3歳の子供と比べられてはたまらない。
「ふふふ……ありがとうございます、お二人とも……。とはいえ、こちらは動きようがありません、フトリさん」
カガミの言葉に頷くフトリ。
「……分かったデブ。こちらは何とかしてスプリングに接触するデブ」
フトリは一人、いつものようにぽよんぽよんと跳ねていく。それを見送ったカガミとミシェル、そして佑一は周囲を見渡す。
「まぁ、特別危険なことになっているわけではないですから……とりあえず危なくないように大人しくしていましょう。
……それにしてもお久しぶりですねミシェルさん、お元気でしたか?」
カガミはこの騒動でロクに会話もできていなかったことに気付いて、ミシェルに微笑んだ。
「う、うん……最後に会ったのはパーティの時だよね……元気だった、よ?」
「そうですか。あれから、お二人はどうしていたんですか?」
「う、うん……あのね……」
ミシェルは真っ赤になってうつむいてしまった。
ヨーグルトは食べていなかったので、ミシェルは太ってしまっているわけではないが、やはり春の嵐による精神への影響があるのか、なんだかとても恥ずかしそうにモジモジしている。
実は、今日カガミと会う約束をしていたミシェルは、佑一との仲が恋人として前進したことを報告しようと思っていたのだが、なかなかそれができずにいたのだ。
カガミに報告するにしても、佑一のいる前では言いにくい。
「うん……あのね、カガミさん……ボクね……」
ちらりと、佑一に視線を送るミシェル。
「……」
佑一は無言で、ミシェルの頭をぽんぽんと撫でてやった。
「えっとね……カガミさん……ちょっと耳貸して……あのね、ボク……佑一さんに自分のことを話したんだ……そしたら……」
ミシェルはカガミの耳元に口を寄せて、事のいきさつを説明した。
佑一はというと、ミシェルが恥ずかしそうにしているのは分かっていたので、あえて子供達の相手をして聞かないフリをしている。
「わぁ……それは素敵ですね……おめでとうございます、ミシェルさん……よかった、ですね」
顛末を聞いたカガミはミシェルに素直に喜びの感情を示した。
「う、うん……そうなんだ……えへへ……」
ミシェルはようやくカガミに報告できたことを喜び、しかしやはり佑一との出来事を話したのが恥ずかしかったのか、真っ赤になってしまうのだった。
☆
「嫌あああぁぁぁっ!?」
上空から女性の叫び声がする、とフトリは思った。
「デブぅっ!?」
と思ったのもつかの間、上空かた飛空艇が落ちてきた。
そこに乗っていたのは、レイリア・ゼノン(ぜのん・れいりあ)とエクレイル・ブリュンヒルデ(えくれいる・ぶりゅんひるで)の二人。
飛空艇で住処のあるイルミンスールに帰ろうとしたら、突然体重が増加したため、飛空艇がその重さに耐え切れなかったのである。
何しろ、ヨーグルトと春の嵐の効果で増加した二人の体重を合わせると、約1400kgもあるのだ。普通の人間にしてみれば、約20人分以上。
「な、何これぇ!? と、止まってえええぇぇぇ!」
エクレイルの叫びも空しく、身体はブクブクと太っていく。
レイリアの様子もまた同様で、もとよりの爆乳もすっかり脂肪の塊の中に埋没してしまっている。
「だ、大丈夫デブか!? 怪我はないデブっ!?」
とりあえず怪我の心配はなさそうだ。
なぜかというと、落下した衝撃は太った脂肪が吸収してしまったからである。
「いーやあああぁぁぁ、誰か私を元に戻してぇ!!」
自分の置かれている状況を理解して、レイリアは叫び声をあげた。
しかし、あまりに太った身体にほぼ手足が埋没してしまっているため、なかなか起き上がることはできない。
「ううう……何でこんなことにぃ……」
泣きじゃくるエクレイル。フトリはその様子を見て状況を説明した。
「す、すまないデブ、実はヨーグルトのせいで今、街は大変なことになっているのデブ」
状況を把握したレイリアであるが、それで納得がいくわけではない。
「ヨ、ヨーグルトですって!? 冗談じゃないわ、こんな身体じゃもう……。
もうこうなったらヤケよ!! 残ったヨーグルトもよこしなさい!!
食べて食べて食べまくって、限界まで太ってやるんだからーっ!!!」
フトリが止めるより、レイリアが荷物を奪い取るほうが早かった。
「あ、やめるデブ!! 事態が解決すれば元に戻れるデブーっ!!」
だが、フトリの言葉はもはやレイリアの耳には届かない。
奪い取ったヨーグルトを一口食べるたび、レイリアの身体は丸みを帯びていく。
その様子を見守っているエクレイルの目にもまた、怪しい光が灯り始めていた。
「ああ……醜い姿のはずなのに……レイリアの身体がとても魅力的に見えるのは何故……?
この手触り……柔らかさ……ずっとプニプにしていたい……」
春の嵐の悪影響で、エクレイルは増え続けるレイリアの脂肪に何らかの愛情を感じ始めてしまったのだ。
「まだよ……まだ足りないわ……もっとよ、もっと……」
もはや以前の美貌もナイスバディも見る影はない。レイリアは一見すると完全な球体かというくらいに太り続け、その肉の中にすっぽりと埋まってしまって恍惚とするエクレイル、という地獄のような光景が完成してしまった。
「え、えらいことになったデブ……早くなんとかしないと……」
☆
「そこのあなた……私と一緒にダイエット界の星を目指しませんかっ!?」
どうにかスプリングを追って事態を解決しようと街を走っていた四葉 恋歌は突然声を掛けられて驚いた。
声を掛けたのは茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)である。
「あ、あなたは……太っているけど、アイドルユニットの人ですよねっ!! えーと、『ツンデレーション』のうちのひとり!!」
「そ、そうなの!! 良かった、気付いてもらえなかったらどうしようかと……!!
さすが熱い真夏のセブンティーン!! 情報チェックもバッチリねっ!!」
衿栖はひとまず胸を撫で下ろした。
何しろ今の衿栖の体重は通常の5倍、数値にすると215kgである。ここしばらくのアイドル活動のために日頃からプロポーション維持には気を使っていた衿栖だけに、太ってしまった時のショックは大きかった。
そして、更にそこに追い討ちをかけたのがパートナーである茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)が新しく取ってきた仕事である。
「ほらコレ!! PHC(パラミタホールディングコーポレーション)のダイエット食品のCMだよっ!!
今の衿栖にピッタリ!! あとは痩せるだけっ!!」
鬼ですか朱里さん。
「これは試練、これからのアイドル活動を乗り越えられるかどうかの試練なんです……!!」
「そ、そうなんですか……。あ、四葉 恋歌です、よろしく……」
衿栖と握手を交わす恋歌。
「よろしくね、恋歌っ!!」
流れのままで握手を交わす恋歌。
「よろしくお願いします……蒼空学園の3年生になりました――18歳です」
そこにやって来たのが衿栖のもう一人のパートナー、蘭堂 希鈴(らんどう・きりん)である。
「大丈夫ですよ皆さん……少し太ったくらいで貴方がたの魅力が損なわれるわけではありません……!!
まずは自分と向き合うことが大事なのです!! さぁ、これを!!」
「こ、これは!!」
驚きの声を上げる恋歌と衿栖。希鈴が用意したのは一枚の鏡だったのである。
「さ、さっきまで太っていたハズだったのに、元に戻ってる!?」
「す、すごい!! いったいこれはどんな魔法なの!?」
「いや、ただ内側に曲がった鏡でしょコレ」
冷静な朱里の突っ込みに我に返る衿栖と恋歌。なるほど、鏡から視線を外して互いの姿を見ると太ったままではないか。
「何の意味があるんですかーっ!!」
「ぜんぜん自分と向き合ってなーいっ!!」
衿栖と恋歌が怒りのあまり、希鈴にダブルでパンチを放つ。
「あーーーれーーーっ!?」
ヨーグルトの力で太った二人のパンチの威力はすさまじく、そのまま空高く吹っ飛ばされれいく希鈴。
こうして、希鈴は星になった。
「……まったく、希鈴ったら……恋歌もなかなかやりますね」
衿栖の呟きに、恋歌はちょっとだけ照れくさそうに笑った。
「いやぁ、あたしもコントラクターの端くれだから……」
その恋歌に、朱里も親しげに声をかけた。
「へぇ、そういえばそうだよね……パートナー、いるんだ?」
「うん……いるよ」
ぐっと、胸の辺りで何かを握り締めた恋歌。
その表情に、あえて明るい声を掛けなおす衿栖。
「まぁ、それはそれとしてですねっ!! 改めて自分を見つめなおすためにもどうでしょうか、私と組んでCMに出てはくれませんかっ!?」
だが、恋歌は残念そうに首を横に振った。
「……ごめんなさい……ちょっと家の事情があって……あまりそういう目立ったところには出られないんだ……」
「……あら……そうなんですか……」
まぁ仕方ないですね、と衿栖も深追いはしない。
「ごめんね。じゃあ、あたしもう行くね」
「……はい。何かあったら連絡くださいね」
と、自分の連絡先を手渡す衿栖。
「うん、ありがとう!! コレ、あたしのケータイ!! じゃあね!!」
明るい声で恋歌はどうにか走り出して行くのだった。
「……ところで、仕事どうしよ……?」
「太った人が二人いればいいんだから……朱里がヨーグルトを食べて太ればいいのでは?」
「だが断る、よ」
そりゃあな。
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