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All I Need Is Kill 【Last】

リアクション公開中!

All I Need Is Kill 【Last】

リアクション

「やっほう。生きてたんだ」

 ヴィータは柊 真司(ひいらぎ・しんじ)を見つけると、嗤いながらそう言い、飛燕の速度で間合いを詰める。
 真司は迫る彼女に狙いを定め、呪魂道引き金を引く。吐き出された銃弾を彼女は<行動予測>で読み、狩猟刀を振って切り裂いた。

「真司。来るわよ!」
「分かってる!」

 魔鎧として装着するリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)の言葉を受け、真司はアクセルギアを稼働。
 彼女よりも速く動き、剣の間合いから少しだけ外の距離を保ちつつ、呪魂道で身体の中心を狙って銃撃を続ける。
 ヴィータは肉迫する銃弾を全て<行動予測>で軌道を読み、二つの刃で当たる前に処理していく。

「これじゃあ、イタチごっこね。つまんない」

 ヴィータは自分より速く動き、間合いを保つ真司を見ながら、つまらなさそうに呟く。
 そして片手の狩猟刀を手放すと、その手の内に<物質化・非物質化>でウォルターの持っていた拳銃を出現させた。

「まぁ、銃ってのは殺す感触が伝わってこないからあんまり好きじゃないんだけどね。仕方ないか」

 ヴィータはそう言うと、真司に向けて連射を開始。先読みして放たれる銃弾の数々は、彼の行動を阻害する。

「ちぃ……っ!」

 真司は思わず足を止めた。
 その隙にヴィータが飛燕の速度で距離を詰め、懐に潜り込む。

「ばあっ」
「――くっ!?」

 おどけたように目と鼻の先でそう言うヴィータに、真司は裂帛の気合をこめた蹴りを繰り出した。
 が、その蹴撃は彼女が身体を捻ることで空を切る。
 ヴィータは素早くしゃがみこみ、真司のまだ比較的新しい凄惨な腹の傷を指でなぞった。

「きゃは、これさっきの戦いでつけたやつだよね。無理やり治療したんだ」

 ヴィータは真司を見上げて、ゾッとするほど冷たい微笑みを浮かべた。

「そんな不完全な治療じゃあ、身体が痛んで満足に戦えないでしょ? 楽にしてあげるわ」

 ヴィータはそう口にすると、小刀を勢い良くその腹に突き刺した。
 傷口が開き、血がどくどくと流れる。そして苦痛に歪む真司の顔を見つめながら、心底嬉しそうに言い放った。

「ねえ、今どんな気分? 教えてよ? ねえねえ!」
「……教えてやろうか?」

 真司は口から血を吹き出しながら、彼女の小刀を両手で掴む。
 そして<龍鱗化>で皮膚を硬め、刃を自分の身体に固定させた。

「馬鹿な鼠が罠にかかった気分だよ。行け――ソーマ!」
「了解した。我が主」

 ヴィータは不意に後方から聞こえた声に、振り返った。
 そこにはナノマシン拡散による拡散状態に、更に<迷彩塗装>を行い気づかれないように背後に回っていたソーマ・ティオン(そーま・てぃおん)
 ソーマは集合状態に変化し剣の形態をとって、アクセルギアを使用。最高速でヴィータに突撃。
 彼女はそれを見て、小刀から手を離して、逃げようとした。が、その行為を真司が<サンダークラップ>で電撃を付与したワイヤークローを彼女の体に巻きつけることで阻止。

「……きゃは」

 動きが止まったヴィータの胴体に、ソーマの刃が勢い良く突き刺さる。
 それと共にソーマはPキャンセラーを発動。一時的に彼女の能力を封じることに成功した。が。

「きゃははははははははは!!」

 まだヴィータは倒れない。狂ったように嗤いながら無理やり自分の身体に刺さったソーマを引き抜くと、地面へと思い切り叩きつけた。
 そして素早く、大量出血により息も絶え絶えの真司に近づく。と、手にもった拳銃を彼の頭部に押し当て、彼女は口元を吊り上げた。

「それじゃあ、ばいばい」
「――させないであります。そんなことは」

 が、ヴィータが引き金を引くより先に、戦いに参加せず気配を消していた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が銘刀・桜雪で切りかかる。
 桜雪が描く美しい一閃が彼女の頭部に迫る。しかし、その斬撃は彼女が頭を反らすことで回避され、空を切る。

「きゃは。危なーい。死んじゃうところだったじゃないの」

 ヴィータはそう言うと、銃口の狙いを真司から吹雪に変え、零距離で発砲。
 銃弾が吹雪の胴体に着弾。ヴィータは引き金を引く手を止めず、何度も何度も発砲する。やがて、吹雪の身体には風穴が開いた。

「さ、おしまい。眠っちゃいなさい」

 ヴィータはそう言うと、銃口を胴体から青ざめた吹雪の顔に移行させ、引き金を引こうとした。
 が、それよりも早く吹雪が笑いながら機晶爆弾を取り出し、
 轟音。それと共に公園に爆発が起こった。
 爆炎と爆煙がもうもうとあがるなか――そこから勢い良く飛び出したのはヴィータだった。

「ごほごほっ。なによ。最近は相打ちの爆発が流行ってるわけ?」

 ヴィータはそう言うと、黒く焦げて動かなくなった片腕を見る。
 咄嗟にこの腕を犠牲にしなくてはまた死んでたな、とそう思い。

「……で、まだ敵さんはいるわけね。嫌になっちゃうなぁ」

 自分に向かってきている真を見て、辟易とした表情でそう呟いた。

「うぉぉおおお!」

 真はヴィータに肉迫すると、咆哮と共に拳を繰り出した。
 彼女はそれを身体を回転させながら回避して、勢いを殺さず片手の小刀で切りかかった。
 それは避けることなど到底出来るはずもない、完璧なタイミングで繰り出された一閃。

「――ッ!」

 しかし、その斬撃は彼の目と鼻の先で止まる。それは彼が片手で白羽取りをしたからだ。
 自分の刃が止められ、ヴィータは驚いて目を見開けた。そんな彼女を睨みながら、真は言い放つ。

「諦めて、たまるか。
 壮太を救うため、『俺』も次の未来に賭けるまでぼろくそになっても生き延びて……けど……けど…せめて一発殴らせろ!」

 真の拳が彼女の顔に叩き込まれる。
 その一撃を受けて、ヴィータは僅かに後退して、体勢を整えるために後方に跳躍した。
 その二人の間に太陽が身を割り込み、背中越しに真に声をかける。

「一発殴って気が済んだのなら今すぐここを離れるといい。
 今の時を忘れず、得られた情報をまとめ飛ぶ時代を見誤るな」
「ッ。はい……!」

 真は返事をすると踵を返して、走り出す。
 それを感じると、太陽はヴィータを見つめ、口を開いた。

「ヴィータか……『俺』はしぶといぞ。
 水晶化ならば、魂を移動する間もなく永久に留めることが出来るか、試してみようではないか。私……否、俺と一緒にな」

 太陽はそう言うと、鏖殺水晶を取り出し、発動した。
 ダークヴァルキリーの怨念が込められたその水晶は、ヴィータを水晶化させようと光り輝き。

「いやよ。ってか、わたし、何百年ぶりかに顔面殴られてイラついてんの。だから、どいて」

 ヴィータは先ほどとはうって変わり、どこまでも冷たい声でそう言うと、片腕の小刀で鏖殺水晶を切り裂く。
 発動しきる前に壊された鏖殺水晶は地面に落ち、光を無くす。それとほぼ同時に、太陽に縦一直線の一閃が放たれ、大きな傷が生まれた。
 ヴィータは倒れる太陽を無視し、走る真に追いつくため、全速力で駆けた。
 そして小刀が届く間合いまで接近し、刃を振るう。が、真を押しのけモモがその刃を受け止めた。

「また邪魔? うざったい」

 ヴィータはそう言うと、僅かに後方に跳躍する。
 そしてモモは押しのけた真に対して、ちらりと身を包むフィジカルサポートウェアを見せた。
 それは過去に真が壮太に送った品物。それを見た彼は驚き、彼女に問いかけた。

「なんで、君がそれを? というか、君は……?」
「あなたは私を知らなくても、私はあなたを知っている。今は話す暇が惜しいわ。とりあえず、聞いて」

 モモはそう言うと、短刀を腰から抜き取り、時間を稼ぐために忍法・呪い影を発動。
 自分の影が立ち上がり、ヴィータに向けて突進を開始。
 それを見てモモは真に視線を移し、胸に手をあて口を開いた。

「まずは勝手に着てごめんなさい。でも、瀬島壮太は死んでも、あなたと瀬島壮太の志は生きている。ここに、ずっと」

 ヴィータに向かっていった呪い影が倒される。
 それを横目で確認してモモは最後に、と呟いて言葉を続けた。

「伝えて。東條カガチにも」

 モモの言葉を聞いて真は頷く。それを確認したモモは「行って」と小さく呟くと、ヴィータに向けて突撃を開始した。

「……あーあ、あなたのせいで逃げられちゃうなぁ」

 ヴィータは走っていく真の後ろ姿を見て、残念そうにそう呟いた。
 そして自らに向けて短刀を振るうモモの斬撃を軽やかに避けると、胸倉を掴んで言い放った。

「あなた、覚悟してよ。今のわたしは腹の虫の居所が悪いから、楽に殺してくれるなんて思わないでね?」
「あら、そう。なら一緒ね。私もこんな馬鹿げたゲームにのったあなたを許せないから、かなり機嫌が悪いの」

 モモはそう言うと、<奈落の鉄鎖>を自分の胸倉を掴む手袋に集中させる。
 急に重力が増して反応が遅れたヴィータに、モモは<急所狙い>で手の甲ごと短刀を突き刺した。
 ヴィータは苦痛で顔を歪ませ、前蹴りでモモを自分から引き離す。

「どう? これで特殊な力は封じれたんじゃない」

 モモは離れたヴィータを睨みながら、そう言い放った。

「特殊な力?」
「ええ。そのウォルターに憑依したのにフラワシが使える能力のことよ」
「……ああ、そういうこと」

 ヴィータはそう呟くと、モモを見つめながら口を開いた。

「別にこの手袋は関係ないわよ。ただのお守りみたいなものだから」

 そしてそろそろ頭に昇ってきた血も冷めてきたのか、ヴィータはいつもの調子に戻りきゃはと笑って言葉を続ける。

「ウォルターとはね。一緒に何度か依頼をこなしてきたから。
 その間にわたしが支配する時のため、降霊者としての素養を持たせておいただけよ」