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All I Need Is Kill 【Last】

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All I Need Is Kill 【Last】

リアクション

 凶霊の女王

 二十一時三十分。空京、街外れの公園。
 盲目白痴の暴君の触手が、危うく飛び火しそうなほど近いその場所で、ヴィータ達と契約者達が武器を抜き取り対峙していた。

「大きな過去は変えられないから……。
 盲目白痴の暴君の召喚は見過ごしましたが、あなただけはここで倒すのです、ヴィータ・インケルタ!」

 天神山 清明(てんじんやま・せいめい)がヴィータをキッと睨み、そう叫んだ。
 その視線を受けたヴィータはきゃはっと笑みを零し、ゾッとするほど冷たい声で呟いた。

「あらあら、またわたしに人生狂わされちゃった人。多いなー。でも、ま、いっか。そっちのほうが楽しいし」

 その声を聞いた清明は、あまりの恐怖で足がすくんだ。
 決めていたはずだ。二十年後、自分の家族がヴィータと関わり続けたために報復を受けたとき、家族の平穏のためにも彼女を殺すと。
 そのために血の滲むような努力をして、強くなったはずだった。けれど、強くなってしまったゆえにその圧倒的な実力差を、対峙して初めて肌で感じてしまった。

「どうしたの? 来てよ。さあ来てよ。殺してあげるから」

 子供が遊びに誘うように、ヴィータは清明を手招き。
 清明の足は動かなかった。しかし、そんな彼女を見かねて天神山 保名(てんじんやま・やすな)がぽんと肩を叩く。

「……母様」
「そう気構えるな。ワシらがいる」

 保名はにこりと微笑むと、今度はヴィータに視線を移して、拳を突き出した。

「ワシはお主の相手をしようか、ヴィータとやら。
 可愛い未来の娘の頼み……何より、強者と戦えるのは愉しいからのォ! だが、一つだけ文句をつけるなら……お主、全体的に反吐が出る程醜いのじゃ」
「醜い? うわー、ショックだなー。それ、女の子に使っちゃダメなワードよ? いわゆる禁止ワードってやつ」

 ヴィータはおどけた様子で続けるために言葉を紡いでいく。

「わたし悲しすぎてあなた達惨殺しそう。いや、捕まえて拷問でもしようかな。構わないよね? ね?」

 ヴィータは嗤いながら、片手でピストルを作り、人差し指を保名に向けた。

「って、ことで戦闘開始。英語で言うとバトルスタート。バッキューン」

 ヴィータがそう言うのと同時に、事前に周囲数箇所に仕掛けられていた機晶爆弾が爆破する。
 爆煙と共にその爆弾に取り付けられていた煙幕ファンデーションによる煙幕と<しびれ粉>が巻き上がる。
 そして浮き足立っている契約者に、徹雄が<疾風迅雷>で素早く接近した。

「…………」

 徹雄はさざれ石の短刀を、保名の心臓目掛けて一突き。
 が、保名はそれを<金城湯池>から繰り出される狐手掌で捌く。

「どけ。ワシの敵はお主ではない」

 保名はすかさず<歴戦の必殺術>と<神速>と<鳳凰の拳>を組み合わせた白狐神拳の武技、天弧二連撃を放つ。
 徹雄は最初の拳を反対の手で叩き落とし、続いて来る拳を身体を回転させながら避け、懐に潜り込んだ。

「……美人の同業者は稀少なんでね。守らせてもらうよ」

 二人が戦いを繰り広げている中、その脇をリカインが通り、ヴィータに向かって突き進む。
 が、横から放たれた<闇術>によって視界が真っ黒に染まり、リカインは慌てて足を止めた。間髪いれず、<アシッドミスト>による濃度が最大の強烈な酸が彼女に襲い掛かる。
 リカインはその酸を、七神官の盾で辛うじて防御。

「大丈夫です、痛みは一瞬ですよきっと……ふふふふ」

 魔法を発したアユナは不気味にそう笑い、<レジェンドレイ>の魔法陣を展開、発動。
 聖なる輝きを放つ光条が、光の速度で足を止めたリカインに飛来する。

「あらら。危ないわね」

 リカインはそう呟くと、レゾナント・アームズを装着した手を、迫り来る光条に伸ばす。
 衝突した瞬間、拡散する光の粒の中を、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が駆ける。

「空京に惨禍をもたらしたことの報いを、消滅を以て受けてもらいますよ」

 狐樹廊は静かな怒りを込めた声でそう口にすると、懐から退魔の符を取り出した。
 それは奈落人であるヴィータをナラカに送り還すためだろう。それを目にした彼女は暢気そうに口を開いた。

「うわー、それはちょっとやばいなー。って、ことで」
「カモン! ラブ・デス・ドクトル!」

 ゼブル・ナウレィージ(ぜぶる・なうれぃーじ)は身を割り込みそう叫ぶと、目の前にラブ・デス・ドクトルを<降霊>。
 手術着姿の巨大な老いた赤子のようなそのフラワシは、狐樹廊の札から放たれる退魔の光を、己の身の倍はあろうかという得物、ザ・メスで防御する。

「さぁさぁ、荒事の後には楽しいたのしいフラワシ談義が待っているのでぇす!!」

 ゼブルに呼応してラブ・デス・ドクトルが、ザ・メスを振り下ろす。
 狐樹廊は見ることは出来ないが、それを感じて横に跳躍することで避け、地面に着地すると素早く破邪滅殺の札を抜き取る。
 そして<悪霊退散>を発動しようとするが、それよりも早くゼブルが彼に向けて<リターニングダガー>を投擲。

「か〜ら〜の<ヒプノシス>!」

 ゼブルはそう叫ぶと、ダガーを避けて体勢の崩れた狐樹廊に催眠術を放つ。
 急速に襲ってきた睡魔によって、狐樹廊はその場でよろけた。

「動きが鈍ったらぁ、即・斬殺!」

 狐樹廊の目前で、ラブ・デス・ドクトルがザ・メスを振り上げた。が。

「どいてなさい!」

 大声と共にラブ・デス・ドクトルに<ヴォルテックファイア>の炎の渦が直撃する。
 その炎を受けたラブ・デス・ドクトルは降霊者にしか聞こえない悲鳴を洩らして、行動を中止する。
 ゼブルは炎が飛んできた方向に顔を向けた。そこには手の平に炎を称えた林 則徐(りん・そくじょ)

「なーにをするんですかぁ!」

 ゼブルはそう叫ぶと<ミラージュ>で多重分身を行い、分身を則徐に突撃させた。
 しかし、突撃させた分身は彼女の手前で、突然上空から現れたウェンディゴによって踏み潰される。

「ルイ達は単身が所望の様子ですので、あなた達はここに引きつけさせていただきますよ」

 ウェンディゴを召喚したシュリュズベリィ著 セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)は、潰されて霧散した分身を見て口元を吊り上げる。
 そして、ウェンディゴの隣に不滅兵団を。その後ろにフェニックスとサンダーバードを素早く召喚して、ゼブルを見ながら口を開いた。

「ふふふ……貴方はどんな声で鳴いてくれますか?」

 ――――――――――

 そんな戦いを眺めながら、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)はつまらなさそうな表情をしていた。
 その理由は自分に向かってこないからだ。他の契約者の狙いはあくまでヴィータ。真っ向から殺しにこない相手と戦ったとしても、竜造としては満足出来ない。
 が、パートナーが戦っている手前、仕方無いので自分も戦闘に交じろうと梟雄剣を構え。
 ――瞬間、<百戦錬磨>の勘に自分に対しての殺意を感じた。

「くくっ」

 竜造は殺意を感じたほうに顔を向ける。それは暴君と戦っている契約者の方面。
 そして、二人の契約者と目が合った。
 それは先ほど、彼女らの仲間であるレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)を殺害し、因縁が出来た二人組。
 彼女らは暴君との戦闘を一旦切り上げ、この場所に向かって駆けてくる。

「ははっ」

 竜造は嬉しさのあまり笑顔を零した。
 それを不審に思ったヴィータが傍に近寄り、プププと笑いながら声をかける。

「なに笑ってんの? そんな笑顔、あんまり似合わないよぉ?」
「うるせぇ、殺すぞ」
「わー、こーわーいーな。こーろーさーれーる」
「前言撤回だ。今すぐ殺す。今殺す」

 自分達が狙われているというのに二人は軽口を交し合う。
 そして、竜造はこの場所で戦闘を繰り広げている相手の契約者達をちらりと一瞥すると、吐き捨てるように言い放った。

「言っておくが、同じ奴相手に負けるなんて無様晒すなよ? じゃあな」
「ん、どこかに行くの? 竜造」

 ヴィータの問いかけを聞いて、竜造は獲物を見つけた獣のように獰猛な笑顔を浮かべ、舌なめずりしながら嬉しそうに答えた。

「さっきつくった因縁の清算にな」
「そうなんだ。ま、頑張ってね」

 走り出した竜造を見送り、ヴィータは二つの刃を鞘から抜き取った。

「さて、じゃあそろそろ戦うとしますか。わたしの相手は――っとと」

 ヴィータは突然飛来してきた<自在>による矢を避け、飛んできた方向に目をやった。
 そこに立っていたのは、自分に向かって拳を突き出しているルイ・フリード(るい・ふりーど)だ。

「きゃは。あなたがわたしの相手をしてくれるの?」
「ええ。お相手いたしましょう。……あと、これはヴィータさんではなくウォルターさんに言いたいことですが」

 ルイは拳を引き、構えなおしてから、ヴィータに向けて言い放った。

「私はれっきとした健康的な漢で人間ですっ!」
「……? ウォルターがあなたのことを、人間じゃねぇだろてめえ!? みたいなことでも言ったの?」
「少し違いますが、似たようなことをおっしゃりました」

 ルイの言葉を聞いて、ヴィータが「ふーん」と言ってから口を開いた。

「そうなんだ。あのウォルターが人間じゃない、ねぇ。もしかして、かなり強いの?」
「……試してみればどうですか?」
「きゃは。その通りね」

 ヴィータが片手を伸ばし、パチンと指を鳴らす。
 それに呼応して<降霊>したモルスが咆哮をあげた。

「あの人に向かっていって。食べちゃってもいいわよ」

 モルスは咆哮をあげると、ルイに向かって疾走していく。
 それを見てから、ヴィータは振り返り、背後に目をやった。そこにはマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)が立っていた。

「わたしの本当のお相手はあなたなんでしょ?」
「……気づいていたのか」
「ええ。もちろん」

 ヴィータはそう呟くと、魔法陣の描かれた手袋を整った唇にあて、きゃはと笑った。
 対してマイトは険しい目で彼女を睨むと、厳しい口調で言い放つ。


「実行犯にして愉快犯の君を放置するのは、刑事として後々の禍根になると判断する。
 それに捕縛寸前だった彼女をむざむざ使い捨てにされるのも、いい気分はしないしな」
「へぇ、でどうするの?」
「刑事は刑事らしく高みの見物を決め込む愉快犯の逮捕さ。……彼女にも生きて法の裁きを受けて貰いたいしな」
「あら、わたしをウォルターから引き剥がすつもりなんだ」

 ヴィータはマイトの言葉を聞いて、愉快そうに笑った。

「きゃは。やってみなさいよ、刑事さん」