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All I Need Is Kill 【Last】

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All I Need Is Kill 【Last】

リアクション

 狂瀾怒涛

 二十時。空京、街外れ。 
 空京にゆっくりと進撃する盲目白痴の暴君を見つめ、雨宮 七日(あめみや・なのか)は呟いた。

「では、簡潔に参りましょう」

 七日はそう言い終えると、地獄の門を背後に展開。
 大魔弾を二丁の銃に篭めて二つの巨大な魔砲を精製し、奈落の鉄鎖で大地に固定する。

「開戦の烽火を上げるのが私の役目ですので」

 七日はそう呟くと、二丁の銃の引き金を引いた。
 と、同時。雪の様に白く美しい二つの砲身から、天を轟かせる轟音。闇と氷の威力を有した大魔弾が発射。

「……邪魔な触手を排する、露払いくらいにはなるでしょう」

 そのクロウカシス二連砲は、数多の触手を千切りバラバラにして、道を生み出す。
 と、共に多くの契約者が怒号をあげながら、暴君に向かって駆け出した。

 ――――――――――

 暴君による召喚者の魔法と、後衛の者達が放った魔法が空中で衝突する。
 炎による赤や氷による青、雷による黄の色とりどりの爆発は、暗くなった空を彩る花火のようにあちこちで爆発を起こす。
 そんな中、耀助と佐助、トーマ・サイオン(とーま・さいおん)らは仲間達の危険が少しでも減るよう、自慢の速度で駆け回り無数の触手の撹乱を行っていた。

「とっ、とと。切りがないなぁ。斬っても斬っても、すぐに再生しちゃうし」

 トーマは不満を口にしながらも、<分身の術>と<疾風迅雷>で所狭しと高速で移動する。
 そして近いものは白狗の刀で、距離のある場合は超伝導ヨーヨーといった形で、二体の忍法・呪い影と共に肉の触手を切り払う。

「でも、ま。やらなくちゃな。オイラだってまだまだ色々やりたいことは一杯有るんだ。
 そういうわけで、こんなところで終わるつもりはまだ無い、ぜ……!」

 トーマは自身にもう一度気合を入れなおすと、残像が残るほどの速度で跳躍。一瞬遅れて彼がいた地面に衝突した触手は、コンクリートを大きく抉り土煙を巻き上げた。
 彼はその触手に着地すると、両手で白狗の刀を深く刺し、思い切り横に振りぬく。真っ二つに切られた触手は、断面から夥しい量の血を吹き出し、トーマの身体に飛び散った。
 その血の一滴が、不運なことに、トーマの目の中に入ってしまった。

「っ!? やばい……!」

 トーマは目の中に異物が入ったことで、激痛を感じ思わず瞼を閉じてしまった。
 それは一瞬。だが、致命的なもの。他の触手が彼に接近するまでにかかる時間としては十分すぎた。
 トーマが次に目を開けたとき、自分の身体を貫こうと、触手が目前まで肉迫していて。

「――」

 彼は恐怖で思わず息を飲む。
 が、その触手は直前で何故かかかる重力が増したように動きが鈍り。
 トーマの身体を突き刺すより先に四発の銃弾が着弾して、跡形も無く弾け飛んだ。

 ――――――――――

「……ふー、どうにか間に合ったかぁ」

 後衛で光条兵器のライフルを構えるキルラス・ケイ(きるらす・けい)は、スコープ越しに九死に一生を得たトーマを見て安堵のため息を吐いた。
 先ほどの触手の動きが鈍ったのは、彼が発動した<奈落の鉄鎖>の効果。触手を撃ち抜いた四発の銃弾は<魔弾の射手>による連射によるものだ。

「ま、少しでも犠牲を増やさないためにも頑張らせてもらうさぁ」

 キルラスはそう洩らすと、<超感覚>で生えた尻尾を左右に振らせた。
 呟いた言葉の反面、撃ち抜くべき標的がたくさんあるこの状況を楽しんでもいるようだ。

「ほんと、なにはともあれ。えげつねぇのが出てきたのなぁ」

 キルラスは知ってか知らずか、無意識的に口元を吊り上げ、獲物を見つけた猫のように舌なめずりを行う。
 そんな彼と同じく後衛で暴君の相手をしている御凪 真人(みなぎ・まこと)は、パートナーのトーマを助けてもらったこともあり、魔法を絶えず発動しながら彼に大声でお礼を言う。

「ありがとうございます! キルラスさん!!」
「気にすんなぁ。御凪は御凪で自分の役割に集中したらいいさぁ! こっちはこっちで俺こと『魔弾の狙撃手』に任せとけぇ!!」
「分かりました。お願いします! 『にゃんこスナイパー』さん!!」
「なんでさぁ!? にゃんこスナイパーじゃねぇってのに!!」

 戦場に響きわたる轟音によるものだろう。多少、意思疎通が上手く出来なかった二人はそこで会話を切り上げ、互いのやるべきことに集中する。
 キルラスはなるべく多くの触手を撃ち抜き、前衛の部隊の活路を切り開くこと。
 対して真人は暴君が乱射する魔法を真っ向から打ち崩し、まだ存分に突撃できていない前衛のために道をこじ開くことだ。

(未来からの来訪者と言うファクターで現在の未来は不確定になっています。
 なら、前の未来で不可能だった事が今回は可能かも知れない………いえ、きっと出来るはず)

 真人は<オーバークロック>を発動して、脳の演算能力を飛躍的に向上させる。
 回路が焼きつくような激痛を歯を食いしばりながら耐え、自分の目の前に大量の魔法陣を複数展開させた。

(今回は本気を出さないといけませんね……!
 心臓を潰すならその可能性を引き上げましょう。正面に火力を集中して道をこじ開けます……っ!)

 真人がありったけの魔力を込め、光り輝く魔法陣から現れたのは、四体のフェニックス。
 全てのフェニックスは火で構成された翼をはためかせ、暴君に向かって飛翔した。
 それに応じて暴君が人語を越えた叫びと共に召喚者の魔法を展開、素早く発動。
 火の鳥と数々の魔法が空中で衝突し、けたたましい轟音と共に、魔法の衝突による一際大きな爆発を起こす。

「まだまだ、これで、終わりでは、ありませんよ……!」

 真人は残った魔力を惜しげもなく、展開した他の魔法陣に込め始める。
 左の魔法陣からは<天の炎>、上空の魔法陣からは<ブリザード>、正面の魔法陣からは<サンダーブラスト>、右の魔法陣からは<歴戦の魔術>。

「――これが、雷速の魔術師の、最高速最大火力です」

 真人は大量の魔力消費により肩を上下させ、荒い呼吸を吐いた。
 術式の高速展開と速度重視の魔法使用。雷速の魔術師の由縁たる魔法の数々は、暴君に飛来。
 折々の魔法が入り混じったその波状攻撃は、暴君の魔法を押し込んで打ち勝ち、前衛の活路を切り開いた。