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季節外れの雪物語

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季節外れの雪物語

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★第一章・2「雪合戦は大勢で」★

「……そう、よかったわ。子供は無事なのね」
 からの知らせを受けた雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)がホッと息を吐きだし、その話が聞こえたものたちも安堵の表情を浮かべた。
「んっと、こんな感じかなぁ?」
「ええ、そっくりですよ。さすがですね」
 メチェーリ捜索に名乗りを上げた1人、清泉 北都(いずみ・ほくと)が動かしていた手を止め、クナイ・アヤシ(くない・あやし)に尋ねる。と、クナイは頷いた。
「雅羅さん、似顔絵できたよ」
「ありがとう。……へぇ〜こういう人なんだ」
 メチェーリを知らない雅羅が声を出す横で、他にもメチェーリを知っているものたちも似ている、と同意した。その顔を全員で覚え、それぞれ別の場所を捜索することにした。
「しかし雪ですか。あの『かまくらが作れなかった』時を思い出します……いや別に何も思っていはいませんよ」
「クナイ。拗ねてないでメチェーリさん探すよ。グラート君も不安だろうし」
「別に拗ねてなど……はい。そうですね早く母親を探してあげないといけません」
 少し苦笑した北都だが、すぐに顔を引き締める。
「ねぇこういう人を見かけなかった?」
 通りがかった人たちに聞いていく。中々良い情報は入らない。
「ううん。知らない」
「そっか。ありがとう」
 首を振った子供の手に飴玉を握らせる。それだけで喜んでくれる子供たちを北都が優しい目で見つめ、そんな北都を見てクナイがどこか誇らしい顔をした。
(さて。私もぼーっとしていられませんね)
 幻獣の加護を自身と北都に使うと、心なしか寒さが和らぐ。やはり魔力で起きた異変なのだろう。あとはすれ違う人たちの会話にも耳をすませ、何か情報を探す。
「北都。メチェーリさんを見つけたら、かまくらを作りませんか?」
「それは楽しそうだねぇ。うん。がんばろう」
 以前できなかったかまくらのリベンジ。たしかに楽しそうだと、北都が笑って頷いた。
「もう掘りすぎないでよ?」
「あ、あれはですね!」
 
「この異常気象はつまり雪女さんと雪ん子ちゃんが原因か……」
 寒さで愛猫が部屋から出てくれなかった。
 そう嘆いているのはエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)。そんなエースを励ますように肩をたたくのは、パラミタペンギン。原因を探りに行くエースに「連れてって」と熱い視線を送ってきたので、つい連れてきてしまったのだ。
 気候的にも、ペンギンにとって過ごしやすいのだろう。
「たしかに寒いのは苦手だけど……これはやりすぎじゃない? 暑苦しいし、面倒」
「駄目だ。手袋とブーツとコートは着たまえ」
 ぶちぶちと文句を言うリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)に、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が言い聞かせている。
 元々薄着傾向のリリアに、冬のちゃんとした装いを多少は覚えてもらおうとメシエは考えていた。
(寒いのが絶対にイヤって訳じゃないんだけれど。ここまで寒いのはちょっと……早く何とかしないと)
「ほんと、こんなに寒いのに我慢大会なんてよくするわよねぇ」
 自分なら絶対無理だ、とリリアはマフラーを巻きなおしながら思った。
「ところで」
「ん? どうしたの、エース?」
「いや、2人は夏の最中にどうしてツァンダの街に来たのかな。聞いた話によると暑いのは苦手らしいし、理由がないとそんな時にやってこないよね?」
 ペンギンからの励ましで元気を取り戻したエースが疑問を口に出す。植物に声をかけていたリリアが少し悩んでから答える。
「そうねぇ。夏の事とか色々話を聞いて遊びに来たんじゃないの?
 夏祭りとか花火大会とか、夏のキャンプで皆で楽しく過ごしたり、肝試しできゃっきゃうふふしたり、バーベキューで盛り上がったり、夏は楽しい事がいっぱいだもの」
「(きゃっきゃうふふ?)まあ、そういうこともあるのかな」
「だとしたら、何か手伝えることがあるかもしれないな。まあどちらにせよ、見つけなければしょうがないが」
 メシエがサイコメトリで電柱や壁、ベンチなどから記憶を読み取りつつ言った。
「どうした?」
 その時ペンギンがエースの服を引っ張る。どうやら自分の行きたい方向を示しているようだ。
(メチェリーさんに近い方が寒いのかも? よし。あっちに行ってみよう)
 ペンギンに従って動くことにした。


* * * * *


「グラキエス!」「エンド!」
 ゴルガイスロアが慌てた様子でグラートたちに駆け寄ってきた。グラキエスの姿が見えず、今まで必死に探していたのだ。
 2人の姿を見たグラキエスが、嬉しそうな顔をした。探してくれたんだ、と。
 だから怒るために口を開いたゴルガイスは、何も言えなくなった。記憶を失ってグラキエスが別人になった気がしていたが、変わったのは自分なのだと気づいたのだ。
「すまない、グラキエス」
「私もすみませんでした、エンド」
「あ、いや。俺の方こそ勝手に離れて」
 互いに謝り合う3人を、グラートが「変なの」と見やり手を引っ張る。
「お兄ちゃん! 雪合戦の続きやろう?」
「あ、よければ私もいいですか?」
「うん! おじちゃんもいこう」
「おじっ? いや、我は……」
「行こう。ゴルガイス」

 全力で遊ぶ彼らの間に、わだかまりはもう見えない。

「ペンタ、行くぞ!」
「……!」
 ちぎのたくらみにより子供の姿となった酒杜 陽一(さかもり・よういち)が、ペンタに大きな雪玉をパスした。飛び上がったペンタがそれを空中でキャッチ。すぐさま投げる。
「こっちだって……いくよ、ペンギンさんたち!」
「……!」
 対するのはグラート率いるペンギン隊。勢いよく飛んできたそれを1羽のペンギンが受け止める。
 しかし!
 それだけて勢いは止まらない。他のペンギンが背中を支えてフォローする。なんとか線ぎりぎりでキャッチに成功した。
「やったね、ペンギンさん!」
 喜ぶグラートとペンギンたち。一体何をやっているのか、というと雪合戦……ならぬ雪玉ドッジボール。
 グラートの魔力で強化された特殊な雪玉を使っている。本当に雪なので、当たっても痛くないが頑丈と言う優れものだ。
 無駄魔法とか言わない。
「海お兄ちゃん!」
「ああ、任せろ」
 受け取った雪玉をが受け取り、投げる。

 ――前に別の雪玉が海の顔に当たった。
「ごめんなさーい、手元が狂って……って、海? こんなところで何してんの?」
「ルカルカさん、どこに投げて……あら」
 明るい声で謝ってきたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)で、その後から月摘 怜奈(るとう・れな)もやってきた。
 海が顔についた雪を払いながら説明する。
「なるほどねぇ。てっきり海の兄弟かと思っちゃったよ」
「別に似てないだろ」
「隠し子でも良かったんだぜ?」
 からかうようなルカルカにカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が悪乗りすると、さすがのルカルカも「ちょ、それ幾つの時の子よ」と呆れた。
「あーそっか、お前らまだ生まれたばかりなんだったな」
 カルキノスはカルキノスでそんな納得をした。彼からすると海たちは生まれたばかりのように思えるようだ。
 そんな会話をぼんやり眺めていた怜奈だが、ルカルカが「じゃあ皆で雪合戦しましょ」と言いだして驚く。
「怜奈もやりませんか? 雪合戦」
「私まで誘う?」
「皆さんと一緒にやったら楽しいですよ、きっと」
 子供じゃあるまいし、と思っていた怜奈を杉田 玄白(すぎた・げんぱく)が誘う。それでも乗り気ではない怜奈だったが
「ゴミゴミしたビルも雪に埋まっていっそ清清しいし、たまには童心に返って雪合戦も悪くねぇっと」
「わっ。バカルキ、加減しなさいよ! って、怜奈、大丈夫?」
 カルキノスがその怪力をいかんなく発揮して投げた雪玉が、ルカルカが避けたことで怜奈に当たった。一瞬脳がシェイクされた怜奈は、しかしただ苦笑にとどめた。
「まったく……。仕方ないわね。ま、たまにはこうやって遊ぶのも悪くないわ」
 そして参戦する。言い終わる前に投げられた雪玉が、仕返しとばかりにカルキノスの顔面に当たった。……何気に怒っているのかもしれない。

「こんにちわ、グラート君。僕は杉田 玄白と言います」
 ニコニコ笑顔の玄白が、グラートのそばにしゃがんだ。
「スギタゲンパクお兄ちゃん?」
「ゲンパクでいいですよ。グラート君も雪合戦しませんか?」
「うん! あ、でも……」
 グラートが海や陽一を振り返る。今はドッジボールをしていた。
「俺は雪合戦でもかまわないよ。な、ペンタ、海さん」
「ああ」
 陽一とペンタが頷くと、海も頷く。

「雪合戦、凶器や攻撃スキルなんかはなしね。じゃあ始め!」
 ルカルカの合図とともに宙を飛び交う雪玉。
 速攻でグラートの顔に突き刺さったのは、陽一の投げた雪玉だった。
「むぅ、えいっえいっ」
「ふっ甘い」
「わぷっ」
 グラートが投げ返すも、ひらりひらりと避けて投げ返す陽一。……大人げない。大人げないが、今は同年代ぐらいに見えるので問題ない……のか?

「ねぇ、怜奈はどうして教導団にっきた、の!」
「昔の知っり合いに勧められたの。経歴を生かせるかもしれないって!」
 途切れ途切れに会話しているのはルカルカと怜奈だ。なぜ途切れているかと言うと、雪玉を投げたりよけたりしつつの会話だからだ。
「ここに来る前は警視庁にっいたわ。いわゆる刑事だった。でもコネなんて無いし、普通に入団試験を受けたけれど、ね!」
「へぇ〜、刑事さんだったんだ……あ、惜しい」
「ふふ。そう簡単に当たったりはしないわよっと……教導団員としてはあまり褒められたものじゃないかもしれないわ。軍人としての心構えは、未だにあまりないしっ?」
「ふぐっ。中々やるわね。まぁ、そういうのは段々とついてくるんじゃないか……ひゃっ。ちょ、バカルキ。何するの」
「隙だらけのお前が悪い」
 ルカルカのお返しの雪玉は見事に怜奈へ命中したものの、背後からのカルキノスの雪玉が彼女を襲った。
「さあっ今ですよ!」
 そんな時に響いた玄白の声。え、と声を上げたカルキノス、怜奈、ルカルカへと降り注ぐ雪玉の嵐。
「わわっちょ、何っ?」
「え、一体何が」
 嵐が収まった時、そちらを見て見ると。陽一にグラート、玄白に、グラキエスやゴルガイスとロア。海とペンギンたちがいた。どうも全員で雪玉を投げたらしい。
「やったわね〜。ルカ、本気になったんだからね〜。ほらっ怜奈もカルキノスも手伝って」
「ちょっと、それはさすがに大人げないわよ」
「しゃあねぇなぁ」
「グラート君、逃げるよ」
「この壁に隠れてください」
 反撃に移るルカルカに、怜奈は呆れつつ、カルキノスはノリノリで加わる。なんといっても、グラートが楽しそうに笑っているのを見れば、反対などできるわけもない。

「いくよ、お兄ちゃん。ペンギン隊、前へ」
「よしっペンタ! 今だ」
「なんのっ! これぐらいじゃルカは倒せないよ」
「おいおいどうした? そんなへなちょこの雪玉なんて、痛くもかゆくもねぇぞ」
「だから2人とも、大人げないってば」
「そういう怜奈も結構本気ですよね」
「雪合戦って面白いな」
「……ああ、そうだな」
「エンド、反撃しましょう!」
 しばらくの間、その場には楽しげな声が途切れることなく響いていた。