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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

リアクション

「ここは……」
「目指してた動力炉で間違いないと思うわよ」
 要塞内の施設を破壊しながら、真っ直ぐ進んでいた赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)クコ・赤嶺(くこ・あかみね)は、目的の一つだった動力炉に辿りついた。
 見上げていると首が痛くなるほど高い天井。縦にも横にも広いこの場所はまるで大宴ホールのようだった。
 そして、部屋の奥は大きな機械音と高熱を発する動力炉へと続いている。
「行きますか」
 歩き出した霜月の三歩後ろをクコがついてくる。
 機械音がやたらと鳴り響く空間に、二人の足音がやたらと反響する。
 そんな時、突如物陰から氷柱がクコに放たれた。
「――む!? 甘い!!」
 クコは腕を振るって氷柱を捕らえると、攻撃が飛んできた方向へと投げ返す。
「ちぃ!」
 すると、クコの反撃を回避して古代中国で使われた物に似た服装をした少女辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が飛び出してきた。
 クコはまだ幼い刹那の姿に一瞬眉を潜めたものの、すぐに表情を戻して戦闘態勢をとる。
「不意打ちとは随分卑怯な手を使うわね」
「戦いに卑怯も糞もないのじゃ。要は勝てばいいのじゃからな」
 刹那が武器を取り出し、クコは拳を、霜月は腰の刀に手を添える。
 各々が相手の様子を窺いつつ、いつでも仕掛けられる状況になった。
 その時――
『――私も混ぜてもらおうか』
「!?」
 突然声が響いたかと思うと、地面が大きく揺れる。

 ――ズシン

 終点の見えない真っ暗な天井から、大型の機晶兵器が振ってきた。
 霜月は激しい揺れに倒れぬよう足の裏に力を込めながら目の前の機晶兵器を見上げる。
 身体の至る箇所に装備された弾丸や武装。
 厚い装甲に覆われ、外見から操縦者の姿は確認できない。
 だが、霜月だけは違っていた。
「乗っている。いや、取り付けられている機晶石は≪隷属のマカフ≫、あるいはそのコピーですね」
『ほう、わかるのか』
「なんとなくですが」
 霜月は依然戦った経験から、表現しがたい≪隷属のマカフ≫独特の気配を感じ取っていた。
「あなたがここにいるということは、邪竜の心臓もここにあるのですか?」
『残念ながらそれは違うな。ここに心臓はない。すでに儀式のために適切な場所に運んである』
「……そうですか」
 話を聞き終えた霜月はため息を吐くと、携帯電話を取り出して電話をかけた。
「あ、すいません。赤嶺 霜月ですが、こちらに心臓はありません。ですが、≪隷属のマカフ≫と思われる敵と遭遇しましたので、このまま戦闘に入ります」
 霜月は必要な事を伝え終わると、携帯電話をしまって戦闘態勢に戻る。
『もう、仲間とのお別れはいいのかな?』
「別にお別れを言うために電話をしたわけではありませんから。それより、あなたこそいいのですか?」
『ん? なんのことだ?』
「前回あなたに逃げられましたから、今回はそのリベンジです。あなたに対して手加減はできませんから、辞世の句の読むなら今のうちですよ」
『リベンジね。それは難しいな。私はいくつも記憶をコピーできる。
 もし、お前が逃がしたのがここにいる私ではなかったらどうするつもりだ?』
「その時は、見つかるまで全部倒すだけです」
 ≪隷属のマカフ≫は霜月の最後の回答が面白くなかった様子で、力強く一歩踏み出す。
『お前との会話はつまらん。ここで終わらせてやる!』
「同意見です!」
 ≪隷属のマカフ≫がミサイルを発射したのを合図に、戦闘が始まる。
 爆発音が鳴り響き、その音に釣られたかのようにエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が訪れた。
「おいおい、もう始まってるじゃねぇか! 俺も混ぜてもらうか!」


*****



 一方、その頃――
「正面の所には霜月さん達が向かってくれたみたいですね」
 儀式装置の破壊へ向かった高峰 結和(たかみね・ゆうわ)とそのパートナー達は、仲間が手に入れた情報と推測を基に、要塞の右翼側に捜索していた。
 正面の怪しいと思われる部分には、既に霜月が動力炉が存在しることを突き止めた。
 後りの怪しいと思われる場所は、結和が捜索している右翼側と、反対の左翼側で警備が厳重な所。そこに儀式装置があると思われた。
「ここですよね……」
 分厚く巨大な隔壁。
 結和は隔壁を守る兵を倒して、開けさせると内部に侵入した。
 鋼鉄の壁に囲まれた室内の中央に、巨大な剣が唯一吹き抜けになった天井に向かって伸びている。
 その剣には大量の配線が絡まりつつ床下へと続いていた。
「これが儀式装置でしょうか?」
「…………」
「僕もそうじゃないかと思うよ」
 結和の独り言のような質問に、エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)が頷き、アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)が同意した。
 ぽっかり開いた天井から淡い光が入り込み、巨大な剣から配線を通して床下に吸い込まれていく。
 その光は街から吸い取ったエネルギーであった。
「急いだ方が良さそうですね」
 結和が巨大な剣の形をした儀式装置に向かって【氷術】を唱え始める。
 すると――
「――!!」
「え、エメリヤン――!?」
 突然エメリヤンが結和の横から突き飛ばしたかと思うと――結和の目の前で血しぶきが上がった。
 左腕の肘から肩にかけて大量の出血をしながら、エメリヤンがその場に倒れる。
「エメリヤン!!!!」
 名前を叫ぶ結和。
 慌てて駆け寄ろうとした結和は、倒れたエメリヤンの傍に立つ以前グレゴリーと名乗った人物(メアリー・ノイジー(めありー・のいじー))を発見した。
「残念です。外してしまいましたか」
 グレゴリーは頬についた血を手の甲で拭いながら、笑顔で苦しそうに倒れているエメリヤンを見下ろしていた。
 結和はそんなグレゴリーの手に血に染まった剣が握れているのを発見する。
「あなたがエメリヤンを……」
「あ、もしかして怒りましたか? すいませんね。これも『先生』のためなので」
 睨みつける結和にグレゴリーは笑顔を向けていた。
 すると、グレゴリーの背後にいた三号が笑い出す。
「ふふ……」
「ん?」
「僕はついている。また君と遭遇できるなんてね。
 今日こそ聞かせてもらうよ。僕が忘れている過去を全部!」
 三号が駆け出し捕まえようとするが、グレゴリーはひらりと身を躱して距離をとった。
「逃がすか!」
「待ってください、三号さん! 一人行動しちゃ――」
 引き留めようとした結和の前を極太の配線コードが地面から湧き上がってきた。
 儀式装置から伸びた大量のコードが、結和に襲いかかろうとしていたのである。
「エメリヤンが!」
 結和は腕を抑えながら立ち上がるエメリヤンに肩をかして物陰に隠れる。
 グレゴリーを追いかけて結和達から離れた三号は、一瞬だけ振り返って叫んだ。
「結和! こっちはいいからエメリヤンの治療をお願い!」
「三号さん!」
 三号は結和の言葉は聞かずに、部屋の奥でグレゴリーと戦闘を開始する。
「…………」
「え、追いかけるんですか? でも……」
 エメリヤンは右手で結和の背中を押して三号を追いかけるように訴える。
 しかし、結和には出血をしているエメリヤンを放っておけず、それに一人で荒ぶるコードの鞭を切り抜ける自信がなかった。
「うおっ、何やねんこれ……」
 突如聞こえた声に結和が入り口を振り返ると、そこには瀬山 裕輝(せやま・ひろき)鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)が立っていた。
「裕輝さん!」
「ん、ああ。よぅ、元気そう……というわけでもないようやな。オレはどうすればいいんや?」
「え、えっと、中央の儀式装置を破壊してください」
「あの剣やな。なんだか物足りないんやけど……ま、勘弁したる。
 行くで! ちゃんと付いてきいや!」
「バカが私に命令するな!!」
 意気込む裕輝の脇腹を鞘で突いて、偲が先に走り出そうとした――その時。
「ちぃ!!」
「危なっ!?」
 揺れと共に地面から突き出してきた巨大なチェンソーを、裕輝と偲はステップを踏んで回避した。
「もうすぐ細切れになる所やった……」
「おい、こら。嫌な想像をさせるな」
 チェンソーによって地面に巨大な穴が空き、そこから両腕にチェンソーをはめた大型の機械兵器が現れた。
「なんや。ちゃんとボスがいるやん」
「おい、あれ見ろ!」
「ん?」
 偲が指さした方をみると、機械兵器の中央にカプセルが埋め込まれ、そこに女性の姿があった。
「あれは……≪迷測のマティ≫とちゃうかな?」
 ≪迷測のマティ≫は以前生徒達の倒した≪アヴァス≫のメンバーだった。
 それが今は機晶兵器の一部となり、その頭脳とコントロールの役割を強制的に担わされていた。
「なんやマカフの奴、仲間もモルモットにしよったんか」
「……気に食わんやつだ」
「まぁ、そうかもしれんな……」
 ≪迷測のマティ≫を取り込んだ機械兵器が甲高い音を鳴り響かせる。
 偲が刀を抜いた。裕輝も拳を構え――小さく舌打ちをした。


*****



「残りはここか……」
 仲間の連絡で正面と右翼側に未だ≪三頭を持つ邪竜≫の心臓が確認されていないことを知ったウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)は、自分がいる左翼側に心臓があるのではないかと考えた。
 【隠れ身】で身を隠し、広目天の霊眼を駆使して不要な戦闘は避けつつ、隔壁の向こうにある室内へと潜入した。
「さて、この場所のどこにあるのかな……」
 ウルディカはぐるり周囲を見渡した。
 室内は右翼と同じ構造をしており、中央には同じく巨大な剣の形をした儀式装置が置かれていた。
 しかし――
「ここにもないのか」
 ≪三頭を持つ邪竜≫の心臓らしきものはどこにも発見できなかった。
「とりあえずエンドロアに連絡を入れて――」
「なんだもう帰るつもりか?」
「――!?」
 突如頭上から声が聞こえ、見上げると唯一空いた天井部分から≪アヴァス≫の最高幹部ジェイナスが降りてきていた。
 ウルディカが深緑の刃を構える。
「何もしないで帰るなどもったいない。せめて俺を楽しませてもらわなきゃ」
 銀色の刃で作られた翼を広げて降り立ったジェイナスは、笑みを浮かべながら腰に下げた剣をゆっくりと引き抜く。
 ウルディカの首筋を一筋の汗が流れた。
「…………」
 ジェイナスが強敵であることは聞かされていた。
 幹部クラスと出会った場合、障害物を利用して退避。その後、仲間の救援を待つつもりでいた。
 しかし、この場所はそれに適さない。支柱とパイプが天井にいくつか伸びている以外は視界は開けている。
 逃げ出した場合、すぐ傍に廊下には見逃してきた兵がいるし、何より背を向けた瞬間に命の危険性は何倍にも膨れ上がるだろう。
「向かってこないのか? ではこちらから仕掛けさせてもらおうか!」
「くっ――!?」
 ジェイナスの素早い剣戟を深緑の刃で防ぎつつ反撃にでるが、ウルディカの攻撃は銀色の翼に阻まれてしまう。
「なんだ、そんなものか!?」
 ウルディカの身体に傷が増えていく。
 ジェイナスは直撃を狙わず、いたぶることを楽しんでいた。
 その間に脱出する策を思考するするが、どれも実現性が見えない。
 ウルディカの足元がふらつき始め、ジェイナスの攻撃が止まる。
「この程度か――」
 ジェイナスが舌打ちをして、突き刺すような構えをとる。
 ウルディカは背筋が凍りつくのを感じた。

 ――やられる

 ウルディカが咄嗟に防御姿勢と取ったのと同時に、ジェイナスが地を蹴った。
 額を狙って迫りくる剣。
 その時だった。
「やらせません!」
 ジェイナスの剣が――止められる。
「ご無事ですか、ウルディカさん?」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が攻撃をずらして、刀で受け止めていた。
「そう易々とはやらせません……」
「邪魔しやがっ――!?」
 ジェイナスが叫ぶのをやめて、飛び退く。
 すると、さきほどまでジェイナスがいた場所を【天の炎】が襲った。
「ウルディカ、無事か!?」
 入り口を振り返ると、そこにはウルディカの契約者であるグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の姿があった。
 さらにその後をグラキエスとフレンディスの仲間が入ってくる。
 距離をとったジェイナスが舌打ちする。
「随分、大人数だな」
「おいおい、そんなこと言ったらそっちはどうなんだよ。要塞中は敵だらけだったぞ」
「キミ達がここにいるということは、そいつらは無能ということさ。そんな奴ら数に入らんよ」
 言い返してきたベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)に対して、ジェイナスはワザとらしくため息を吐いてみせた。
 グラキエスが一歩前へ出る。
「久しぶりだな。今度は俺の仲間が世話になったようだな」
「ん? お前は……あの時の奴か」
 グラキエスはジェイナスと心臓を巡って戦闘をしたことがあった。
 その時は予想外の攻撃に傷を負わされ、心臓をとられてしまった。だが――
「今回は思い通りにはさせないさ」
「できるかな?」
「本気だからな」
 グラキエスがアクティースを取り出して構える。
 すると、魔鎧になっているアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)と、ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)が、沸々と込み上げる怒りを抑えながらピリピリした声を発する。
「ほほう、奴が主に傷を負わせた不届き者ですか……」
「エンドを傷付けた報いを受けさせてやる……」
「アウレウスとキースは……少し落ち着け」
 二人の発言に、グラキエスは皺のよった眉間に手を当てていた。
「いいか、アウレウス。傷は大した事はない。
 それに俺はあいつに聞きたいことがある。殺されては困る。ボコボコにしてもいいが連れて帰るんだぞ」
「う、うむ。主がそう言うのならば……でしたら!
 主よ、我が力存分にお使い下さい! 私の鎧、私の力が、主をお守り致します!」
「ああ、よろしく頼む」
 グラキエスは撫でるように、魔鎧として銀装飾の黒いロングコートになったアウレウスに触れた。
 そしてロアの方に視線を向ける。
「キースにはやることがあるだろう。言ってみろ」
「……儀式装置の破壊です」
「そうだろ。俺達はあいつと戦わなくちゃいけない。だから、これはキースを信頼して頼むしかないんだ」
「は……はい! そういうことなら、よろんで!」
 ロアはグラキエスの『信頼』の言葉に上機嫌になり、一緒に儀式装置の破壊を担当することになった忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)に話しかける。
「忍野君、一緒にエンドのために頑張りましょう!!」
「う、うん。僕は僕のご主人様のため頑張ります……」
 いきなり、両手を掴まれて握手をさせられたポチの助は、目を丸くして驚いていた。
 ようやく、解放されたポチの助は主であるフレンディスに尋ねる。
「ご主人様、あのでっかい剣が儀式装置でしょうか?」
「おそらくそうだと思います。お願しますね、ポチ」
「はい! 任せてください!」
 ポチの助は元気いっぱいに返事をした。

「いい加減、話は纏まったかな」
 それまで黙って様子を聞いていたジェイナスが小さく笑いながら尋ねてきた。
 グラキエスがジェイナスを睨みつける。
「ああ、随分待たせてしまったな。そろそろ開戦と行こうか」
「そうだな……」
 ジェイナスが剣をグラキエスに向ける。
「今度こそ、確実に息の根を止めてやろう」
 瞬間、ジェイナスの銀の翼を構成する刃がグラキエス達を襲い始めた。
 生徒達は飛びのいて攻撃を回避する。
「グラキエス! 一気に氷漬けにするぞ!」
「了解!」
 ベルクは【クライオクラズム】を、グラキエスが【ブリザード】を放つ。二つの絶対零度の吹雪がジェイナスを襲い、室内の気温が一気に下がっていく。
 盾になったジェイナスの銀の翼が二つの攻撃を同時にくらって凍りつく。
 だが――
「――だめか」
 銀の翼は微振動を起こしてあっさりと氷を剥ぎ取った。
「悪くない攻撃だ。しかし、この程度の攻撃で俺の翼を敗れると思うな!」
「主!」
「わかってる!」
 ジェイナスのもう片方の翼から、無数の刃となった羽がグラキエスとベルクに襲いかかる。二人は空中に飛んで回避する。
「吸血鬼! 接近戦は得意か!?」
「ふざけんなっ!」
 剣を抜いて接近してくるジェイナスから、ベルクは氷の刃を放ちつつ距離をとろうとする。
「くそっ、追いつかれる!?」
「もらっ――!?」
 追いつかれそうになったベルクの前に、フレンディスが放った鉤爪・光牙が走る。
「マスター! どいてください!」
 フレンディスの言葉に慌ててその場から移動したベルク。その背後から、壁を蹴って跳んできたフレンディスの影がジェイナスに攻撃をしかける。
「    」
「くっ、ただの影ごときが!」
「捕らえた!」
 影の攻撃を剣で受け止めて飛ばしたジェイナスを、グラキエスの【天の炎】が包み込む。
「どうだ!」
「――まだです、主!」
 殺気を感じ取ったアウレウスが【エンデュア】を発動する。その直後、炎の中から風の刃がグラキエスに向かってきた。
 咄嗟にアクティースで防御したグラキエスは、アウレウスのおかげでダメージを軽減することが出来た。
「助かったよ、アウレウス」
「いえ、主を守るのが役目ですから」
 ジェイナスが包んでいた炎を吹き飛ばす。
「さすがに三対一は厳しいか……ん?」
 視線の片隅に儀式装置に近づくロアとポチの助の姿が映る。
 二人は儀式装置からの配線コードの鞭を回避しながらどうにか近づこうとしていた。
「ちぃ!」
 ジェイナスがロアとポチの助に向けて急降下する。
「やらせるか!」
「まずい!」
 グラキエスとベルクが魔法を放って足止めを狙うが、ことごとく回避されていく。
「私が止めます!」
 フレンディスが刀を手に接近戦を挑む。
「邪魔だ、忍!」
 斬りかかってきたフレンディスの存在に気づいたジェイナスは、剣を振う。
 放った剣は見事にフレンディスを斬り裂いた――ように見えた。 
「こっちです!」
「!?」
 【空蝉の術】で回避に成功したフレンディスは背後に回り込んで【魔障覆滅】を叩き込んだ。
 ジェイナスが吹き飛ばされ、支柱を破壊して壁に叩きつけられた。
 ベルクは大きく息を吐きながら、フレンディスの傍に降りてくる。
「やったのか?」
「いえ――」
 しかし、フレンディスの目は巻き起こる土煙の向こう、ジェイナスが叩きつけられた壁を睨んでいた。
「あの手応えはおそらく……」
「やってくれたな」
 ジェイナスが土煙の中から現れる。
 その身体に傷はなく、代わり翼が片方折れ曲がっていた。だがその翼もすぐに元の形へと再生してしまう。

「よし、今のうちに! 行きますよ、忍野君!」
「OKです!」
 ジェイナスを仲間が足止めしている間に、ロアとポチの助は儀式装置に向かって走った。
「僕が前に出ます!」
 獣人の姿になっているポチの助は、雷を付加した剣と銃をそれぞれの手に持ちながら、前に立つ。
「アインス、ツヴァイ、援護を!」
 ロアはミニアインスとミニツヴァイを取り出して援護に回した。
 そして、攻撃を回避して近づきつつ、ロアはどこを破壊するばいいか考えた。
「おそらく、あの剣の根元――配線が絡まっている部分を破壊すればいいはず…… 忍野君、爆弾持ってますよね?」
「はい!」
「では、行きましょう!」
 二人は攻撃を切り抜けて儀式装置に近づくと、爆弾をセットし――破壊する。

 儀式装置の破壊は配線が通っていた部屋全体に大きなダメージを与えた。
 支柱や壁、天井が崩れたのだ。
 ジェイナスは空を飛んで、晴天の空の下へと飛び出した。
「くっ、よくも……」
 苦い顔をするジェイナス。
 すると、煙の中から魔法攻撃が飛んできた。
 咄嗟に回避すると、今度はグラキエスが猛スピードで斬りかかってくる。
「!!」
 お互いの刃がぶつかりあい、激しい火花を散らす。
 一端は離れたものの、空中を駆けながら幾度となくぶつかり合い、その度に要塞が浮かぶ空に金属音が鳴り響いた。
 ようやくお互いが距離をとる。
「……思った以上にやるな」
「どうも。アウレウスのおかげではあるけどな」
 グラキエスがアウレウスに触れると、日光に反射して銀装飾が煌びやかに輝いた。
 ジェイナスが地面に向かって唾を吐く。
「悪いがこれ以上遊んでいる暇はない。一気に決めさせてもらうぞ……」
 翼を構成していた銀色の刃がジェイナスの剣に集まり、巨大な鎌となる。
 ジェイナスは空を斬り裂くと、鎌を腰の位置で構えた。
「さぁ、かかってこい」
 ジェイナスが待ち構えている。
 グラキエスは相手の目をじっと見つめ、アクティースを握る手に力を込めた。
「アウレウス、悪いが付き合ってもらうぞ」
「……はい」
 グラキエスがまっすぐ突撃していく。
「少しはできるかと思ったが、バカな奴だ……」
 ジェイナスは残念そうにため息を吐くと、間合いに入ったグラキエスに向かって鎌を振う。
 その攻撃を後ろに跳ねることで、ギリギリ避けるグラキエス。
 風を斬り音だけが虚しく響く。
 そして、再び進みだした時、ジェイナスが小さく何かを唱え、無数の風の刃が空中に発生した。
 そして――
「ここだ!」
 グラキエスは大きく身体を反らし、ジェイナスに対して身体を垂直の状態にして攻撃を回避した。
「なっ!?」
「くらえぇぇぇぇ!!」
 そのままの勢いでジェイナスに踵落としを食らわせる。
 数メートル降下してどうにか踏ん張ったジェイナス。その表情は驚きに染まっていた。
「なぜ避けられた!?」
「……まぁ、二回目だしな。とはいえ、完璧じゃないけどさ」
 グラキエスが自身の頬を触ると、手に血がついてきた。
「あのいきなり現れる風の刃は、鎌に変形させて振り回した時とまったく同じ場所で出現していた。だから、もしかしたら今回もと思っただけさ」
 白い歯を見せて笑うグラキエス。
 それに対してジェイナスは苦い表情をしていた。
「……まったく大した奴だ。さっきの発言は撤回しておくよ」
「それはどうも」
 お互いに武器を構えなおす。次の攻撃が決まる時、それが決着の時だと、両者が思っていた。
 その時――
「見つけたぁぁぁぁ!!」
「ん――!?」
 ふいに下から声がしたかと思うと、ジェイナスが後方へ飛びのき、元いた場所を赤い人影が通り過ぎて行った。
 その人物はジェイナスへの攻撃を当て損ねると、要塞の屋根へと着地する。
「ようやく見つけたよ。随分探し回ったんだからねっ」
 左の拳に炎を宿し、目から闘志を燃えたぎせる緋柱 透乃(ひばしら・とうの)がそこにいた。
「さて、殺し合いを始めよう♪ 本気で、どっちかが死ぬまでやめないからね!」
「おい、ちょっと待て!」
 拳を手のひらに叩きつけて気合いを入れる透乃に、グラキエスが制止を呼びかける。
「こいつには聞きたいことがあるんだ。だから殺されるとこま――」
「殺す!」
 透乃はグラキエスの言葉を遮ってはっきりと告げた。
「誰がなんと言おうがやめるつもりはないね! 邪魔するなら私達全員でおまえを殺すから!」
 殺意の篭った目を向ける透乃。
 グラキエスが足元に視線を向けると、透乃の仲間が臨戦体制を取っていた。
 頭にズキズキと痛くなってきた。
「どうしますか、主?」
「どうするってそりゃ……」
 グラキエスが大きなため息を吐く。
 彼には心臓の場所や札についてなど、聞きたいことがいくつもあった。
「仕方ない。ジェイナスを捕えつつ、どうにかこの人達も止めるぞ」
「了解です」