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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

リアクション

「敵の動きは主に二つ。脱出の阻止と封印の妨害か……」
 佐野 和輝(さの・かずき)は一番高い位置にある時計塔の鐘の下で、携帯電話を手に街全体を見渡していた。
 事前に番号を交換することで仲間と連絡を取り合いつつ、手元の地図に敵の動きを書きこんでいく。
「キマイラは生徒が交戦し、足止め中……これだと陣を描く方の護衛に人手が足りないか」
 和輝は携帯を操作して松永 久秀(まつなが・ひさひで)と連絡をとる。
「久秀……ああ、俺だ。西側で生徒がキマイラと交戦している。そのせいで陣を描いているやつの足止めに人手が不足している……」


「……了解よ。ここは久秀に任せなさい」
 久秀は和輝からの電話をきると、部下に指示を与え始めた。
「親衛隊! 用意してある大木を運んできなさい!
 火をつけて迂回させるわ!」
 親衛隊員が、荷車に摘んだ丸太を道に並べ始める。
「飛装兵は今すぐ陣を描いている者の所へ行って状況を報告! 急ぎなさい!」
 飛装兵が陣を描いている生徒の所へ向かう。
「さて、突破されると問題ね……手が空いて者! 弓を持ちなさい! 当たらなくてもいい! 脅しになればいいわ!」
 久秀は指示を出しながら着々と準備を進める。


「久秀は順調そうだな。次はアニスとスノー……」
 一瞬、携帯でかけとうとした和輝の手が止まる。
「そういえば、こいつがあったな……おい、アニス」
 和輝は【精神感応】があったことを思い出し、アニス・パラス(あにす・ぱらす)に呼び掛ける。すると、すぐに元気な女の子の声が返ってきた。
『はいはーい♪ アニスだよぉ? 和輝、どうかしたのぉ』
「ああ、実は久秀が敵を追いこんでるんで、その後詰めを頼みたいんだ」
『らじゃ! 任せてぇ♪』


「ふふ〜ん♪」
「和輝はなんて?」
 アニスが和輝との【精神感応】を終えた所で、スノー・クライム(すのー・くらいむ)が話しかけてくる。
「えっとねぇ……」
 受けた指令内容をアニスはスノーに伝える。
「じゃあ、私達は先回りして待ち伏せするわよ」
「あ〜い♪」
 スノー達は伝えられた待ち伏せ地点に移動する。
「悪いけど、囮役をお願いね」
 アニスと物陰に隠れたスノーは、飛装兵を通りで待機させた。
 暫くして騒がしい足音が聞えてきたかと思うと、≪氷像の空賊≫が現れる。
「アニス、準備はいい?」
「いつでもいいよん♪」
 飛装兵に気づいた≪氷像の空賊≫が武器を手に走ってくる。
「もう少し……」
 スノーは片手をあげて、アニスにタイミングを指示する。
 ≪氷像の空賊≫がある程度近づき、スノーが上げた手を――振り下ろす。
「いまよ!」
「らじゃ――!」
 アニスが通りに飛び出して【稲妻の札】を投げつける。
 ≪氷像の空賊≫の頭上に飛んでいった札は、巨大な稲妻を地上へと降り注ぐ。
 何体もの≪氷像の空賊≫が弾けるように粉々になっていく。
「残りは私がやるわ!」
 スノーは幻槍モノケロスを手に、倒し損ねた≪氷像の空賊≫を追撃する。
「シーリングランス!!」
 スノーは≪氷像の空賊≫を一人残らず破壊していく。
 ≪氷像の空賊≫が全て倒され、待ち伏せ作戦は和輝の指示通りうまくいった。
「アニスご苦労様」
「楽勝だったねぇ♪」
「さて、和輝に次の指示を……」
 スノーが次の指示を仰ごうとした時、ネクロマンサーを探す源 鉄心(みなもと・てっしん)達がやってくる。
「……見つけましたよ」
「あら? 私達を探していたの?」
「ええ、ちょっと和輝さんに連絡を聞きたいことがあって……」
 鉄心は和輝からネクロマンサーの居場所を見つける手がかりがないか聞きに来た。
 携帯電話で尋ねることも可能だったが、近くにいるとの話だったので直接聞きに来たのだが――。
「でも、ここに和輝はいないわよ。彼は時計塔の方にいるわ。ここにいるのは私とそこのアニスだけ――?」
 スノーが振り返ると、いきなりアニスが走ってきて足にしがみついてきた。
「どうしたのアニス?」
 アニスがしきりに首を振る。
 すると、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)がいまにも泣き出しそうな表情でスノーに訴えてきた。
「わ、わたくし、話しかけただけですのに……」
「あ、そうなの。大丈夫。泣かないで。この子はその……人付き合いが苦手で、少し人見知りするのよ。
 ああ、もう。アニスもそんなに引っ張らないで、怖がらなくて大丈夫だから……」
 スノーはイコナを慰めつつ、アニスを落ち着かせようとしていた。その姿はまるで姉や母のようだった。
 その横で鉄心は難しい顔をしてため息を吐いた。
「……仕方ない。時計塔まで行くか」


 携帯で連絡を受けた和輝は、鉄心達が到着までにネクロマンサーの居場所に検討をつけることにした。
「どこだ。さすがに街の外ということはないだろうが……」
 敵の出現位置と動きを調べ直しながら、推測を立てていく。
 その時、携帯が鳴りだした。
「……どうかしたか?」
 和輝に電話してきたのはシャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)だった。中央の大通りを大量の≪氷像の空賊≫が侵攻してきたとの知らせだった。
「わかった。……とりあえず御凪に連絡して援護に向かわせる。しばらくはそれで対応してくれ」


「おーい、グレゴ。増援が来るそうですよ〜」
 シャノンがワイルドペガサスで騎乗して敵を迎え撃つグレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)に呼び掛ける。
 【ヒロイックアサルト】で強化した剣で≪氷像の空賊≫を斬り裂くグレゴワール。
「了解……それはいいとして食べながら話をするのはやめたらどうだ。行儀が悪いぞ」
「ん?」
 シャノンは手に持ったハンバーガーを食べる手を止め、面倒そうな表情をする。
「えー、でも疲れたんですよ? 栄養を補給しないと戦えないです。だからちょっと待って……」
 そう言ってシャノンはハンバーガーを口に詰め込んだ。
「やれやれ……まぁ、それで頑張ってくれるならいいか……」
 盾と剣を手にしたグレゴワールが向かってくる≪氷像の空賊≫を睨みつける。
「民を守り、民を害するものを討つ事こそ、騎士の本懐!
 故に、今この地より我は我が聖戦を再開しようぞ!
 テンプル騎士団上級騎士、グレゴワール。いざ参る!」

 グレゴワールは名乗りをあげると、手綱を引いて≪氷像の空賊≫に突撃していく。
「……うん、ごちそうさまでした。グレゴ、いま援護しますよ」
 食事を終えたシャノンはグレゴワールの援護に魔法を唱え始める。
「グレゴ、炎で攻めますよ!」
「了解。合わせろ!」
 グレゴワールは【爆炎波】で≪氷像の空賊≫の攻撃をしかけ、さらにシャノンが【火術】で追加攻撃をしかけた。
 燃え盛る二つの炎は≪氷像の空賊≫を溶かしつくしていく。
「これで少し――」
「まだだな」
 倒しても倒しても、大通りを侵攻してくる≪氷像の空賊≫。
「そろそろ援護が――」
「遅くなりました!」
 シャノンが苦い顔をしていると、御凪 真人(みなぎ・まこと)セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が援護に到着する。
「ナイスタイミングです!」
「こいつらの目的は博物館とその向こうの港だと思われます」
「そこにはまだ避難中の住民が……民を害する者共! 我が剣と盾が許さぬ!!」
「当然よ。私だってそんなこと許せないわ! ねっ、真人!」
「生贄なんて非道な行い、絶対に許すわけにはいきません!」
 各々が武器を構え、臨戦態勢をとる。
「皆さん、準備はいいですか!? 手加減なしでいきますよ!」
「「「了解!!」」」
 グレゴワールとセルファが前線を、真人とシャノンが魔法で後方支援に動く。
「セルファ、敵を攪乱を頼みます!」
「了解よ。援護をお願いね!」
 強化光翼をつけたセルファは、【ライド・オブ・ヴァルキリー】で一気に敵に飛び込む。
「よし、君たちも頼みますよ!」
 セルファの後を真人が呼び出した召喚獣が続く。
「まずは敵を分断させる!」
 高速で突撃をしたセルファは【乱撃ソニックブレード】で≪氷像の空賊≫の隊列を中央から崩しにかかる。
「サンダーブラスト!!」
 別れた≪氷像の空賊≫を真人の放った雷が襲いかかる。
「セルファ! 囲まれないように注意してくださいね!」
「わかってるわよ!」
 セルファは敵の列を駆け抜けながら、ナタと脚刀で次々と敵を倒していく。
 その姿を見たグレゴワールが嬉しそうに笑う。
「こちらも負けていられんな――轟雷閃!」
 グレゴワールの持つ剣に雷が宿る。
「雷の剣ですか。でしたらこれも、どうぞ」
 さらに真人がグレゴワールの剣に稲妻を落とし、雷の威力をさらに向上させる。
 巨大な雷を蓄えた剣を振りかざすグレゴワール。
「これなら! くらえ――轟雷閃・進撃波!!
 グレゴワールが剣を叩きつけるように振り下ろすと、剣に宿った雷が地を走り≪氷像の空賊≫を吹き飛ばした。
 強烈な一撃を放ったグレゴワールは肩で息をしながら呼吸を整える。すると、真人が傍によってきた。
「うまくいきましたね」
「ああ……だが、それなりに痺れたぞ」
 真人は苦笑いを浮かべていた。
「皆さん! これより全体攻撃を行います! 援護を!」
 シャノンは何事か呟きながらタブレット型端末KANNAに入力を行う。高まる魔力――。
 そして、溜めた魔力を聖なる光に替え、シャノンが≪氷像の空賊≫へ向けて放つ。

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 光は多くの≪氷像の空賊≫を飲み込み、消し去っていった。
 そして、魔法を放ち終えたシャノンは――
「ちょっと……休憩……します」
 ハンバーガーを食べ始めた。
「ハンバーガーが好きなの?」
 一端後退してきたセルファが尋ねる。
 すると、シャノンは口に含んでいた物を飲み込んで答える。
「と、いうよりはジャンクフードが好きなんですよね」
「そうなの……そういえば、そこの通りにもハンバーガーの店あったわよ。後、もうすぐこの街で行われる祭りにも、そういった食べ物が色々出されるって聞いたわよ」
「そうなんですか!?」
 セルファの言葉に、シャノンは瞳を玩具を目の前にした子供のように輝かせていた。
 
 その時――轟音が鳴り響き、街の入り口近くに砲撃が着弾する。

「封印の柱が……」
 砲撃により、陣の完成を告げる光の柱が一つ消えてなくなった。これではもう一度同じ場所に陣を描き直さなくてはならない。
 気付けば要塞は街にだいぶ近づき、入り口付近まで砲撃が届くようになっていた。