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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 5

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 5

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第10章 情報交換

 集合時間になり、互いに情報交換をするべく生徒たちはコテージへ入った。
 真宵はギリギリまで風呂に入っていたため、髪を乾かさないまま来た。
「なんですか、真宵。濡れた髪のままなんて、だらしないのですよ!」
「しょうがないじゃないの。そんなにギャーギャー言うと、また汗が出るわよ」
 悪びれる様子も見せず、ツンとした態度を取る。
「先生方は、このコテージには来ないのですね?」
「出来るだけ任せてみようってことなんじゃないの」
「あれ?刀真がいない…」
「待機用のコテージにでもいるのだろう。摘むものがいろいろとテーブルにあるな、お茶を買っておいてよかった」
「た〜ま〜も〜…!!!また俺の金を使ったなーーっ」
 刀真は1日のほぼ半分は待機するらしく、教室でモニターを眺めているだけた。
「やかましいですぅう!!」
 騒ぎ立てる刀真の額にチョークをヒットさせた。
「うぅ、なんで俺ばっかり…」
 額にチョークが飛んでくるだけでなく、尻をハリセンで叩かれ、扱いの酷さに悲しくなってきた。
 そんな彼の嘆きなんて知る由もない2人は、得た情報を皆に話していた。
「私と玉ちゃんは、村の子供に聞いたんだけど。誰も行きそうにない道に、若いお母さんが行ったきり帰って来てないの」
「俺も村の女の子に聞いたけど。ひょっとして同じ人かな?」
「エースも聞いたの?」
「だったら僕たちが教えてもらった話もそうかもね。民家で聞いたんだけど、村に住んでいる男の人の奥さんが、森の野草摘みに行ったまま家に帰ってないんだって。戻らないような予兆の言葉とかはなかったみたいだよ」
「たぶんだけど2人の話は、同じ人物についてのことね」
 月夜は頷き、それぞれの話は同一のものだとノートに書く。
「攫われた人の年齢は皆、若い人ばかりのようだな。10歳未満は対象にならないっていうのが気になるけど」
「体格が関係しているのかな?」
「そうかもしれぬな。我が聞いた村の伝承は…川には化け物が住みつき、本当は行ってはならぬような場所のようだ。忠告を無視して行けば、食われる…とな」
「―…それは穏やかではないですね」
 ルイーザはショップで買ったキャンドルに火を灯す。
 失踪事件など起きなければ、子供に言い聞かせるただの伝承だと思うだろう。
 玉藻の話からするとそれはもう、ただの伝承ではない、と誰が聞いても理解出来る。
「対象は男も女も関係ないということだが…。こう考えてはどうだろうか?対象が食べる頃合にちょうどよい基準だとな。幼すぎては、まだ十分な栄養が備わっていない。かといって、年を重ねたものでは風味が劣るということだ」
「食べる…?それなら、所持品が川に沈んでいたのも関連づくわ。攫った相手を溺れさせるためにね」
 おそらく川へ引きずり込まれようとしたのだろうとセレアナが言う。
「やっぱりあれって、逃げようとしてた人の足跡なんだネ」
 森でトゥーラが発見した足跡は、魔性から逃走しようとしたようだ。
「あの様子からすると、再び捕まった可能性が高いですけね…ディンス」
「私は役立つような情報を発見出来なかったわね…。皆、頼りにしてるわ」
 もらうばかりではなく目ぼしい情報を得られなかった分、必ず変わりに実戦で役立つつもりだ。
 ただし実戦においても陣頭指揮を行う気はない。
 彼らの力を信じつつ、サポート役に回ろうということだ。
 その言葉はグラルダの中でも上位の賛辞だった。
「ワタシたちもダラルダさんのこと、頼りにしているよ。一緒に頑張ろうね」
「えぇ…。そっちは何か見つけたの?」
「特徴で選ばれているんじゃなくって。関係あるのは、年だけみたいだね」
 弥十郎は魔性の捕食対象にされたのは、それだけなのだろうと聞いた情報を頭の中で纏める。
「つまり儀式などは関係ないってことですか…」
「それじゃなかったのは、不幸中の幸いってことかな?」
「―…なぜですか、北都。食べられるほうがましだということですか」
「ううん、そうじゃないよリオン。仮に儀式だとしたら、これだけ大勢いなくなっているなら。もうすでに、行われている可能性のほうが高いよ。今は夏場って分かってるよね?」
「それって…。皆殺してしまったら、食べる前に痛んでしまうということですか…」
 食用としてまだ生かされている希望もあるかと頷いた。
「だが、今になってなぜそのようなことを?昔から住んでいるなら、もっと早く事件になっていてもおかしくないのだが…」
 なぜ今頃、村人や観光客を狙うのだろうか、と樹が疑問を持つ。
「川の傍に傷ついた動物が何匹もいたんだ。エルデネストに治してもらったが…。もしかすると、本来はそういう生き物を糧にしていたのかもしれない…」
 食事は別のものが対象だったのだろうとグラキエスが言う。
「わたくしが見つけた靴って、川に連れて行かれた人が落としたものだったのね」
「私が発見した靴は濡れていましたから、そうだったんですね…」
「攫われた人は皆、通信手段を奪われているみたい。それに電子機器類が川から発見出来なかったのよね」
「グレムリンの仕業とは違うな」
「うん、グレ子が食べるのは菓子だもんね」
 グラキエスの話に人なんて襲わないはずだとクマラが頷いた。
「器は魚かもしれないな」
「川へ向かう途中に発見したのでしたよね、マスター」
「あぁ。他の動物や鳥に襲われて食べられたけどな…」
「それだけとは限らないんじゃないか、ベルク。発見出来ない機器類も器としている可能性もある」
「2パターンのタイプがいるってことか?」
 生体と無機物、それぞれ憑ける対象が異なるのかとグラキエスに聞く。
「そこまで確定は出来ない…」
「お店の人から聞きましたが、友達連れの宿泊客も行方がわからないようです」
 朝から姿を見せない友達を探しに、ショップを訪れたもう1人も、宿に戻っていないのだろうとロザリンドが話す。
「宿泊場で調べたけど、戻ってないみたいだよ。受付の人がメモしている記録を見せてもらったんだ」
 終夏はスーちゃんの苺ドロップを食べながら、ロザリンドの情報と繋げた。
「ノートにリストをメモしておいたぞ」
「私のほうは村長に、いなくなった村人について訊ねたところ、やっぱり若い人がいなくなっているようです」
 甚五郎と明日香が皆にリストを見せる。
「村人の話からすると、住人は滅多に川へは近づかない。特に日が沈む頃は、確実に行かないらしい。普段はそれほど村から離れず、野草などを採取しているということだ」
 涼介も得た情報を皆に聞かせる。
「野草などには異変がないということだが、村で見かける野良の生き物が減っているようだ」
「それが…、俺たちが見た傷ついた動物なんだろうな」
 グラキエスたちだけでなく和輝もそれを目撃していた。
「アニス、リオン…そうだったよな。……。(早く、大人数の中にいる空気にも、慣れてもらいたいが。まだ無理か)」
 パートナーの方へ振り返ると、アニスはリオンとドッペルゲンガーの後ろで震えている。
「俺とガイが聞いた伝承だと、魚のような馬のような化け物が川にいるらしい。身体の一部が魚なら、魚だけ器にするってどういうことなんだろうな?」
「おそらく食事のためでしょう、ラルク。自身に物質の質量がないとすれば、それを得るための器ということですな。魚を選んだ理由は、適用箇所があるからでしょう」
「そうすると他の部位は、馬の代わりに機器類とか?」
「複数の器に、同一の魔性が憑くことにならない?」
 本当にそこまで能力があるのだろうか、とルカルカが言う。
「そこらへんがよく分かんねぇんだよな」
「大きな獲物を噛み砕くために、硬い機器類を選んだのかもしれないわ」
「いくら身体の一部に合うものとはいえ、それを全身に適用して人を食べるのは不可能そうだ」
 淵も骨まで食らう気ならば、もっと丈夫な牙を持てそうなモノを選ぶだろうと考える。
「俺がサイコメトリした情報はこれだ」
 所持品に触れて探ったものを纏めたノートを開き、回し読みしてもらう。
「村から森までの道のりは不明だが、所持者は川へ連れて行かれている。最初は抵抗している感じなどはあったが、途中でそれがないように見えた」
 見たイメージは同じような道ばかりで、これといった特徴もない。
 攫われた者は、魔性に対して抵抗しようとするものの、なんらかの手段で抵抗力を奪われてしまったようだ。
 その手段はサイコメトリでは読み取れなかった。
「肝心の魔性については、姿はこの村で聞いた伝承通りのようだ。馬のような姿たが、身体のどこか一部は魚だということだ」
「道端の草に聞いてみたのですが…。姿を見せず、言葉で人々を誘い出したりしていたようです…。本当に言葉だけか、分かりませんが…。そ、それから…森から村にやってくる動物も減っているそうです」
 結和は村に生えてる草に教えてもらったことを話した。
「―…つまり肉食で、ある程度育った若い者にしか口にしないのね。食事はある意味、きちんとしてるみたいね…?で、馬と魚が融合したような雰囲気ってことかしら。」
 コレットはこれまでの情報を、メモ用紙に書いて纏めた。



「甘すぎなくって美味しいね」
 ノーンはドライフルーツやグミの菓子袋を広げて皆に配る。
「バスケットのもらっていいの?」
「ど、どうぞ」
「ありがとう!」
 バスケットを開くと、どす黒い空気が漏れてきそうな、奇妙な色合いのオープンサンドが詰められていた。
 赤と黒、群青色といった、どう見ても美味しそうに見えない、グロい色彩だ。
「栄養バランスを考えてたら…こんな感じになってしまいました…」
「よしなさい、ノーン」
「作ってきてくれたなら、食べようよ。―…普通だよ?」
「食べても問題ないが」
 結和が作ったオープンサンドを涼介も食べる。
「―…なんともありませんわね」
 恐ろしい見栄えと逆に、意外と味は普通だった。
「ダリル、タルトを残してあるだろ?」
 まだ残っているはずだと羽純が言う。
「あぁ。さすがに人数分は厳しいから早い者勝ちだ」
 全員には行き渡らないとダリルが告げた瞬間、羽純とルカルカがハイスピードで食べ進める。
「おい…。他の者のことも考えたらどうだ」
 呆れてため息をついた彼は、タルトを詰めた箱を手元に回収した。
「何するんだダリル」
「そうよ、返して!」
 好物の甘味を取り上げられた2人が怒る。
「―…奪い合うな」
 近くに置くと食われてしまうと思い、2人から遠くの位置へ置いてしまった。
「エリザベート殿の分がなくなってしまいそうだな」
「人数分持ってくるのは無理だ。教師なんだから我慢するだろう」
 モニターを見ているのだから、抗議するのではあればすぐさま連絡がくるはずだと言う。
「お店から村の地図をもらったんだけど、人数分は揃えていないから見て覚えてね」
 何人分も持っていくと他の客の分がなくなると思い、終夏は地図を広げてテーブに置く。
「そんなのがあったのか?俺たち、地図を作ったんだが」
「うん、それも参考にしよう」
「森の地図はないの?」
「銃型HCに大規模な要領はないからな」
「手がかりを発見した場所程度なんだよね、オヤブン」
「私たちはセイニィについて調べたわ。1人で遊びに行って、夜中に魔法学校へ向かう途中、魔性と遭遇したんじゃないかしら」
「話の流れからして、食べ物や所持品でおかしくなったわけはなさそうですわ。今回の魔性が相手の実年齢なんて分からないでしょうし、見た目の年齢で選んでいる感じがしますわね」
 かなりの知恵者かもしれないが、そこまで鼻が効くとも確定出来ない。
「セイニィが買ったものをメモしたの。所持品の中にない?」
 美羽は所持品リストをグラキエスに見せた。
 彼はそれを見ながら回収袋の中を探すと、セイニィが買ったと思われるキャンドルなどが出てきた。
「おおまなか位置しか分からないが…」
「全部濡れてるわね」
 所持品をキレイにしてあげようと、美羽はバッグやキャンドルなどを風呂場で丁寧に水だけで洗う。
「干しておけば、夜には乾くかな?」
 簡易の物干しにかけておいた。
「食べ物の鮮度に拘るのなら、食べられた者がいるなら衣服も落ちているはずですわ」
「そういうものは見当たらなかったな、綾瀬」
「―…今は皆無事ということでしょうか…」
 血のついた服などは発見していないらしく、早めに見つければ犠牲者を出さずに済みそうだ。
「村の中で、ルイ姉に魔性の探知をしてもらったけど。何の気配もなかったわ、村に住み着いているわけじゃないみたい」
「店で変更された材料などはないみたいだし。店などには関連はない…ということだね、フレデリカくん」
「えぇ、クリストファーさん。村全体を守らなきゃいけないっていうわけじゃなさそうだから。森へ行く人員を増やせるわね」
「休憩が終わったら、誰がどこ行くか決めるんか?」
「あまり長い時間を取るのは難しいわね、陣さん。誰と行くか固定化するのは術の関係とかもあるから、相談はしなきゃいけないけど」
「失踪者の特徴は、皆と同じものだが…。失踪経路も他の者が得た情報と同様に、歩きやすい道を除いてもバラバラのようだな」
 作った地図を樹がフレデリカの方に寄せる。
「人目の少ない場所が発生する早朝や、夕方などが現れやすいようだが。全員で待ち構える必要はないだろう?」
「何匹か祓っても、確実に行方不明者の居所を言うとは思えないものね」
「捜索は川の周辺で行うとしても、相手の正体を判明させておかないとな…」
「エリザベートちゃんに電話をかけますね。…繋がりました、どうぞ」
 明日香が校長に電話をかけ、樹に携帯を渡す。
「魔法学校の校長殿、モニターで見ていたのだろう?正体不明の相手をするのは、さすがに厳しい。助言を頂きたい」
「皆さん、いろいろと調べてくれたみたいですぅ〜。ほとんどの身体は馬のような感じなんですが、尾のほうだけ魚の魔性がいるんですよねぇ〜。人を襲うアハ・イシュケとも思ったのですがぁ〜…塩水域に住む者ですし、ちょっと違う点もありますからねぇ。…おそらくケルピーの仕業だと思いますぅ〜」
 エリザベートは電話越しで、魔性について話す。
 ケルピーは毛並みが整った美しい馬。
 道に迷った者を川へ引きずり込む習性があり、稀に人を食の対象と見るほど凶暴化する。
 ある程度育ち、風味がよくなる10歳から30歳未満を、食用として狙う。
 背中に乗せようと言葉巧みに誘い、拒まれても呪いの誘いの言葉を投げて背中に乗せ、相手が逃げないよう粘着性の呪術を発動させるのだ。
 鮮度に拘らないなら尾びれで泳ぎ、そのまま川に引きずり込み、溺れさせて殺すらしい。
 皆が集めた情報によると、最近までは動物だけで我慢していた。
 たが、だんだん口に合わなくなったり、食べた気にならず人を襲い始めたのだろう。
 食事をする際は、自分に物質的質量を持たせるため、魚に憑くこともあるが人などの食らうには、それでは器の機能が不十分。
 そこでより硬質な身体を持つため、電子機器類を器にしている可能性は高いが、器に憑くと不可視化が不能になる。
 しかし殺したと思っても、それは器のみを破壊しただけで、本体は不可視化するらしい。
 相手は魔法攻撃も行ってくるため、器に潜んだままだと物質的攻撃にも気をつけなければならない、と説明した。
「そのような者を、どう説得すればいいのだろうな…」
「―…それは、皆さんで考えてください〜」
 エリザベートはそう言うと、通話を切ってしまった。
「相手は肉食の魔性なんだね…。早めに解決しなきゃ危ないかも」
 鮮度に拘る者のようだから、今の頃傷つけられる心配はなさそうだが、早々に発見しなければとクリスティーが言う。
 休憩はあまりとらず、誰と捜索するかなどすぐに決めてしまったほうがよさそうだ。