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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 5

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 5

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第3章 炎天下で術磨き

 アイデア術に協力してくれそうな、相手を探していた歌菜だったが、あいにく他の者たちは事件の情報集めで大忙しだ。
 コテージに残るという者は、実戦の様子を見学するらしく、十分な人数を確保出来なかった。
 遠野 歌菜(とおの・かな)は足取りを重くして、トボトボと仲間の元へ向かう。
「―…皆さん、申し訳ないです。誰も誘えませんでした…」
「そっか。残念だけど、それぞれ忙しいみたいだし仕方ないわ。ルカたちも声をかけてみたけど、無理っぽかったし」
「ダリルが作った菓子でも、無理だったとはな…」
 こんなに美味しそうなのに、誰一人として誘いに乗らないのはなぜだろうと、夏侯 淵(かこう・えん)は生真面目に考える。
「情報集めは大事だからな。それも仕方ないことだ、淵」
「私たちはイメージトレーニングで、ルカルカさんたちに合わせますね」
「おっけー、分かったわ」
 ルカルカは歌菜にニッと微笑みかけ、荷物を草むらに下ろした。
「ねぇねぇ。ルカたち、宝石のこと分からないから、教えてもらえる?」
「いいですよ。宝石を入れるペンダントは、1つでいいんです。その中に、宝石を入れて祈りをこめると、能力を引き出せるんです」
「精神力が影響するの?」
「はい、そうですね。アークソウルは魔性に憑かれていない、地球人以外の者の気配を感知するものです。他にも能力がありますが。いろいろと説明すると練習時間とかが減っちゃうので、アイデア術に関係することのみ、教えますね」
「効果を覚えておくのも大事だけど、練習時間も大事だものね♪」
 宝石について話す歌菜に、それでいいと頷いた。
「それで、この黄緑いろの宝石…エアロソウルで、不可視化した相手の姿を見破れるんです。主に、魔性や霊体なのですが、フラワシとかは対象外ですね」
「2つの宝石とジュディの裁きの章の力を合わせると、レイン・オブ・ペネトレーションを発動出来るんやけど。その雨を被った不可視のやつらの姿が、見えるようになるんや。術者以外は、薄っすらとしか見えないんやけどなぁ」
 歌菜に続き、七枷 陣(ななかせ・じん)がアイデア術について説明する。
「ほぇ〜…、ルカたちも見えるようになるのよね?」
「一時的な効果やけどね」
「ルカたちのはね。綾瀬の使い魔に、裁きの章と哀切の章の力を吸収させるの。それで使い魔はポレレヴィークなんだけど、植物の蔓とかで銃を再現するの。銃弾の代わりに、章の力をこめたものを撃ちだす感じよ。相手を怖がらせちゃうといけないから、今のところ頭とかは狙わないけどね♪」
「抵抗力を削いで、とどめは他の者でいいかもしれない。敵が1体とは限らないからな」
 速やかに祓うのなら無理に攻めず、最後は他者に任せてもよいだろうとダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が言う。
「うん、こっち側にまわってくれそうな人がいたら、協力してもらいたいからね♪」
 ルカルカは“ちゃんと分かってるわよ”と彼の言葉に頷いた。
「本番まで時間がないけど、突貫工事で実戦レベルまで一気に行くわよ!」
「突貫工事とは、危ない石橋を渡るも同然…という場合もあるからな。気をつけないとな、ルカ」
 彼女の傍らでダリルがぼそっと不吉な言葉を言う。
「んもぅっ、なんで水差すようなことを言うの」
「良い面もあるが、悪い面もあるということだ。表から見れば完成していそうに見えても、裏側から見たら分からない」
「うー…。気をつけるもん」
「そういや、エリザベートはコテージに残ってるんだったな」
 宿泊場に到着後、荷物を置いた生徒たちが調査に向かう中、校長は見学者のためにコテージの中で待機している。
「専門的なことを聞く時のために引っ張ってこようと思ったが。さすがに無理があったな、カルキノス」
「今は術の練習するといっても一応、俺たちも実戦参加ってことだしな」
 教師たちはホームセンターの時のように、同行することはなく当然、今のような状況でも顔を出さないのだろう。
「意見をもらいたいならコテージに残って、練習するしかないな。他にも術を練習したいやつがいそうだし、それくらい我慢しないとな」
「―…確かに、それもあるか」
 この状況でその通りに進めるというのは、かなり難しいことなのか…と頷いた。
「ついてこないってことは、それだけ学ぶ機会をくれているんだって、ポジティブに考えりゃいいんじゃねぇ?」
「ある程度は自分たちで考えて、動かなきゃいけないってことなのね」
「まー、そういうことだ」
「とりあえず始めるか」
「待って、ダリル」
「まだ何かあるのか…?」
「新しい章のこと、歌ちゃんたちに教えてないじゃないの」
 ルカルカはスペルブックを開き、悔悟の章のページを歌菜たちに見せる。
「悔悟の章は重力系の術みたいなの。でね、術にかかった対象を、ちーっちゃくして体力を消耗させるのよ。元の大きさに戻っても、一定時間は体力の回復行動が出来なくなるの。でも、者や物に憑ついてると使えないみたい」
「やっぱり対象って、魔性や霊などですか?」
「そうみたいよ」
「話しているところ悪いんだが、そろそろ始めよう。もう30分は過ぎているぞ」
「えー、そんなに!?」
 かなりの時間のロスをしてしまったことに、驚いたルカルカは金色の双眸を丸くした。
「会話などをしていると気づかないうちに、案外早く時が過ぎたりしているものだ。スカウトしに行っていた時間を含めると、1時間以上は経っているな」 
「早く訓練を始めなきゃ、お昼になっちゃう!」
「それらしい的がほしいところじゃな。というわけでアルト、ネーゲル。仮想の敵役を頼んだぞ」
 ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)の言葉に、レイスたちはこくこくと頷いた。
「的として分かりやすいように、ぬいぐるみでも持っていてくれないか。―…うむ、ではリーズを敵だと思って、全力で追いかけるのじゃぞ」
 ぬいぐるみを持たされたアルトとネーゲルは、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)を追いかける。
「いつもの羽だと疲れちゃうから、普通モードで飛ぶよ!」
 情報交換を終えたら、それを元にすぐ現場に向かうだろうと予想し、体力温存のためトライウィングス・Riesの翼モードは使わずに飛ぶ。
 それでもレイスたちの浮遊速度は追いつくことなく、必死にリーズを追いかけている。
「映像記録を撮りたいけど、ノートやパソを置けそうな場所がないわね…」
「そんな時こそ、脳内メモリーに保存するしかないんじゃないか?その辺りに置いたら、落っこちるぞ」
 野外じゃ厳しいだろうと思い、カルキノスが無理そうだと言う。
「箒に括り付けても、不安定すぎてガッシャーンだな」
「リーズの服についているカメラで十分かもな。おーい、リーズ。こっち向きながら飛んでくれ」
「えー!そんな器用なこと無理だよー!!むー・・・仕方ないなぁ」
 陣の頼みとあらば断りきれず、リーズはスピードを緩める。
「んで、最初はオレらが術を発動させたほうがいいんか?」
「出来ればね」
「術の発動時に術者同士で、手を繋いでみませんか?」
「オレは構わないけど」
「ふむ…悪くはないかもな」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)も試してみるかと頷いた。
「えっと、円陣を組むってことなんか?」
「ジュディちゃんの位置が見えなくなるから、一列っぽい感じにしましょう!」
「じゃあオレと羽純さん、歌菜ちゃんの順番でいいんか?」
「はい、お願いします!」
「なんだ?術の時くらい、どんな順番でもいいと思うけどな」
 恋人同士のほうがいいだろうと思ったのか?と羽純が言う。
「とりあえずやね。とっさの時は、順番は適当ってことで」
「気にしている場合じゃない時も、あるだろうからな」
「我は無理そうじゃな」
「え?ジュディちゃんは繋がないの?」
「…我の魔道具は本じゃ。両手装備じゃから、無理じゃな」
「ほんじゃ、歌菜ちゃんたち詠唱を始めよう!アークソウルの力を発動させて、その後にエアロソウルの力を裁きの章に送る感じやね」
 陣たちは互いに手を繋ぎあい、呼吸を合わせて詠唱を始める。
『魔を貫く雫よ…魔の匂いと魔の真実を暴く元素を抱き、天へ駆け昇り…弾けて混ざれ!』
 3人が声を揃えて唱えると、ジュディのスペルブックに宝石の光が飛び込む。
「…Caina!」
 ジュディは裁きの章の威力を強化しようと、3人の詠唱に合わせて禁じられた言葉を紡ぐ。
『混ざりし雲よ、我らに全てをさらけ出す豪雨を降らせよ!セット!レイン・オブ・ペネトレーション!』
 さらに4人で言葉を紡ぎ、全てを見通す雨を降らせるべく、雨雲を出現させる。
 ―…はずだったが、人数不足で雨雲は溶けるように、空へと消え去った。
「やっぱり不発か…」
「む……?威力が依然と変わらぬようじゃな」
 禁じられた言葉では、裁きの章の威力は上げられないようだ。
「イメトレだし、おっけーよ♪4人が術を使っている間に、ルカたちも唱えればいいのね。綾瀬、お願い!」
「了解しましたわ」
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は地面に魔法円を描き、魔方陣式模様を描く。
 ルカルカたちの詠唱に合わせ、木の聖杯を抱えて祈りを捧げる。
 自身の血を一滴、聖杯に零れ落ちた涙と混ぜ、描いた陣の上に落とす。
 哀切の章と裁きの章の力を受けたリトルフロイラインが、綾瀬たちの前に姿を現した。
「術の訓練をなさるのですね、綾瀬様!」
「えぇ、今日もお願いしますわ」
「はい!まとはあれですね!?」
 蔦や葉などを組み合わせて銃の形を作り、リーズを追いかけていくアルトとネーゲルを狙う。
「リーズ殿、ゴットスピードをかけたほうがよさそうか?」
「うーん…。飛ぶの疲れてきちゃったからお願い!」
「了解した」
 飛び疲れて息が切れてきたリーズに、淵がゴットスピードをかけてやり加速させる。
「わー、はやーい!」
「ちょ、リーズ。その辺りにぶつかんなよ」
「ぇえー、なーに?」
「前、前!!」
「うわぁああっ」
 陣の方に振り返ったとたん、べちんっと木に激突してしまった。
「痛いよー……」
「アルトたちに追いつかれそうじゃぞ、リーズ」
「今度はそっち!?えぇい、これでもくらっちゃいな!」
 リーズがレイスたちに祓魔の護符を投げつける。
 2人は慌てた様子で重なるようにくるくると回り、逃げ場を探そうとするが護符の餌食になってしまい、悲鳴を上げた。
「こら!アルト、ネーゲル。まだダウンは許さぬのじゃ」
 逃げようとする2人の行く先に回りこみ、ジュディは顎をしゃくって、逃げる的になるように指示した。
 ジュディに逆らえないアルトとネーゲルは、しぶしぶ協力する。
「リトルフロイライン、木の上に隠れてますわ」
「はい、綾瀬様!」
 綾瀬の声にリトルフロイラインは、レーザー銃のようにビュンビュンと撃つ。
 アルトはぬいぐるみを盾にして防ぐ。
「むー…、外してしまいました」
「的役をしてもらっているだけですから、本気で当てなくてもよいですわ。…草むらにも隠れていますわ」
「レイスたちがこっちに来ますよ!」
 やられっぱなしは面白くないと思ったのか、アルトとネーゲルが反撃を開始した。
 ぬいぐるみを振り回し、無差別に殴りかかる。
「来たか…っ」
 ダリルはバニッシュの威力を加減してやりながら放つ。
 それを見た2人はまた悲鳴を上げ、ぬいぐるみを投げ出して隠れてしまった。
「バニッシュでは、やはり怖いのかもしれぬのぅ」
 消滅はしないだろうが、かなりダメージを受けてしまうと感じたのだろうと、ジュディが言う。
「そうなのか?だがこれ以上、威力を下げられないぞ」
「的が逃げたってことは、訓練はこれで終了か?」
 羽純はレイスたちが隠れている場所に視線を向ける。
「んー…。無理に頼むのも可愛そうだし、しょうがないわね」
「何っ!?もっと根性を見せよ!アルト、ネーゲル!!」
 いくらジュディの頼みでも、2人はいやいやするようにかぶりを振った。



 訓練続行が不能となり、ルカルカたちはおやつタイムを始めた。
「美味しい♪保冷剤をいっぱい入れてきてよかったわね」
「一応、まだチョコは溶けていないみたいだが。それだけで、かなりの荷物だな」
 満足そうにバナナのチョコタルトを食べるパートナーを見ながら、ダリルはため息をついた。
「紅茶飲みますか?」
 歌菜は魔法瓶に入れてきた紅茶を、カップに注いでルカルカに勧める。
「えぇもらうわ♪」
「どうしてもバナナをおやつに入れたいのかよ」
「栄養がたくさんあって美味しいもん」
「しかしダリル。月崎殿のように甘味好きでもないのに何故、毎回菓子を作ってくるのだ?」
 淵もどちらかというと、こういう甘いものも歓迎なほうだが、何度も作るほど好きでないはずの彼に問う。
「ルカがどうしてもとダダを…」
「ああ…成程」
「そんで、どうしてもバナナを使ったもんなんだな」
「なによ。文句があるなら、ルカたちだけで食べるわよ」
 怒ったように頬を膨らませ、カルキノス側にあるタルトに手を伸ばす。
「いや、別に文句はないけどな」
 それを奪われまいとタルトを掴み、大口を開けて放り込んだ。
「なぁ。やっぱり俺たちも情報収集しに行ったほうがよかったんじゃないか?」
「合体技を使える限られた人材が、チームとして機能できるかどうかは大きい」
「まったく、相変わらずなやつだな」
 即答するダリルの態度に、カルキノスは嘆息した。
「何か情報を掴んでくれていればいいけどな…」
「はぁ〜、美味しかった」
「ご馳走様です!」
「なんだか食べたりないな…」
 カルキノスの言葉はスルーされ、ルカルカと歌菜、羽純はおやつのことしか話さない。
「この空気、ぬるくねぇか?」
「ん、そう?皆、やるき満々よ!」
「そうはいってもなぁ。チョコべったり口につけたやつに言われてもな」
「えっ!?やだ、見ないで!」
 ルカルカは慌ててティッシュで口の周りを拭いた。
「おー、美味いっ」
「なかなかじゃのぅ」
「陣くん、はい…あーん♪」
「やめろってリーズ、皆が見てるやないか」
「ボクが食べさせてあげる!嫌なの?」
「別に嫌じゃないけど…っ」
 タルトに口を近づけていく陣だったが…。
 それは彼の口に入らずにリターンし、リーズの口の中に運ばれた。
「―…あーー…んっ」
「またか!またそのパターンなんかっ」
「ふっふっふ〜。そう簡単に、食べさせてなんかあげないよ♪こんなに美味しいんだし」
「ここだけ平和ですわね…」
 微笑ましい光景を眺めながら綾瀬もタルトを食べる。
「そっちのケースにも入っているんじゃないか?」
「いや、こっちは情報交換時に、茶菓子として出すものだ」
 食べたず手を伸ばそうとする羽純をダリルが止めた。
「午後まで我慢するか」
「あぁ、もうすぐ昼食時だからな」
「埃塗れになってしまいましたわ…。お風呂も良いのですが、折角なので川で水浴びをしてきますわ」
「ルカたちここで待ってる?」
「その…出来れば見張りをお願いしたいのですが」
「任せて♪」
 ルカルカたちは手早く荷物を纏め、ジャタの森の中にある川を目指して歩く。
 どうしたら合体術なるかな?などと話したかった歌菜は、言い出しそびれてしまった。