校長室
学生たちの休日9
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★ ★ ★ 「たまには、武器の手入れをしに行かないかぁ?」 「武器庫に行くのか? 行く行く行く、俺も行く!」 キルラス・ケイ(きるらす・けい)に誘われて、アルベルト・スタンガ(あるべると・すたんが)がちょっと舞いあがった。これは、二人っきりになれるチャンスかもしれない。 連れだって教導団の武器庫にむかうと、重火器の保管庫の前で呼び止められた。 「この先は、許可証が必要となります」 警備の者が、立ち入りを禁止してくる。まあ、武器庫というのはそういうものだ。特に、重火器やイコンなどは警備が厳重になっている。 「えー、ちょっとぐらいいいだろ?」 誰も入れないのなら、それこそ二人っきりだと、アルベルト・スタンガがちょっとごねた。 「そこで何をもめているんだ?」 押し問答に気づいて、通りかかったジェイス・銀霞が声をかけてきた。 「まあ、保安上、あたりまえの話だな」 話を聞いたジェイス・銀霞にさっさと追い払われてしまう。 「重火器の研究担当だと言えばいいのにぃ」 やれやれと、キルラス・ケイがアルベルト・スタンガに言った。 「いや、まあ、保管されてる武器庫の重火器と、研究用の試作品は別物だからさあ」 せっかく、居ならぶ重火器を一つ一つ説明して自分の有能さをアピールしようと思っていたアルベルト・スタンガが、苦笑交じりに言った。個人所有の武器の管理は極端に緩いパラミタではあるが、国軍やそれに準ずる組織の武器管理は当然のように厳重である。いざ出動のときに、装備品がありませんでしたでは話にならないからだ。 「で、今度配備される新式の機関銃は、連射能力が向上されててなあ……」 それでも、歩きながらアルベルト・スタンガが饒舌に重火器の説明をする。 「へえ、それは面白いねぇ」 さすがにキルラス・ケイも話について来てくれるので、アルベルト・スタンガは上機嫌だった。これならば、今日こそいけるかもしれない。 武器の整備室に辿り着くと、入室チェックを受けて中に入る。整備用の工具のならんだ部屋で、キルラス・ケイが自分のスナイパーライフルを分解掃除し始めた。丁寧にバレルなどを外して、内部についているカーボンなどを落としていく。 「うん、絵になるぜ」 銃を手入れするキルラス・ケイの姿にほれぼれと見とれながら、アルベルト・スタンガがつぶやいた。 「どこかに絵でも飾ってあるのかぁ?」 ちょっとボケて、キルラス・ケイが室内を見回した。 「いや、そういう恋人の姿もすてきだなあ……なんてな」 アルベルト・スタンガとしてはさりげなく告白したつもりで、はっはっはっと照れ笑いをつけ加える。 「そうだなぁ。恋人はやはりステキだからなぁ。どうだぁ、このライフリングの美しい文様。照準器の繊細さ。うっとりするだろうがぁ」 「えっ!?」 「ふっ、俺のことは、『リア銃とでも呼んでください』だぜぇ」 なんだか決めぜりふ風に、キルラス・ケイがどこかから借りてきたようなフレーズを口にする。 「いや、それは……」 「さあ、完成だぁ。ピカピカになったよぉ。美しい……」 そう言うと、完膚なきまでにアルベルト・スタンガの立てようとしたフラグをいつも通りへし折って、愛銃にスリスリと頬ずりするキルラス・ケイであった。 ★ ★ ★ 「やっほー、遊びに来てやったぜ」 勝手知ったる他人の自室とばかりに、理堵・シャルトリュー(りと・しゃるとりゅー)が寮の白柳 利瑠(しらやなぎ・りる)の部屋にずかずかと上がり込んでいった。 「リト兄、ちゃんと挨拶ぐらいしなよ。お邪魔するよ、利瑠」 そう言って、理緒・シャルトリュー(りお・しゃるとりゅー)が続いて入ってきた。 「二人とも……いらっしゃい」 言葉少なに白柳利瑠が二人を部屋にあげる。まあ、いつものやりとりだ。 「今日は、寮監ここにいなかったみたいだな。よし、騒げるぜ。ゲームしよ、ゲーム」 白柳利瑠が用意してあったお菓子をポリポリと囓りながら、理堵・シャルトリューが言った。 「ええっと……。飲み物は、コーヒー? お茶? どっちがいい……」 「あたしはコーヒー、リト兄はお茶でいいや。手伝おうか?」 「大丈夫……」 元気よく答える理緒・シャルトリューに答えると、白柳利瑠は冷蔵庫に飲み物を取りに行った。その間に、理緒・シャルトリューがごそごそとゲーム機を取り出して電源を入れる。 「よし、対戦だ。まずは理緒、お前から叩き潰す!」 「言ってくれるわね、返り討ちだよ、リト兄」 「二人とも、頑張って……」 さっそく対戦を始める理堵・シャルトリューと理緒・シャルトリューの双子の後ろで、ジュースをテーブルの上においた白柳利瑠が彼女としては充分楽しそうに観戦モードに入った。 格闘ゲームでラヴェイジャーを選んだ理堵・シャルトリューに対して、理緒・シャルトリューが地祇のシールアジストを選択する。 「ははははは、行くぞ自動車殴り!」 『自動車殴り』 野太いゲーム音声が技の名を叫ぶ。 理堵・シャルトリューが、ステージの背景にあった自動車をつかみ取って、理緒・シャルトリューの地祇をめった殴りにした。ひゅーんと、あっという間に地祇のライフゲージが減っていって0になり、ばったりと地祇が倒れる。 「ふっ、瞬殺だぜ」 「ふふふふ、まだまだ」 勝ち誇る理堵・シャルトリューの前で、理緒・シャルトリューが不敵に笑った。すると、倒されたはずの地祇がHP1で復活する。 「地祇は不死身じゃん!」 『完全回復』 言うなり、理緒・シャルトリューが完全回復でHPを満タンにした。 「きったねー。ええっと、地祇の攻略法は……」 あわてて、理堵・シャルトリューがゲームのマニュアルをめくりだす。 「いっくよー、天の炎!」 『天の炎』 「ぐあっ!」 いきなり現れた火柱につつまれて、理堵・シャルトリューのラヴェイジャーのHPが半分まで削られる。これはまずい。だが、その分、必殺技ゲージがたまってMAXになる。 「止めよ」 『メテオスウォーム』 理緒・シャルトリューが、メテオスウォームの溜めに入った。 「理緒さん、すごーい」 後ろで、白柳利瑠がパチパチと小さく手を叩く。 「やらせるかあ。そこだあ!」 『ヴァンダリズム!』 読み終わったマニュアルを投げ捨てた理緒・シャルトリューが、起死回生でヴァンダリズムを発動させた。だが、対象は敵キャラではなくて、敵の足許の地面を叩く。 『KO!』 ばったりと理緒・シャルトリューの地祇が倒れた。本体である土地を破壊されたらしい。どのポイントが地祇の土地なのかはランダムだが、理堵・シャルトリューは山勘でそれを当てたというわけだ。 「ああっ、あと一歩だったのに」 「よっしゃあ、まずは一勝!」 悔しがる理緒・シャルトリューを前にして、理堵・シャルトリューが勝ち名乗りをあげた。 「じゃ、今度は利瑠が仇をとって」 そう言うと、理緒・シャルトリューが白柳利瑠にコントローラーを押しつけた。 「えっと……」 「さあ、なんでも来い!」 とりあえず、よく分からないで白柳利瑠が適当に種族とクラスを選ぶ。 ゆる族のセイヴァーシード……。 「戦う前から勝ったあ!」 すでに理堵・シャルトリューが勝利を確信する。 「いくぜ!! 種籾戦士なんて、小パンチ一発だぜ」 「嫌ー!」 「利瑠、光学迷彩よ!」 『光学迷彩』 理緒・シャルトリューのアドバイスで白柳利瑠のキャラが消え、理堵・シャルトリューの攻撃が空振りする。 「誰か、助けて……」 そう白柳利瑠が言ったとたん、画面にジェファルコンが現れた。 『救世主召喚!』 ゲームのボイスと共に、ビームライフルで理堵・シャルトリューのキャラが蒸発する。 『KO!』 「あっ……」 唖然として、理堵・シャルトリューがコントローラーをぽとりと落とした。 「やったね、利瑠がいっちばーん」 そう言うと、理緒・シャルトリューが白柳利瑠の腕を掴み挙げて勝ちを宣言した。