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学生たちの休日9

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学生たちの休日9
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ヒラニプラの夏休み

 
 
「私は、なんで鉄道に乗っていますか……」
 確かシルフィア・レーンをツァンダから空京まで送っていった帰りのはずなんだがと、アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)が首をかしげた。気がついたら、いつの間にかヒラニプラ鉄道に乗っていたのだ。
 なんとなく乗りたかったから乗ったわけではあるが……、まあ、休日なので気紛れな小旅行も悪くはないだろう。そのままとんぼ返りしてくれば、遊び終わったシルフィア・レーンを拾ってツァンダへ帰れるかもしれないし。
 山間部と平野の境を魔列車は進んでいく。右と左で景色がまったく違うのも面白い。やがて山間部に入ると線路は登りとなり、ヒラニプラが近づいてきた。
 いかにも質実剛健と言った感じの駅舎が近づいてくる。都会のコンクリートや強化プラスチックのイメージがあるお洒落な空京の駅とは違って、いかにもメタリックな造りの駅舎だ。
 一応軽く駅前見物でもしようかと降りてみると、なんだか人だかりがしている。みると、何やら暴れている者がいる。暴れていると言うよりは、なんだか動きが滅茶苦茶だ。酔っ払いか何かなのだろうか。
「やばい、こっちに来ますな」
 周囲の人たちがあわてて逃げだしていった。さて、ここで逃げだすのはいかなものか。こんなことに巻き込まれたのも、ある意味必然なのだろう。ここは、一つ、取り押さえることができるだろうか。
「うお、思ったよりも……」
 動きの滅茶苦茶さから大したことはないと思っていたが、あにはからんや、結構なパワーがある。どうやら、機晶姫のようだ。ということは、これは暴走だろうか。
「この、大人しく……うわっ」
 なんとかねじ伏せようとしたが、逆に吹っ飛ばされてしまった。尻餅をついたところに、機晶姫が突っ込んでこようとした。そして、派手にすっころぶ。自滅だ。
 ずっでんと倒れた拍子に、猫耳のついた大きなフードが頭に被さった。そのとたん、ジタバタしていたのが大人しくなる。
「止まったのか?」
 恐る恐るアルクラント・ジェニアスが近づいてみた。
 すると、機晶姫が地面に手をついてむくりと起きあがった。その腕に、チラリと『Pe−T R/A』という文字が見てとれる。
「ペトラ?」
「はい、マスター」
 思わずその文字を口にしたアルクラント・ジェニアスに、機晶姫が答えた。どうやら暴走は止まったらしく、今は普通だ。猫耳フードが安全装置なのだろうか。まさかね……。
「君の名はペトラなのかな」
「マスターが言うのであればそうだと思うよ。なんにも覚えてないけど、たぶんマスターはマスター」
 なんともあやふやな答えだが、それよりも、いつの間にアルクラント・ジェニアスは、この完全魔動人形 ペトラ(ぱーふぇくとえれめんとらべじゃー・ぺとら)のマスターになってしまったのだろうか。
「まあ、これも何かの縁かな」
 このまま放置するわけにもいかず、アルクラント・ジェニアスは完全魔動人形ペトラを連れて帰ることにした。
 とりあえず、シルフィア・レーンには連絡しておこうと携帯をかけてみる。
「あっ、シルフィアか。実はパートナーが増えた。それで……」
『えっ、パートナーが増えた? はいはい、詳細は後で聞くから。今は後にして』
 ブッチされた。
「仕方ない、とりあえず空京に戻るとしよう。ペトラのことは列車の中で聞かせてほしい」
 そう言うと、アルクラント・ジェニアスは完全魔動人形ペトラを連れて駅の中へと戻っていった。
 
    ★    ★    ★
 
「なんか騒がしかったけどなんだったんでありますか?」
 紐で縛りあげたプラモデルの箱を両手でかかえた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)に訊ねた。なにしろ、かかえた箱が邪魔で前を見ることができない。
「暴れ機晶姫がでたらしいけど、誰かが取り押さえて連れていったみたいよ」
「よかった。巻き込まれでもしたら、このレアシリーズが大変なことになるところでありました」
 買ったばかりのコレクションが壊されたら大変なところだったと、葛城吹雪がほっと胸をなで下ろす。
「いっそ、巻き込まれて粉々になってしまえばよかったのに……」
 思わず、コルセア・レキシントンが本音をつぶやいた。
「なんていうことを言うのでありますか。大切な、大切なプラモなのでありますよ。重要なことなので、二度言ったであります」
「いくら大切だからって、いったい家にどれだけプラモがあるって言うのよ。ついに吹雪の部屋からはみ出して、リビングまで浸食し始めてるじゃないの。これ以上増えたら、いつか踏んで壊しちゃうよ」
「ひー、それだけは勘弁であります」
 思わず想像してしまって、葛城吹雪が悲鳴をあげる。
「だいたい、なんでブルースロートだけで何箱もあるのよ」
一つはパールヴァティーで、もう一つはドゥルガー、ブルースロートの色違いであります。後は本家のブルースロートの初期バージョンと、最新バージョンで……」
「外からじゃ、バージョン違いなんて分からないじゃない」
「何を言ってるんでありますか。この姿勢制御バーニアのベクターノズルの形状が宇宙戦仕様になってるのであります」
「分かりません!」
 きっぱりと、コルセア・レキシントンが言い放った。本当に、プラモデルにして1ミリにも満たない変更部分など、言われても気がつくはずがない。
「それでも、ブルースロートタイプだけでも1ダースはあるんですけれど」
「一応、各タイプで小隊を組めるように……」
「組まなくていい!」
 ほとほとあきれ果てて、コルセア・レキシントンが叫んだ。