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『C』 ~Crisis of the Contractors~(前編)

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『C』 ~Crisis of the Contractors~(前編)

リアクション

「今回のプログラムでイコン整備の実技講習を担当することになりました、長谷川 真琴(はせがわ・まこと)です。天御柱学院で整備教官を務めております。皆さん、宜しくお願いします」
 真琴はイコン整備の短期集中講習の講師を務めることになったため、ここ、アメリカにやってきた。この春から晴れて正式に整備教官となった彼女はこれもいい経験になると思い、引き受けたのである。
「こちらカリキュラムになりますので、皆さん最初に目を通して下さいね。技術を身につけるのもそうですが、皆さんには模擬戦に出る機体の整備もしてもらいます」
 話を聞いたところ、整備士を育成する土壌が整っているのは天御柱学院だけであるということだった。F.R.A.G.と提携している聖カテリーナアカデミーではパイロットの育成がメインであり、整備士を希望する者はF.R.A.G.の技術局で別途勉強するということだった。
「最初に言っておきますが、私たち整備士はパイロットの命を預かる仕事でもあります。ただ整備すればいいのではなく、担当機体のパイロットが無事に帰還できるようにするのも整備士の大切な仕事だということを忘れないようにしてください」
 そのため、パイロットと話す機会を与え、パイロットとも話し合うという整備士に必要な技能を鍛える場を用意したのだ。イコンは、パイロット一人一人に合わせて調整される。天学の機体のようにパイロット認証による自動調整がある場合でも、初期設定は手動で行わなければならない。そのため、パイロットと信頼関係を築くことが、重要になってくるのだ。
「へえ、お姉さんは天学で整備士やってるんだね」
 そんな中、荒井 雅香(あらい・もとか)は他校の整備士と話す機会を得た。
「ええ。天御柱学院整備科の荒井 雅香よ」
「ワシントンコントラクタースクールのケビン・サザーランドです」
 軽く自己紹介をしているところに、聖カテリーナアカデミーの学生も来て、三人で話すことになった。
「アメリカはようやく第二世代機の試作機ができたところでさ。ほんと、ようやく追いついたって感じだよ」
「意外ね。アメリカには元ビッグスリーのフューチャー・エレクトロニクス(FE)があったっていうのに」
 現在、正式に第二世代機を保有しているのは日本と、F.R.A.G.の圏内にある欧州諸国のみだ。第二世代機の存在は公になっているものの技術に関しては非公開なため、各国は独自に第一世代機を発展させなければならない状況なのである。
「日本から輸入したイーグリットとコームラントをそれぞれアメリカ用のビクトリー、グローリーに改良するところから始まったからね。むしろ、FEがなかったら試作機完成まであと半年はかかっただろうね」
「そうなのね」
「なかなか大変だよ。っと、そろそろフリーダムの調整に行かないと……。良ければまた話そうね」
「えぇ、楽しみにしているわ
 ケビンは雅香と別れ、フリーダムの調整へと入った。

「(ふむ、まだ試作段階ですし、色々と改善の余地はありそうです)」
 ワシントンコントラクタースクールの敷地内にある格納庫で、ベンジャミン・フランクリン(トーマス・ジェファーソン(とーます・じぇふぁーそん))は整備中のフリーダムを見上げた。テストパイロットを務めるトーマスの専属メカニックであるケビンが、念入りに各部をチェックしている。
「ケビン、フリーダムのことで提案があります」
 そんなケビンに声をかけるベンジャミン。
「何かな?」
 ゴーグルを外し、作業を一時中断するケビン。
「まず、アメリカのお家芸ともいうべきステルス性を高めてみてはどうでしょうか? 特殊部隊等はそれを求める筈です」
「それは正式配備される時、偵察専用機に対して行う予定になってるよ。今回あえてステルス性を持たせなかったのは、トミーが嫌がるからさ。逃げ隠れするための機能付けて機体の標準スペックが下がったらたまったもんじゃねぇ、ってね」
 自国の技術を、わざわざ他国に見せてやる必要もない。あえてこのプログラム中にフリーダムを動かすのは、機体の戦闘データを取るためというのもあるが、それ以上に「他国のイコンのデータを得る」ためだ。このプログラムが終わった後、得られたデータを元に調整を重ね、フリーダムを正式配備用の仕様にする。
「トミーが近接戦が得意だからっていうのもあるけど、フリーダムの機体そのものには内蔵武装はない。デフォルトの状態では高機動戦闘特化で、外付けで用途に合わせた兵装を搭載することによって、汎用化が図れるようにするつもりだよ。上は割とその方向で進めようとしてる」
「そうなると、シャンバラ王国のプラヴァーのようにバックパック制を採用し、一機種で任務の多用途化に対応できるようにすることを視野に入れてるわけですか」
「そういうこと。もっとも、デフォルト時の基本性能は最低でもF.R.A.G.のクルキアータ並にはしたいところだけどね」
 ノートパソコンを開き、フリーダムのデータと現在の整備状況を表示する。
「機晶リアクター、異常なし。駆動部系のレスポンスは……誤差の範囲だけど、トーマスは無茶するからなぁ……。もっと念入りに整備しないとね。ベンジャミンさん、こっちからのモニタリングは宜しく」
 再びゴーグルをかけ、ケビンが工具を抱えて機体への方へと駆けて行った。

「さて、そろそろかな……」
 整備が終わった頃、トーマスは格納庫へとやってきた。
「来たわね。トミー」
 そのトーマスを迎えたのは、アリソン・バーク(キャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー))。
「おう。フリーダムの方はどうだ」
「それと、エンジニアとしてフリーダムについて思うところがあるのだけど……」
「……そういう話はケビンにしてやってくれ。俺はコイツに乗って、俺らの力を示すだけ。そういう難しい話は俺には関係ない」
 そういうトーマスを見て、一つため息をつくアリソン
「トミー、一つだけ誤解があるみたいだし、この際言っておくわね。貴方のフリーダムではないわ。アメリカ合衆国のフリーダムよ」
「そんなことは分かってる。だからこそ、お前達に安心してフリーダムを任せられる。俺は、そのフリーダムで限界に挑むだけだ」
「そう……」
「安心しろって。出来る限りやってやるさ。だから、データ収集は任せたぜ」
「もちろんよ。さぁ、行ってきなさい!」
「あぁ!」
 そう言って、トーマスはコックピットへと乗り込んだ。