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リアクション
第3章 往診の際
昼下がり。
校庭にて組織した後発隊を、房姫達が送り出している頃。
「ハイナ、往診の時間よ」
「失礼する」
「待っておったぞ、よろしく頼む」
校長室の扉を開けたのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)。
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とともに、ハイナの診察へと訪れたのだ。
「もっとちょくちょく来たいんだけど、ロイヤルガードの活動や軍の任務でなかなか来られなくて……御免ね」
「謝ることはないでありんす。
おかげで、もうすっかりよくなったのじゃ」
腕をぶんぶんと舞わせて、自信満々のハイナ。
自分で言うだけのことはあるのか、表情は明るく元気だ。
「よかったわ。
内的な部分でも、完治と言っていいみたい」
「数値はすべて正常値。
安定しているな」
カルテを見ながら、ルカルカはにっこりと頷く。
ダリルも『シャンバラ電機のノートパソコン』を開き、電子カルテを記入。
このかん幾度かの往診結果と照らし合わせて、納得の表情だ。
「そうか、これもあのとき駆け付けてくれた皆のおかげじゃのう」
「うむ」
「あ、えぇ。
どういたしまして」
(でもこれ、無駄になっちゃったかな)
ハイナの言葉を聴き、だがルカルカは視線を落とす。
背後の紙袋を、ちらりと見た。
「ん、どうしたのじゃ……あれは……」
「ハイナ駄目っ!」
「ほぅ〜これは珍しい。
『世界樹の千羽鶴』であろう」
「ぁいや、ちがっ、たまたまよっ、たまたまっ!」
急に恥ずかしくなって、兎に角も誤魔化そうとするルカルカ。
だがしかし、ハイナのために持参していたことはばればれである。
「これ、いただいても構わぬか?」
「あ、あの……はい!
もらってくれて、ありがとう」
「礼には及ばぬ。
こちらこそ、ありがとうのう」
ルカルカもハイナも、お互いを思い遣る気持ちがとても嬉しかった。
千羽鶴は早速、校長室の床の間へと飾られた。
「あら、綺麗な千羽鶴ですわね」
「お帰り、房姫。
ルカルカがのぅ、妾のために持ってきてくれたのじゃ」
「そうでしたか、ハイナのために……感謝いたしますわ」
「いえ、あのそんな、じゃ、じゃあ、お茶を淹れるわね」
「私もお手伝いいたしますわ」
房姫の登場により、またも顔を真っ赤にさせる。
こんなに熱を持つなんて、普段の任務ではありえないのに。
「さぁどうぞ、お二方」
「房姫、ありがとうございます」
「お茶請けにはこれを……」
「おや、美味しそうでありんす」
卓袱台には、房姫特製のお抹茶とともにお菓子が出された。
まぁるくてつやつやのそれは、いまの時季にぴったりの。
「ほぅ、これは月餅かのぅ」
「そうなの!
ダリルが作ったのよ。
電算機のくせに意外な趣味でしょ?」
「ルカ……電算機言うな」
「にゃ、にゃにをふるー」
「あらまぁ、仲のよろしいこと……」
「「よろしくないっ!」」
パートナーの功績を讃え、というよりも半ばバカにしているような気もするが。
月餅の紹介をするルカルカだが、その単語はダリルには禁句だった。
がしっと両の頬を掴み、上下左右へむにむにむにむに。
ほら、房姫にもハイナにも笑われているではないか。
「こほんっ!
ハイナ、このあとなんだけど、ハイナの仕事を手伝わせてもらえない?」
「なんとっ、手伝ってくれるというのか、妾の仕事を?」
「えぇ……」
「ルカは同じ女性として、ハイナが責任ある仕事に就いていることが嬉しいらしいのだ。
俺は、能力が有れば種族や性別に関わらず要職に就くべきだと考えるが、現実はそうではないからな」
「ちょっとダリルっ!
それは秘密の約束じゃないっ!」
「先程のお返しだ」
「うぅ……もぅいいわ!
学校の代表って凄い重要な仕事だし、替えがないのよね。
私もたまに、団長に随行するからその辺のこと少しは分かるわ。
だから、ここに居る間だけでいいから手伝わさせて?
葦原の詳しいことは知らないけど、物を運んだり書類を打ったりはできるから……」
「機械を扱う仕事なら、俺に任せてもらおうか。
データの入力や処理はもちろん、修理も可能だ」
申し出はありがたく受け入れられ、ルカルカとダリルは公務の補助をすることとなった。
上がってくる書類や報告書を、スキャナーしてコンピュータへと取り込むのがルカルカの役目。
その画像を微調整して、さらにハイナの指示どおりのコメントを挿入および加工したのち、最高のパフォーマンスで保存するのがダリルだ。
「ふむ……ルカルカが言うだけのことはあるのぅ。
ダリルはすごいでありんす」
なぁんて、ダリルの腕を称讃するハイナ。
迅速に淡々と、凡人では追いつけぬスピードで、データを処理していくのであった。
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