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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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「なんとか潜入できたけど、かなり手間取ったね。数多すぎだよ」
 第三十三軍団の守る砦の中。
 奥の死角で、敵の様子を見ながら朝斗は言う。
 なんだか知らないが、敵軍が作戦変更したらしく、この砦でも慌しく兵士たちが動き回っていた。この三十三軍団が砦の駐屯から外れる様子はないが、後方支援のためシャンバラ軍の監視や物資の調達などで慌しい様子だった。
「まあ、後は片付けるだけだが、敵さんもあちらこちらにびっしりと兵を張り付かせてくれてるじゃねえか。厄介な真似しやがって……」
 乱世がふん、と鼻を鳴らす。後は任せろと力押しで突破しようとする彼女を、朝斗は後からついていく。
「ちょっと待ってよ。兵士が多すぎて、工作できないよ。扉の前に20人も兵士たちがいるなんて異常だよ。どうせ部屋の中にもびっしり兵がいることは予想できてしまうよ」
 スキルもアイテムも手持ちに限りがある。無尽蔵に使うわけには行かないのだ。
 問題ない、と乱世。
「全員始末するまでだ」
「それを嗅ぎ付けて、またわらわらと別の兵がやって来たら?」
「それも全員排除する」
「バレちゃうじゃん。いつか見つかって捕まるよ」
「……関係ねえよ。臆病風に吹かれたなら帰れ。中途半端な心構えでは足手まといになるだけだぜ」
「……なんだよ、僕だって真剣に考えているのに……」
 乱世の言い方に朝斗が少しむっとする。
 一瞬、二人の間が険悪になりかけたときだった。
 どやどやと大勢の兵士を引き連れて、廊下の向こうから謎の男たちがやってくるのが見えた。
「この砦には食料や物資がたくさん蓄えられているのは聞いています。……万一、横領や軍備品の横流しがあっては困りますからネ。徹底的に調査します」
 話しているのは、ルイス・フロイスだった。監査専門の兵士を大勢従えているところを見ると、これから砦の設備や資材を全てチェックするつもりらしい。気の遠くなるような話だ。
「……そんなことあるわけございませんでしょう。物資等の管理でしたらこちらでしっかり行っておりますわ。後にしてくださいませ」
 マルクス・ポルキウス・カトーが怒りをあらわにした口調で言う。戦況はめまぐるしく変わっている。万一の敵の襲来に備えなければならないのに、こんなことをしている場合ではなかった。
 だが、ルイス・フロイスには言い逃れにしか聞こえなかったらしい。むしろ胡散臭げな目つきでマルクス・ポルキウス・カトーを見る。
「私は、これまでの多くの不正を見てきましたが、どの上官も同じ事を言っていましたからネ。……開けなさい」 
「はっ!」
 ルイス・フロイスの命令で、兵士たちがびっしりと固めていた保管庫の扉が開かれる。
「……帳簿に沿って数量を確認していってください。一つでも足りなかったら大変なことになりますヨ」
 ルイス・フロイスは、部下の監査兵を連れて中に入っていく。
「……」
 乱世と朝斗は顔を見合わせた。なんだ、このご都合主義的なタイミングは? 
 いずれにしても、この機に乗じない手はなかった。
 物陰から出ると、鑑査兵の後にピッタリついて一緒に保管庫内部に入り込む。
「ずいぶんと埃が溜まっていますネ。普段から管理をオロソカにしているせいではありませんか? 全く、これだから現場指揮官の口だけの説明はあてにならないのですヨ」
「……なっ!」
 ルイス・フロイスにマルクス・ポルキウス・カトーがブチ切れそうな表情になる。
 かなり広い保管庫には様々な物資が蓄えられていた。食糧もあるし、水の入った樽もある。こまごました日常品まで置いてあった。
 それを一つ一つ数え始める監査兵たち。
「……」
 乱世は【破壊工作】を使って【テロルチョコおもち】を、兵士が数え終わった食用油の樽の裏側にくっつける。いや、よく燃えるんだろうが、なんだか微妙な気分だ。破壊工作を行っている気にはなれない。
「……」
 朝斗も同じく、食料品の粉末類の袋に特殊アイテム【烈華刃】を仕掛けた。上手くいけば小麦粉が舞い散り、粉塵爆発を誘発して面白いことになるだろう。
 だが、なんだろうこの作業しています感は? 一緒に監査している気分だった。
「……」
 二人はすぐさま、こっそりと保管庫を後にした。
 直後……。背後で物凄い爆発が起こる。
「え!?」
 マルクス・ポルキウス・カトーは一瞬唖然としてから。
「ざまあごらんなさい、ルイス・フロイス! ……もとい、非常事態ですわ!」
「そうだね。大変なことになっちゃった……」
 朝斗は、気をとられていたマルクス・ポルキウス・カトーを【鋼の蛇】であっさりと拘束する。
 砦内部は、一気に騒然となった。



 一方……。
 侵入者と破壊工作で騒ぎが大きくなっている平原の砦。
 外壁のすぐ内側で、ボン! と何か破裂音がした。その衝撃でボコリと石畳の一つが持ち上がる。
「……」
 少しだけあげられた隙間から、様子を伺うのは外で土木作業をしていた上杉菊だった。掘ってきた穴がしっかりと砦の中につながっているのを確認すると、石畳の石を完全に押し上げてそろりと内部に侵入する。
「おい、誰かいるぞ!」
 さっそく兵士たちが気付いて走ってきた。
「早く早く……!」
 菊はついてきていた兵士たちを招き入れた。
「はい、ちょっとごめんなさい」
 菊はは駆けつけてきた砦の兵士たちに向けて【機晶爆弾】を放ると、すぐに穴の中へと戻っていく。
 ドーン! と爆発が起こり、たちまちにしてこの周辺も大混乱になった。
 大勢の警備兵がやってきて、砦に入り込もうと穴の奥からやってきた兵士たちと戦い始める。
「……」
 菊は黙って機晶爆弾を壁際に貼り付け、また穴の中へと戻っていった。
 ドーーン! と砦を爆音が響き渡る。


 平原の砦から煙が立ち込めていた。かなり物騒なことになっているらしい。
「……うまくいったみたいだな」
 それを眺めながら、生駒が言った。
「やればできるもんじゃのう……。一時はどうなることかと思ったが……」
 ジョージも汗をぬぐいながら嬉しそうに答える。
 無理難題な穴掘り作戦が成功したのはこの二人の力添えがあったからこそだった。だが、それを知るものは、一部を除いて誰もいない。
「さて、次の作業に取り掛かるか……」
 生駒とジョージは、全く何もしなかった兵士たちを連れて去っていく。
 こういう仕事もあるのだ……。