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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

リアクション

「どうやら、読み違えたらしい」
【シェーンハウゼン】総司令官のクィントゥス・ファビウス・マクシムスは、戦況を見守りながら、作戦の軌道修正をしようとしていた。
 鶴翼の陣は、敵の小兵力とあちらこちらで戦い続けている。だが、ハイナはこのまま中央の深部にまで攻め込んでくるつもりはないようだった。
「誰か、入れ知恵をしている奴がいるな……」
「戦闘中の各軍団から増援要請が来てるわ」
 伝令からの情報をやり取りしていたミヌチウスが告げてくる。
「どこも、コツコツ兵力を削られているみたいね。戦線を維持できなくなるかもしれないわ」
「増援だと? 私が兵士の湧き出す魔法の壺でも持っていると思っているのか? 現有戦力をもって現場を死守せよと申し伝えよ。こちらは早急に計画を立て直し、ハイナを討つ」
 彼の決断は早かった。
 この鶴翼の陣はもう諦めるべきだろう。よい作戦だったが、相手が乗ってこないなら仕方がない。なら、どうするか……。
「……」
 彼の隣では、軍監のルイス・フロイスがじっと様子を見詰めている。その表情からは、何を考えているのかわからなかった。
「ハイナの様子を探らせるために潜入させた密偵はなんと言っている?」
「……それが、帰ってこないんです」
「なんだと?」
 考えていたクィントゥス・ファビウス・マクシムスは、すぐに異変に気付いた。
 鳴り響く大地の揺れの音と舞い上がる砂埃。同時に、伝令が駆け寄ってくる。
「敵が……、正面から突入してきます!」
「……計画通りではないか。何をしている、各軍団に包囲殲滅するよう伝えよ」
「それが……」
「……なんだ、あれは?」
 クィントゥス・ファビウス・マクシムスは目を疑った。
 正面から、象の集団が真っ直ぐに突進してくる。
「インド象だと……、どこから現れた!?」
「我等、選ばれし者! 【ハノーヴァー選帝侯太子義勇大隊】! その矜持を胸に、いざ突き進まん!」
【ハノーヴァー選帝侯太子義勇大隊】 を結成し、【シェーンハウゼン】に戦いを挑んできたのは、後の大英帝国君主ジョージ2世、ハノーヴァー選帝侯太子ゲオルク・アウグス であった。
 現世での名は、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)夏のイベント【武将イラスト】保有参加者
 つまりは、ビジュアルだけではない本物の『超重量級騎馬(?)部隊』 の登場である。
 アーマープレートを装着した重竜騎兵と身軽が特徴の軽竜騎兵からなる『竜騎兵団』らしかった。
 ほとんどが軍馬の『騎馬隊』なのだが、率いる騎兵の内の5騎が甲冑武装したインド象で、それぞれにハノーヴァー選帝侯太子ゲオルク・アウグスが乗り指揮している。
 突撃力の高い楔形陣形を取り、真っ直ぐに向かってくる。
「OH!」と驚きの声を上げるルイス・フロイス。
「五人いる、だと? ……いやまあ、残りの四人は影武者なんだろうが」
 あまりの出来事に、クィントゥス・ファビウス・マクシムスは思わず突っ込んでしまった。
「確かに当時インドはイギリスの植民地だったが、ハノーヴァー選帝侯太子ゲオルク・アウグスは、インドとは接点がないはずだぞ! その象、どこから仕入れてきた!?」
 その声が聞こえたのかどうかは知らないが。
「ノープロブレム!」
 ハノーヴァー選帝侯太子ゲオルク・アウグスは、クィントゥス・ファビウス・マクシムスに向けて、親指を下に突きたてる仕草をした。それも五人が全員。
「斉射!」
 ハノーヴァー選帝侯太子ゲオルク・アウグスがおもむろに命令する。
 それに応じて、【ハノーヴァー選帝侯太子義勇大隊】の兵たちが背負っていた鉄砲を構える。
「……なに?」
 クィントゥス・ファビウス・マクシムスは信じられずに目を丸くした。
 ダダダダダダダ! と響き渡る銃声。
「うわああああああ!!?」
 迎え討としていたそれぞれの軍団の兵士たちが悲鳴を上げる。
 共和制ローマの兵たちは象を見たことがない。ましてや、鉄砲ならなおさらだ。軍団長たちが必死で立て直そうとしているが、巨大な謎の怪物集団の襲来と異次元の武装に、兵士たちは本能的に恐怖しどうしていいか立ち尽くすのみだった。
 象は、馬にもついてこれるほど結構足が速い。
「構わず踏み潰せー!」
【ハノーヴァー選帝侯太子義勇大隊】はすぐさま鉄砲からサーベルに持ち代えた。
 象の牙には松明を括り付け、群がる兵士を振り払いながら、陣の中ほどまで出張っていた第十二軍団を切り分けていく。先頭集団の象部隊が敵を蹴散らし、それに続く騎馬部隊が更に敵を撃退していく。
 最初に狂信者たちと疲れる戦いをして消耗した第十二軍団には荷が重そうだった。
「『鉄砲騎馬隊』だと!? イラスト持ちだからと言って、なんでもありか! 恥を知れ!」
「そなたが言うな!」
 絶句するクィントゥス・ファビウス・マクシムスに、ハノーヴァー選帝侯太子ゲオルク・アウグスがびしりと指を差す。
「……!」
 クィントゥス・ファビウス・マクシムスが目を見開いた。
 巨象率いる騎馬部隊の背後から、400ほどの鉄砲隊が割って姿を現した。伏兵だったらしく、不意打ち気味で全弾発射してくる。
 ダダダダダダダ! と再び響き渡る。
 前に出ようとしていた兵士たちがバタバタと倒れていった。
 いや、だがそれよりも……。
「!」
 その中心部辺りで、一瞬何かが動いたような気がした。
「総司令官!」
 何かを感じたのか、ミヌチウスがクィントゥス・ファビウス・マクシムスの前に飛び出してくる。
 ダンッ! と号砲が轟いた。
「え?」
 とっさに何が起こったかわからなかったクィントゥス・ファビウス・マクシムス。どこからか発砲された銃弾ミヌチウスの背後から心臓を貫くように命中していた。
「ぐ……ふぅっ……!」
 それに浴びせかけるように鉄砲隊の弾も命中する。ミヌチウスの身体がビクリと痙攣した。
「姿を消している狙撃兵がいるぞ! 気をつけろ!」
 総司令官を全身で庇うように倒れるミヌチウスと、それを抱き支える総司令官。
(総司令官には当たらなかったみたいね。いい勘してるじゃない、部下くん……)
 狙撃主は、グロリアーナのマスターのローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だった。イコン{ICN0003800#グレイゴースト?}を鎧として身を固めているのだが、そんな必要はないのかもしれなかった。
【光学迷彩】と【ブラックコート】、さらには【狂血の黒影爪】で存在感を消すことに成功し、感づかれずに接近していたのだ。
 突入する前から【ホークアイ】で目標を特定し、【スナイプ】と【シャープシューター】を使用した念入りの狙撃だったのだが。
(二発目の命中は難しいわね……。完全に警戒されて、護衛がびっしり張り付いたわ)
 クィントゥス・ファビウス・マクシムスに対して、10人以上の護衛兵が取り囲んだ。全員が総司令官の盾として犠牲になるだろう。ムダ討ちしている間に、発砲地点から自分の所在を確認される場合もある。
(今回はここまでね。ちょっと残念だけど仕方ないか……)
 ローザマリアは、あっさりと引き下がった。さて、あとは……。
「……【シェーンハウゼン】に栄光あれ! 必ず勝って下さい、総司令官……」
 だらだらと血を流していたミヌチウスはガクリと力を抜き動かなくなる。
「くっ……!」
 クィントゥス・ファビウス・マクシムスは怒りに燃える瞳を向けた。
「総員、敵を包囲殲滅だ。落ち着いて対処せよ。敵は大きいだけだ。盾で防ぎながら押さえ込め」
 クィントゥス・ファビウス・マクシムスは第一軍団にも進撃させる。もはや敵の『高速騎馬部隊』は鶴翼の陣の奥まで侵入してきている。包囲殲滅するのに問題ない。
「……やれやれ、とんだ騒動ですな。私もお手伝いさせてもらいましょう」
 中央軍後方から、グネウス・セルヴィリウス・ゲミヌス が姿を現す。
 アルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)のイコン、1月30日を装着した彼は、共和制ローマ期の将軍及び軍人なのだが、この場では軍団を率いずに歩兵の壁役として援護についていた。
 グネウス・セルヴィリウス・ゲミヌスは、紀元前217年の執政官を務め、ハンニバルの侵攻を食い止めようとしたものの、フラミニウスがトランジメーノ湖畔の戦いで敗死したため、やむなく撤退。翌年のカンネー会戦には軍団長の一人として参加し戦死を遂げたという経歴を持つ。
 この戦いではすっきりと勝ちたいものだった。
(罠にかかったと気付いた敵は、おそらく、死に物狂いで包囲網の突破を図る筈……最後まで気を抜かずに戦わねば)
 グネウス・セルヴィリウス・ゲミヌスは、【光条兵器】や【ライトニングウェポン】を武器に慎重に【ハノーヴァー選帝侯太子義勇大隊】に接近する。
「【アナイアレーション】!」
【殺気看破】で察知していたハノーヴァー選帝侯太子ゲオルク・アウグスが、いきなり容赦なく大技をぶっ放した。
 グネウス・セルヴィリウス・ゲミヌスは周囲の兵ごと巻き込んで吹っ飛ぶ。
「ぐっ……」
 イコン装備で何とか耐えた彼は負けずに敵の勢いを押さえ込もうとするも。
「もう一回、【アナイアレーション】!」
 ハノーヴァー選帝侯太子ゲオルク・アウグスはニッコリと微笑んだ。そして、あろうことか敵陣の真ん中で身を翻す。さしあたり、敵の不意をついてダメージを与えることが出来たので、十分だったのだ。
(そう、頃合よね……。捕まる前に逃げるが勝ちよ)
 ローザマリアは【召還】スキルで、パートナーの悪魔フィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)を呼び出した。
「お疲れ様。派手なことになってるな」
「しんがりよろしく」
 ローザマリアがぽんと肩を叩くと、フィーグムンドは不機嫌そうな顔になった。
「ああ、そうだろうとも。そんなことだろうと思ったよ。一番狙われやすいキツイところだ」
「万一の場合は、あんたの骨はしっかり拾って……骨格標本として理科室に飾ってあげるわ」
「涙が出るほど高待遇だね」
 そういうと、フィーグムンドは、敵陣に向き直り【ブリザート】を放つ。兵士たちが混乱する中、スキルを連発しながら正面に向かって突撃していった。
「はははは! 私は悪魔だ。殺せるものなら殺してみろ!」
「さて、今の内に引き上げましょう」
 ローザマリアはフィーグムンドに頷きかける。彼女も頷き返して。
「うむ。皆の者、大儀であった。わらわは満足である。これより帰投する」
「愚かな。逃れられると思っているのか!」
 クィントゥス・ファビウス・マクシムスが、包囲網を狭めるよう指示を出す。動けるのは、第一部隊と中央の部隊、右翼左翼の後方の軍団くらいだった。
「そこからでは追いつけぬよ。包み込むはずの左翼も右翼も現在戦闘中である」
 ハノーヴァー選帝侯太子ゲオルク・アウグスは、全部隊の内400だけを残して進路を変え、鶴翼の陣の出口へと進路を変えた。
「突撃!」
 その声で、400の部隊は前へ。残りはハノーヴァー選帝侯太子ゲオルク・アウグスと共に、戦線離脱を図る。
「まあ、そういわず。もう少しお付き合いくださいな」
 グネウス・セルヴィリウス・ゲミヌスが体勢を立て直して追いかけてくる。
「うむ、そなたも達者でな。……【百獣拳】」
 ハノーヴァー選帝侯太子ゲオルク・アウグスはスキルを放つと、部隊を全力疾走させた。
 ダダダダダダダ……! と、しんがりを引き受けた400が、追撃を押し止めるためクィントゥス・ファビウス・マクシムスの陣に向けて一斉射撃する。そして、すぐさま騎馬隊を反転させ、後退していた。
「……もういい、総員退け」
 クィントゥス・ファビウス・マクシムスは、『高速騎馬部隊』が鶴翼の陣から逃れていくのを見て、追いつけないと判断した。前進しようとしていた歩兵部隊の進軍を止める。
「そうくるか、ハイナ・ウィルソン……。面白いじゃないか」
 クィントゥス・ファビウス・マクシムスは、第一軍団を整え直し、元の陣形に戻っていく。
「今日のところはこの辺で勘弁しておいてやろう。だが、私はいつでもどこでも現れる。震えながら待つがいい!」
 フィーグムンドも一瞬で姿を消す。簡単なことだ。退避したローザマリアからまた召還してもらえばいいだけのことだった。
「……」
 ルイス・フロイスは、そんな様子をやはり黙って見つめているだけだった。


▼島津優子、戦死。
▼第十二軍団:1500→500
▼【ハノーヴァー選帝侯太子義勇大隊】:900→650

◆島津優子のデータを抹消しました。

  〜〜 オートセーブ中 〜〜

『セーブに失敗しました!』