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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 6

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 6

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第3章 食は命・美味なるものならば食らう Story1


「銀の靴を履けば、川の上も楽に飛べるわね」
 日堂 真宵(にちどう・まよい)はふよふよ浮かびながらケルピーを探す。
「真宵、何か反応ありましたかーっ?」
 川沿いで行方不明者の捜索をしているベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が、大きな声でパートナーに言う。
「あるにはあるけど、川魚とかもいるから微妙よ」
「これはもう何かの見返りに要求するか、脅迫して教えろと迫るしか無いのかしらね。もしくは賄賂ね賄賂。ケルピーでも捕獲してそれを…。ん〜〜っ、川の生物の反応まで混ざって厄介だわ!」
 アークソウルの反応があるものの、どれも魔性に対してではなさそうだ。
「―…あの人、そう簡単にネタを落としてくれそうにないし。やっぱりケルピーを賄賂にするしかないかしら?」
 実年齢はプライバシーだと言い、何度聞いても教えてくれないラスコットが、簡単に脅迫ネタを与える隙がなさそう。
 ならば、賄賂で釣ろうという策を思いついた。
「(水の流れはゆっくりっぽいけど、深さは結構あるわね。川底にでも隠れているのかしら?)」
 挑発でもすれば出てくるだろうと思い、魔術師のダガーを式神の術で式神化させ、川の中に放り込む。
「ここで誰かが昔落っことした高そうなアクセサリーでも出てこないかしらねぇ」
 ダガーに水中をかき回していれば、川に沈んでいる物が浮かんでくるかも…と、思考がそっちのほうへいってしまった。
「なんか光った…っ。ん…何よこれ、釣りに使うじゃないの!いくら金属でもこんなのいらないわっ。ぁー…もうっ、ハズレばっかり!」
 見つけた!と思っても、釣り糸や釣り針などの小さなゴミくらいで、目ぼしい物は浮かんでこない。
「危険な水面まで行くなんて…真宵にも自己犠牲精神があったのですね!」
 真宵の方は“餌役”になるつもりはないのだが、テスタメントの瞳には真宵が、魔性を発見するための囮役をしているのだと映った。
「ふぅ…、ここまで結構歩いたわね。昼食後の運動に丁度いいわ。あー、気持ちよさそう。水着持ってくるんだった」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はそよそよと流れる川を眺める。
 川はわりとキレイなほうだし、せっかく冷たい水場があるなら、泳がなきゃもったいない。
「緊張感ゼロね」
 魔性が突然襲ってくるかもしれないのに、のんきな態度を取る恋人に呆れ、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は肩をすくめた。
「そんなんじゃ、まっさきに狙われるわよ」
「んもぅ、怒らなくたっていいじゃない。だって、こんなに冷たくて気持ちいのよ。つい泳ぎたくなっちゃうじゃないの」
「セレン、それが危ないっていうの。こんな場所で泳いでたら、ご自由に襲ってくださいっていうようなものよ」
「フリーサービスみたいに言わないでよ。私だって、それなりに準備してきたんだからね」
 いつでも祓魔の護符を使えるように、片手に握っている。
「―…分かっていればいいわ」
「ちょっとセレアナ、もうちょっとくっつきなさいよ」
「は?人前で何言ってるの…」
 皆が見ている前でイチャつこうとうのか、普通の時なら考えなくもないが…今はそんな不真面目なことをしている場合じゃない。
 彼女はかぶりを振って拒否する。
「セレアナって、今日はアークソウルを持ってきていないでしょ?相手の気配が分からないんだから、なるべく離れないでってこと」
「そ、そうね…。…ゴホンッ、それじゃ仕方ないわね」
 勘違いしてしまった恥ずかしさを、咳払いでごまかした。



「―…今のところ、何かが通ったような跡はないようだな…」
 グラキエスは川辺に屈み、地面に触れて何かが通ったような跡がないか探す。
「そっちはどうだ?」
「グラキエス様、森の生物が減ってきています」
 エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)は銃型HC弐式の赤外線で、生き物たちの数が減っているか調べている。
「位置までは明確に分かりませんが…」
「いや、それだけ分かればいい」
「例の時期がくるということですね」
 食材は新鮮なものほど美味しい。
 こんな暑い時期に、屋外で飲まず食わずの状態にさせて、ずっと保存するのも難しいはずだ。
「僕が魔物なら餌は一箇所に集めて置くねぇ。いちいち探すのもメンドクサイし。それに結構時間が経っているから、生存者のアークソウル反応も弱そうだよね。それが沢山あるところが、生存者が集められている場所じゃないかな」
「反応が弱いかどうかは、もっと鍛錬しなきゃいけないんじゃ?」
 弥十郎の言葉に、斉民がすかさず突っこむ。
「えー、そうなの?…ワタシが判断出来るのは、黄…いやなんでもない」
 心臓を貫きそうな視線に弥十郎は、顔に冷や汗を流してかぶりを振った。
「まぁ…、反応の強さはともかく。気配が密集してるところを探せばいいかもね」
「うん、そうそう♪(ふぅ〜、また機嫌損ねるところだった…)」
「い、生き物が減ってるって…、川の近くの…ってことですよね?」
 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)はスペルブックを抱え、おどおどした口調でエルデネストに言う。
「はい、そういうことになりますね」
「で…では、魔性が近づいている…ということでしょうかー」
「まずいですね、早く行方不明者たちを発見しませんと…」
「皆さん…、どこに集められているのでしょう…」
「川辺の近くだとは思うんですけどね」
「ワタシだったら、食材を日差しが強い場所に放置しないね」
 食べ物に対して拘りがあるなら、それくらいの知識はありそうだと考える。
「ふむ…。ということは日陰ですか?」
「それも川の近くのね。だけど、何人もここを離れるわけにいかないし、どうしようか」
「私たちが見てくるわ。手持ちの地図は村の中しか描いてないから、午前中に森へ入った人についてきてほしいんだけど…」
「はーい、あたしがついていくよ!」
 コレットは大きな声で言い、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)の方へ走る。
「ありがとう。できればあと何人か来てもらえるかしら?人を襲うってことは、私たちも魔性と遭遇するかもしれないの」
「いったん2チームに分かれるってこと?じゃあ私たちも行こう、ベアトリーチェ」
「了解です、美羽さん」
「そこにセイニィがいるもしれないってことだな」
「カサハリが行くというのなら、私たちも同行しないとな」
「だいぶ暗くなってきましたから、明かりをどうぞ」
 ミリィが樹にランタンを渡す。
「では借りるとしよう」
「呪いに対する抵抗力も必要ね。終夏さんも一緒に来てくれるかしら」
「うん。ひとつのチームにクローリスを扱える人が、必ず1人はついていったほうがよいからね。…スーちゃん、もう香りの効果が切れていると思うから、お願いね」
「わかったー!」
 スーは白い花のパラソルを手に、ふわふわと宙を舞う。
 パラソルをくるくる回転させると、白い香りの粒が終夏たちに降り落ちる。
 終夏たちや草木に触れた粒はポンッと弾け散り、甘く爽やかな香りを漂わせた。
「フレデリカさん、川沿いの日陰になる場所で捜索するんだっけ?」
「えぇ。日が沈みきると、探すポイントが分かりづらくなってしまうから、急ぎましょう」
 川辺で捜索するチームと別れ、木々が茂る日陰へ向かう。



「使い魔のへんぷくさん。何か異変を察知したら教えてください」
 章がそう告げると、コウモリは辺りを警戒しながら飛ぶ。
「フリッカ、獣たちを見かけなくなったね?」
 魔性の襲撃に備えてアークソウルに祈りを込め、辺りを警戒しているスクリプト・ヴィルフリーゼ(すくりぷと・う゛ぃるふりーぜ)が言う。
「生き物気配の数も、ほとんどない感じかな…」
「午前中の報告では、川や森で生き物や魚が、大量に傷つけられていたらしいから…。またこの辺りで、ケルピーが悪さをしているのかもしれないわ」
「早くなんとかしないと、傷つけられちゃう子が増えてしまいそうだよ」
「それもそうなんだけど…。魔性祓いよりも、人命救助が先よ。攫われてから、だいぶ時間が経っているはずよ。皆…かなり衰弱していると思うの」
 呪いの精神面の侵食も心配だが、何時間も食べることも水分補給も許されない状態で、耐えている人々を一刻も早く助けてあげたい。
 フレデリカは背の高い草に、隠されていないか調べる。
「ねぇ、フリッカ。木のほうは見ないの?枝にひっかけてあるかもしれないよ」
「そんな場所、誰かに発見されたら連れ戻されちゃうじゃないの」
「ん〜、そっかー…。ぁ…っ!」
 スクリプトは宝石が反応しないように、仲間と少し離れて捜索していると、どこからか苦しげな呻き声が聞こえてきた。
「村でいなくなっちゃった人たちの声かな?」
「アークソウルが反応しているってことは、すぐ近くにいるのかも…」
「セイニィもそこにいるのか?」
「まだ特定の人を探せるまで、能力を引き出せないからね。そこまでは分からないよ。ぅ〜ん、もっと精神を落ち着かせて、探さなきゃ!」
 牙竜にそう告げると、スクリプトはペンダントに触れ、探知に集中する。
「あの木の後ろに…、気配の塊があるよ」
「その周りを、何かが囲んでいるね」
 弥十郎もアークソウルで、一箇所に集まっている気配を感じる。
「まずは私と薔薇学の黄色がケルピーの位置を把握し、章とバカ息子が周りの者を退かせよう」
「黄色って私のこと…!?むぐ…っ」
 樹につけられたネーミングに、ムッとした斉民が声を上げる。
「しーーっ!斉民、声が大きいよっ」
 自分たちの位置が魔所にバレないように、弥十郎は慌てて斉民の口を手で塞いだ。
 気配の集団を囲んでいる者たちの位置が、若干動いたものの…すぐに元のポジションに戻った。
「む…すまない。ならば、薔薇学のKでどうだ」
「それも同じような感じがするけど…。もう、いいわ」
 パートナーが相手なら嫌だと拒否するが、今はネーミングでもめている場合ではない。
 半ば諦めた斉民は、はぁ〜…っと嘆息し、雑念を消して祈る。
 エアロソウルは淡い黄緑色に輝き、不可視化を見破る力を発揮させる。
「(何匹いるのかしら?)」
 斉民は低く屈みながらゆっくり魔性に迫り、草陰からちらりと顔を覗かせた。
「(うわ、5匹も…。あれは村でいなくなった人?囲まれちゃってるわ)」
 草に埋もれるように倒れている5人の失踪者を、魔性が取り囲んでいるようだ。
「へんぷくさんが戻ってきた。…ふむふむ、アルギエバくんもそこにいるってことだね?んー、表情が妙…?呪いで精神侵食されているせいかもね」
 コウモリのジェスチャーを見た章は、セイニィは無事だが様子がおかしい…と情報を受け取った。
「…えっとー、武神くん、太壱君、耳栓!…へんぷくさん、ごめんね」
 耳栓を2人に渡すと、使い魔にも耳栓をつけた。
「章、バカ息子。 ケルピーが攻撃をする際は、雷術・火術及び祓魔の護符で加勢をする。我々だけでは上手く行かない場合は、信号弾をあげて救援を呼ぶ。救助のほうはカサハリと、イルミンスールの炎使いたちに任せるとしよう。私たちの役目は、あいつらの相手だ」
「了解、樹ちゃん」
「分かったぜ、お袋」
 2人はいつでも詠唱を始められるようにスペルブックを開いた。
 目配せで合図し合い、章は声のボリュームを下げて詠唱を始めた。
「かの存在に、裁きを」
 樹の視線の先に合わせ、赤紫色の雨を降らせると、地面の草がざわざわと揺らめく。
「あたったのかな…」
「バカ者、他のやつがまだだろう?さっさと唱えるんだ章」
 当然、仲間のケルピーは何者かに襲われたのに気づいてしまっただろう。
 居場所がバレないうちに、魔法防御力を殺いでしまえと、章の横腹を肘で押して急かす。
「う、うん樹ちゃん」
 樹が親指を向ける方へ酸の雨を降らす。
 ケルピーたちは“憑依する力がなくなっていクー!!”“だ、誰の仕業ー!!?見つけて食べちゃエッ”と騒ぎ立てる。
「わわっ、やばい。こっちにくるわ」
 緑色の藻のたてがみの馬の姿が、斉民の瞳に映った。
 それは怒り狂った顔で、雨を降らせた者である章を探しているようだ。
「あの位置から離れないやつがいるな、私の方に寄せるか…。餌がそんなにほしいのか?こっちだ、魔性ども!」
 隠れていた樹はケルピーたちに姿を見せ、斉民たちの傍から離れる。
「オマエかぁあァアア!!?」
「フン、答えると思うか?」
 アークソウルの反応を頼りに、突進してくるケルピーをかわす。
「太壱君、哀切の章を!」
「お、俺だって彼女が欲しいんだちっくしょおおおおお!!」
 章の指示に太壱が哀切の章を使おうとするが…。
「あ、あれ…?おーいもしもーし?なんも反応がない!?」
 詠唱してみたものの、ハイリヒ・バイベルに記された章はまったく反応する気配がない。
「当たり前だ、バカ息子。お前の言葉は、心の叫びじゃないのか?そういうただの願望は、マイナスの精神だろうが、このバカ者っ!!」
「えぇええーっ!!これじゃいけねぇってこと!?」
「決まった言葉はないけど、章に合わせたイメージじゃないとね…」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は太壱の傍に寄り、こっそりと教える。
「うわぁああぁあ、そうだったのかーーーっ。お、お袋。許してくれぇええ」
 初戦で大失敗した太壱は、後で叱られるイベントのことを思うと、叫ばずにいられない。
「あぁ、許してやる。ただし、帰るまでの間だがな」
 今、怒れば自分まで魔道具に影響してしまう。
 バカ息子は後でたっぷり叱ってやろうと、彼の失敗を記憶の奥へしまいこんだ。
「気をつけて樹ちゃん、そいつら樹ちゃんを背中に乗せる気だよ!」
「私を餌にするつもりか、いい度胸だ。…く、効いてないのか!?」
 ケルピーに雷術や火術を放つが、気配が迫るスピードは変わらない。
「攻撃が通るのは、魔道具だけみたいだね」
「ならばこいつをくらえ!」
 祓魔の護符を投げつけると、僅かに気配の位置が離れた。
「武神くん、早くアルギエバくんの保護を!」
「あ、…ぁあ。今助けてやるからな、セイニィ」
 必死に草むらを掻き分け、“餌場”に集められているセイニィの元へ急ぐ。
「―…いた!セイニィ!!」
 彼女の細い腕を掴もうとするが…。
「あたし、行かなくちゃ…」
 飛び起きた少女は、牙竜の手から逃れるように離れた。
「聞け!セイニィ!これじゃ、洗脳されてた頃の彼女と同じだな…。あの時は彼女が嫌われる覚悟で説得した…だから、今度は俺の番だ!いや、お前を助けるためなら彼女達は魔性の払い方を知らなくても助けに来る…俺みたいにな。セイニィ、一瞬でもいい魔性に負けるな…助けに来た人達を信じろ!」
「もうすぐ時間…。行かなきゃ…」
 青色の瞳は牙竜を見ようとせず、“おいで。お友達と遊ぶよりも、楽しいところに連れていってあげるヨ”と、話しかけるケルピーの方へ歩く。
「カサハリ、獅子座の乙女は呪いで精神支配されている。魔性の傍に寄らせるな、捕まえろ!」
「こっちは告白の返事…まだ貰ってない…魔性に邪魔されてたまるか!」
 セイニィへ続く道を阻んでいる枝や野草を踏み越え、不可視のままのケルピーの背に乗ろうとする彼女へ迫る。
「―…牙竜?」
 彼女は足を止め、牙竜の方へ振り向いた。
「正気に…戻ったのか?」
「答え…答え……?」
 彼が何を聞きたがっているのか、考えるように首を傾げる。
「あぁ、聞かせてもらってないだろ?」
「そんなものつけてると…、あたしの声…聞こえないわよ」
「耳栓か?分かった、これでいいか?」
「そう…それでいいわ。……答えてあげる…。あたしね、考えたの。牙竜と…ずーっといる方法をね…」
 セイニィは感情がまったく感じられない言葉で話す。
「こっちにきて、牙竜」
「待て、それは罠だカサハリ」
「林の姉さん…」
 樹の声に牙竜は足を止めてしまった。
「―…何?…その女の言葉を……信じるの?あたしに言った…言葉は、全部…嘘っていうわけ…?」
「ち、違うセイニィ!」
「あなたの…ホントの気持ち…見せてよ?おでよ、ねぇ…、おいでよ」
「1人で動くな、カサハリ。章、バカ息子、ケルピーが獅子座の乙女の近くにいる。攻撃しろっ」
「え?何、樹ちゃん。メールが来た…、分かった樹ちゃんっ。あーっ、武神くんが!!?」
 耳栓をつけているため樹の声が聞こえにくく、彼女から送られてきた携帯メールを見る。
 裁きの章で弱らせようとするが、牙竜はセイニィに片腕を捕まれて引き寄せられ、パイルバンカーを向けられている。
「この子がね…、楽しいところに連れて行ってくれるらしいの。…牙竜も、一緒に行こう?」
 セイニィは彼の服を掴み、無理やりケルピーの背に乗せた。
「これで、ずっと…ずっと一緒にいられるわね…」
「やめろセイニィ、降りるんだ」
「降ろさないヨ。ジブンとくれば、一緒にいさせてあげるヨ?」
「…くっ、背から離れられない!?」
 スーの香りの効果が切れてしまい、牙竜までケルピーの背から降りられなくなってしまった。
「ふ、ふふふ……。これから永遠に…、あなたの…傍にいてあげるね…。あはは…、あはははは!!!」
 ケルピーに意識を操作され、自分の意思ではない言葉を言わされている。
「こいつは俺たちを川に沈めようとしてるんだぞ。このままだと、こいつに喰われてしまう!」
「どうして?あたしと一緒に行こうよ?」
「こんなの…、お前の意思じゃない。操られているだけなんだろ?」
 魔性に命令されるセイニィを受け入れることは出来ない。
 抱きつこうとする彼女の手を拒む。
「…ちくしょうっ。もう…、俺の声は届かないのか!」
 このまま何も出来ないのか、セイニィを助けられないのか。
 牙竜は彼女の片手をぎゅっと握り、悔しげに叫んだ。