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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 6

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 6

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第4章 食は命・美味なるものならば食らう Story2

「(こちら和輝。行方不明者を発見したか?)」
 いつまで経っても戻らないチームのことが気になり、和輝は一輝にテレパシーを送った。
「(和輝、牙竜とセイニィがケルピーの背に乗って、そっちに向かっている)」
「(呪いにかかけられてしまったのか)」
「(牙竜のほうは、まだ深くかかっていないと思うが…。セイニィのほうは魔性に操られてしまっている)」
「(了解、牙竜にテレパシーを送ってみよう)」
 そう告げると和輝は、牙竜へテレパシーを送る。
「(―……こちら和輝。川辺に向かっていると、一輝から情報をもらったんだが?)」
「(あぁ、魔性は川辺に向かっているようだ。今、林の姉さんたちが追ってきてくれているが、距離がかなり離れてしまっているな…。せめて、声で位置を知ってもらえるようにしている)」
「(その状態じゃ、位置を知らせるのは難しそうだな。…了解だ)」
 樹たちが追っているなら、そっちに発炎筒で居場所を知らせてもらえばよいか、とコンタクトを取る。
「(こちら和輝。今、牙竜たちから話しを聞いたんだが。こちらの位置を発炎筒で知らせるから誘導してくれ)」
「(了解した)」
 そう言うと樹は、“発炎筒の煙を確認したら、そこへ魔性を誘導しろ”とパートナーにメールを送った。
「だいぶ暗くなってきたな。む、そこか」
 発炎筒の炎に、ほんのり赤く照らされた木々を発見した。
「川が見えた!…かの存在に、裁きを」
 章は裁きの章による酸の雨で、炎の明かりが見える方角へケルピーを誘導する。
 太壱も彼に続き、和輝が指示したポイントへ追い込む。
 神速のスピードで駆けるケルピーに、哀切の章の光の波は尾にも届かない。
「少しも掠らないなんて!」
「2人の安全が優先だからね、今は誘導してくれるだけでいいよ。」
「うー…、分かったよ、親父」
 頭ではそれを分かっているものの、掠らないなんてやっぱり悔しい…と不満げな顔をする。
「そうも言ってられなくなってきたぞ、やつとの距離がひらいてきている。私の歌で、術を命中させる隙をつくってやろう」
 樹が驚きの歌を歌い、敵を怯ませてみようとするが…。
「な、効かないだとっ!?」
 彼女の歌唱力は、恐ろしいほど音程が外れている酷いものだったが、畏怖のようなものは与えられなかったようだ。
「い…樹ちゃん、驚きの歌は仲間のSPを回復させるんだよ」
「ふむ…そうだったか?」
「(僕たちのSPは回復したけど、耳が…っ)」
 章は慌てて耳栓をつけたが役に立たなかった。



 川辺でケルピーを待ち構えているチームは、アニス・パラス(あにす・ぱらす)たちが待ち構えている。
「ねぇ、リオン。ディテクトエビルと魔道具を併せられないかな?」
「魔道具の使用条件のスキルとはいえ、それも通常スキルだ。併せるのは無理だろう」
 アニスの空飛ぶ箒ファルケに乗せてもらっている禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)はかぶりを振った。
「―…むー、そっか。(おっ!反応あり!和輝、魔性発見♪)」
 川辺に生息している生き物が、ほとんど去ってしまったことで、迫る気配がそれだとすぐに分かった。
 気配の接近に、人らしき声もだんだん聞こえてくる。
「だ、誰かいるの?うぅ…」
「和輝がテレパシーを送った者と、セイニィだろうな。…む、来たようだ。なんとも奇妙な光景だな」
 不可視化している者を視覚確認が出来ないリオンとアニスたちからは、2人が座ったまま宙に浮かびながら、川辺に向かっているように見えた。
 彼らの下には、間違いなくケルピーがいるのだろう。
「リオン、そこ!」
「精神干渉タイプか……ふむ、面白い相手だな。さて、力を試すモルモットになってもらうぞ、魚類」
 アニスに探知してもらった気配の先へ、裁きの章の雨を降らせる。
「川のほうに行こうとしてるよ!動きが鈍ったみたいだけど、まだまだ元気っぽいっ」
「ほう、すぐにでも背に乗せてやるやつらを食らいたくてたまらないのだろうな」
 美味いものにありつけず、極度の空腹で我慢が出来ないケルピーは、セイニィと牙竜を川に沈めて喰らう気なのだ。
「リオンの術で弱っているはずが。食欲を原動力にして、動いてる感じだな」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)は川へ一直線に向かうケルピーを睨む。
「ダリル、俺が示す位置へ術を放て」
「お前の横で戦うのも悪くない」
 彼にゴットスピードをかけてもらい、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は口の端を持ち上げ、笑みを向けた。
 羽純はホーリーソウルに祈りを捧げ、ペンダントを媒体に宝石を白く輝かせる。
 宝石の清き光は彼の指先に集まり、白き光線となってケルピーの足を貫く。
 魔性は小さく呻き、羽純を目掛けて駆けた。
「なんで食事の邪魔をすルッ!?」
「お前に喰わせてやる人の命はない!」
 不可視の魔性の突進を軽々とかわす。
「き、貴様…、見えているのカ」
「あぁ。ネタは教えてやらないけどな」
「貴様も食ってやるぅううウ」
「―…俺を喰らう?フッ、ここまでこれれば…だな」
 魔性に向けて光線を放ちながらダリルの後ろへ下がった。
「そんなに腹が減ってやるなら喰わせてやろう。ただし、お前にやるのは祓魔術だがな」
 リオンと酸の雨で挟み撃ちにし、逃げ場を失わせる。
 羽純はその好機を逃さず、セイニィと牙竜にかけられたケルピーの背から離れられない呪いを、ホーリーソウルで解除する。
 牙竜はセイニィを抱えて、転がるように砂利の上に転がり落ちる。
「え、餌ッ。ジブンから、離れちゃいけなイッ!!」
「その2人はあなたの餌なんかじゃないわ!」
 スペルブックの哀切の章を開いたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は詠唱し、光の波をケルピーの身体に進入させる。
「むぅ〜〜、や、やダッ」
「あの馬、まだ立ち上がる気だぞ」
 魚の尾をぶんぶん振り回しながら立ち上がる魔性の姿を、羽純の黒色の双眸がとらえた。
「ずいぶんと諦めの悪いやつだ」
 ダリルは呆れたように嘆息し、悔悟の章のページを開く。
「ルカ、もう一撃やれ」
「おっけーよ。…さぁ、観念しなさいっ」
「―…む、むぅううウ、ァァアアッ」
「魔性が器から離れたぞ」
 器にされていた携帯が川辺に転がる。
「そろそろ大人しくなってもらうか」
 羽純の視線に合わせて、ケルピーの周りに灰色の重力場を発生させ、これ以上抵抗させないように体力を削ぐ。
「ポニーサイズになったな」
 体力を削がれただけでなく、小さくなってうずくまっている者を、羽純が見下ろした。
「まだ抵抗するか?それとも、諦めるか?」
「うぐぐぐぅウ…、皆ぁああ来ぉおおィイイッ!!!」
 美味しいものを喰らいたい!という欲望を抑えきれない空腹のケルピーは嘶き、仲間を呼び集める。
「えぇえっ、あんなにいっぱい!?」
 遠野 歌菜(とおの・かな)の青色の双眸に映った。
「魔性が…仲間を呼んだんですか?ど、どうしましょう…っ。な…な、何匹いるんでしょうか…」
 視界認識が出来ないためか、ケルピーが何匹も現れたと耳にした高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は、あわあわと慌てる。
「クローリスくん、香りの効果が切れてしまいそうだから、頼めるかな?」
 花の魔性はクリストファーに小さく頷いた。
 少女は可愛らしく舞い踊り、花の香りを撒く。
「俺たちまで、呪いにかかるわけにはいかないからな」
「かかってからじゃ、クローリスの効果は発揮しないってことだね?」
「彼女たちの香りは、あくまでもかかりにくくするためだからさ。効果を切らせないためにも、ここを離れちゃいけないってことだ」
「うん、皆を守らなきゃね。…クローリスさん、お願いね」
 クリスティーは魔性に対する恐怖心を和らげようと、花の使い魔に香りを撒くように頼んだ。
「安らぐような…甘い香りがするね」
「―…なんだか、気持ちが静まっていきますね…」
 さっきまで焦っていた結和も、目に見えない敵に対する恐怖心が和らぐ。
「迎えに…来てくれたの?嬉しい…、今…行くわ」
「セイニィ、まだ呪いが解けきっていないのか?そっちへ行くなっ」
「お前、邪魔ッ」
 ケルピーは水柱を発生させ、牙竜の行く手を阻む。
「く、くそ…こんなものっ」
「来るなァアッ!」
 今度は彼の脳天目掛けて水柱を落とし、押し潰そうとする。
「がぁあっ!?」
 避けきれず水圧で砂利の上に突っ伏す。
「ジブン、この子の腕食べたイ」
「じゃア、ジブンは頭がほしいナ」
「ジブンは足がいイ」
 ケルピーは好き勝手に、セイニィをどこから食べようか相談を始めた。
「中身はどうすル?」
「皆で分けようヨ」
「じゃー…、沈めてバラバラにして、食べやすくしようカー?」
「賛成ィイッ」
 仲良く分け合って食べようと決定し、セイニィの意思を操って川へ歩かせる。
「や、…やめろぉおおっ」
「邪魔、ヤダッ」
 ケルピーは牙竜の接近を許さず、餌である娘を囲み水柱で阻む。
「こいつら…、楽しんでるな」
 視界に映る魔性のニヤけ面に対して、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は深いそうな顔をした。
 彼らは愛しい人を目の前に助けられない、牙竜の様子を愉快そうに楽しんでいるのだ。
「なんていうか、かなり“悪趣味”だな」
「それが、彼なりの“スパイス”なのでしょう?」
 その単語に、エルデネストが苦笑する。
「俺たちがあいつらの相手をしている間に、あの娘を救助してくれ」
「はい。グラキエス様に救助が優先だと、命じられていますからね。では、皆さん。お願いしますね」
「言葉で相手を惑わす、か…上等」
 グラルダは空飛ぶ箒エンテにランタンを紐で括りつけると、その上に立ち裁きの章のページを開いた。



「ねぇ、あんたたち。アタシたちでも、不可視の者が見える術が使えるのよね?」
「え…えぇ」
 エアロソウルを持たない者でも、あの魔性が見えるように出来る?とグラルダに聞かれた歌菜が頷く。
「それ、今お願い出来る?」
「はい!…陣さん」
「まぁ、オレらだけさくっと分断して、行くわけにもいかないからな」
 陣はそう言うとペンダントに触れ、精神を沈めて詠唱を始める。
「な、なんかヨクナイことしようとしてル?」
「ヤダ、止めなキャッ」
 2匹のケルピーが陣たちに迫る。
「皆さん。陣さんと歌菜さんの方に、複数の気配が接近してますわ!」
「―…はい!」
「了解です…」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)とフレンディスは、ミリィの声にスペルブックを開き、裁きの章のページを捲る。
 彼女の視線が示す場所へ、赤紫色の雨を降らせる。
 すると気配は陣と歌菜から離れ、別のターゲットを狙おうと蠢く。
「誰から大人しくさせル?」
「適当でいいヨ、いたぶって沈めて食べちゃおうヨ。…うわぁアッ!?なんか降ってきたァア!!」
 餌を選んでいるケルピーに、レイン・オブ・ペネトレーションが降りかかり、彼らはギャアギャアと喚きたてた。
 全てを見通す雨により、グラルダや結和たちにもケルピーの姿が視界に映った。
「そこかっ」
 ぼんやりと見える程度だったが、ランタンとダークビジョンのおかげで、日が沈みきった森の中では十分だ。
「万象の概理は覆らず、其の寄る辺も此処に無し。君臨者が嘯き、槌が振るわれ、天秤が傾ぐ。天より注ぐ落涙にて身を濯ぎ、地に伏して乞え。見よ!此れが其の罪なり」
 グラルダは裁きの章の詠唱を始め、セイニィを囲んでいる者に、人を攫った罪の罰を与える。
「やーッ!!この雨、キライィイッ」
「では、人をもう襲わないって約束してくれますか?」
 騒ぐケルピーに明日香が声をかける。
 哀切の章の光で、なかなか反省の色を見せない魔性を包囲し、じわじわと進入させていく。
「美味しいもの食べたい、無理ッ」
「ん〜…それは困りますねぇ…。いけない子はお仕置きです」
 ふぅ……とため息をついた頃には、聖なる光がケルピーの本体へ到達していた。
 グラルダの術によって魔法防御力を低下させた魔性は、それの進入を許してしまったのだ。
 憑依する力を失った者は器から離れた。
「これじゃあ、村でいなくなった人たちを探しにいけないわ。どうしよう…羽純くん」
「今日食べるとすれば、川付近に集められているはずだ。ここで足止めされているわけにはいかないな」
「ここを離れれば、攫った者を沈めにやってくるやつもいるだろうね。ボクたちが残るから、歌菜さんたちは失踪者を探しに行って」
「うん、ありがとう…クリスティーさん」
「結局、3チームに分断しちゃったね」
「仕方ないさ、全員でずっと行動出来るなんてことはないし…」
 クリストファーはかぶりを振って、歌菜たちを追わせないためにも、ここで足止めするしかないとクリスティーに言う。
「安易に離れて、犠牲者を出すにわけにいかないからな」
「そうだね…」
 彼らを見送るとクリスティーはケルピーの方に視線を戻す。
「あ…!そんな状態で動いたら危ないよっ」
「セイニィが…、助けを求めてるんだ」
 牙竜はクリスティーの手を振り払い、餌として魔性に包囲されている彼女の元へ走る。
「―……バカ者っ、1人で突っ走るなと言ったはずだ!」
 息を切らせながら川辺に戻ってきた樹が怒鳴った。
「林の姉さん、信じてるからな」
「な…。…〜〜〜っ、このバカ者が。章、サポートしてやれ」
「分かったよ、樹ちゃん。って、アルギエバくんの近くにいるやつって…。もしかして魔性?不可視化をやめたのかな」
「いや、まだ不可視化を解いていないはずだ。陣たちが降らせた雨で、術者以外の者でも少しだけ見えるようになったんだ」
「なるほど。降りかかった相手だけ、見えるってことだね?」
 グラキエスの説明に納得したようにケルピーを眺める。
「のんきに喋っている場合か?章」
「あっ、うん。…かの存在に」
 樹にキッと睨まれ章は小さく頷き詠唱を始める。
「…裁きを!!」
 セイニィの正面にいるケルピーに裁きの章の雨を降らせ、その隙に牙竜とエルデネストがセイニィを抱え、魔性たちから離れる。
「餌ァアアッ!!!」
 食べ物を奪われたことに怒り、ケルピーは彼らを水柱で弱らせてやろうとする。
 アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)は殺気立つ魔性の気配を感知し、ディフェンスシフトで彼らの盾になる。
「―…くっ。(やはり完全に防ぐのは難しいようだ…)」
 オートバリアとフォーティテュードの守りでダメージは多少和らいだが、防ぎきれなかった分はそのまま彼に襲いかかった。
「げ、こいつらどんだけ魔力があるんだ」
「バカ息子、さっさと唱えろ。章が削いだ魔力防御が戻ってしまうぞ」
「あっ!そうだった」
 術を使えと樹に促され、太壱は哀切の章を唱える。
「…ぉおっ!お袋、魔性がドライアーから離れたぞ!」
「たった1匹祓っただけで喜ぶな」
「イッてぇえ〜…」
 術に成功しても調子に乗った罰で結局殴られ、膨れ上がったたんこぶを片手でさすった。