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天に地に、星は瞬く

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天に地に、星は瞬く

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「よう」
「おや」
 祭が始まり、賑わいでいる中、先日の事件の際にひとりぼっち状態だったことに、まだ拗ねている様子のティー・ティー(てぃー・てぃー)を宥めながら、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)を連れて丁度大通りを歩いていた源 鉄心(みなもと・てっしん)は、こちらに向って手を振っているアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)に気付いて目を瞬かせた。
「この人ごみだ、見つからねぇかと思ったぜ」
 その物言いから察するに、自分を探していたらしい。が、その理由が判らず首を傾げる鉄心に「礼を言いたかったんだよ」とアキュートは複雑な顔で頭をかいた。
「祠で歌うのに協力してくれて、ありがとな。それから……悪かったな、大事なパートナーを危険に晒しちまって……」
 どうやら、それを言うために探して回っていたらしい。見た目の割りに律儀なようだ。深々と頭を下げるアキュートに、鉄心が何か言うより早く、ひとりふて腐れていた筈のティーが、慌てたようにぶんぶんと首を振った。
「謝らないでください、私たちもやりたくてやったことですし」
「そうですわ」
 イコナもこくこくと頷いたのに、そんな二人の頭を撫でながら、鉄心は笑って見せた。
「二人もこう言っていますし」
 謝罪は必要ないですよ、と続けるのに、まだ少しもの言いたげなアキュートだったが、彼が口を開くより早く、その肩からぴょこんとペト・ペト(ぺと・ぺと)が「それじゃあ、ペトはお礼を言うのです」と、ぴょこんと顔を覗かせた。
「一緒に歌ってくれて、ありがとうなのです」
 そう言って、ティーとイコナの二人に向ってにっこりと笑いかけると、その感激を表現しようとするかのように、手をぱたぱたとさせた。
「大変だったけど、いろんな歌と歌が、いろんな声と声が重なって、ペトはとっても楽しかったのですよ〜」
 その感覚は、歌をあわせた者にしか判らないだろう。共有する感覚に、ペトたち三人が顔を見合わせて笑みを零した、その時だ。
「あ、それじゃあ……!」
 と、ティーがぽん、と手を打った。
「また一緒に歌いませんか?」
 そうして伸ばされた指は、ステージをさしていた。




 同じ頃。
「……あれ、ディバイスくんじゃない?」
 のんびりと大通りを歩いていたヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が、驚いたように声を上げたのに、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が振り返ると、どこか途方にくれたようにとぼとぼと、ディバイスが歩いているところだった。
「どうしたんだろうねえ?」
 呟き、顔を見合わせた二人だったが、彼らが気付くより早く、ディバイスの方が気付いたようで、安堵したようにその表情を緩ませると、二人の傍にてくてくと近寄った。
「こんにちは」
「元気にしてた?」
 ヘルが声をかけると、ディバイスも笑顔で頷く。こうしてディバイスとして会うのは、随分久々のことだ。図体は兎も角、お互い子供同士のような気安げな様子でやりとりする二人を、目を細めながら眺めていた呼雪は、そういえば、と口を開いた。
「気のせいか、さっきは表情が冴えなかったが……どうかしたのか?」
 その言葉に、再びディバイスの顔がしゅん、と萎れてしまう。が、悲しいというよりただ困っている、という様子だ。
「クローディスさんに、お祭を見て来い、って言われたのに、ディミトリアスさんがひっこんじゃって……」
「おやおや」
 ヘルが肩を竦め、呼雪も思わず苦笑する。本当に、律儀に必要の無い時は出てくるつもりは無いらしい。
「全く、堅物だな……その内、妙なことでも考え出さないと良いんだが」
 溜息交じりの呼雪の呟きに、ディバイスが何か言いたげにした、その時だ。
「おや、君……」
 丁度そこへ、氏無たちが通りがかったのだ。
 これが初対面というわけでもないのに、途端に強張るようにしてかちん、とディバイスが固まってしまったのに、アニューリスはそっと苦笑した。
「そんなに畏まらないでください、と言っても、難しいでしょうね」
 何しろ、ディバイスにとっては、生まれ育った町の先住民のような存在であり、自分に憑依しているディミトリアスの恋人でもあるのだ。そんな相手に、感覚は無かったし、ディミトリアスのしたことではあったが、抱きしめたり、額に口付けたりなどしたのだから、意識するなと言う方が難しいだろう。その上今は、ディミトリアスのことで後ろめたい気持ちがあるせいで、ティバイスは落ち着かない様子だ。
 そんな子供らしい素直な反応に笑って、アニューリスはその頭にそっと触れた。
「貴方は何も悪くは無いのですよ。全て、あの人の意思と覚悟……その所在は、当人をおいて他に無いのですから」
 その物言いに、彼女がディミトリアスの考え――少なくとも、ディバイスにその体を返そうとしていることを悟っているのだとわかって、呼雪たちは思わず顔を見合わせ、ふう、と呼雪が息をついた。
「……約束を守るのは良いが、それで同じ後悔を繰り返すのでは、意味が無いと思うがな」
 独り言のような言葉に、呼雪の心中を悟ってヘルも複雑な顔で苦笑した。ディミトリアスがその約束を果たすと言うなら、間違いなく巫女はこの大地に一人きりとなってしまうのだ。
 残されることがどんなものかを知っているだけに、呼雪は何ともいえない顔をしながら、同じように複雑な顔のディバイスの頭を、ぽん、と撫でながら「クローディスさんの狙いに懸けてみるしかないか」と呟くように漏らした。
「それに……俺も折角出来た友人と会えなくなるのは、惜しいからな」
 その「友人」が誰を指すのか、意味を悟ったディバイスが自分のことのように嬉しげに表情を綻ばせると「さて」と氏無が手を叩いて、三者三様に散った意識を引き戻させた。

「そろそろ、ステージの方へ戻ろうかと思うんだけど……君達も一緒にどうだい?」