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リアクション
一方キマク店では――
A Hard Day’s Morning
店内では、電話の着信音や電話対応をしている女性の声でざわついていた。
次百 姫星(つぐもも・きらら)と鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)がそれぞれ、ピザを作ったりネット注文の受付処理をしたりしていた。
「熾月様のご注文分出来上がりました。宅配お願いします」
石窯から出て来たピザは、アツアツでおいしそうな本格的なペパロニピザだ。
出来上がったピザを、専用のダンボールの箱に詰めてサイドメニューのエビとポテトを揚げたスナックの入ったプラスティック容器と共に保温バッグへとしまう。
「えっと……ジュースのメニューって注文にあったかしら?」
何か他に忘れ物は無いかと注文を取った伝票に姫星は目を通した。入念にチェックした結果、ピザとサイドメニューのみの注文だったため、そのまま配達係のルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)へとバトンタッチ。
ルースは商品の入ったバッグを肩に掛けると、外に出て箒にまたがろうとしたが行き先を聞いていなかったため、店内へと戻って来た。
「……行き先、何処でしたっけ?」
「注文先は、六丁目の雑居ビル地下一階にある音楽練習室小部屋です」
偲が、キマク店周辺の地図を紙に印刷をしてルースへと渡した。
「音楽練習場……ね。おっ、そこもメモしてくれたのか。ありがとう。偲」
ルースは紙に目を通すと、偲へとお礼を言った。
「いえ、ナビゲーターとしては当然のことです。ほら、早く行かないとお客様を待たせてしまいますよ」
そうだな。とルースは呟くと、外に出て箒にまたがる。
「途中で逆さにならないでくださいね! 商品がぐちゃぐちゃになりますからー!」
そんな事を言いながら、偲も外に出てルースのお見送りをする。
任せておけ。と言いたげにルースは親指を立てた握りこぶしのサインを出すと、よく晴れた空へと飛び上がった。
「鬼久保さーん! 次の注文チェックお願いー」
店の中から、店長の声が聞こえると偲は空へと手を振っていたのをやめ、店内へと戻って行った。
(六丁目……店があるのは三丁目だから、こっちか? )
眼下に広がるキマクの街を見下ろしながら、ルースは地図に付いている赤丸の場所を確認する。
(近くの目印は銀行か)
普通のビルよりも少し高い場所に居るので、秋になり始めている風が少し冷たいとルースは思う。
メモに書いてある、緑の看板に銀行の建物を見つけるとその銀行の駐車場へと着地をする。
(銀行の次は、斜め向かいの雑居ビル……)
メモから目を離し、向かいの建物を見上げると、視線いっぱいに雑居ビルだらけだった。 ルースは一瞬ポカンとするが、時間が迫っている事に気がつくと、はっとした表情で音楽室の入った雑居ビルを探すために歩きだした。
貸し音楽室の一室で次のライブで演奏する曲を練習していた熾月 瑛菜(しづき・えいな)は最初、一室のドアがノックされた事に気がつかなかった。
「こんにちはー。シャンバラピザ・キマク店です」
ルースがドアを開けて入って来たのを横目で見ると、瑛菜は演奏を止め、窓側に置いてあった自分のバッグから財布を取り出した。
「先に商品の方お渡ししますね」
ルースはそう言うと、床に置いたバッグの中からまだ暖かいピザの箱とサイドメニューの入ったプラスティック容器を箱の上へと置き、商品名を言いながら瑛菜のパートナーのアテナに手渡した。
「……以上ですね。全部で45ゴルダです」
はい。と瑛菜は財布から50ゴルダを取り出すと、ルースへと手渡す。
ルースは5ゴルダのお釣りと領収書を返すと、
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
瑛菜達に向けてそう言いながら、軽く頭を下げてバッグを持ち部屋から出て行った。
「わーい。ピザだー! 瑛菜お姉ちゃん、早く食べようよー」
「このピザ、瑛菜のおごり?」
「瑛菜、早く席に付かないとアテナちゃんに全部取られるわよー」
「待ってよー。アテナー私のバッグの近くにジュースの入ったビニール袋取ってー」
瑛菜は、5ゴルダと領収書を財布に仕舞いながらそう言って顔を上げる。
「何?」と言いたげに、すでにピザの1ピースに齧りついていたアテナを見ると、ぷっと吹き出した。
あははは。と、瑛菜は笑いながらビニール袋を手に取ると席に付いた。
「本当、アテナってば食いしん坊なんだから」
こうして、音楽室で始まった昼食兼女子会は夕方まで続いたのだった。
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