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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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『お酒、お酒を作る』

「さあ、収穫した林檎でシードルを作るわ。というわけでひたすら林檎狩りよ」
 林檎の木を前に、アルテミシア・ワームウッド(あるてみしあ・わーむうっど)がシードル――別名リンゴ酒、林檎を発酵させて作るお酒――を作るべく意気込みながら林檎の収穫に勤しむ。
「あまり取り過ぎるなよー。正直、運ぶの面倒なんだからさ」
「大丈夫よ、ペイロードで困ったら魔鎧化するから」
「大して変わらないだろ……。ところで、林檎以外の果物は醸造しないのか? ワインとかさ」
 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)の問いに、アルテミシアはあーダメダメ、と首を振って答える。
「食べる用の葡萄は、ワインに使うには水分が多すぎるからいいの」
「なるほど、そうか。ん? だが先程、樽の中で葡萄を踏んでいる者を数名、見かけたぞ。あれはワインを作る工程ではなかったか?」
「何ですって? ……そう、この農場はワインに適した葡萄まで作っていたの。それは盲点だったわ……。
 後で農場の人に栽培場所を聞いて、収穫しようかしら」
 アルテミシアの呟きを耳にして、すると余計、運ぶ量が増えるわけだな……と大佐が嘆息する。
「ちなみに栗は……焼酎に出来るけど蒸留の設備が無いからパス。梨は……ペアサイダーもついでに作ろうかな」
「見事に酒ばかりだな。酒がどういうものかは分かるが、それほどまでに魅力的なものなのかね」
「飲めば分かるわよ♪ ……って、まだ未成年だっけ。ま、その辺規則なんてあってないようなものだけど」
「今の会話、ロノウェが聞けば黙ってないぞ。そういえばロノウェも来ているのだろう?」
 ロノウェだけでなく他の魔神も、さらにはザナドゥの魔王までも来ていたのだが、そこまでは流石に二人は知らない。
「みたいね。……あ、ちなみに先に言っておくけど、サボりじゃないからね?」
「なんだ、違うのか。てっきりサボりかと思っていたのだが」
「失礼ね! これでも私、仕事はちゃんとする方なんだから。
 それに最近はやっと、仕事の量も落ち着いてきたから通常勤務よ。あぁ、残業がないって素晴らしいわ」
 清々しい表情のアルテミシア、言葉に賛同する者は多そうである。
「どうせ、ゆっくりしていられるのも今のうちだろう。何でも、イルミンスールの寿命を2000年も縮めた事件があるらしいしな。
 そんなに縮める事件って何だ……まぁ、今から考えても仕方ないが。これまでの経験からすると、こちらが何かしなくとも向こうからやってくるような気がするし」
「そうね。そんな余計なことしなくても、私は日々どうということもない仕事をして、一日の終わりにお酒が飲めればそれでいいわ」
「……私も他人の事は言えんが、アルテミシア、お前、相当おっさん臭いぞ、今のは」
「うっさいわね! 今のは流石に私も「あ、言い過ぎたかなー、オヤジ臭いかなー」って思ったんだから!」
「思ったのならまだ回復の余地はあるな。……さて、林檎はこれだけ溜まったが、他はどうする?」
 用意した分のだいたい半分くらいが、林檎で埋まっていた。
「そうね。折角だから、葡萄と梨もこの半分ずつ、収穫していきましょうか」
「葡萄は……向こうか。……あ、ちなみにこのソリ、運ぶのお前な」
「えぇ!? ちょっとそれはないんじゃない、私収穫するだけでもうヘトヘトなんだから」
「それは私の知ったことではないな。お前が独占するものを私が手伝う義理はないぞ」
「ケチ!」
 ……そんなやり取りを交わしつつ、二人は果実の収穫に勤しむ。


『二人の『フロウ』』

(えっと、聞いた話では確かこっちに……)
 葡萄を摘んだ籠を片手に、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が葡萄の森を小走りに縫っていく。目的の場所まで辿り着いた所で息を整え、姿の見えない相手に呼びかけるように声を発する。
「フロウちゃん、あたしもね、フロゥっていうの!
 フロウちゃんと一緒に遊びたいな!」
 葡萄が人の姿を取ったという、『フロウ』の話を聞いて、ネージュは親近感を覚えた。何せ自分の苗字も同じ『フロゥ』だからだ。
「……はーい……」
 ひょこ、フロウが遠慮がちに姿を見せる。聞いた通りの黄緑色の髪、そしてとても繊細で、荒く触れたらすぐに傷ついてしまうような雰囲気。
「あなたが、ふろうさんなの?」
 ネージュの背中から、パストライミ・パンチェッタ(ぱすとらいみ・ぱんちぇった)がぴょこん、と顔を出すと、それだけでフロウはわっ、と驚いて後ずさってしまう。
「大丈夫だよ、怖くないよ。ね? 一緒に遊ぼっ」
 ネージュが腕を伸ばし、フロウが近付いてくるのを待つ。ゆっくり、一歩ずつ、フロウがネージュの元へ歩み寄り、そっと手を伸ばしてネージュの手に触れる。
「わっ――」
 瞬間、今度はネージュが驚いた声をあげる。頭の中に過去の思い出が、どこか甘酸っぱい香りと共に蘇ってくる。
(あっ、これ……お料理教室の時のだ。
 あたし、ツバメの巣を使ったスイーツをつくったなぁ……)
 もちろん、あの時も十分に楽しかったが、今こうしてフロウと触れ合って蘇った思い出は、それとはまた別で楽しさを運んできてくれる。
「……ありがとう。懐かしくて、そしてとても大切な思い出を、また素敵に味あわせてくれて」
「……えへ」
 やわらかく、フロウが微笑んだ。

「ほんとうに、よんだらきてくれるの?」
「うん、豊美ちゃんはどんなに離れてても、会いたいって想いを込めて呼んだら来てくれるよ」
 ネージュに言われ、パストライミが『会いたい』という気持ちを込めながら、飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)を呼ぶ声を発する。
「とよみちゃんせんせぇ」
「はーい、呼びましたかー?」
 ポンッ、そんな音を立てて豊美ちゃんがパストライミの前に現れ、驚いたパストライミがぽてん、と尻もちをつく。
「わ、ごめんなさいですー。びっくりさせちゃいましたか?」
「ううん、ちょっとびっくりしたけど、だいじょうぶ。
 あのね、とよみちゃんせんせい、このおてがみよんでほしいの」
 むくり、起き上がって汚れたお尻をパタパタと叩いて、パストライミはネージュから託された手紙を豊美ちゃんへ渡す。
「えっと……なるほどー、パストライミちゃんは魔法少女になりたいんですねー」
 豊美ちゃんがパストライミに意思を尋ねれば、パストライミは目をパチパチさせていた。おそらく本人は、『魔法少女』というものがどういうものか分かっていないだろう。
「えっと、まほうしょうじょって、たのしい?」
「はい、楽しいですよ。
 皆さんの平和と安心を守って、楽しい気持ちになってもらう、それが魔法少女なんです」
 迷い無く、豊美ちゃんが口にする。
「そっかーたのしいのかー。
 じゃあ、まほうしょうじょ、やりますー」
「はい、これからよろしくですー」
 豊美ちゃんに魔法少女の認定を受け、また一人、新たな魔法少女が誕生したのであった。


『リア充(ry』

「近くを歩いているだけで、葡萄の甘酸っぱい香りが感じられるね、フィル君」
「そうですね、フリッカさん。僕は初めてここに来ましたけど、これほどとは思いませんでした。改めて、自然の偉大さを思い知りましたよ」
 両脇を葡萄の蔦と枝、芳醇な香りを放つ果実が占める中を、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)が肩を並べて歩いていく。
 二人は先日、お互いへの気持ちが通じ合って恋人同士になったのだが、だからといって四六時中ベタベタし合ったり、逆に妙なぎこちなさを醸し出しているわけではなかった。数々の冒険を協力してくぐり抜けたこともある仲故、多少の余裕はお互いに持っているようだった。
「あっ、あれなんてどうかな?」
 フレデリカが狙いをつけた葡萄は、少し高い所に実っていた。脚立を使えば楽に届きそうだが、あいにく足場となる道具が見当たらない。
「僕がちょっと行って取ってきましょうか?」
「ううん、大丈夫。こうやって取れば……あとちょっと……あっ!」
 フレデリカが懸命に脚と腕を伸ばし、後少しで葡萄に触れようかという所で、風が吹き抜ける。さほど強いものではなかったが気を取られたフレデリカがバランスを崩し、後ろに一歩足を踏み出すと支え切れず、倒れ込みそうになる。
「フリッカさん!?」
 間一髪、フィリップの身体がフレデリカを支える。見下ろすフィリップと見上げるフレデリカ、二人の視線が重なると今の状況に気づき、途端に頬を染める。
「あ、あのっ、そのっ……ゴメンね、ありがとう、フィル君」
「ああいえ、間に合ってよかったです、フリッカさん」
 密着させていた身体を離し、二人背を向けて何やらそわそわとする。ちょっとしたハプニングなどで身体が触れ合ったりするとこのように緊張してしまう辺り、まだまだ彼らも世の中では『初々しいカップル』ということになるのだろう。