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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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『私が居なくなっても、残り続ける思い出を』

「アーデルハイト様は参加されないのですか? 家族対決ということになっていますけど」
「まあ、それでもよかったんじゃがの。私はのんびりすることにするよ。
 ところで望、おまえは何を作っておるのじゃ?」
 アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の問いに、風森 望(かぜもり・のぞみ)は採れたての梨を掲げて答える。
「和梨のタルトを皆様に振る舞おうかと。アーデルハイト様には特別に、シャンバラ山羊のミルクアイスを乗せてお出ししますよ」
「おぉ、それは楽しみじゃな。うむ、出来上がりを期待しておるぞ」
 ええ、と頷き、立ち去るアーデルハイトの背中を見送って、望は作業に取りかかる。まずは梨を6等分に切り、皮と芯を取り除き、5mm幅でスライスする。
 鍋にグラニュー糖と水を入れて加熱し、色が付いた所でスライスした梨を入れ、水分が無くなるまで煮詰めた後、冷やす。
(肉や魚ほど鮮度を気にしないものですが、やはり果物も採れたてが一番ですね)
 瑞々しい果肉に満足気な笑みを浮かべ、作業を続ける。予め用意しておいた、アールグレイの紅茶葉を混ぜたタルト生地にラム酒を混ぜたアーモンドクリームを入れ、そこに先程煮詰めた梨を並べれば、後は170度で余熱したオーブンで35分ほど焼いて完成だ。
(……果実を収穫しようとすると、懐かしい思い出を思い出す、ですか。
 そのせいでしょうか。こうして誰かを思いながら料理を作ると、アレコレと思いをはせてしまいますね)
 タルトが完成するまでの間、望はその『誰か』、アーデルハイトとの思い出の数々に身を浸らせる。彼女との関係は例えるなら上司と部下、決してイチャイチャするような関係ではない。だが望はアーデルハイトの補佐を務めることこそ良しとしていたし、彼女の力になれるのなら、それで十分だった。
(本当に、色々なことがありました。
 ……でも、それもいつか、続けられなくなってしまう。アーデルハイト様は不老不死の魔女で、私は人間。いつか別れは、訪れる)
 ――そうだと分かっていても、それはとても、悲しいことで。
「……おっと、私としたことが、湿っぽくなってしまいました」
 潤んだ視界を服の裾で拭って、望はタルトが焼き上がるのを待ち続ける――。


『アシェットの憂鬱』

「むー……」
「あ、アシェット? さっきから何か、怖い顔してるよ?」
 プラ・ヴォルテール(ぷら・う゛ぉるてーる)の言葉も、今のアシェット・クリスタリア(あしぇっと・くりすたりあ)には耳に入らない。それほどまでにさせている原因の一つは、志位 大地(しい・だいち)の態度にあった。

「あなたからはとても良い香りがします。あなたを食べてみてもいいですか?」
「ちょっ、ばっ……! そ、そんなストレートに言うもんじゃないわよっ。
 ……ちょ、ちょっとだけなら、味見してもいいんだからねっ」

「俺、あなたのことが気に入りました。俺のところに来ませんか?」
「ふぇ!? え、ええっとそれってあのあの……あうぅ……」

 ……とまあこんな感じで、人の姿を取った果実に対してどう見てもナンパにしか聞こえない言葉をかけているからであった。ちなみに本人は果実が人の姿を取っていると聞いて純粋に興味を抱いたのと、もし持ち帰り(スカウト)が出来るなら、という目論見だったのだが、それを知る由はない。
「プラは何とも思わないのっ!? あれじゃまるで大地さんが、は、は……ハーレムを作ろうとしてるみたいじゃないっ」
「うーん……そりゃあ、あたしだって何も思わないってわけじゃないよ? でもほら、最終的に選ぶのは大地だしね。
 それまであたしは、あたしに出来る事をするだけ、かな。とはいっても、あたしの取り柄ってやっぱり、ここだからね〜」
 言って、プラが胸を張る。たゆん、と形の良い双丘が揺れる。
「……わたしの、わたしのいいところ……」
 アシェットが自分の胸に手を当てるも、そこは見事なまでの双璧。残酷な現実にアシェットの心が黒ずみかけた所で、大地の声が聞こえてくる。
「ああ、俺、胸の大きさには頓着しませんから。気にならさないでください」
「!!」
 途端、アシェットの表情が一気に華やぐ。「やったっ」と拳をぐっ、と握って喜ぶ様は、見てる方までなんだか嬉しくなってしまう勢いだ。
「あー、と、とりあえず良かったね、アシェット?」
「うん!」
 苦笑するプラへ、アシェットが満面の笑みを浮かべる。
「お二人とも、すみませんでした。どうやらあの子達はここを離れると元の果実に戻ってしまうそうなので。
 では、本来の目的に戻りましょうか」
 そこに、話を一通り終えた大地が戻ってくる。スカウトの件は諦め、『チェラ・プレソン』の新作スイーツに相応しい果実の品定めという目的を果たすことになった。
「あたしは葡萄を使ったのがいいな〜」
「……わたしは栗がいいかな、って思う」
「じゃあ、その二つをまずは見て回りましょうか」
 三人、秋の空の下を目的の場所へ歩いていく。


『リア充ですが(ry』

「ふぅ、良かったぜ。果実が人の姿を取ったって聞いたから、なんか凄いことになるんじゃないかって心配したけど、ごく一部なのな」
「そうみたいですわね。……ふふ、確かに、果実さんでいっぱいになったら、収穫が大変ですわ」
 風祭 隼人(かざまつり・はやと)の言葉にルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)が柔らかな笑みを浮かべ、たわわに実る葡萄をそっともぎ取り、籠を持つ隼人へ手渡す。
(ああ、来てよかったぜ。ルミーナさんと一緒に果実狩り……幸せだ)
 もしも果実たちが沢山ということになったら、こんな恋人同士の幸せな時間も叶わなかったかもしれない。そういう意味では空気を読んだ? 果実たちに感謝したい気分であった。

「よし、これだけ採れば十分だろ。ルミーナさん、向こうで休憩にしようか」
「ええ。わたくし、お弁当を作ってきましたの。よろしければ隼人さんに、召し上がっていただきたいと思います」
「本当!? いやあ、嬉しいなあ」
 敷いたシートに並んで座り、ルミーナがランチボックスを広げる。彼女の性格らしく、整然と並べられた料理はどれも美味しそうで、隼人はどれから手を付けようか目移りしてしまう。
「じゃあこれから……いただきます!」
 一口サイズのハンバーグを摘み、口に入れる。その間ルミーナは静かに、隼人が咀嚼を終えるのを待つ。
「ん……んまい! ルミーナさんの料理は絶品だ」
「ふふふ、よかった……隼人さんが喜んでくれて、わたくしも嬉しいですわ」
 隼人の感想を聞いて、ルミーナがほっとしたように息をつき、自分も料理に手を伸ばす。しばらく他愛も無い、ほのぼのとした時間が流れた後、二人の前には先程収穫した葡萄が置かれる。
「採れたての葡萄を、いただきます……うおっと」
 摘んで皮を剥こうとした直後、汁が勢いよく弾け、シートに付着する。
「隼人さん、大丈夫ですか?」
「ああうん、俺にはかかってないから大丈夫。それだけ詰まってる、ってことなのかな。ルミーナさんも食べる時は気をつけて」
「はい、気をつけます……きゃっ」
 隼人の忠告虚しく、ルミーナも汁を弾けさせてしまう。しかも慎重にやろうと顔を近づけていたため、もろに汁を浴びてしまった。
「ほら、言った通りでしょ? じっとしてて、これで吹いちゃうから」
「ごめんなさい……ありがとうございます、隼人さん」
 顔に付着した汁を、隼人がウエットティッシュで拭き取っていく。
(あぁ……ルミーナさんの肌、綺麗だなぁ。頬も唇も、とっても柔らかいんだろうなぁ)
 そのうち隼人が、頬を染めたルミーナがゆっくりと目を閉じ、唇を突き出してくる想像をしかけ、ぶんぶん、と首を振る。うっかりそんなことを想像していたと分かれば、「不埒ですわ!」と非難されてしまうだろう。焦らずゆっくりと、二人の仲を温めていかなければ、隼人は改めて思い直す。
「はい、取れたよ、ルミーナさん」
「ありがとうございます。今日は隼人さんと来られて、本当によかったですわ」
「俺もですよ、ルミーナさん」
 二人顔を合わせ、微笑み合う。秋の空に浮かぶ白い雲が、二人の幸せな様子を見守っていた。


『オトナな関係』

「おや、アーデルさん。てっきりエリザベート校長と環菜さんの対決に参加されているものと思いましたよ」
 アーデルハイトが農場を散策していると、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が声をかけてくる。
「それも考えたが、少し散策をしたい気分でな。おまえの方はどうなんじゃ?」
「自分も似たようなものです。どうでしょう、良ければ暫くの間、自分と果実狩りをしませんか」
「うむ、良いじゃろう。少し身体を動かした方が、後の楽しみも増えようて」
 そうして二人、『煉獄の牢』の件は大変でしたが、何とかなってよかったですね、などといった話をしながら、林檎の木が連なる場所へとやってきた。
「どれも、見事に熟していますね。……はい、アーデルさん、どうぞ」
 赤や緑に染まった林檎にザカコが感銘を受けながら、その一つをもぎ取りアーデルハイトに手渡す。
「お、すまんな」
 林檎を渡されたアーデルハイトが、その場で齧り付く。ザカコも続いて林檎を齧れば、酸っぱいて甘い果汁が口の中に広がる。
「採れたての美味しい果実をその場で食べるのは、幸せな一時ですよね」
「まったく同意じゃ。農場の主には感謝せねばなるまいな」
 暫くの間、二人の間に会話が途切れる。林檎を齧る音だけが、二人の間に響く。
「過去の思い出を思い出す、ですか……。
 そうですね、アーデルさんとも色々ありましたのを思い出します」
 先に言葉を発したザカコが、アーデルハイトとの思い出を噛み締める。ザナドゥへ行ってしまったアーデルハイトを追う間に、彼女の力になりたい、支えていきたいと思うようになり、そして今こうして傍に居ることが出来る。辛く苦しいことも何度もあった、けれど楽しい、幸せな思い出もあった。
「楽しい事もあれば辛い事もあります。それらは良くも悪くも無かった事にはできません。
 ですが、過去に何があろうと、自分は今のアーデルさんが笑顔でいられる様、守っていきたいと思っています」
「またおまえは、そうやって直球を投げ込んでくるのぅ。……ま、悪い気はせんがな」
 呆れたような口調で言いつつも、否定しない辺りにザカコは、自分がある程度認められているようで嬉しくなる。
「過去の思い出も大切ですが、今を楽しんで過ごせるのが一番大切です。
 大事なのはこれから……こんな風に皆が笑って過ごせる未来を作っていく事なんですよね」
「そうじゃな。私もそんな未来となるよう、出来る事はしよう」
 二人並んで、済んだ蒼い空を見上げる。どこまでも続いている、それは未来への道と同じ。
「……ふふ。勿論、自分にとってはアーデルさんの笑顔が一番ですけどね」
「だからおまえは……あまり私をからかうと、果実にしてしまうぞ?」
「おっと、それはどうかご容赦を。さて、林檎を堪能した次は、梨を採りにいきませんか」
「こりゃ、話を逸らそうとするでない。あっ、こら待つのじゃ」
 一足先に歩き出すザカコを、文句を言いながらアーデルハイトが後を追う。