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誰が為の宝

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誰が為の宝

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 現地・調査隊キャンプ。

「ブリジット、あまり先行しすぎるな」
「了解」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)の通信に短く答え、ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)は足を止めた。
「相変わらず、モンスターとやらの姿はないな」
 通信機越しの草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)の不満を含んだ声に、ブリジットは言葉に出さずに同意する。
 この場所に地質調査に来ていたチームから、巨大モンスターに襲われたという連絡を受けて来たのだが、まだ実際にはモンスターの姿を確認していない。
 到着からずっと、調査隊のキャンプを基点に時間ごとにエリアを決めて調査を行い、現地の状況の把握につとめている。
 発見したいくつかの足跡と目撃証言から、モンスターはイレイザー・スポーンの変異体の一種ではないかと予想され、その為の討伐隊も、既に編成されたと報告を受けている。
 ならば、討伐隊が到着するまでに、周辺の地図を作っておきたいと彼らは考えていた。
「モンスターがいなくたって危険な未開地ですからね?、みなさんの安全は確保しておきたいですよね?」
 言葉の割に楽しそうに弾む声は、ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)だ。
 彼女にとって、危険な調査も不安よりも好奇心が勝るようだ。
「そういえば紅い機晶石の話は本当でしょうか? 本当なら見てみたいですね?」
「わらわは、先に巨大モンスターとやらを見てみたいがな」
 羽純が、静かな声に僅かに挑発的な響きを滲ませて言った時、ブリジットのセンサーが反応した。
 確認する。
「……熱反応です」
「む」
 甚五郎が反応した。
「対象はわかるか」
 先刻から、何度か岩石に擬態した甲虫と出くわしている。戦闘に入ると仲間が集まって来るのが面倒だったが、彼らの装備で十分に蹴散らせる雑魚の類いだ。
 調査が順調なのはたいへん結構だが、それぞれに軽く不満を感じていたのは確かだ。
 さて、今度の相手は。
 ブリジットは岩陰に身を潜め、慎重に熱源を探った。
「……確認しました。甚五郎、噂の巨大モンスターです」
「出たか!」
「まじですか?」
「……向かう」
 三者三様の反応が返って来る。
 目視は不可能だが、反応からすると甲虫の数倍のサイズで、調査隊が「巨大モンスター」という表現を使ったことも納得がいく。
 ブリジットは目標との距離を推し量りながら聞いた。
「甚五郎、当機の自爆を承認しますか?」
「待て待て」
 甚五郎からの返答は慣れたものだ。
「それで完全に倒せるか?」
 ブリジットは策敵範囲を広げてセンサーを確認する。
 熱反応はひとつではない。今発見した一体の奥にも数体の同種と思われる反応があった。
 移動パターンや位置関係から見て、群れで行動する種だと考えられる。

「……この個体を倒しても、奥に群れの本隊がいると思われます。残念ながら、当機の自爆のみでの殲滅は不可能です」
「なら、不許可だ。戦闘はできる限り回避、調査を優先しろ」
 以前のブリジットであれば聞く耳持たない種類の指示だったが、今のブリジットには、自爆以外のより効率的な戦略を模索する「能力」がある。
 ブリジットは短く答えた。
「了解」
[よし。……それから、羽純」
「なんだ」
「お前もモンスターには手を出すなよ。群れの位置と規模のデータを取っておきたい」
「……わかっておる」
 ものすごく不満気な声で羽純が答えるのを確認して、甚五郎は
「ブリジット、まず本隊に連絡だ。モンスターを確認、討伐隊に急ぐように要請」
「了解しました」

「あれっ?」
 ホリイが声を上げた。
 少し間をおいて。
「ん? あれれ?」
 またそんな声。
「どうしたのじゃ、ホリィ」
「えーっと……今、人がいたような?」
「は?」
「……あ、違う」
 ようやく納得したような口調になって、ホリィが言った。
「例の甲虫さんでした?。わちゃわちゃ走ってるから、間違えたみたい」
「何をやっとる」
 ため息まじりに羽純は呟いた。
「こんな所に、人がいる訳がなかろうが」
「そうでした?あはは」

 正論ではあった。