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ハイナの『焼きヤミ』パーティー

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ハイナの『焼きヤミ』パーティー

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闇の味は、えろい!?


「俺も、ちょっと食べてみるかな」
 酒を呑みながら、皆の様子を楽しげに眺めていた朝霧垂が言った。
「ちょうどつまみも欲しいし」
 彼女が引き当てたのは、アリステア・オブライエン(ありすてあ・おぶらいえん)鶏肉である。つまみには持って来いだ。
 希望通りの食べ物を手に入れた垂は、またしても楽しそうに酒をあおった。対して、シャイな鶏肉の提供者は、物陰からおずおずと様子をうかがっている。
「これはなかなかいい美肴だな! 誰のかわからんが」
 アリステアに気づかず、垂は陽気に呑みつづけた。


「さて。次は俺たちの番だね」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が焚き火を探る。彼のとなりでは、クマラが持参したお菓子を食べていた。
「ところで。なぜクマラは、お菓子なんて持ってきたんだい。言ってくれたら焼き菓子を作ってあげるのに」
「普通に作ってもしょうがないよ。ヤミ焼きだから面白いじゃん☆」
「まあ、なんであれ。食べ物でよかったよ。お嬢さん方には最低限、食べられる物を提供する。それが紳士の務めだからね」
 そうジェントルに言ったエースが取り出した包みには、タコのような形の物体が入っていた。ぬめりけのある球体から、うねうねとした触手がはえている。
「……このように、食べられないものもあるからね」
 肩をすくめたエースのもとへ、ひとりの青年が近づいて言う。
「大丈夫ですよ。ちゃんと食べられますから」
 彼は本名 渉(ほんな・わたる)。食材の提供者である。
「それはオクトパス・オニオンというそうです。ちゃんとお店で買いました」
「どのお店だい?」
「魚屋さんです」
「……タマネギを魚屋で買う時点で、怪しいんじゃないかな」
 エースは顔をしかめながら言った。オクトパス・オニオンからは、生臭いにおいが立ち込めている。
 苦しそうな顔をしながらも、気品を失わずにエースはつづけた。
「もう一度聞くけれど。本当に食べられるんだよね」
「はい。最初は石のように硬いですが、火を通すと柔らかくなると、お店の人が言ってました」
「その言葉、信じよう」
 意を決し、エースは一切れ口に運んだ。たしかに食感は柔らかい。だが生臭いにおいに耐えかねたようだ。
「悪いけど、俺には無理だね」
 そう言って、エースはお口直しの紅茶を入れた。たちまちにしてバラの香りが会場を覆う。
「お嬢様がたも、いかがですか」
 勧められた房姫が優雅に微笑んでみせる。
「では、いただきましょう」
 カップを受け取ると、房姫はたおやかな仕草で飲みはじめた。
「わっちも欲しいでありんす」
 ハイナが風呂あがりのコーヒー牛乳みたいに、ぐびぐびと一気飲みした。
「こりゃ旨いでありんすな。おかわりでありんす!」
「慌てないでください。たくさんありますから」
 エースが、洗練された動きでエスコートする隣では。
「初めて食べる味だけど、すごくおいしい! ふっふっふー♪」
 クマラが幸せそうにオクトパス・オニオンへかじりつく。エースが紅茶を飲み干す間もなく、彼の分もすっかり平らげていた。


「じゃーん。ここで、本命の登場だよ!」
 大きな胸を張って焚き火に近づいていくのは、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)。彼女はかつて、【闇鍋に挑みし者・大凶】の称号を手にしたことのある強者だった。
「今日はおいしいものが食べられたらいいなぁ」
 そうつぶやきながら透乃が引き当てたのは、またしても謎の触手。ウネウネしてかなり気持ち悪い。
 困惑する一同のなか、口を開いたのはメルキオテ・サイクスである。
「それは、我が用意したシーテンタクルだ」
「ええっ」
 その発言にいちばん驚いたのは、パートナーの永夜だった。
「何でそんなものを用意したんですか!」
「この手のイベントには、得体の知れないものを用意するのが、定番だと聞いてな!」
「得体の知れなさにも限度があるでしょう……」
 永夜がうなだれるのも無理はない。グロテスクな触手が絡まり合うこのシーテンタクル、完全にゲテモノである。
「これは……ハズレですね……」
【闇鍋に挑みし者・凶】の称号をもつ緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が肩を落とした。それでも、引いたものを食べるのがルール。おずおずとシーテンタクルを一口食べた。
 一瞬にして、彼女の顔が青ざめる。
「はあ。やっぱり私は、ゲテモノが回ってくる運命なのね」
 次にため息をついたのは透乃だ。
 口ではそんなこといいながら、さすがは強者。触手を平気な顔して食べている。持参した酒を呑んですっかり上機嫌だ。
「透乃にかかれば、どんなゲテモノも珍味佳肴に変わるみたいだな」
 朝霧垂が、笑いながら近づく。彼女もまた酒を手にしていた。
「いっしょに食べる? イカともタコともつかない味でおいしいよ!」
「俺は遠慮しておくよ」
 軽く首を振ってから、またしても酒を呑みはじめた。まるで水のようである。
「いい呑みっぷりだねぇ」
 負けじとばかり、透乃も浴びるように呑んだ。酒豪ふたり。アルコールが回って、良い気分になっている。
 興が乗ってきた垂は、透乃に向けて言う。
「しっかし、おまえ。ずいぶんと大きな胸だなぁ」
「私の母乳はね、大吟醸でできてるの!」
「呑めば呑むほどデカくなるのか。そりゃ凄いな。あっはっは!」
 酒を酌み交わしながら談笑する垂と透乃。そんな彼女たちを、陽子がじいっと見つめていた。
 陽子がとくに注視していたのは、透乃の口へ運ばれていく、ぬるぬるの触手である。
(あのぬるぬるを、身体に塗ったら……ああ……いけないわ、そんな……)
 一人、えっちな妄想をしていて盛り上がっている。青ざめていた顔が、朱色に染まっていった。



「ヤミ焼き上等! 何が入っていようとお構いなしよ!」
 次なる挑戦者、セレンが意気揚々と焚き火に近づいていく。彼女が引いたアルミホイルの中には、ウナギのような形状の山芋。
 ローグ・キャストが持参した鰻芋であった。
「あたしに食べられない物は何もないわ」
 そう言ってセレンは、鰻芋にがっつきはじめた。ダイナミックな健啖家ぶりを見せつけるように貪っている。
「私は、ぬるぬるしたのはちょっと苦手ね」
 パートナーとは違い、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は落ち着いた様子である。ぬめりけの多い鰻芋を、ゆっくりと食べはじめた。
「ゴホッ……」
 急に、セレンが苦しげに咳き込みだした。鰻芋が喉につまったらしい。
「ほら。落ち着いて食べないからそうなるのよ」
 やれやれと肩をすくめつつ、パートナーの背中をさするセレアナ。
「本当に手のかかる娘なんだから……」
「あ、ありがと」
 なんとか呼吸を取り戻したセレンが礼を言う。そんなパートナーを見て、あきれながらも安心したセレアナが告げた。
「そもそも鰻芋って、すり下ろして食べるものでしょう。そんなにがつがつ食べて大丈夫なの?」
 セレアナの不安はもっともだった。鰻芋は滋養強壮力がすこぶる高いため、精力増強に効果バツグンなのだ。
「あれ……なんか体がヘンだわ……」
 心配してるそばから、セレンの様子がどこかおかしい。全身が火照っているようだ。
 顔がほんのりと赤い。
「体がすごく飢えてるの。いくら食べても、食欲が満たされない!」
「いや、たぶんそれ、食欲じゃない……」
 セレアナが止めようとしたが、時すでに遅し。興奮したセレンが、セレアナに飛びかかっていった。
「おいしそうなお肉を発見!」
「ちょっと、離れなさい!」
 セレアナが叫んだが、相手には届かない。すっかり暴走したセレンは、セレアナの体に顔をうずめる。
「うふふ。これはいい霜降り肉だわ」
「失礼ね! 鍛え上げたこの身体の、どこが霜降り肉なのよ! ……ってそんなことはどうでもいいわ」
 ドーピング状態のパートナーに、セレアナは動揺していた。いつものように相手を抑えられずにいる。
「いいから早く離れなさーい!」
 抵抗も虚しく、彼女のレオタードに包まれた肉体は、セレンの餌食となった。

「止めなくてよろしいのですか?」
 彼女たちを見ていた房姫の問いに、ハイナが笑って応える。
「よいではないかー、よいではないかー。でありんす!」