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ハイナの『焼きヤミ』パーティー

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ハイナの『焼きヤミ』パーティー

リアクション


闇の味は、たのしい!?


「宴もたけなわだし、ボクたちも呼ばれようか」
 神崎 輝(かんざき・ひかる)が、パートナーの一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)レナ・メタファンタジア(れな・めたふぁんたじあ)を連れて言った。
 彼らが引き当てた食べ物は、子牛の骨付きリブロースだった。食欲をそそるにおいが立ち込めていく。
「おいしーい!」
 リブロースに舌鼓を打つ三人。良質な肉に、みんなご満悦だ。
 すると、瑞樹がおずおずと口を開く。
「……ちょっと、お料理したくなってきちゃいました。なんて」
「それはダメ」
 すかさず輝に断られてしまう。瑞樹の料理の凶悪さは、パートナーが全員、知り及んでいることである。
「ですよねぇ」
 しょんぼりしながら、瑞樹はリブロースをもしゃもしゃ食べた。
「えへへ。おいしいでしょう。これ、ルカが持ってきたんだよ!」
 彼らのもとへ、ルカルカ・ルーが上機嫌に話しかける。持参したリブロースが好評だったので、彼女もうれしそうだ。
「でも、おかしいなー。お肉、もっと持ってきたと思うんだけど」
 用意していたより少ないリブロースを見て、ルカルカは首をかしげた。
「ほんと、おかしなこともあるもんだよな」
 カルキノスが何食わぬ顔で同意する。だが彼の口元には、べっとりと肉の脂がくっついていた。
「……カルキ。口の周りがテカってるけど、どうして?」
「リップグロスだ。乾燥してるからな」
「嘘つき! お肉食べたんでしょう!? せっかくみんなに食べてもらいたかったのに!」
 カルキをぽかぽか殴るルカ。さすがのカルキも少し反省したように言う。
「だ、だってよ。アップルパイじゃ足りなくって……」
「言い訳しないの!」
「わ、悪かったよ……」
 縮こまるカルキへ、ルカの制裁がつづいていた。



「さて。僕たちも楽しみましょう」
 本名渉がパートナーの雪風 悠乃(ゆきかぜ・ゆの)に告げながら、焚き火を探った。
「おいしいものが当たればいいねー」
 のんびりとした口調で、レナが悠乃に話しかけた。その後ろから、瑞樹がにっこりと微笑んでいる。
 彼女たちは同じ機晶姫なので、波長が合うようだ。
「はい。楽しみですぅ」
 悠乃がわくわくしながら、彼女たちに手を振ってみせた。
 そんななか、渉が包みをひとつ選び出す。ゆっくりとアルミホイルを開けると、中に入っていたのは、粒が6個ついたシシトウだった。
「それ、あたしが持ってきたやつだ」
 シシトウを指差しつつ、鍵谷七海が説明する。
 ロシアンシシトウ。6つの粒のうち、5つはほどよい辛さだが、1つだけ恐ろしく甘くなるという。
 もちろん、見た目や匂いでは判別が不可能だ。
「これはおもしろそうだね! ボクたちも参加しよう」
 輝が、瑞樹とレナに呼びかけた。彼女たちは笑顔でうなずく。
「6つあるのなら、わっちも混ざるでありんすよ」
 ハイナも参加を表明した。これで、挑戦者は6人そろった。
「さぁて。どれにしようかなー」
 レナがシシトウを眺めながら言う。外見からはわからないと知っていても、ついじっくり見てしまうものだ。
「う〜ん。どれがハズレでしょうか……」
 瑞樹も真剣である。
「もしハズレを引いて調子が悪くなられたら、僕が治しますからね」
 機晶技術に長けた渉が、優しく微笑んだ。それを聞き、少し安心した表情を見せる瑞樹。
 つづく、輝、悠乃、ハイナも、まるで熟練の鑑定士のような目つきで選んでいった。そして最後に残った一粒を渉が取り、準備は整う。
 それぞれ一粒ずつ手にした彼らは、輪になって向き合った。
「では。“せーの”で食べましょう」
 渉の言葉に、全員がうなずく。


「せーの!」


 みんなで一斉に、シシトウを口へ入れた。
 短い沈黙の後。
「ふ、ふえぇぇ……」
 泣きだしたのは悠乃だった。目に涙をたっぷりと浮べている。
 彼女が“ハズレ”を引いたのだろうか。
「……このシシトウ、とても辛いですぅ」
「いや、それアタリでありんすよ!」
 ハイナがずっこけながら叫んだ。悠乃はただ、辛いものが苦手なだけだったのだ。
 涙目になりながら水を飲む悠乃のとなりで、またしても叫び声。
「う、うわぁぁぁ!」
 声をあげたのは、輝である。彼はほっぺたをおさえながら地面をゴロゴロ転がっていた。
「甘いよぉぉぉ! 身体が溶けるぅぅぅぅ!」
 今度こそ、正真正銘の“ハズレ”を引いたようだ。その甘さは彼のリアクションを見る限り、尋常ではないのだろう。
 仲間たちは気の毒そうに見守っている。
「……輝さん。うらやましいです」
 だが、悠乃だけは、他の人と違う反応をしていた。



「さて。わしもいただこうかな」
 厳かな仕草で夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が包みを取り出す。熱いアルミホイルのなかに入っていたのは、黄色い塊だった。
「これはカボチャかな」
「へへ、ただのカボチャじゃないよ!」
 元気のいい声がした。甚五郎がふりむくと、そこにはなぜかカボチャの被り物を被った、透乃と霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)がいた。
 パンプキンヘッドバット。彼女たちはスキルを使い、頭部をカボチャで覆っていたのだ。
「今回の食材は、こうやって作ったんだ!」
 ふたりは、互いに向き合って思い切りヘッドバットをかます。ガボチャの被り物が飛び散っていく。
「なるほど。カボチャの作り方はわかったが……」
 甚五郎が地面に舞い落ちた、黄色い破片を見回しながらつづける。
「果たして、これは食えるのか」
「わかんない。ま、大丈夫でしょ。カボチャなんだし」
 ケロッとした様子で透乃が応える。
 甚五郎は怪訝な顔つきで、アルミホイルにのったカボチャを見つめていた。食用なのか疑っている様子だ。
 だが、素直なホリイ・パワーズは、透乃のいうことを信用したようだ。
「いっただきまーす!」
 パクリと、カボチャにかぶりつく。
「おい。大丈夫なのか」
 心配そうに聞いた甚五郎。ホリイはすぐに応えず、ゆっくりと味わっていた。
 もぐもぐと口を動かしていたホリイだが、急にぴたりと静止する。甚五郎の心配はピークに達していたが――。
「おいし〜い! お菓子みたいです〜!」
 ホリイはあまりの美味しさに感動していたのだ。彼女の反応をみてホっとした甚五郎も、一口食べてみる。
「確かにおいしいな」
 感心しながら、甚五郎はカボチャを完食した。
 しかし、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)オリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)は一向に口をつけようとしない。羽純はカボチャを皿の端によけ、オリバーにいたっては空いたお皿とすり替えている。
「おぬしたち。好き嫌いせずに食べないか」
「……わらわは、野菜が苦手なのじゃよ」
 拗ねたように唇をとがらせる羽純。
 そんな彼女へ向けて、ホリイが提案した。
「野菜だと思うからダメなんですよ〜。カボチャみたいな顔をした人の、脳みそだと思えばいいんです〜」
「余計いやじゃ!」
 羽純が皿を遠ざける。それを見て、うなだれるホリイ。
「はぁ〜。がっかりです〜」
「そこで「良いアイディアだと思ったのに」みたいな顔になる方がおかしいぞ」

 けっきょく、オリバーもカボチャを食べられずにいた。
「このカボチャは、どうも口に合わんな。本来なら、ビュッフェ形式の料理だって食べ尽くせるんだが……」
 そっと皿を戻した彼のもとへ、現れたのはローグ・キャストである。
「食べ物を粗末にするやつは許さん!」
 まるで、親の仇に会ったかのように怒鳴っていた。
「あまり目くじら立てるなって。楽しくやろう」
 泰宏が間をとりもった。だが、ローグは引かない。
 少しだけ、ピリッとした空気が流れた。
 気の強い三人の男が意見を違えたので、いささか緊張感がうまれたのだ。
 そこへ颯爽と登場したのは、【ハイナの下僕】こと、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)である。
「残飯なら、俺がすべて食いつくすぜ!」
 潔く宣言した彼は、残ったカボチャを一気に食べはじめた。
「俺には、焼きヤミパーティーを無事に終わらせる使命がある!」
 カボチャを完食した唯斗が、ビシッと叫ぶ。
 その見事な食べっぷりに感心しながら、オリバーが礼を言う。
「ありがとな」
「いいってことよ。みんなも遠慮せず、残飯は俺に任せてくれ!」
 皆にむけて堂々と言い放つ唯斗。
 しかし、この発言が地獄へ追い込むことになるのを、彼はまだ知らなかった。
 後に唯斗は、今日という日をこう語る。


「軽はずみな発言が、身を滅ぼすんだと実感しましたね。でも、後悔はしてません。言ったことを成し遂げるのが、忍者の生き様ですから……」
――パラミタ忍者列伝『散りゆく運命の男たち』より抜粋