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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 8

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 8

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第4章 幸せが妬ましいッ Story4

 1体は説得に成功したが、カフェの中には3体残っているはず。
 アニスはアークソウルで探知を続ける。
「(和輝、厨房のほうにいるよ!)」
「(何が飛んでくるか分からない、俺が先に行こう。店の者を別の場所で待機させようとした時、グラッジに姿を見られた可能性があるからな)」
 パートナーから離れず彼女たちの前を進む。
「うー、寒いですね…」
 店内のクーラーが効きすぎているせいか、かなり肌寒く結和はマフラーを巻き直す。
「ここに、いるんですか?」
 寒そうに手でマフラーを押さえつつ、柱の陰から顔を覗かせる。
「ダ、レ…?……ミツ、ケタ。コレ…ケソウ」
 グラッジは結和の声に気づき、彼女が身につけている男物のマフラーを睨む。
「消すって、わっ、私をですか?」
「原因はそれだな」
 リア充だと思われた原因をリオンが発見する。
「え、マフラーが羨ましいの?」
 それ自体は妬ましさの原因ではないが、なぜ羨ましいのか分からないアニスは首を傾げた。
「イッヒ マッハディッヒ クランケンハウス!(オマエを病院送りにしてやる!)」
 荒れ狂うサイコキネシスに手当たり次第鍋や包丁などを巻き込み、結和を襲わせる。
「ひきゃっ!?」
 ぶつけられたら本当に病院送りにされかねない。
 本を抱えて床にうずくまる。
「な、なぜ、わわわ私を?わ、私のどこが、気に入らないんですかー…」
 原因が男物のマフラーだということを知らず、ぷるぷると震えながら言う。
 グラッジは何が気に入らないのか答えず、口汚い言葉をぶつけて厨房の道具を投げるのをやめない。
「―…ある程度、備品を傷つけてしまうのもいたしかたないようだな。和輝、撃ち落せ」
 凶器となった刃物が刺さったりしては無事ではすまない。
 リオンは和輝に、結和の周りに飛び交うものを撃てと告げる。
「かなり数が多いが、この銃で片付けるか」
 彼女の言葉通りに遂行し、ガスや電気機器類を破損させないように狙いを絞る。
「やつらがまた操作するかもしれん、放り出してしまえ」
「了解だ、リオン」
 撃ち落したものを蹴り、床にスライドさせて念力の範囲外の厨房の外へ出す。
「―…いつまでも丸まるな。それでは連中を喜ばせるだけだ」
 リオンはビビッてうずくまったままの結和へ視線を落とし、立ち上がって戦うように促した。
「説得するにしても、やつらをまずはとめなけれならないだろう?」
「はぅあぅ…、…は、はいっ。(私も、頑張らなくては!)」
 その言葉にふらふらと立ち上がり、頬をパシッと叩き自分に気合を入れる。
「アニス、グラッジの場所を教えてくれないか」
「ん〜と。あのオーブンの中に集まってるよ」
 黒いオーブンを指差し、そこへ密集してるとリオンに告げる。
「やつらめ。あれを使い、店を破壊しようとしているのだな」
 結和から恐怖心が消えたことで憑依する隙がなくなり、今度は人々の憩いの場を潰そうと考えたのか。
 機材に入り込み、料理を作れなくさせようとしているようだ。
 さらに店の者も困らせることが出来る。
 まとめて幸せを潰し、喜び放題な状況になるわけだ。
 1体のガスコンロの下のスペースに置かれているオーブンに憑き、皿やカップなども割ってやろうと食器棚に体当たりする。
「いっぱいお店のものを壊されたら、ここで働いてる人たちやお客さんが悲しんじゃうよ。リオン、グラッジを止めて!」
「無論、そのつもりだ。他の2体はどこにいる?」
「ガスコンロの周りにいるよ。今、憑いてるのが離れたら、他のが憑いちゃうかもしれないっ」
「何度も憑依されては面倒だ。結和、アニスが感知した位置へ裁きの章を使え。3体目は私が憑依を阻止する、お前は哀切の章で包囲しろ」
「わ…分かりました。(……また恐れないように、気を静めなくてはっ)」
 ふぅ…と深呼吸して裁きの章を唱え、アニスに教えてもらった位置へ酸の雨を降らせる。
 続けてリオンも唱えて雨をガスコンロに浸透させ、憑依する力を削ぐ。
「リオン、他のが憑依しようとしてるかも!」
「(フン。執念深いやつめ)」
 何が何でも幸せをぶち壊そうとする者に仕置きする。
 赤紫色の雨をかぶったグラッジたちは、たまらずガスコンロから離れる。
 逃走しようとする魔性を、結和が光の球体に包み込む。
 アニスは球体の中にいる気配の数を確認し、“1体数が足りない!”と声を上げる。
「(和輝、近くにいそうな人に伝えて!また誰かを苦しめようとするかもしれないっ)」
「(分かった。…こちら和輝。五月葉、今どこ辺りにいる?)」
「(民家のほうだよ。毒にやられた人を見つけたの?)」
「(それはまだだ。カフェで発見した魔性を1体逃した。至急、対処を頼む)」
「(え、うん。分かった)」
 テレパシーの会話を終え、終夏は樹たちとカフェへ急行する。



 逃したグラッジの対処の依頼を終えた頃、結和のほうへ顔を向けるとグラッジの説得に成功していた。
「もう、人々を苦しめたりしない…と、約束してくれました」
「そうか…」
「(ねぇ和輝、呪いにかかった人がいないか調べてみようよ。誰も騒いだりしてないから、憑依されていた人はいないと思う)」
「(あぁ、そうだな)」
 3人の休憩も兼ねて、自分が聞いたほうがよいかと思い、まずは客を避難させた場所へ向かった。
 和輝は来店客に、日常で妙なことが起きていないか訊ねる。
 “よく躓いて転んだりするようになった”、“道端で物を無くし、探しても見つからない”という客を発見した。
 どちらも幸か不幸か、アニスが対応しやすい女の子の客だった。
 人が密集している場ではパートナーが怯えてしまうからと客席へ呼んだ。
 客に目を閉じるように言い、精神感応でアニスに治療を始めるように伝える。
「(むー、影みたいなのが出てきた!また蛇っぽい形してるね…?)」
 不思議に思いつつも、影となって現れた呪いをホーリーソウルの輝きの中へ消し去る。
「(ニクシー自身の性格を模したものかもしれないな)」
 呪いにかけた者に、しつこく纏わりつく。
 まさに蛇のような執念深さを思わせる。
「(呪いの解除終わったよ!)」
「(スタッフルームのほうも見ておくか)」
 店の者が待機している部屋へ行き、まずは和輝が様子がおかしな者がいないか調べる。
「(憑依されていたような感じは見られないな)」
 毒にやられた者はいなさそうだと判断し、呪いにかかっていそうな出来事はないか訊ねてみる。
「(―…和輝、呪われてそうな人はいる?)」
「(特にいないようだ)」
「(よかった!…海に行った人たちは大丈夫かな?)」
「(かなりの人数が向かったようだから、向こうは向こうで対処するだろう。俺たちは他の店舗も行かないとな)」
 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が持っている被害者リストを、予め書き写しておいたノートに視線を落とす。
「高峰、次は土産物屋へ行くぞ」
「え、そこはもう、憑依されていた人を救助済みでは?」
「他にも土産物の店がいくつかあるようだ」
「そ…そうでしたかー」
 結和は本を閉じ、和輝たちについていく。
 一方、終夏たちのほうはカフェから逃走したグラッジを捜索している。
「先生たちはグラッジの移動速度が速いって言ってなかったし。まだこの辺りにいると思うけど…。樹さん、それっぽい気配は感じられない?」
「今のところは視界に入る者だけだな」
 目に見えない者の気配は感じない、と告げる。
「憑依されているとすれば、気配のない人よね。あの民家で聞いてみよう!…あのー、この町の人から依頼を受けた者だけど、誰かいなーい?」
 セシリアは木のドアを軽くノックして呼びかける。
 …すると、中から人の悲鳴が聞こえてきた。
「なんかあったの!?開けてっ!…きゃぁあ!!?」
 内側から破壊されたドアと共に、住人らしき者が飛び出てきた。
 とっさに太壱がセシリアをかばい地面へ転ぶ。
「イッてぇーっ」
「ありがとう、タイチ」
「つーか、なんで人がいきなり…」
「この人の気配はちゃんと感知出来るから、憑依はされてないみたい」
「じゃあ、毒のせいか?」
 転がったまま気を失っている若い青年を見つめ、何の症状でこんなことになったんだ?と首を傾げる。
「スーちゃん、この人の中に毒はある?」
「ううん。だいじょーぶみたい、おりりん」
 それらしい症状は見当たらないと告げる。
「お父様、呪いによる不幸の影響では?」
「いや、調べてみたけどそれもないようだよ」
「…家の中から物音がしますわ」
 ガタガタと何かを探す騒音を耳にし、ミリィはドアがあったほうへ視線を向ける。
「他にも誰かいるのかな?」
「私のアークソウルに反応がありませんわ」
 ペンダントの中にある宝石は輝きを見せない。
「すでに憑依されてしまっている…ということか」
 他の住人がいると想定すれば、グラッジに憑かれてしまったのだろうと、涼介が告げた。 
「ねぇ何か魔法を使って、こっちに来させてみる?」
「万が一、通常のスキルがあたっちまうと自滅されちまうぞ」
「ぁ、そっか…。…ねぇ、誰か出てきたわっ。ここってカフェに近いし、そこから逃げたっていうやつかも。私もなんか祓う手伝い出来ないかしら?」
「それよか、俺に向かって何か歌っとけ!」
「わかったわよ!驚きの歌で驚かせてみる!」
 だが、器を得たグラッジは、セシリアの歌に驚くような様子を見せない。
「ツェツェ、だから効かねって。驚きの歌はそもそも用途が違くねぇか?SPを回復させるんだぞ」
「―…え、これもダメぇ?じゃあ、幸せの歌!」
「よし、驚きの歌を俺に向かって歌え」
「んもぅ、わかったわよーっ」
 曲指定されたセシリアは不服そうな顔をしつつも、太壱のために歌う。
 彼のために歌っていることが気に入らないのか、グラッジは器を操作して木製の椅子を振り回しセシリアを襲う。
「この運命…叩き潰す!」
 大きな光の壁をイメージし、哀切の章を唱える。
 “それはお前の思いだろ”と樹につっこまれたが、彼の耳には届かなかった。
「グラッジが離れたか。反応は2つ…、1つは器にされていたやつ、残りはグラッジの本体だろうな」
 樹のペンダントの中にあるアークソウルが輝き、目の前の気配を数える。
「まだ誰かに憑依しそうな感じかな?樹ちゃん」
「気配の動きからして余力はありそうだが、なんとも言えん」
「私が話してみます、タイチのお母さん」
 身体を狙われた時のことを想定し、悪霊から少し離れて説得を試みる。
「あのね、リアジューシネーとか面倒臭いことを、人間一人ひとりに取り憑いてやっている間に、何か自分で楽しいことしたら?」
「ワカラナイ…」
「…人形に取り憑いてサーフィンしたりとか、木彫りを試してみたりとか。グラッジ同士で飲み会やってもいいんじゃないの?そっちの方がよっぽどいいわよ!あなたたち飲めるわよね」
「ムリ。ブッタイノ、カラダ…ナイト、ムリ」
 非物質の存在であるグラッジは、実体のある物質体の器がないと無理だと告げる。
「ん〜〜、何か楽しいこと見つけてみなさいよ」
「タノシイ…?ワタシタチト、オナジモノ…、アソビミツケタ」
「へー。どんな遊び?」
「メロン…ワリ。ダレ、カ…ウメテ。タタクヤツ、ハ、メカクシ…。デモ、ウメタノ…、ワラナイ」
「スイカ割りじゃなくって、ギリギリ叩かないような遊びなのね?ていうか、メロンは食べ物じゃなくって、誰かの頭ってこと!?危ないじゃないのっ」
 なんて危険な遊びを発見してしまったのよ!と叫ぶ。
「ワラナ、ケレバ、ダイ…ジョウブ」
「じゃああなたたも、遊びに参加してみたら?ただし生き物で遊ばないでね」
「ン……」
 グラッジは理解したかしなかったか、微妙な返事をして去った。



 終夏はスーに作ってもらった解毒ジュースを町娘に飲ませる。
 目を覚ました娘は、なぜ家の外にいるのか分からず不思議そうな顔をする。
 もちろん、憑依されていた間の記憶は一切ない。
 彼女の疑問に終夏たちは答えてやることは出来なかった。
 グラッジの憑依で操作された娘に、突き飛ばされた学生のほうは…。
 また突然、友達が豹変してしまうかと恐れ、逃げてしまった。
「元通りの仲に戻るは難しそうだね…」
「こればかりはどうしようもない、イルミンスールのヴァイオリン弾き。私たちはやるべきこと遂行するだけだ。…と言いたいところだが、少々休憩せなばならない」
 ずっと探知役をひきうけていたため、樹は精神力が尽きかけてしまっている。
 彼女と同じく、セシリアもかなり疲労している。
 クリストファーたちがいる救護場で休息をとることにした。
「涼介さん、私たちはどうしようか?」
 自分たちもいったん救護場へ行ったほうがよいだろうかと聞く。
「あと何人かは治療出来そうだよ」
「じゃあ私も少し付き合うね。スーちゃんの飴で回復すれば、まだ大丈夫だから」
 2人だけで行動させるのは危険だと思い、スーちゃんの苺ドロップを食べて被害者の捜索に付き合う。
「ミリィ。ソーマさんの気配を探せるかな?」
「個人を特定するのは難しいですけど、やってみますわ。少人数で行動しないように…ということですし、そんなに遠く離れてはいないと思いますが…」
 被害者を探しているソーマたちと合流しようと、アークソウルで気配を探す。
 その頃、ソーマたちは…。
「この町に来た時は、ちょっとは賑やかそうな感じだったけど、だいぶ静かになってきたな?」
 アークソウルの探知能力を頼りに、被害者を探している。
「ソーマ、目に見えない気配を感じたり、おかしな行動をしていそうな感じがしたりしたら教えてね」
「おかしなって、例えばどんなのだ?」
「ん〜。独りで点在してたり、気配の動きが落ち着きない感じだったりかな」
「お、点在してるっぽいやつがいるぞ。あの民家の裏だ」
 ぽつんと点在したまま動かない気配を見つけ、レンガ造りの民家へ向かう。
 気配の主の姿を確認するため、家の壁際から覗く。
「なーにやってんだ、アレは…」
 椅子の上に立っている人を発見した。
 それがアークソウルが感知した者らしく、その者は椅子を脚立代わりに、ぼーっと立って木を眺めている。
「―…じーっと上を見てるけど、何かあんのか?」
「見えないよ。ソーマ、屈んでくれる?」
「あ、わりぃ」
 後ろにいる北都のために低く屈む。
「枝に紐が吊るされているよ」
「下のほうは、わっかになっていますね」
「おいおいっ。つまりそれって首つ…むぐっ」
 北都に手で口を塞がれ、“大きな声出さないで”と言われる。
「ソーマが感知出来るってことは、憑依はされてないってことだね。クリストファーさんたちのところへ連れて行こう」
 小声で言い、命を絶とうとしている者に気づかれないよう、慎重に近づいていく。
「(あともう少し…)」
 彼を椅子から下ろそうと、北都が手を伸ばしたその時…。
「(な、なんだ!?気配がこっちに集まってくるぞ!)」
 複数の気配の接近をソーマが感知する。
「やばいぞ北都」
「何?今、この人を下ろさなきゃいけないのに」
「いくつも気配が近づいてきてるんだ。3つかたまってるやつと、5つかたまってるのがな」
「え、8体も…?」
 その数に驚いた北都は、輪を見つめる家主を下ろそうとする手を止めてしまった。
「他もなんかうろうろしてるのがいるな」
「魂がある者は、ほとんど感知の範囲に紛れちゃうからね。ある程度は気配の動き方で分かると思うけど…。って言ってる場合じゃないよ、早くこの人を避難させなきゃ」
 紐を掴もうとする家主に背後から掴みかかり、強引に椅子から下ろす。
「な、何なんだ、あんたたたち!」
「ここにいると危険なんだ。僕たちと一緒に来て」
「大丈夫です、怪しい者ではありません」
 抵抗しようと暴れる男の腕を、北都とリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)が掴んで家から引き離す。
「あー…美人じゃないのか」
 ぽっちゃりとした50近くの男の姿に、ソーマは残念そうに言う。
「しつこいな、まだ追ってくるみたいだぞ。すぐ近くに、3つかたまったまま来てるやつらがいる。箒に乗っていったほうがよくないか?」
「うん、追いつかれたらこの人が狙われちゃうからね」
「あぁっ、待ってください!」
 茶色い一本三つ編みの髪型をした少女が、大きく手を振りながら駆けてくる。
「ほぅ、将来なかなか美人になりそうな女の子だな」
「何言ってるのソーマ。チーム決めする時、会ったじゃないか」
 会話はしていなかったが、姿は見かけたはず…とソーマを軽く睨む。
「そうだったか?まぁいい、こっち側に3人増えるみたいだしな」
「合流しやすいように、あまり遠く離れないようにはしてたけどね。って、気配の数…多くない?アークソウルは憑依されていない、地球人以外の気配を探知するんだよ」
「は…?だったら残り1つ…グラッジがいるってことか?」
 3つの内、2つはミリィとスーだが、接近している残り1つは魔性のもののようだ。
「休憩場に太壱さんたちがいるはずですわ!」
「ちょうどこの人の毒を解除してもらうために行くところだったんだ。そこで祓おう」
 人通りも少ないし、そこなら第二の被害者を出すこともないだろうと判断し、休憩場へ駆ける。