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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 8

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 8

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第7章 幸せが妬ましいッ Story7

「オメガさん…見かけなかったね」
「こっちのほうにはいないのかな…?」
 青い髪の魔女がオメガだと分かり、北都と涼介が気にかける。
「となると、発見された海のほうかも…」
「捜索に向かった彼らを信じるしかないな」
「う…うん。(美羽さんやルカルカさんたちが、きっと……見つけてくれるよね…)」
 毒が進行してしまえば死の危険があると、被害者の症状を見てしまった北都は、無事に救助されるように願う。
 そのルカルカ・ルー(るかるか・るー)たちは…。
「(やっぱり助けなきゃね)」
 1人の捜索に集中するのはよくないと、頭では理解しながらも、探さずにはいられない。
「町のほうからオメガさんを発見したってないし。まだ海のほうにいるのかも…」
「発見したら携帯で連絡があるだろうからな」
「憑依されているなら、ラブい空気でこっちに寄せられるかな?」
「グラッジに嘘がバレて、俺たちがサブいことにならないような」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がすかさずつっこみを入れる。
「んにゃ!?そんなことないもん!犠牲者が出る前に、魔性を説得しなきゃいけないしっ」
「ひでぇメにあったしな」
 メロン割りの遊びに付き合わされたカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が、ルカルカの傍らでぼそっと呟く。
「ヤキソバ奢るから許して」
「山盛でりな」
 遊びの犠牲にされたカルキノスは、お供え物のヤキソバで許してやることにした。
「綾瀬にマグヌスモードで召喚してもらったし、スピードや守りも準備したし始めるわよ♪」
 準備を整えたルカルカはダリルとリア充の演技を始める。



「ルカ。お独り様や、恋人がいない人が見たら、からんでくるんじゃないのか?」
「できたら友情のリア充に誘いたかったんだもん」
 浜辺で寄り添い、イチャイチャしている様子を回りに見せつける。
「ルカは優しいなあ。こんな寂しい奴にも愛情をふりわけようとするなんてな」
「ダーリン」
 警戒心を見せないよう大胆に、ぎゅーっとはぐする。
「あいつらムカツクな。マジで地獄に落ちろって感じねぇか?」
 グラッジを誘い出すために、カルキノスも演技に参加してみる。
「お独り様が文句言ってるわ。やんっ、ルカ怖い♪」
「俺が傍にいるかぎり、何も怖いことなんてないさ」
「ちゃんとルカを守ってね?ダーリン」
 うるうると金色の相貌を潤ませ、よりカノジョっぽく見せようとダリルを見上げる。
「もっとこっちにおいで」
「ウフフ、だいすき〜♪あ、ダーリン。お星様が見えるわ」
「だいぶ日が暮れてきたな」
「キレイねー」
「あの星の全てと比較しても、ルカのほうがずっとキレイに輝いてる」
「きゃっ、はずかしいぃ〜」
 夜空を見上げ、抱き付き合いながら恋人を演じる。
「カルキ、…どうしたのだ?…ふむ」
 彼らの演技にどうしたらいいのだろうか、と考え鳥肌が立っているようだ。
「あれって何のお芝居?」
「B級コメディーを見ていると思えば面白いですわ。それにしても、グラッジは現れないのでしょうか…?」
 その様子を綾瀬とドレスが遠くから監視している。
「ひっかかるだろうか?」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)も偽カップルの様子を見ている。
「なんだか仲間を餌にするみたいで気がひけるよ」
 2人が魔性に襲われたりしないか、コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は心配そうに見守る。
「気にするな。ルカたちはそう簡単にやられはなしない」
「ぅーん…」
「…なんだ?あいつらも囮になるのか?」
 囮2号のカップル以上の関係である本物の夫婦が、ルカルカたちがいる浜辺にいる。
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)は可愛い妻を抱き寄せ、熱々夫婦っぷりを周囲に見せつけた。
 妻の遠野 歌菜(とおの・かな)はちょっとだけ首を傾げ、彼の肩に頭を寄せるようにくっつく。
「だんだん涼しくなってきたね、羽純くん。昼間はあんなに暑かったのに」
「元々、砂漠地帯だからな。気候もそれに近いんだろうな」
「こうすれば暖かいだろ?」
 お揃いの薔薇モチーフの結婚指輪をしている妻の手を、そっと握ってやり暖める。
「すごく暖かいね」
 歌菜も柔らかな手で握り返す。
 その近くで、ルカルカは…。
「怖い人が来たら、教えてねダーリン」
「あぁ、俺が全部倒してやるから心配するな」
「約束よ、ぎゅーっ♪」
 ダリルにはぐしつつ、横目で歌菜に“気配を感じたら教えて”という仕草をする。
 それに気づいた彼女は黙って小さく頷く。
「…羽純くん、気づいてる?」
「気配が集まってきているな…」
 グラッジたちに策戦がバレないように、小さな声音で会話する。
「オメガさんいるかな」
「さぁな。憑依されていたら気配を感知出来ない」
「見て確認しなきゃね」
 歌菜と羽純はアークソウルの探知内にかかったほうへ、ゆっくりと振り返る。
 薄汚れた色の服を纏った悪霊どもが、リア充なやつらを抹消しようと凄まじい形相で睨んでいる。
「(オメガさん…、どこにいるの!?)」
 その中に見知った存在が混ざっていないか視線を巡らす。
「……ぁ、いた」
 ぽつりと呟いた言葉をルカルカとダリルが聞き取り、いちゃつき演技をやめて離れる。
「気をつけて、ルカルカさん。そっちにも何体かいます!」
「ほぇ…?」
「陣くん、場所教えて!」
「ルカルカさんの頭の上やっ」
「えぇーい」
 偽カップルの片割れに憑依しようとする悪霊に、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)が祓魔の護符を投げつける。
「…ほぇえーーっ!!?」
 爆発音に驚き、ぺたんと膝をつく。
「オメガさんを返してっ」
「やめろ歌菜。群れの中につっこんでいったら身体を奪われるだろ!」
 羽純は妻を抱えて七枷 陣(ななかせ・じん)たちのほうへ走る。
「だって、羽純くん…」
「冷静になれ。無理に取り戻そうとすれば、相手の思う壺だ」
「ぅ、うん」
「暗くなってしまったら、術を使ってもリーズたちが視覚確認しづらくなる。さっさと可視化させるぞ」
 ペンダントに触れて詠唱の準備をする。
「魔性を不可視かさせるまで、探知をお願いします」
「ふぅん。あれに集まってるのね?」
「青い髪の魔女!?…なんと、真宵ではなかったのですか」
 すぐ隣にいるパートナーとテスタメントが見比べる。
「だから違うと言ったでしょ!」
「はうっこんな時にやめてくださいっ」
 頭をぐりぐりされ、逃れようと必死に抵抗する。
「あなたたちに近づくやつを教えればいいのね?」
 お仕置きが飽きたのか、あっさりと手を離して歌菜に言う。
「えっと、美羽さんたちに教えてもらえますか?」
「時間稼ぎってことね、まぁいいわ。こっちには必殺道具があるし」
 ティ=フォンを手にニヤリと笑みを浮かべる。
「これを貼り付けて…っと。ほら、餌にでもくいてなさいよ」
 自分のものだし壊れても問題ないため、躊躇なくぽーんと放り投げる。
 砂浜に転がったティ=フォンから、録音したテスタメントの幸せの歌が流れる。
 だが見向きもされてないのか、グラッジたちの気配はこちらに向かってくる。
「録音したものでは効果がないようですね」
「くぅ〜っ、悔しいっ。だったらメールを見せてやるわ。…こらグラッジ、あのメールが見えないの!?ちゃんと見ないままくるなんて、どういういうことよ」
 放置されたティ=フォンを指差し、無茶苦茶な要求をぶつける。
「すっごく幸せなことが書いてあるのよっ」
「そんな無理やりなことで…」
「んふふ、ひっかかったわね」
「えぇええーー。気になったら見ずにはいられないタイプでしたか…」
 まさかの状況にテスタメントは驚愕の声を上げた。
 メールには“今日、埋蔵金を発見しました”という文面が表示されている。
 リッチな幸せの文面を目にした魔性は、祓魔の護符をくらいながらも憑依する。
「憑依したっぽいわよ、やっちゃいなさい」
「このテスタメントが裁きを下してやりますっ」
 裁きの章による酸の雨でグラッジを溶かし、ガード力を削ぎ落とす。
「わたくしのティ=フォンから離れたようね」
「他の者もどんどんくるのです!」
「ん…?ティ=フォンを囲んだまま動かないわ。…何か考えてるのかしら?」
 グラッジたちは同種の悪霊がそれに憑依したとたん、雨にやられて悲鳴を上げて逃走したのを目撃した。
 これに入って大丈夫だろうか、と考え込んでいるようだ。
「あら、こっちに来るみたい」
「術が完成するまで、止めればいいのね?」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は哀切の章を唱え、グラッジの進行を阻む。
 その間に、陣たちは不可視の者を可視化する術の詠唱を始める。
『魔を貫く雫よ…魔の匂いと魔の真実を暴く元素を抱き…』
 陣、歌菜、羽純のアークソウルが淡く輝く。
 そのアンバー色の光はジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)カティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)が手にするハイリヒ・バイベルへ飛び込む。
『…天へ駆け昇り…弾けて混ざれ!』
 互いに声を合わせて唱える続け、ペンダントの中のエアロソウルの光を3人の本へ吸収させる。
『混ざりし雲よ、我らに全てをさらけ出す豪雨を降らせよ!』
 裁きの章のページに新たなワードが記され、そのぺージから黒い霧が発生し、グラッジたちの真上に集めっていく。
 やがて黒い雲となり…。
『セット!レイン・オブ・ペネトレーション!』
 不可視の魔性にザァザァ降りしきり、術者でない者たちにも薄っすらと見えるようになった。
「ずいぶんとボロイ服着てるわね?」
「真宵、ラルク・アントゥルースたちのところへ行きますよ」
「わたくしのティ=フォンが…!」
「後で回収すればよいでしょう。こちらのほうが最優先ですっ」
「まっ…いいけど」
 憑くと的にされるのかと怪しまれた時点で、もう役立たないかと思い、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)たちのところへ向かった。



「む〜……なんとか見えるね、オヤブン」
「あれが悪霊のグラッジか」
 可視化した魔性は、ボロボロの汚れたような色の服を纏い、髪はボサボサで睨み殺してきそうな目つきで、こちらを睨んでいる。
「オヤブン、向かってくるよ!」
「物質に憑いた状態じゃないと厳しいな。コレット、退かせるんだ」
「―…うん!」
 コレットは哀切の章を唱えて退かせていく。
「グラッジがコレットさんをタゲッている間に、オメガさんから憑いたやつを追い出せればいいんやけど…」
 陣は魔性を引き付けているコレットからルカルカたちのほうへ視線を移す。
「マグヌスの弾をオメガさんに当てても大丈夫なのかな?」
「対象を傷つけず祓うものだから問題はないはずだ」
「いやしかし、銃で撃つわけには…」
「ていうかこっちに来るぞ!」
 苦しめて遊ぶ標的に見られ、憑依されたオメガがファイヤストームでカルキノスたちを襲う。
「いたぶってやるぜ、丸焦げろ」
 慌ててかわす彼らを見てケタケタと笑う。
「あれが…オメガ?なんだか雰囲気が違うわね」
 人格の変わりように美羽が唖然とする。
「おそらく魔性の毒のせいでしょうね、美羽さん。憑依されているようですし、進行してしまっては命の危険が…っ」
 白い肌が土気色の肌に変わっている様子を、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が見る。
「てめぇらを石にして砂に埋めてやるよ」
「あわわっ。オメガさんずいぶんワイルドになったわね」
 ルカルカは石化の魔法をゴッドスピードでかわす。
「今はグラッジが喋らせているのだろう。くっ、よくもオメガ殿をあのような姿に…」
「そう怒るなよ、淵。魔道具の威力が落ちるぞ」
「分かっている!」
「早く哀切の章で祓いましょう。…もう、オメガさんの体が持ちません」
 焦る気持ちを抑えつつ、光の波をうねらせて魔女を捕らえようとする。
「…押さえ込まないと難しそうですね」
「私がやるわっ」
 本を閉じた美羽は、自ら傷を負うのも恐れずオメガに飛びかかる。
「暗闇の中に消えろ」
「ぅ…ううっ」
 淵の護国の聖域でも緩和しきれず、エンドレス・ナイトメアの闇が美羽を襲う。
「フン、アホか?てめぇから血祭りっていう祭りに参加しにきやがって。燃えろーっ!!」
「……っ」
 続け様にファイアストームの灼熱の嵐までくらってしまったが、それくらいで退く美羽ではない。
「熱くなんか……、熱くなんかない。魂を傷つける毒のほうが、もっと痛くて苦しいんだからっ」
 キュアオールの魔法で回復しながら炎に耐えて取り押さえる。
「ベアトリーチェ…皆、早く魔性を祓って!」
「チッ、だったら石になっちまえ」
 悪霊はオメガの体を操って美羽の腕を掴む。
「な!?…ぁあっ」
 掴まれた腕からペトリファイにかけられ、だんだんと石にされていく。
「み、美羽さん!」
「私のことはいいから……、オメガを…っ。魔性に…心を乱されないで。ぅ…、あーーーー!!」
「―……っ。すみません、少しの間だけ耐えていてください」
 怒りの感情を心の奥底へ押さえ込み、哀切の章の術で光の嵐を放つ。
「シャイセッ、この体から離れてやるもんかっ」
「頼む、その人は俺にとって掛け替えのない人なんだ。解放してやってくれ。なんなら俺に憑けばいいから!俺が体をやるから!」
 グラッジが出て行こうとしない状況に業を煮やし、淵が交渉しようとする。
「軽々しく契約の言葉を口にするな」
 自らの身を投げ出そうとする淵の発言にダリルが即制止する。
「だ、だが。このままではオメガ殿が……」
「感情的になっては周りのことすら見えなくなってしまいますわ。私たちが行動範囲を狭めてゆきますから、魔性を祓ってください」
 綾瀬は彼に対し、冷静になるように言い、それでは何も救えないと告げる。
 身動きが取れなくなった隙を狙えばいいと淵に言う。
「…了解した」
「さて、人手がもう少しいりますわね。ご協力いただきますね?」
「もちろんだよ。俺とクマラは何をすればいい?」
「そうですね…、私と共に逃さないようにしていただければよいかと」
「分かった。……クマラ」
「いつでもいいよ!」
 クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)はスペルブックを振って元気よく言う。
「何をしようとも、この体はもうじきくたばっちまうぞ。それとも溺れさせてやろうか?キャハハハッ!」
 すっかり石化した美羽を放置し、下卑た口調で言う。
「綾瀬様。あの魔性が言う通り、かなり危険な状態です!」
「リトルフロイライン、狙いやすいように追い詰めなさい」
「りょーかいですっ」
 海の中へ行かせないように、二丁拳銃モードで祓魔弾を打つ。
「てめぇ、こいつがどうなってもいいのか!?」
「ぇえ、綾瀬様の命令ですから。命中しても問題ありません」
 仮に命中してしまったとしても、憑依されている者には影響がない。
 ダメージは全て本体にいくのだ。
「……シャイセッ!こうなったら絶対、離れてやれねぇからな」
「そっちは行き止まりだよ」
「逃がさないぞ」
 クマラとエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が裁きの章の雨で逃走を妨害する。
「ルカのゴッドスピードで早く走れるもんね。オメガさんを返せっ」
 逃走経路を徐々に狭めていく。
「てめぇらも血祭りに参加させてやるぜ、凍えろっ」
「ブリザードか!?」
「ふぇぇ…ちべたいよぉー」
「耐えろクマラ、男の子だろ!」
「あははは、そのまま凍りつけ。…ちっ、またこの嫌な光か。そんなに光が好きなら、てめぇらが光ってみるかぁあ?」
 サンダーブラストでルカルカたちに雷の雨を落とす。
「…ゴッドスピードでも回避は難しいみたいねっ」
「しっかりしろ。相手はまだ、余力があるようだぞ」
 魔法ダメージをダリルがキュアオールで回復する。
「皆に注意が向いている隙にっと」
 リーズが美羽に石化解除薬を振りかける。
「大丈夫?」
「―…ありがとう。よぉし、今度こそっ」
 美羽は再びオメガを取り押さえようと挑む。
「気配バレバレだってーの」
 ディテクトエビルのエリアにかかった美羽のほうへ振り向き、小ばかにしたように笑う。
「いいわよ、バレたって。どうせ捕まえるためなんだから」
「ばぁかが。また石にしてやるよ」
「構わないわ。だってもう逃げられないんだからね…」
 そう告げた少女はまたもや石化させられる。
「はぁあ?道ならいくらでも…なっ!?」
 逃走して死体をその辺りに捨ててやろうと酸の雨と祓魔銃に包囲されてしまった。