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【仁瑠華壮聖五十連制覇】演目『零の笑点』

――ニルヴァーナ創世学園内、カウンセリングルーム。
 普段は生徒の悩みなどを相談する、落ち着いた雰囲気を醸し出す作りの教室である。
 ところが今回はその様子は見られない。床は畳が敷かれ、その上には座布団が数枚、列を作って置かれている。そして端には講談に用いられるような釈台と、隣にはめくりが置かれている。めくりには寄席文字で『零の笑点』と書かれていた。

 今、カウンセリングルームは高座となっていた。その光景はまるで寄席だ。
 違う事と言ったら、客席部分は普通のカウンセリングルームのまま、という事だろうか。客席、というが勿論そこに観客はいない。ただ、一台のカメラがそこにある。
 三脚に設置されたカメラのレンズは、高座を映していた。その映像はそのままムッシュW達へリアルタイムで送信されている。

 何処からか出囃子が奏でられ、羽織を纏った着物姿の和泉空が扇子片手に現れる。これで顔にパピヨンマスクが無ければそこそこ絵になっていただろう。
 釈台に着くと、客席に見立てた方向に深々とお辞儀をする。まるでそこに観客がいるかのように。
「えー始まりました『仁瑠華壮聖五十連制覇』決勝進出予選会、本日ニルヴァーナ創世学園内カウンセリングルームで行われます『零の笑点』。司会は私、乳揉亭 泉空(ちちもみてい いそら)こと和 泉空(かのう いそら)です。どうぞよろしくお願いします」
 なんつー高座名だ。
「早速今回の予選会に参加していただく皆様に登場して頂きましょう。どうぞ」
 泉空に呼び掛けられ、カウンセリングルーム入り口からぞろぞろと入場してくる。
 入場者は先頭から順番に、

 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)冬月 学人(ふゆつき・がくと)
 佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)
 アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)
 アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)

であった。皆雰囲気に合わせているのか、着物姿である。
 皆置かれている座布団に正座で座るのを確認すると、泉空が客席のカメラへ向き直る。今回はこういう体らしい。
「中々の猛者が集まっているようですね。それでは手前のマスクマンの方、自己紹介をどうぞ」
 泉空が着物にプロレスマスクという格好の涼介に紹介を促す。
「えー『謎の覆面エンターテイナー』と書いて『プロレスラー』と読む肩書を持つ宿木亭涼庵と申します。今日は予選会の対戦相手の皆様や高見の見物と洒落込んでいるムッシュWには私の妙技を存分に味わってもらおうと思っておりますので一つ宜しくお願いします」
 宿木亭涼庵こと、涼介が深々とお辞儀をすると他の参加者から拍手が起こる。
「それではお次の方どうぞ」
 拍手が終わると、その隣の弥十郎が姿勢を整える。
「普段は移動屋台『料理☆Sasaki』を不定期で営業しております佐々木弥十郎と申します。普段は料理をしている方が目立ちますが、料理しかできないなんていう皆様の蜂蜜より甘い考えは捨てて頂こうと思っておりますのでよろしくお願いいたします」
 弥十郎のお辞儀と共に拍手が起きる。
「さて次はコンビでの登場です。お二方、どうぞ」
 泉空に促され、九条と学人が立ち上がる。
「九条です」
「学人です」
「「?学ですが、なにか?」」
 それだけ言うと、二人が頭を下げる。周囲はその雰囲気に若干戸惑いつつも、拍手を送る。
「はい、次はいつもニコニコ笑顔が似合う、そのくせ人妻という反則の武器を持つこの方です」
 ルーシェリアが笑顔を見せながら頭を下げる。その先の観客席に観客はいないが。
「こう見えても母の佐野ルーシェリアですぅ。やるからには負けたくないと思っていますのでよろしくですぅ」
 ルーシェリアが頭を下げ、拍手が起きた。
「えーっと、次の参加者もコンビでの登場。お二方……というか一人と一匹、どうぞ」
 泉空がそう言うと、アキュートがすっくと立ち上がる。ウーマはというと、最初から横でぷかぷかと浮いていた。座布団不要じゃないだろうか。
「アキュート・クリッパーだ……ムッシュWとやらはとやかくなんか言っていたな。笑いを……笑いを忘れちまった……だと? ふざけるんじゃねえ、笑いが無きゃ勝っても虚しいだけだ。笑いが無きゃ息も出来ねえ。No laugh! No life! 俺が……思い出させてやるよ……以上」
 それだけ言うとアキュートは正座して座る。その後に拍手が起きた。ウーマは唯浮いているだけだ。
「中々気合が入っていますね。それでは最後の方、どうぞ」
 泉空に言われ、アルクラントが最初に頭を下げた。
「素敵な笑顔を! 素敵な笑顔を! アルクラント・ジェニアスです。何気に座布団10枚というのは憧れていたので今回は狙っていこうと思ってますのでよろしくお願いします」
「あ、今回のコレそういう企画じゃないのでそれは諦めてください」
「何……だ……と……!?」
「まあまあ、その辺りは詳しく後程説明しますので。それでは今回は皆様の座布団を運ぶこの方の紹介です。着物を着るときはブラではなくサラシ派の天野君、どうぞ」
「ちょ、なんでそう言う事バラすのいっちゃんは!?」
 泉空のように着物を纏いパピヨンマスクを着用した天野 翼(あまの つばさ)がうがーと吠えるが、他の参加者の視線が集まると誤魔化す様に一つ咳払いをする。
「っと……えーと今回アシスタントを担当する天野翼です。よろしくお願いします」
 羞恥に頬を赤く染めながら深々とお辞儀をする翼。それを眺めて泉空がニヤニヤと笑っていた。
「えー今回のルール説明を行います。今回は総当たり形式の試合となっております……既に皆さんには座布団が配られていますね?」
 泉空が言うと、参加者全員が今自分が座っている座布団に目をやる。
「では天野君、皆さんに例のアレを配ってあげて」
「はい、かしこまりました」
 翼が参加者全員に、裏からもう一枚の座布団を持ってきた。『既に座っているというのに、何故?』と皆首を傾げながらも、今敷いている上に持ってきた座布団を置いて座り直す。
「その座布団が皆さんの生命線と言える存在になります。他の参加者のネタで笑った場合は容赦なく天野君が奪っていきます。クスリと笑ったら1枚、大笑いしたら2枚とも。最後まで座布団を持っていた方が予選突破となりますが、一巡して皆さん座布団持ってなかった場合は仕切り直しとなります。尚、敗者は皆さん天野君のケツバットが待っているので尻が惜しい方は頑張ってください」
 ほれ、と扇子で泉空が示した方を見ると、翼が笑顔でバットを構えていた。殺る気満々の笑顔である。
「さてそれでは始めていきましょうか。それでは順番は独断と偏見で、あいさつとは逆の順番で行っていきましょう。というわけで、一番手のアルクラントさん、準備を」
「何、私からだと?」
「何か問題でも?」
「いいんですかね、一発目で全員の座布団を持って行く事になっても知りませんよ?」
 アルクラントがニヤリと笑みを浮かべる。それを見た泉空が愉しそうに口を歪めた。
「ほほう、それは楽しみですね、ではちゃっちゃとやっていきましょう。それでは、始めましょうか」