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紅き閃光の断末魔 ―前編―

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紅き閃光の断末魔 ―前編―

リアクション


◆武器庫◆

 ひしゃげた金属板の棚に、壊れた武器が乱雑に転がっている。
 入り口近くでは傘立てに似た格子状のケースも倒れており、
 そこに収納されていたであろう『機関銃』の本体と固定用の三脚は、無残に床へと投げ出されていた。
 爆発があった武器庫の中は、現在そんな滅茶苦茶な状態である。
 その中央で、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は、武器庫の備品リストと睨めっこしていた。

「……もともと防衛用の武器庫だ。熱を発する刃物など保管されているわけがなかったな」

 見落としがないか念のためにもう一度目を通し、今度こそ結論付ける。
 甚五郎は大部屋から出た情報を受けて、それらしき物が武器庫に無いか探していたのだ。
 その確認に使っているのが、彼の手にしている備品リスト。
 先ほど、阿部 勇(あべ・いさむ)が偉い人ルームから拝借してきたものだ。

「ふむ。武器庫に全ての凶器があったなら、外部犯は実はいないのではないか、とも考えたのだが」

 この備品リストは、セレン達が見つけた職員のプロフィール同様、教導団本部が作成したものらしい。
 つまり、虚偽の情報が載っている事もない。

「その熱を発する刃物も謎ですけど、管制室で使われた凶器についても気になりますよね?」

 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)も備品リストを参照しながら、焦げついた武器の残骸を1つずつ調べていた。
 もし、数が合っていなければ、犯行時に利用された可能性が高い。
 こちらはその確認のためだ。

「副所長の後頭部からは、『ハンドガン』の銃弾が検出されていたはずであろう」

 ホリイの疑問を聞きつけた草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)は、部屋の隅で大破した防犯カメラを調べながら応じる。
 
「死因もその銃弾で間違いないと聞いておる。ならば凶器は『ハンドガン』で決まりなのだよ」
「んー。武器種は『ハンドガン』で間違いないと思うんですけどー」

 ホリイは浮かない面持ちで、再度備品リストに目を落として、

「そんなもの、武器庫には無かったみたいなんですよね。ほら」
「……なるほど、これは妙であるな」

 備品リストに記載されている物は、
 『機関銃』4丁、『スナイパーライフル』1丁、『銃剣銃』8丁、『ロングスピア』5本、『ノクトビジョン』20個。
 本来は以上で終わりのようだが、手書きで新しく書き加えられている備品もあった。
 それが、指向性に改造された『機晶爆弾』5個だ。

「確かに、載っているのはサイズのデカい銃器ばかりですね。『機関銃』や『スナイパーライフル』なんて、そもそも地に固定して使うような代物だし、 『銃剣銃』も基本的には両手で担いで扱う大きさですよ」

 どれも『ハンドガン』とは似つかない。

「……俺にはもう外部から持ち込んだとしか考えられませんね。消去法ですけど、一応筋は通ります」

 勇はそう考えたようだが、それでも疑問は残っていた。
 甚五郎はその疑問について考える。

「職員の誰かが持ち込もうとすれば、出勤時に正門で行われる持ち物検査を通らなければならんな」

 セレン達が入手した情報にあったことだ。
 その持ち物検査を行うのは、24時間交代制で正門を見張っている衛兵達である。
 『ハンドガン』を外部から持ち込んだなら、この検査を何らかの方法で潜り抜けているはずだ。

「その衛兵である透さんとデュオさん以外は、ですけどねー」
「…………」

 ホリイが言っている意味は、ちゃんと甚五郎も把握している。
 自分達が検査を行っているのだから、透とデュオが持ち込む分にはいくらでも誤魔化しが効くのだ。
 いや、誤魔化す必要すらあるまい。
 彼らは仕事上、『ハンドガン』を携行していても何も不自然ではないのだから。

「つまり、衛兵の2人が内部犯だったら、凶器の持ち込みは容易だったということですよね」
「……そうなるな」

 ホリイのその答えが全てだった。
 だが、それだけで彼らを犯人扱いするのは早計すぎる───甚五郎はそう考えていた。

「しかし、持ち物検査というが、どれほど信頼していいんだろうな? ここに来る前見た限りでは、そういった機材……例えば金属探知機だとか、そういうものは一切無かったぞ。大方、目視だけでチェックでもしていたのだろう。それならいくらでも通りようはあるぜ」

 そこは甚五郎の言う通りである。
 例えばスキル【物質化・非物質化】を使えば、内勤の者でも絶対に摘発されない事が可能だ。
 もっとも、その場合は犯人は契約者になるので、生き残りの中ではトマスに限定される。
 だが、こんなのは極論であり、やり方次第で非契約者でも、衛兵達の目を誤魔化す事は可能だっただろう。

「まぁそーですよね。結局、外部から持ち込まれた可能性が高いって事以外は、わかりませんねー」

 肩を落として溜め息をつくホリイだったが、

「いや、どうやら他にも手がかりはあるみたいなのだよ」
「?」

 すっ、と人差し指を立て、部屋の一角を指し示す羽純。
 おそらくそこが爆心地だったのだろう。他の場所に比べ、あからさまに酷い状態の場所だ。
 一番近くにいた勇が、羽純が示した物体に気づき、それを拾い上げた。

「なんですか? この鉄クズは……?」
「よく見てみるといいぞ。それこそ動かぬ証拠なのだよ」

 じろじろと観察する勇だったが、ボロボロになった何かの正体はわからないようだった。
 甚五郎が近づいていき、おもむろにそれを受け取ったところで、

「……マガジンか!」

 その正体に気がついた。
 『ハンドガン』用の、銃弾を装填するマガジンだ。

「これで、研究所内に間違いなく『ハンドガン』があった事が証明されたな」

 羽純のお手柄だ。
 しかし、ホリイは依然として難しい表情を崩してはいなかった。

「証明はされましたけどー……もともとそんな事わかってましたし、特に進展はないですよね?」
「いや、そうとは限らんぞ」

 甚五郎は彼女の言葉を否定した。

「考えてもみろ。管制室で使われた『ハンドガン』が、ここにあった理由を」
「……あ、もしかして、爆発で凶器を隠滅するため……?」

 おそらく見つからない『ハンドガン』の本体は、爆破されて跡形も無くなったのだろう。
 本体に覆われている部分だから、マガジンだけは原型を留めていたのだ。
 そして、その爆破を行うために使用された物は───

「備品リストにあった、指向性の『機晶爆弾』だ」
「なるほど……でも、なんであれだけ手書きで追記されてたんでしょーか?」
「あぁ。それは、解析中の機構に埋め込まれてた巨大な機晶石を、取り除くための物だったらしいですよ」

 勇も備品リストを受け取った時に、気になって聞いていたらしい。
 もともと『機晶爆弾』は武器庫に配備されていたものではなく、研究の過程で使用された物の余りだったそうだ。
 野放しにしておいたら危険なので、他の部屋に比べて比較的頑丈な武器庫に、一時的に置かれているのだという。

「後日、教導団本部に回収される予定だったみたいです」
「なるほど。本来ないはずの物だったから、手書きで追記されていたのだな」

 甚五郎も納得する。
 とにかく、これでハッキリした事がある。

「内部犯は管制室で副所長を殺害後、凶器の『ハンドガン』を処分するため、武器庫を訪れていたはずだ」

 一同は頷いた。
 どうやら犯人の動向を、ある程度掴めたようである。

「ここまでの情報は、同期した方がよいであろうな」
「ええ、僕がやっておきます」

 羽純の言葉に応じた勇は、すぐに携帯の端末を操作し始めた。
 いよいよ輪郭が見え始める犯行の手順。
 あと一歩。あと一歩で、推理の鍵は完成する。


■獲得情報

<武器庫の備品リスト> 記録者:阿部 勇(あべ・いさむ)
『機関銃』4丁、『スナイパーライフル』1丁、『銃剣銃』8丁、『ロングスピア』5本、『ノクトビジョン』20個。
そして、後から手書きで追記されている、指向性の『機晶爆弾』5個。
載っていたのは、それで全部でした。

<外部犯の存在感> 記録者:阿部 勇(あべ・いさむ)
大部屋であがった情報から、熱を発する刃物を探してみたんですが……
備品リストには見ての通り無かったし、実際に漁ってみても、それらしき物は見当たりませんでした。
やっぱり外部犯はいたんだと、改めて思いますよ。
それなら凶器の熱を発する刃物とやらも、持ったまま逃げられますし。

<内部犯の凶器の出所> 記録者:阿部 勇(あべ・いさむ)
研究所の職員は出勤時に、正門で衛兵による持ち物検査を受けるようですね。
ただ、ある程度隙のある検査だったようで、誤魔化して凶器を持ち込む事は可能だったようです。
例えば、スキル【物質化・非物質化】を使用すれば、絶対バレませんよね。
他にも、別の物に偽装して持ち込んだり、衣類の中に隠して持ち込む方法も考えられますね。
それに透さんとデュオさんに至っては、そもそも自分達が持ち物検査を行う側ですし、
衛兵という仕事上、『ハンドガン』を持っていても何も不自然ではありませんよね?
つまり、生き残りの誰であっても、工夫次第で凶器の『ハンドガン』を用意することはできたんじゃないでしょうか。

<武器庫の機晶爆弾> 記録者:阿部 勇(あべ・いさむ)
備品リストに手書きで追記されていた品です。
時限式で、タイマーをセットすれば任意のタイミングで爆発させられるんだとか。
どうやらこれは、研究の過程で使ったものの余りだったらしいですね。
保管場所に困って、一時的に武器庫にしまっておいたそうです。
後日、教導団本部に回収される予定だったみたいですよ。

<凶器の隠滅方法> 記録者:阿部 勇(あべ・いさむ)
その時限式の『機晶爆弾』を、犯人は利用しようと考えたんでしょう。
全てのタイマーを22:10にセットし、凶器の『ハンドガン』を爆破して消し炭にする……
おそらく、それが犯人の狙いだったんだと思います。
ずっと持っていたら、捜査隊がやってきた時にすぐ見つかってしまいますからね。
ちなみに武器庫の防犯カメラは、この爆発地点に近かったので、巻き込まれて壊れたようです。
もしかしたら、それも犯人の狙いだったのかもしれません。

<ハンドガンの残骸> 記録者:阿部 勇(あべ・いさむ)
本体は見つからなかったんですが、マガジン部分だけが部屋の隅に転がってました。
甚五郎さんは、犯人が凶器を爆破して証拠隠滅を図った際に、残ってしまったんじゃないかと言っていました。
僕もその推理がしっくりくると思いますね……。
とにかく、武器庫に『ハンドガン』の残骸は存在したんですよ。

<内部犯の動向> 記録者:阿部 勇(あべ・いさむ)
犯人は管制室で副所長を射殺した。
その後、凶器である『ハンドガン』を処分するため、武器庫に一度やってきたはずです。
『機晶爆弾』のタイマーをセットするだけの作業ですから、そう時間は取られなかったと思いますが……
この情報、何かの役に立ちそうじゃないですか?