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紅き閃光の断末魔 ―前編―

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紅き閃光の断末魔 ―前編―

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◆ヒラニプラ市街地◆

 市街地の一角に、人だかりができていた。
 なんでも、突然女性が倒れて、そのまま動かなくなってしまったのだとか。
 好奇心というのは厄介なもので、こんな夜中だというのに、野次馬根性丸出しの人々が集まってきてしまったのだろう。
 この辺りでは数少ないコンビニの前が現場となったこともあり、現在も封鎖されかねない勢いで人が増え続けている。

「あれ、もしかして朱鷺じゃねえか?」

 そんな中、ある人物に声をかけたのは、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)だ。
 アトラスの古傷の調査でも一緒だった東 朱鷺(あずま・とき)の姿を見かけて、呼び止めたのである。
 サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)も、シリウスに続いて久しぶりの再会に、

「やあ、また会ったね。キミも騒ぎを聞きつけて、ここに来たのかい?」
「あら奇遇ですね。お察しの通り、朱鷺も騒ぎの情報を聞いてやってきたのですよ」

 「この子にね」と【八卦術・八式【兌】】で麒麟を呼び出してみせる朱鷺。
 彼女いわく麒麟は中央を司る神獣なので、街の中心に近いこの辺りを捜査させていたのだという。
 他にも東西南北に別の神獣を向かわせていたらしく、市街地全域をある程度網羅していたようだ。
 シリウスは素直に感服して、

「流石だな。オレ達は職員のプロフィール情報を見ながら接点のありそうな場所を当たってて、たまたま通りかかったんだよ」
「……なるほど。ちなみに、接点というのは?」

 朱鷺が尋ねてきた疑問には、サビクが答えた。

「ここまでの経緯的にスリーパーは仕込めないだろうから、外部犯と内部犯の間で最近やり取りがあったはずなんだ」

 サビクのその意見を参考に、彼女達の行動方針は決定されていた。
 ちなみにスリーパーというのは、長期潜伏型スパイ。
 敵地に紛れ込んで普通の生活を続け、指令が出るのを待つタイプのスパイのことだ。

「確かに、ワームの機構とやらが挙がって間もないですからね。この短期間でその可能性は無いでしょう」
「あぁ。それに解析のための研究所も、最近場当たり的に作られたものらしい。そこに狙って配置するなんて、まず不可能だぜ」

 朱鷺とシリウス、どちらの意見ももっともだ。
 となると、外部犯はどうやって内部に共犯者を作ったのかが、最大の謎になる。
 その最大の謎を解くためにサビクが目をつけたのが、外部犯と内部犯の接点……やり取りがあった場所だ。
 ただ、その接点を洗い出す事に、なんだかその道に詳しいサビクも苦戦しているのだ。

「こればかりは地道に聞き込むしか……今のところ何の手がかりも無いからさ」
「オレもやり取りがあったってのは間違いないと思うんだけどなー。すげー計画的な犯行だったしさ」

 うーん、と一同は頭をひねる。
 確信はあるのに、広大すぎる土地が邪魔をして手がつけられない……そんな状態だった。
 と、そこに1人の男が駆け寄ってきて声をかけた。

「失礼。教導団の者ですが、あなた方が捜査協力を頂いている契約者の方々で間違いありませんよね?」
「ん? あぁ、そーだけど……」

 突然の事にシリウスがうろたえつつも応じる。
 その男は一見すると怪しいものの、出会い頭に身分証まで示していた。
 確かに教導団の者で間違いないらしい……いったい何の用だろうか?

「私は1時間ほど前まで研究所の事件を捜査していたのですが、こちらの事件を受けて移動してきた捜査隊員です」
「……こちらの事件とは、突然女性が倒れたというあれですよね?」

 朱鷺の問いかけに頷く捜査隊員。
 倒れたと言うとマイルドだが、正確には既に死亡しているらしい。
 この人だかりの原因にもなった事件だが、彼はどうやら今までその捜査をしていたらしい。

「でも、だったら既に研究所の捜査からは外れてるんじゃないのかい」
「そうだぜ。今さら何でオレらに声をかけたんだ?」
「それが、無関係ではなかったのです。この事件と、研究所の事件……」

 捜査隊員の口から、予期せぬ言葉が飛び出した。
 戸惑う一同の中で、すぐさま朱鷺は追求にかかる。
 これは探究心・知識欲といったものを増幅されている朱鷺だからこそ成しえる技か。

「どういうことですか? ここは市街地の中心で、研究所は市街地の外れにあるはず。距離的には全く関係が無さそうですが」
「……こちらの突然倒れてしまった女性───副所長の契約相手だったみたいなのですよ」

 その一言で、全てが繋がる。
 この女性が倒れてしまった理由は、距離が全く意味を成さないものだったのだ。

「「まさか、契約の副作用───!?」」

 シリウスも、サビクも、朱鷺も、一斉に声をあげる。
 捜査隊員は、先ほどそうしたよりもずっと力強く頷いた。
 パートナーといるのが当たり前になった現在のパラミタにも、未だ深く根付いている契約の影響。
 他人事ではないだけに、彼女達は少しの間沈黙を守ることとなった。
 やがてその沈黙を破ったシリウスは、更なる情報を掴もうと、

「確かそれって、契約相手が死んだ瞬間、直ちに影響が出るはずだよな」
「ええ。そのはずです」
「なら、女性が倒れた瞬間を目撃した人物がいれば、逆算的に副所長が殺害された時刻を割り出せる、か?」

 すぐさま手分けして聞き込みを開始する一同。
 やがて、決定的な情報を得ることとなる。

「22時05分……ですね。ここにいる方々のほとんどがそう言っていました」
「こっちもだ。どうやら間違いねーみたいだな」

 そこまでを見届けた捜査隊員は「とにかく、これだけは伝えたかったのです」と言い残して、足早に担当箇所へ戻っていった。

「捜査とは、意外と地味だと感じていましたが……思わぬところから繋がるものですね」

 朱鷺は独白する。
 それについては皆同感だったようで、興味深そうな風貌を並べた。

「それにしても、副所長が殺害された時刻は22時05分ですか……」
「朱鷺、なんか気になるのか?」
「ええ。確か管制室の定期メンテナンスというのは、毎日22時00分に行われてたはずですよね?」

 サビクはその時点で、朱鷺の言いたい事がわかったようだ。
 ただ、シリウスはまだの様子なので、続けて説明する。

「……5分間というのは意外と長いんですよ。背後から気づかれないように射殺するだけなら、ものの数秒で済むはずです」
「でも、殺害の時刻は22時05分だった……。これだけ計画的な犯行だし、内部犯は22時00分に管制室のメンテナンスに訪れた副所長を、すぐに追って殺したものだとボクは思ってたよ。そうせずに5分間も待っていたのは、一体なぜだろう?」

 言われてみれば妙だ。
 決定的な情報を得た事で、逆に深まった謎だと言えよう。
 けれど、契約者達が集めた推理の鍵は、シリウス達の情報が加わった事で既に完成しつつある。
 これまでの情報を洗いなおせば、内部犯が誰だったのか導き出せるはずだ。

 犯人は…………


■獲得情報

<LH社・ヒラニプラ支部部長の証言> 記録者:シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)
朱鷺が聞き込みで掴んだ情報も、オレが一緒に記録する事になった。よろしくな。
まずオレとサビクは、衛兵達を派遣してたっていうLH社に向かったんだ。
そこで、今日の研究所の警備は、本当は早川透・衛兵C・衛兵Dのはずだったって情報を得たぜ。
衛兵Dが高熱を出して休んだんで、デュオに代わりに出てもらったんだってさ。

<ヒラニプラ酒場店主の証言> 記録者:シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)
次にオレ達は酒場に向かった。情報といえば酒場だもんな。
そこで聞いた話じゃ、デュオはここでよく1人で飲んでいたらしいぜ。
店主に、昔の経験をよく語ってくれてたんだとか。
最初は半信半疑だったらしいが、話のネタのあまりの多さに、あいつが本物の歴戦の覇者だと確信するに至ったらしい。
……サビク、同期するに越した事はないって言うけどよ。こんな情報役に立つのか?

<ヒラニプラ技術士長の証言> 記録者:シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)
この情報は朱鷺が聞き込みで得たもんだ。
アメリーとレベッカの共通の上司に当たる人みたいで、彼女達のこれまでの経歴を教えてくれたんだと。
数年以上前からの経歴だったから、全部聞くのには大分苦労しただろうな……。
でも、特怪しい部分はなくて、ヒラニプラの産業に携わってる者なら、誰でも当てはまるような情報ばかりだったぜ。
後ついでに聞いた話らしいんだけど、アメリーは事件があった研究所に配属されたいって、熱心に頼んできてたらしいぞ。
いったい何でそんな事を頼んでたんだろうな?

<ヒラニプラ鉄道駅員の証言> 記録者:シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)
この情報も朱鷺が聞き込みで得たもんだ。
朱鷺は外部犯が遠くに逃げる際に乗り物を利用すると踏んで、空京に繋がるヒラニプラ鉄道の駅を当たってたらしい。
でも、挙動が怪しい客や、血の臭いがする客だとかの情報は、無かったって言ってたな。
深夜帯は物資輸送のための列車が増えて待ち時間が長くなるらしいし、
もしそんなやつが列車を待ってたんなら、駅員が見落としたって事もなさそうだぜ。

<別の事件について> 記録者:シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)
研究所の事件とは別に、もう一つの事件が市街地で発生してたんだ。
その内容が、人通りの多い場所で女性が突然倒れちまったってものだったんだけど、
どうやらこの女性、研究所で殺害されてた副所長のパートナーらしいんだ。
しばらくして死亡が確認されたって聞いたけど、いきなり倒れた理由ってやっぱアレだよな……。

<副所長の死亡時刻> 記録者:シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)
副所長のパートナーの女性は、さっきも言った通り、人通りが多い場所で突然倒れた。
だから当然、その現場を目撃していた人が数多く存在したんだ。
オレ達は彼らの証言を元に、女性が倒れた時刻を割り出したぞ。22時05分だ。
そして、この女性が突然亡くなってしまった原因を考えると……
必然的に、副所長が殺された時刻は、22時05分になるはずだぜ!