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リアクション
3
休日。
天気は晴れ。
予定は未定で時間はたっぷり。
さて、ならば何をしようかと佐々木 樹(ささき・いつき)は考えた。
こんな気分のいい日にひとりきりでぼんやり、だなんて味気ないし勿体無い。
「そうだ」
思いついた考えに、ぽん、と両手を打った。
お菓子を作ろう。
今日、暇を持て余しているパートナーたちを誘って。
最近、なかなか時間が取れなくて、お菓子作りはできていなかったから。
「女の子だけのティーパーティだ」
自然と、弾んだ声が出た。声に、秀真 かなみ(ほつま・かなみ)がぴくりと耳を動かす。
「ティーパーティ?」
「そうだよ。かなみも一緒にお茶会しよう? お菓子を作って紅茶を淹れて、みんなでお喋りするの」
「いいね! 何か楽しいことをやらかしたいって思ってたんだっ」
音符マークを飛ばしそうなほど、うきうきとした様子でかなみがはしゃぐ。やる気満々のようだ。ここまで楽しそうにしてもらえると、誘ってよかったと思う。
「ね、かなみ。珂月とカテリーナも誘ってきてもらえる? 私、何を作るか決めて準備しておくから」
「わかった! 呼んでくる!」
言うが早いか飛び出していったかなみを見送ってから、樹はキッチンへ入った。冷蔵庫や棚の中身を検める。ストックしてある食材で、お菓子作りに使えそうなものといったら――、
「……こんなものかしら?」
薄力粉、無塩バター、グラニュー糖、塩、卵。
テーブルに広げたそれらは、十分な量がある。器具も、ふるいに型に、申し分ない。
あとは何を作るかだ。
「簡単なものがいいですわ」
不意に、声がした。振り返ると、ドアのところにカテリーナ・スフォルツァ(かてりーな・すふぉるつぁ)が東雲 珂月(しののめ・かづき)と共に立っていた。二人の後ろには、かなみもいる。
「お招きいただきありがとう」
「こちらこそ。簡単なものがいいの?」
「ええ。お菓子を作るなんて、あまりやったことがありませんもの」
それもそうかと樹は頷いた。考えてみれば、みんなでわいわい作りたいなら精巧なものより簡単なものの方がいいだろう。カテリーナが言うように、普段お菓子作りをしない子だっているわけだし。
「じゃあ、クッキーを作ろう?」
言いながら、レシピブックを手に取り開く。簡単そうな、型抜きクッキーのページを。
エプロンをつけて、三角巾をつけて。
前支度ができたなら、さっそく準備に取り掛かる。
「まず、粉類をふるう」
「はーいっ。ボクやりまぁす」
レシピを読み上げる樹の声に、元気良く返事をしたのは珂月だった。かなみがそれを手伝わんとばかりに、ふるいとボウルを手にして目を輝かせている。一方で、材料を量るカテリーナは真剣そのものの顔つきだった。
「粉をふるうのって楽しいね」
「雪みたいだよね!」
「あっ、本当だ! ねえねえかなみお姉ちゃん、今年は雪、降るかなぁ?」
「降るんじゃないかな。降ったら雪で遊ぼうね!」
「うんっ!」
和気藹々と、珂月とかなみが粉をふるう間も少し緊張している面持ちで。
「心配?」
「きゃあっ」
声をかけたら、驚かれた。少し、苦笑する。
「……上手に作れるかしら?」
「大丈夫だよ。上手に作ることよりみんなで作ることに意味があるつもりだし」
一緒に楽しんで、そういう時間を共有して。
笑って喋れたら、とても幸せだなあ、と。
「あと、本当に簡単だから。そんなに構えることないよ」
「……そう仰るなら頑張ってみることにしますわ」
息を吐くカテリーナの表情からは、少し硬さが取り除かれていた。
「けれど、せっかく作るのなら美味しく作りたいもの。しっかり教えてくださいまし」
「あはは。了解」
頷いて、レシピブックを一緒に見た。次にやることを確認し、準備をしておく。珂月とかなみの方も、作業をしっかりやり遂げていた。樹が見ていたことに気付いた珂月が嬉しそうに笑った。
「樹お姉ちゃん、ふるい終わったよ!」
「上手にできたね」
「うん!」
「あたしもあたしも! 手伝ったよ、師匠!」
「かなみも、ありがとう」
「えへへー」
「あたくしも、次の工程から頑張りますわ」
「頼りにしてるよ」
主な作業は三人に任せ、樹はサポートに回ることにした。三人だけでも十分なものを作れるだろうという判断と、遠巻きに見ているほうがみんなの表情が見えると思ったからだ。
バターと混ぜて、卵と混ぜて。
混ざりにくいねと困る様子や、きちんと混ざって喜ぶ様子。
生地を寝かせて伸ばす際、均一に伸ばせて鼻高々になっていたり。
型抜きが上手にできて、嬉しそうだったり。
(見ているだけで微笑ましいわね)
知らず、笑みがこぼれてしまう。
やはり、こうしてみんなでわいわい楽しめる時間は良いものだ。
あれよあれよという間に、型抜きは終了した。あとは、温めておいたオーブンで焼くだけだ。
「お疲れ様。お片付けは私がやるから、みんなは少し休んでていいよ」
「はーい。ありがとう、樹お姉ちゃんっ」
「師匠! 楽しかったよー!」
「焼き上がる頃にまた、お邪魔しますわ」
三人をリビングに送り出して、樹は片付けを済ませた。
キッチンが綺麗に片付いた頃には、あたりにふんわりと甘い香りが漂っていて。
(幸せだなあ)
改めて、そう思った。
クッキーが焼き上がり、宣言通りカテリーナがキッチンに戻ってきて、今度は彼女が樹をキッチンから追い出して。
およそ十分後、
「さあ皆様、お茶会の準備はよろしくて?」
トレイにティーカップとクッキーを並べたお皿を載せて、カテリーナが戻ってきた。
「もちろん!」
「準備しておいたよ〜」
「ふたりが張り切ってやってくれたわ」
「それは結構ですわ」
テーブルにティーセットを並べ、席に着いたら。
楽しいお茶会のはじまり、はじまり。
紅茶を飲んで、クッキーを食んで。
新しくできた雑貨屋さんの話や、気になる子の話。
ぽつり、ぽつりと思い思いに言葉を零して、話をして。
まったりのんびり、ゆったりとした時間が過ぎていくのを感じる。
「そういえば、昔はこういうことをあまりしませんでしたわ」
会話が途切れたところで、カテリーナが言った。
「今だからこそ、こういう穏やかな時間を過ごせるのかもしれないですわね……」
その言葉は、なんだか深く、心に響いた。