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死の予言者

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死の予言者

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 8 

「あなたのやった事は許せません」
 東 朱鷺(あずま・とき)の言葉に、銀色の髪の青年、オズノがおもしろそうに目を細める。
「ほう。許せないですか?」
「はい。人殺しもさることながら、占いへの冒涜も許せません」
「冒涜?」
「そうです。死の占い師……そんな存在はあってはなりません。朱鷺は認めるわけには参りません。絶対に当たる占い。そんなものを認めたら歴代の陰陽師、八卦術師を蔑ろにすることになります。未来は予測不可能だからこそ、追い求める価値があり、人は努力するのです。そして陰陽師、八卦術師は、そこに価値を見出し、占いに深い関わりを持ってきました。
 その価値を奪うなんて、誰にも許される事じゃ有りません。少なくとも八卦術師である朱鷺が認めたら、朱鷺は八卦術を捨てねばなりません。言語道断です。どこの誰かは知りませんが、占いを冒涜する行為を見逃すわけには参りません。特にそれが明らかにイカサマならば……。
 絶対に当たる占い。絶対に死ぬ占い。それのどこが、占いでしょうか?
 占いとは、『当たるも八卦、当たらぬも八卦』道迷うものを導くものです
 仮に絶対に当たる占いが有れば人は堕落します。そうでしょう? 占いのとおりに動けば、成功する達成するのであれば、人は考えなくなるでしょう。それは人ですか? 人形と同じでしょう? ただ操られているだけですから
 たまに当たり、たまに外れる。その程度の的中率が人にとって一番なのです
 その占いによって人は考えます。どうするべきか。どうなるべきか。
 その思考の過程こそが、占いの真の価値です。
 占いを冒涜するものには消えてもらいましょう」

「なるほど、あなたの占いへの造詣の深さ、その愛情と心意気には感じ入りました。敬意を評します。しかし、我々にはこれ以外に手段がなかったのです」
「どういう意味ですか?」
 竜胆がたずねる。
「なぜ死の予言などという手の込んだ事をして、幻心道場の門下生の方達を殺さなくてはならなかったのですか?」
 すると、オズノは答えた。
「いいでしょう。ここまでたどり着けた褒美に聞かせてあげましょう。実は荒田幻心は甲賀を出奔した時、我々の秘宝である『摩利支天』の像を盗み出して行ったようなのです。その像の中には甲賀最高の奥義が記されている巻物が隠されていました。これは我々甲賀にとって許されざる事です」
「そのために、幻心を殺したのですね」
「掟を破った者が粛正されるのは当然の事です」
「だからといって、なぜ、無関係の門下生や町の人々を殺したのですか? しかも、死の予言などという手の込んだ事までして」
「幻心は、その『摩利支天』の隠し場所と、その奥義を門下生の中の一人に伝えたようなのです。その者を見つけるために、このような事をしたのです」
「? なぜ、その一人を見つけ出すために多くの人を犠牲にしなくてはならなかったのですか? あなた達の技を持ってすれば、目的の人物を割り出す事など簡単な事でしょう」
「ところが、厄介な事に幻心はその門下生に催眠をかけたのです」
「催眠?」
「そうです。教えられた全てを忘れるよう。普段は意識の端にも上らぬよう。その記憶を取り戻すには二つの条件があります。一つは『死の宣告』であり、もうひとつは死への恐怖です。その二つが揃った時、はじめて記憶がよみがえるように」
「なぜ、そんな事を?」
「さあ。その奥義が死する者にのみ使える技だからともいいますが、はっきりした事を知る者はいません。いずれにしても我々は『摩利支天』を取り戻さねばなりません。ただ、それだけです」
「しかし、なぜ、今更?」
「単純に『摩利支天』を盗み出した犯人の特定に時間がかかったからです。なにしろ、幻心は精巧な偽物とすり替えて逃げて行きましたから」
「最後に一つだけ聞かせてください」
「なんですか?」
「どうして、関わりのない町の人まで殺したのですか?」
「ああ、それは単に『死の予言者』という存在にリアリティをもたせるためだけですよ。不特定多数が死んだ方が恐怖感も煽られるでしょう?」
「たった、それだけのために?」
 竜胆は拳を握りしめる。

 その時、突然オズノが何かの啓示を受けたような顔をした。
「なに? そうか。分かった」
 誰かと話しているようだ。
 しばらくすると、こちらに向き直りにんまりと笑って言った。
「どうやら、今回こそ大当たりだったようです。丸山風太郎。彼が摩利支天の在処と奥義を伝えられし者……」
「何ですって?」
「残念ながら、あなた達とはここでお別れです。ここで永遠の夢を見ていてください」
 オズノの言葉と同時に一同の周りに炎が立ち上がった。
「幻術です」
 竜胆は叫ぶと笛を吹いた。その途端、炎は消え天井から空が見える。どうやらオズノはそこから外に出たようだ。
 一同はオズノの後を追って外に飛び出した。
 幸い、まだそこにオズノの姿はある。
 しかし、追いかけようとする竜胆達の前に忍び達が襲いかかってきた。
 身構える一同。
 しかし、その時、不意に何かの気配がした。
 見ると、奇怪な化け者が立っている。
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)だ。
 彼は、侵食され、意識を飲み込まれ、破壊と殺戮を撒き散らす災厄の獣と成り果てた男と化していた。死の風を放出しており、居るだけで周辺が汚染される。まさにバケモノだ。
 今の彼は、ただ本能の赴くままに喰らうのみの異形である。
 彼は竜胆に流れる血の臭いに惹かれて、彼を喰おうと現れたのだ。
 そして、竜胆を喰らおうと襲い掛かかってきたのだが、この化け物の出現は、周囲の忍びどもも驚かせたようだ。
「何者だ?」
「奇怪な奴」
 忍び達はどうやらエッツェルを竜胆達の仲間と勘違いしたようだ。忍者刀でエッツェルに挑みかかって行く。
 しかし、斬っても斬っても痛みも急所も無く、自己再生する不死の肉体を持つエッツェルを倒すにはいたらない。
 エッツェルは、全身からワームのような捕食器官を伸ばし、オールレンジ攻撃をしかけていった。忍び達が次々に捕まり食われて行く。

 バンバーン!

 忍びがエッツェルに向かって火縄を撃った。エッツェルは悠然として、水晶翼でそれを弾く。

「くそ、化け物が!」
 忍びは火遁の術を使ったが、それもエッツェルは神霊結界に阻害されてしまう。

「おもしろいものが現れましたね」
 どこからか声がした。
「それも、あなた達の仲間ですか?」
 オズノの声だ。
 気がつくと、杉の梢の上にオズノが立っていて、ふわりとエッツェルの前に降りて来る。
「面白い……一つ余興に私が相手をしましょう」
 そういうと、オズノはエッツェルに向かって手刀を放った。
 すると、エッツェルは体液(這い寄る混沌)を撒き散らして反撃。浴びれば侵食や部分石化という危険な粘液を振りまく。
 オズノは瞬時にそれを躱し麒麟走りの術を用いて魔障覆滅でエッツェルを切り刻む。さらに、経絡撃ちでエッツェルの急所を狙って攻撃した。
 すると驚くべき事に、不死と思われたエッツェルの体が切り刻まれ血が溢れ出した。
 エッツェルは混沌細胞射出器官をオズノに向かって撃った。その一撃がオズノの体を穿つ。
「む……これはいけませんね」
 オズノは撃たれた場所を押さえながら逃げ出した。
 しかし、エッツェルもまた無事ではなかった。
 マスター忍者、それ以上の力を持つオズノの攻撃に、さすがのエッツェルもダメージを受けていたようだ。悲鳴を上げると翼を広げ空へと逃げて行った。
 
 一体、何が起きたのか……。
 竜胆達は唖然としてこの戦いを見つめていた。
 とても、この世のものとは思えない。
「なかなかおもしろい相手でした」
 どこからか声が聞こえた。
 オズノの声だ。
「しかし、少々遊びが過ぎたようです。私はもう行かねば……」
 見ると、梢の上にオズノが立っていた。どことなく苦しげな顔をしている。
「それでは、先にお屋敷で待っていますよ」
 オズノはそう言うと、陽炎のように姿をくらませた。